2001年上半期全米ナンバー1ヒットを振り返る。



 全米ナンバー1ヒットが好きです。

 曲の好き嫌いは当然ありますが、それとは別に「全米1位になった曲を聴く」という行為自体が、好きです。(ついでに書くと、まったく同様に全英ナンバー1ヒットも大好きです)

 そもそも全米1位になった曲を聴くことについては賛否両論あるでしょう。
 「チャートなんてくだらん」という考え方ももちろんありえます。流行りものを流行っている時に聴くなんて、何かに惑わされているのであってケシカランということなのかもしれませんが、そういう風にしか物事を捉えることができないというのも虚しいものがあるような。僕らはリアルタイムに生きている。ならば流行りものも楽しんじゃった者勝ち、でしょう? もちろん、自分の感性を信じて音楽を聴き進むというのもアリですが…

 よい曲が必ずしも全米1位になるわけではない、そんなこと百も承知。クダラナイ曲だって数え切れぬほどトップに上り詰めています。それでも、巨大な米国市場を制するということは圧倒的な支持があってはじめてなされること。そう考えれば、いったいなぜこの曲は支持されているのかという背景を探る作業もまた面白くなってきます。歌は世につれ、世は歌につれ。チャートを眺めていると米国のカルチャートレンドが少しずつ見えてきます。

 普段聴くことのないジャンルの曲に半ば強制的に出会えるのもチャートを聴く魅力。職場恋愛やサークル内恋愛も楽しいことかもしれませんが、一方で未知との出会い、合コンの魅力も捨てがたく。その意味で、私にとってのチャートはまさに出会い系。貴方と素敵な音楽の出会いガシラ系サイト、winter wonderland

 それはさておき、2001年も既に6ヶ月が過ぎました。折り返し点を過ぎたってヤツです。ここらで上半期の全米#1ヒット都合8曲について、ざっくり振り返ってみましょうか。例によってお気に入りの順番に並べて、カウントダウンでいきます。Let's go!



★第8位★ "Angel" - Shaggy featuring Rayvon


 まあ、この辺が妥当かな?

 Shaggy のようなレゲエっぽいラップスタイルはラガマフィンと呼ばれています。彼の一連のヒット曲はもともと非常にクオリティが高いと思ってまして、"In The Summertime" (US#3/UK#5/95)  も "Boombastic" (US#3/UK#1/95))も夏らしい大好きな曲です。ただ、本人の声だけでは飽きるのも事実ですが、コーラス部分に別のヴォーカリストを立ててその危険を絶妙に回避。

 元ネタは Steve Miller Band "Joker" (US#1/73) と Juice Newton "Angel of The Morning" (US#4/81) 。どこか昔懐かしい感じがするのも当然でしょう。オリジナル曲を聴いていた世代も、Sugar Ray あたりが好きな若い世代も楽しめる曲に仕上がりました。



★第7位★ "Ms. Jackson" - Outkast


 ご承知のとおり Outkast はアトランタの Hip-hop アーティストで、アルバムを発売する度に評論家から絶賛を受けてきました。"AQUEMINI" "STANKONIA" とアルバムチャート上での瞬発力を見せつけていましたので、コアなファン層が形成されつつあることは想像できましたが、まさかシングル盤が全米1位に上り詰めるほどにポピュラーになっていたとはちょっと驚き。

 歌詞はある女の子と付き合っている男のストーリィで、女の子の母親である Ms. Jackson に対して『本当にごめんなさい / あなたの娘さんを泣かせるつもりはなかったのです』と延々繰り返すコーラスが耳について離れません。決して明るいテーマではないと思いますが、乾いたバックトラックと相俟って不思議な魅力をもった曲だなぁと思いました。

I’m sorry Ms. Jackson (Ooh) ←この Ooh〜 が耳に残ります。
I am for real
Never meant to make your daughter cry
I apologize a trillion times




