21st Century Schizoid Band @ 新宿厚生年金会館



 2003年11月13日(木)、新宿厚生年金会館。
 2002年の来日は当日まで冗談だと思っていたし(だから見損ねた)、2年連続で来日することも何だか冗談みたいだったのだけれど、ずいぶん経ってからファミリーマートのチケットぴあ端末で購入してみたら10列目中央の席が取れたので出かけてみることにしました。という程度の期待度だったのですが、結果としては「観ておいて本当に良かった」。素直にそう思えました。

 実際、オーディエンスも多くはなかったのです。2階席はほぼ閉鎖され、1階席も半分くらいしか埋まっていない。一方で、詰めかけたほとんどは40代にピークがある少数精鋭のプログレオヤジたちなので、逆に異様なテンションを感じてしまったりも。僕の後ろの席の人なんて、ヴォーカル曲を最初から最後まで大声で歌ってくれてちょっと迷惑。さてご存知のとおりこのバンドはかつて King Crimson に在籍したメンバーたちが集結して、懐かしいクリムゾン楽曲を中心に演奏してくれるという企画。唯一クリムゾン在籍者でないのがギター兼ヴォーカルの Jakko Jakszyk で、チラシでは「元Level 42」ということになってますが、むしろカンタベリー人脈で語ってあげるべきでしょうね。無理やりファミリー・ツリーにぶら下げるなら、KCオリジナル・ドラマーのマイケル・ジャイルスの娘婿ということになります。ジャッコ以外のメンバーは昨年と同じ Peter Giles (Bass)、Ian McDonald (Sax, etc.)、Mel Collins (Sax, etc.) プラス、マイケル・ジャイルスに代わってドラムを叩く Ian Wallace。イアン・ウォーレスとメルはあの "ISLANDS" を録音したメンバーということになります。人生長生きしてりゃ凄いものが観られるってもんですな。

 オープニングはKCの2nd『ポセイドンのめざめ』にも別名で収録されていた "A Man, A City"。いきなりイアン・マクドナルドとメル・コリンズがサックスで強烈なユニゾン・リフを吹いてくれます。ジャッコは高音方面に良く伸びるヴォーカル、ピーターは一人白いスーツで淡々と指弾き、そして注目のイアン・ウォーレスは…。う〜ん、どうももたつき気味なドラムス。一瞬「この人大丈夫かな」とか思いましたが、曲が進むにつれて次第にグルーヴが出てきました。スロースターターなのかな。個人的にはメル・コリンズの格好よさに釘付けになってしまい、この夜のほとんどを彼の方を見ながら過ごすことになってしまいました。

 初めてメルのサックスを聴いたのはいつのことだろう。恐らく Alan Parsons Project の "Don't Answer Me" あたりではないかと思うのですが、豪快で覚えやすいメロディにすっかり参ってしまいました。トニー・レヴィン並に膨大なセッション参加をこなしている彼とはその後もあちこちでぶつかることになり、Tears For Fears "SONGS FROM THE BIG CHAIR" や Dire Straits "BROTHERS IN ARMS"、Uriah Heep "RETURN TO FANTASY" や Wang Chung "POINTS ON THE CURVE" など、気がつくと僕の周りはメルのサックスだらけに。Terence Trent D'Arby 衝撃の1st中 "Dance Little Sister" でカッコいいブロウを聴かせていたのも彼だし、Tina Turner の "PRIVATE DANCER" タイトル曲で感動的なソロを吹いていたのも彼です。Go West の1stにもクレジットがあったような気がするし、何と Milli Vanilli のアルバムにまで彼の名が明記されているのです。名誉なことかどうかはともかく。

 そんなメル・コリンズに真にスポットが当たるのはライヴの後半で、それまではKCの2nd及び3rdの曲を中心に進行します。あまり聴いた回数が多くない時期なので思い入れも少ないのですが、こうして生で聴いてみるとちゃんと曲展開を覚えている自分にちょっと感動。このメンバーだからこそ演奏できるアルバムですし、今になって聴き返してみるとなかなか悪くない。ライヴでは "Cadence And Cascade" の前にメル/ジャッコ/イアン・マクドナルドが揃ってフルートを三重奏してくれました。しーんと静まり返った厚生年金会館に響き渡る3本のフルート。絵としてもなかなかのものでした。フルートといえば、やはり "In The Court of The Crimson King" でのイアン・マクドナルドのソロでしょう。「ここは俺に任せろ」と言わんばかりの見せ場、レコードで何度も聴いたあのカウンターメロディが染み渡ったのでした。メロトロンのパートはイアンとメルがシンクロして弾く KORG の Triton というシンセサイザーで再現。これがなかなか良いサンプル音で、二人の両手=4本で音を重ねれば結構な厚みが出ます。

 この辺りまで来るとすっかり調子が出てきたイアン・ウォーレス、彼の見せ場は続く "Ladies of The Road" でした。2003年に "ISLANDS" の楽曲を生で聴く機会があるだけでも驚きなのに、何とオリジナルに忠実にサビの部分をイアン・ウォーレスが歌うのです。なかなかしっかりした歌唱でまたびっくり。この曲は恐らく当時のボズ・バレルらの趣味が出たブルーズ・ナンバーなのですが、このバンドでも思いっきり泥っぽくプレイしてくれました。メルのサックスソロが暴走し、ドラムスもパワー倍増で叩きまくりで何だか2人ともヤバい雰囲気。"ISLANDS" からはこの後 "Formentera Lady" 〜 "Sailor's Tale" という怒涛のメドレーが演奏され、後半ではメルとイアン・ウォーレスが完全にブチ切れて "EARTHBOUND" 状態に。同作はただの音の悪いライヴ盤だと思っている方にこそこの日のライヴを見ていただきたかった。まさに圧巻、要するにこういうことをやりたかったんだ。僕の "ISLANDS" 観はすっかり変わってしまいました。

