The Bangles @ 渋谷AX



 2003年5月22日(木)、渋谷AX
 解散から13年、まさかバングルスが21世紀に新作 "DOLL REVOLUTION" をリリースして、しかも来日公演まで実現するなんて思いもしませんでした。人気絶頂だった88年に一度プロモ来日してショーケースギグを行っているようですが、正式なツアーでのライヴとしては今回が「初来日公演」ということになります。多忙が予想されたので平日のチケットを買うことをためらっていましたが、初日の渋谷クラブクアトロがあまりにも素晴らしいライヴだったという話を聞いて、東京公演の2日目を当日券で観に行きました。

 最初に感想をまとめちゃいましょう。
 (1) ものすごくカッコいい「ロックバンド」だった。
 (2) 懐メロ集に終わらない、「現役バリバリ」の新作ツアーだった。
 そして (3) この4人でなきゃ作れない「魔法」がいっぱいのライヴだった。

***

 バングルスのメンバーは次のとおり。

 Susanna Hoffs - vocals / guitar
 Debbi Peterson - vocals / drums / guitar
 Vicki Peterson - vocals / lead guitar
 Michael Steele - vocals / bass

 見てのとおりこのバンドに「リードヴォーカリスト」は存在しません。曲ごとに交代して全メンバーがリードヴォーカルをとり、そのリードが埋もれちゃうほどしっかりしたコーラスを残りのメンバーがかぶせます。曲によってはほとんど全編コーラス形式で歌われるものもあって、常に3声ないし4声の見事なハーモニーが聞こえているようなコンサート。実に楽しそうに歌い、楽器を弾く表情はほんとにロックが好きで好きでたまらないんだろうなあって感じです。この際、先にセットリストを見てもらいましょう。

-The Bangles "Doll Revolution Tour 2003" set list-
 1. Hazy Shade of Winter
 2. Tear Off Your Own Head (It's a Doll Revolution)
 3. The Rain Song
 4. If She Knew What She Wants
 5. Something That You Said
 6. Here Right Now
 7. September Gurls
 8. Manic Monday 〜 I'm Waiting For The Man
 9. Single by Choice
 10. Going Down to Liverpool
 11. Stealing Rosemary
 12. Between the Two
 13. Silent Treatment
 14. Ride The Ride
 15. In Your Room
 16. Walk Like an Egyptian (including Mrs.Robinson)
 -Encore-
 17. Hero Takes a Fall
 18. Eternal Flame


 ご覧のとおり、80年代の大ヒット曲もばっちり演奏しています。でもセットリストの約半分、2, 3, 5, 6, 9, 11, 12, 14曲目と実に8曲が新曲でした。ところがこれが想像をはるかに上回る素晴らしい出来(失礼!)だったのです。シングル曲の "Something That You Said" のようなミディアムナンバーもありますが、大半は元気のいいロックナンバー。デビーも、ヴィッキーも、マイケルも代わる代わるリードを歌います。思うにこの新作は彼女たちにとっても心から自慢できる自信作なのでしょう。のおかげで、懐古趣味に陥ることなく、現役バリバリのバンドのコンサートになっていました。この点が一番の収穫だったなー。

 右の来日公演写真は、左がヴィッキー、ハローキティの黒ちびTシャツ(可愛い!)に赤タータンチェックのミニのひだスカート、膝までのグレーのタイツにショートブーツ。中央のドラムセットに座るデビーはクリームイエローっぽいTシャツに色の抜けたジーンズ。写真右のスザンナはベージュ系のワンピース(スカートはミニ)に生脚で、足元はしばらく前に渋谷でたくさん見かけたような厚底のつっかけサンダル。厚底履いててもほんと小さくて。唯一写っていないマイケルはこの写真のさらに右手にいて、黒のパンツに薄手の黒っぽいキャミソールみたいな感じの格好でした。

 スザンナは完全に年齢不詳。その可愛らしさときたら尋常でなく、身体に比して明らかに大きい黒のリッケンバッカーを抱えて左右に腰を揺らし、髪を振り乱して弾く姿はもはや犯罪的なキュート&セクシーさ。ややO脚気味なんだけど、開いた足を踏ん張ってやや身体を反らし気味にギター弾いてる時など、ふくらはぎの締まった筋肉からスジのくっきりした腱を経て細い足首に至るラインで完全に悩殺。ヴィッキーは「頼れるロック姉御」って感じなので、同じミニからのぞく太ももでもスザンナのそれとは全然質感が違うんですよね。…って一体何を書いてるんだ俺は(笑)。でも、ヴィッキーがリードギターを弾きまくる姿も、マイケルが淡々とベースラインを弾き込む姿も、同じくらい絵になってました。走り気味のデビーのドラムスも然りで、この3人の屋台骨がしっかりしているからこそ、スザンナがリードをとる曲では彼女が存分に魅力を発揮できるのです。