★第6位★ "Butterfly" - Crazy Town


 耳に残る度合いではこちらのコーラス部分も負けていません。

Come my lady
Come, come my lady
You're my butterfly
Sugar baby

 これだけと言えばこれだけです。が、思わず口ずさんでしまう「鼻歌度」の高さはピカイチ。イントロからフェードアウトまで、いったい何回 "Come my lady" というフレーズが繰り返されたかを数えてみたお方はいらっしゃるのでしょうか?(笑)

 刺青べったりのコワモテルックスから Limp Bizkit のようなヘヴィなサウンドを想像しましたが、少なくともこの曲に関して言えば極めてポップでメロディアスなヒットになりました。本当にこんなマーケティングで良かったのかな? 結果としてアルバムセールスをスポイルしてしまったような結果でもあり、アーティストイメージをミスリードしてしまったかもしれないという不安は残ります。(例:"Every Morning" "Someday" のような曲ばかりだと誤解されている Sugar Ray など)

 それはともかく、きれいに韻を踏んでいく小気味いいラップのリリックもセクシュアルで印象的な1曲でした。"Fierce nipple pierce" すなわち乳首ピアスに言及した全米ナンバー1ヒットは史上初ではなかろうかと。



★第5位★ "It Wasn't Me" - Shaggy featuring Ricarto 'Rikrok' Ducent


 正直言ってこんなにヒットするとは思いませんでした。
 確かにお気楽な Shaggy のラップと、Rikrok の流れるようなコーラス部の絶妙な組み合わせが気持ちよくて、どんなフォーマットのラジオ局でも気軽にエアプレイできそうな、そして幅広い層にクロスオーバーしそうな出来ではあります。

 歌詞は、彼女のいない間に自分の部屋で隣の女の子とエッチしていたところ、合鍵を渡してあった彼女が突然踏み込んできて大パニック。激怒する彼女に「あれは俺じゃなかったんだよ」と必死に言い訳するという、悲劇的というよりはむしろコミカルな内容です。Shaggy のすっとぼけたお間抜け系キャラが大ハマリで、ビデオクリップも面白かったっす。



★第4位★ "All For You" - Janet Jackson

 確かにポップ系ジャネットの完成形のようなキャッチーな楽曲でした。元ネタは Luther Vandross がヴォーカルを取ったことで知られる Change の "Glow of Love"。そりゃ気持ちいいわけです。

 ただ、近年の Jam & Lewis の大仕事の数々の中にあってはやや深みが足りないようにも感じられて。比べる相手はもちろん昨年の大ヒット、"Doesn't Really Matter"。あの信じられないようなトラック展開を聞かせながらもどうしようもなくキュートな趣きとは明らかに質が異なっています。今回のアルバムは全体としてポップなスタイルへの回帰がテーマのようですので、そういう意味では素晴らしい仕上がりだと言うべきなのでしょう。

 コーラスのフックは気持ち軽め。

It's all for you
If you really want it
It's all for you
If you say you need it
It's all for you
If you gotta have it
It's all for you
If you make a move
It's all for you


 確かにシンプルでハッピーなダンストラックに過ぎません。それでもあの溢れんばかりの微笑みを湛えて、『欲しいのなら、全部あなたのものよ』なんて歌われちゃ、やっぱりジャネット可愛い過ぎ!って言うしかないのです。



★第3位★ "Stutter" - Joe featuring Mystikal


 別エッセイでも取り上げたので、そちらもどうぞ。

 Joe は、例えば R. Kelly や Babyface のようにバカ売れしたいんだろうなぁ、と思うのです。ブラックからの支持だけでなく、むしろホワイトにもクロスオーバーして、全ての人々に自分の美メロを口ずさんでほしいに違いないのです。一見穏やかな視線と涼しげな表情の奥底に、熱く貪欲な剥き出しの出世願望が見えて見えて困っちゃうのです。しかしそれでこそ漢(おとこ)、立つんだジョー!