 新曲の "Catley's Ashes" は7拍子のリフを核にしたテクニカルなインストで、メンバー間の緊張感が感じられるいい演奏でした。もうちょっと新曲をやってくれてもいいかな、と思いましたがそこはこのバンド名ですから、本編ラスト3曲は伝説の1stから名曲連発です。まずは『風に語りて』ですが、オープニングのツインフルートでまず悶絶。イアン・マクドナルドに至ってはリードヴォーカルまで歌ってくれます。比較的静かな曲だけに、演奏が乱れたら…と心配しましたが全くの杞憂、後半のフルートソロも完全に独演会にして持っていってしまったイアンなのでした。ここでジャッコによるメンバー紹介を挟んで『墓碑銘』へ。中学生の頃は歌詞を読みながらしみじみ聴いたものだが、こうして30歳を超えてから聴くと何だか冗談みたいな曲ですね。骨は海にでも流してくれればよいので墓を作る予定はないけれど、万が一墓碑銘が必要となったらやっぱり "Confusion" なんだろうなあ。ジャッコは器用な人ですね。ロバート・フリップのギターをよく再現していると思うし、ヴォーカルも巧い。少なくとも違和感を感じまくって演奏を聴くのに集中できないなんてことが起こらない。声のトーンは Dream Theater の James LaBrie にちょっと似てるかなと思いました。

 そしてラストはやはり『21世紀の精神異常者』。全メンバーに過剰なまでの出番が用意されている凄い曲、こんなのがデビュー作の1曲目なんだからねえ。初演から30年以上を経て21世紀に入った今聴いても、相変わらず新鮮で驚かされます。時折ビル・ブラフォードに似た表情も見せる寡黙な職人風メル・コリンズと、ステップを踏みながら楽しげに吹くイアン・マクドナルドのツイン・サックス。キメの部分がかっちり決まりまくる気持ちよさといったらありません。さらにギター→サックス(メル)→サックス(イアン・マクドナルド)とソロを回しながら、バックではイアン・ウォーレスも軽くドラムソロを見せたりして。オリジナルをそれほどぶっ壊した演奏ではありませんでしたが、このバンドならではの見せ場は十分に盛り込んだアレンジだったと思います。

 ファースト・アンコールはついに出た!の "Starless"。ビル・ブラフォードやジョン・ウェットンを欠くこの曲に何の意味があるのかと訝る向きもあるでしょう。でもこのソプラノサックスの悲壮な音色はメル・コリンズにしか出せない。2003年はウェットンの来日公演もあってこの曲もフル演奏したわけですが、とても良かったにも関わらず何かが足りなかった。それはやっぱりメルのサックスだったと思うのです。というわけで同日のジョン・ウェットンのベース音を頭の中で合成しながら聴く "Starless" になったのでした。ギターソロを受けて繰り出されたイアン・マクドナルドのアルトサックス・ソロも大変なことになっていて、これはやっぱり身震いするほどの曲です。頂点に上り詰めたときの恍惚感は "Fracture" と甲乙付け難いものがありますね。マクドナルドに関して言えば、まさにいぶし銀のマルチプレイヤー。サックス、フルート、キーボード類を取っ換え引っ換えしながら全体に目を配り、実に楽しそうにバンドを統括しているのでした。Foreigner のオリジナルメンバーをこの目で初めて見ることができた、というのも産業ロック好き的には嬉しかったところ。

 いったん下がってのセカンド・アンコールの時に、ピーター・ジャイルズが出てこなくてメンバーが焦っていたのが笑えました。一人遅れてのんびりと入場、会場の空気を大いに和ませてくれます。長身で髭を生やした彼は何ていうかこう、英国紳士風なんすよね。我が道を行くというか、マイペースというか。マクドナルドのピアノ・ソロに導かれて演奏されたのは McDonald & Giles の名曲 "Birdman" (の一部)。ゆったりとしたメロディで暖かく展開する楽曲で、この素晴らしいライヴを締め括ってくれたのでした。

 約2時間に及ぶコンサート、2nd〜4thを中心とした選曲でしたが、個人的には特に "ISLANDS" の持つ力を激しく再認識させられました。クリムゾンの他のどのアルバムとも共通性がなく、静謐だったりブルージィだったりととっつきにくい作品かもしれませんが、聴き込むと非常にハマる音楽だと思います。それにしてもこのメンバーたちは演奏巧者ばかり。「キング・クリムゾン卒業生」というブランドが伊達ではないのは百も承知ですが、在籍時代も音楽性もバラバラなメンバーが集まってこれほど楽しめるライヴを観せてくれるとは思いませんでした。要するにみんなとてもオトナ。本人たちがリラックスして楽しみながら、聞き手が求めるクリムゾン像と自分たちにできることのぎりぎりの接点でエンターテインメントに昇華してくれる。ロバート・フリップ個人にそれほどのこだわりを持たない自分のようなリスナーにとっては理想的なクリムゾンOB会なのかもしれません。願わくばブラフォードやウェットン、ボズ・バレルなどいろいろな旧メンバーがフレキシブルに参加できるような自由な枠組みであってくれますように。


【21st Century Schizoid Band セットリスト】
1. A Man, A City (Picture of The City)
2. Cat Food
3. Let There Be Light
4. Cirkus
5. Flute Trio
6. Cadence And Cascade
7. In The Court Of The Crimson King
8. Ladies Of The Road
9. Catley's Ashes
10. Formentera Lady
11. Sailor's Tale
12. I Talk To The Wind
13. Epitaph
14. 21st Century Schizoid Man
-Encore-
15. Starless
-2nd Encore-
16. Birdman


(January, 2004)

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