 「スザンナがリードをとる」って、バングルスの曲は全部そうなんじゃないの?と思った貴方、ノンノンノン。たまたま彼女が歌った曲が続けてシングルヒットしたものだからそういう印象を抱きがちですが、バングルスは決してスザンナ+バックバンドじゃありません。ヴォーカリストとしてはスザンナの声は細くて音程も決して安定しておらず、むしろ他のメンバーの方が上手いくらいでしょう。アルバムではどのメンバーも均等に歌っていますし、ハーモニーもばっちり決めます。たとえばライヴの1曲目。何から始めるんだろうと思っていましたが、サイモン&ガーファンクルのカヴァー、"Hazy Shade of Winter"でした。これなどヴァースもコーラスも全員で綺麗にハモりまくり。演奏の方もヴィッキーのハードなギターリフ、デビーのシンプルで力強いドラムスが炸裂、これほどへヴィなロックをやれるバンドだとは思いませんでした。レコードで何度も聴いていたはずなのに、スタジオでの操作だと思って甘く見てた。ゴメンよ〜。コンサート全体を通して、彼女たちが心底ロックが大好きなバンドなんだという印象を受けました。

 "If She Knew What She Wants" はスザンナの歌いかけに残りのメンバーが応えるように歌い返すヴァースですが、これなどまさに「バングルス的」としか言いようのないコーラスの入り方。レコード通りの素晴らしいハモりの再現にマジ感動しました。"Manic Monday" も然り。スザンナが歌うサビのバックで繰り返される "Oh〜oh" とか "...Just another manic monday..." と入るコーラス、可愛いブリッジで "Last night, last night" と合いの手を入れるところなど、とにかく絶妙に決まりまくるのです。それもリードをかき消すくらいの分厚いボリュームで、どっちが主役かわからないくらいに。いくら強調してもし足りないと思いますが、ライヴでこれほど素晴らしいハーモニーが聴けるバンドは滅多にいません。本当にすごいコーラスです。僕はこれから彼女らのCDを何度も聴き返すことになると思いますが、その時はきっとリードヴォーカルも然ることながら、凝りまくったコーラスアレンジやバックの演奏にこれまで以上に耳を傾けることでしょう。何度も聴いたスタジオ録音をまた新たな楽しみを持って聴くことができそうです。"Manic Monday" は終盤にそのままヴェルヴェット・アンダーグラウンドの "I'm Waiting For The Man" にメドレーで流れていくアレンジが新鮮でした。ヴァネッサ・パラディのカヴァーも好きですが、舌足らずヴォーカルはスザンナが元祖だったのかも。

 ドラムセットに座って叩きながらコーラスを歌いまくっていたデビーも、"Going Down To Liverpool" では降りてきてアコースティックギターを抱え、リードヴォーカルを歌います。これがまた本当に楽しそうな表情で、アコギはじゃかじゃか弾きまくり、歌はのびのび歌いまくり。フロントに4人がずらりとならんでギター系楽器をかき鳴らす姿は圧巻で、観客もとても盛り上がっていました。"Walk Like An Egyptian" も同じスタイルで4人が並び、1番ヴィッキー、2番マイケル、3番スザンナとリードを回します。泣く子も黙る1987年全米年間#1ヒット、もちろん会場も大受けで例の "Oh-whey-oh" の掛け声を大合唱。楽しかったなあ。僕はずっとこの曲はノベルティヒットで、まともに聴くには値しないと思い込んでいたのですが、ライヴで完全に見直しちゃいました。コミカルな掛け声も実はすごく練られたアレンジだし、中間部でサイモン&ガーファンクルの "Mrs. Robinson" に移行してワンコーラス歌い、再び戻ってくる仕掛けもいい感じ。コンサート全体を通して他に印象に残ったのは、ヴィッキーがMCをいっぱいしゃべってくれたこと、マイケルが寡黙ながらカッコよく要所を締めていたこと、スザンナが「カワイイ!」を連発していたことなど。ほとんどのヒット曲をやってくれた中で、クールな "Be With You" (US#30/89)、ファンタスティックでポップな "Walking Down Your Street" (US#11/87) を演奏してくれなかったのは残念でしたが、これは「次回」に期待することにします。絶対帰ってきてね。

 さてアンコールでは、公式サイトで企画された「俳句コンテスト」の優勝者をステージに上げて一句読ませるなどの趣向もあって和気あいあい。1st アルバムからの "Hero Takes A Fall" に続いて演奏されたラストチューンは、今やクラシックとなりつつある名曲中の名曲 "Eternal Flame"。…胸いっぱいの愛が、心に沁みました。この曲だってスザンナのロリ声が印象的なのは間違いないのですが、それを上回るボリュームでかぶさるヴィッキー、デビー、マイケルのコーラスの方がある意味で「リードヴォーカル」なんじゃないか。4人のヴォーカルがぴたっと重なった瞬間に漂うあの甘酸っぱい気持ちは、スザンナだけでは作り得ないバングルスという「バンド」が感じさせてくれる「魔法」でしょう。バンドの解散、ソロ活動、出産などを経て再び集まった彼女たち4人は今、最高にいい状態でロックしています。昨今のヒットチャート上から失われてしまった何かがバングルスのステージにはあった。決してただの思い出なんかじゃない、すごく前向きでキラキラしているもの。それはもう、「魔法」としか言いようのない何かだったのです。

(May, 2003)

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