 93年のデビュー作 "EVERYTHING"、97年の2nd "ALL THAT I AM" で好事家R&Bファンたちを唸らせた彼でしたが、まだまだ飽き足らず、これでもかとばかりに自らの名を冠した3rd "MY NAME IS JOE"  をリリースしたのが昨年のこと。"I Wanna Know" でR&Bバラッ ドの真髄を聴かせ尽くした Joe が仕掛けた飛び道具は、Mystikal をフィーチャーしてのこのダンサーでした。

 ご存知のとおり、浮気した彼女をネチネチと責めまくる濃ゆい曲(おお、Shaggy の "It Wasn't Me" と対を成している!)なのですが、それにしては Joe のヴォーカルはあまりにもソフトで優しすぎる。そんな訳で駆り出されたガナリ系最高峰の Mystikal のあまりにも場違いなラップソロは、期待どおりの劇的な効果を挙げたと言えるでしょう。

 個人的には、これはこれで面白かったけれど、次回はぜひ "All The Things (Your Man Won't Do)" クラスの正統派バラッドで全米を制覇してもらいたいな、と。



★第2位★ "Independent Women Part 1" - Destiny's Child


 21世紀の幕開けは、現代のR&B女性グループとしてはもっとも人気の高いと思われる Destiny's Child のこの曲が1位を繰り越してきました。通算11週の1位というのは、近年では久々の長期政権です。

 最初は可愛いと思ってたけど、気がつくと超!性悪ビャ〜ッチに成り下がっていた Beyonce ちゃんの極悪非道なクビ切りぶりに圧倒されがちですが(されません)、やはりヴォーカルの地力が優れているだけに、単なるアイドルでは済まされないグループなのも確か。

 しかし、歌詞における彼女らの一貫した「強い女性」志向には驚かされます。この曲でもコーラス前の次のパートで、男に頼らない「自立した女性」ぶりを高らかにアピール。

The shoes on my feet
I've bought it
The clothes I'm wearing
I've bought it
The rock I'm rockin'
I've bought it
'Cause I depend on me
If I wanted the watch you're wearin'
I'll buy it
The house I live in
I've bought it
The car I'm driving
I've bought it
I depend on me
(I depend on me)


 家も車も… 俺よりスゴイ(^^;)。もちろんこうしたキャラクター作りが同性からの支持を集めているわけですが、時には可愛い女の子を演じる Beyonce を見てみたいとも思ったりして。ある意味引っ込みがつかなくなっているのかもしれなくて、大胆な路線変更は当分なさそうです。次のタイミングは… グループ解散/ソロデビュー時かな?



★第1位★ "Lady Marmalade" - Christina Aguilera, Lil' Kim, Mya & Pink


 リリース前に情報を掴んでからというもの、1人で騒ぎまくってました。女性ヴォーカルファン垂涎の的。まさに今が旬の組み合わせ。これを聴かずして何を聴く。クリスティーナに膝枕され、マイアとピンクに両側から擦り寄られながらリル・キムに○○○される自分の姿が勝手に想像の中で膨らみます。膨らみませんか? 膨らんだらアブナイです(笑)

 ビジュアル面での補強がなければ凡庸なカヴァーだと思います。むしろ Sheila E. が "SEX CYMBAL" アルバムでカヴァーした時の方が衝撃は大きかったような。いずれにせよオリジナルが全米1位というクラシック中のクラシックだけに、どう料理しても酷くなるわけがなく、1955年以降9曲目(各々カウントすれば18曲目)となった「オリジナル(ファースト・ヒット)、カヴァーともに1位になった曲」の仲間入りできたことを素直に称えたいと思います。チャートファンの1人として、こういうチャート記録に立ち会える瞬間は何ものにも代えがたい喜びなのです。

 その意味では、Kylie Minogue が "The Loco-Motion" でLittle Eva 、Grand Funk に続く3曲めの1位記録を成し遂げられなかった(3位止まり)のにも立ち会いましたが、実に残念なことでありました。あれは Billboard の良心だった、というウワサもありますけど(笑)。

 いずれにせよ、今一番盛り上がっている女性ヴォーカリストを4人束ねて、全米#1ヒット史上に残る名フレーズの "♪Voulez vous coucher avec moi ce soir / Voulez vous coucher avec moi" を歌わせる企画の勝利。こういう曲こそ、コンテンポラリーなヒットとして思いっきり楽しんじゃった者勝ちだって気がするんですけど、如何?


(July, 2001)

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