Diary -November 2003-


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30 Nov 2003
Sunday

 身辺がごたごたしていて時間が作れませんでした。ご無沙汰。

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 ええと、どこから話そうかな。まず先週末はほぼ1年ぶりに実家に帰っていました。両親はともかく、残された時間が少ない祖父母にはいくら孝行してもし過ぎということはない。空港から祖父母の田舎に直行して宿泊し、少しでもたくさん直接話す時間を確保しました。僕には父方の祖父と母方の祖母しか残っていないのだが、どちらも今のところ身の回りのことは自分でできる。祖父など90歳近い年齢を考えれば驚異的に元気だと言えるでしょう。シベリア抑留で生死の境を彷徨った彼ですが、結局同期の中で最も長生きすることになったわけで、人生何がどうなるか分からないものです。

 その他にも久しぶりに天文館(というのが地元の繁華街の名前)をぶらぶら歩いてみたり、美味しい食べ物に舌鼓を打ったり、芋焼酎の美味しさに目覚めてみたり、完全な形ではないとはいえ両親から謝罪の言葉を引き出したり(ここまで10年以上かかった)、まあいろいろなことがありました。そういえば出水(いずみ)市で大量に渡来したツルを見に行ったりもしたっけ。ここは冬を越すツルが集まってくるところで、今年も既に1万羽以上のツルが集結している。ツルは見かけは美しいのに声はそうでもなく、大声で鳴き合う様はかなりやかましいのだけれど、それでも一般に有名なこの手の観光地は近くに住んでいるとなかなか出向かないもので、自分もこの歳になってまさか初めて見ることになるとは思わなかった。

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 ところで今回の帰省について、僕自身はかなり心安らかに迎えることができたのだけれど、その理由はこうです。第一に、まだ内示はされていなかったけれど人事異動がほぼ決まっていた。第二に、度重なる出張による取得マイレージにより往復航空券を無料でゲットできた。後者は一見どうでも良いことのようだが実際はそうでもなく、体感的にはソウルより遠いとすら言われる僕の実家は航空券を定価で買うと5万円くらいしてしまう。明らかにソウルに行って焼肉を食べた方が安いわけです。ついでに今俺は金正日氏の近くにいるんだ的なスリルまで味わえる。これはお得だ。ですが実家に帰ると5万円が吹っ飛ぶ上に手ぶらでは帰れませんから、あちこちへのお土産その他都合10万円程度の予算を見込まねばなりません。もちろん金正日氏の近くにいるんだ的なスリルはなしで。というわけで、盆暮れ正月といった高騰シーズンを避けて帰省するのは当然のこと、可能であればマイレージ類をかき集めて無料航空券を獲得するのが吉、いやむしろマイレージが溜まった頃に何気なく偶然を装って帰省すべしといったところでしょう。

 …こんなんじゃ全然人事異動の話までたどり着かないな。

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 話は9月のベオグラード出張に遡る。ベオグラードといえば君、旧ユーゴスラビアの首都ですよ。チトー大統領のユーゴですよ。今はセルビア・モンテネグロって言うんだけどね。セルビアの方が圧倒的に大きいし、モンテネグロは独立したがってる。だからこんな連合国家の体を成してるのもここ3年が限度だろうと言われてます。それはともかく、ベオグラードにうちの副社長と出張したわけです。もちろん奴が僕のかばんを持って。いやその逆で。この副社長は社長の右腕として知られる男で、その腕力ときたらかなり有名です。並み居る局長・部長クラスを罵倒し、じゃんじゃん首を斬る。首を斬るというのは比喩表現で、僕の職場では本当に首を斬られることなどないのですが、それでも陽の当たらない職場に飛ばされたりすることはしょっちゅうです。最近の例だと着任数週間後に飛ばされた秘書担当がいたな。あの人事には職員全員震え上がったものでした。

 さて彼と一緒にベオグラード市長(けっこう綺麗な女性)と面会したり、ドナウ川とサバ川を見下ろす要塞跡に立ってみたり(かつてここでオスマン=トルコ軍を迎え撃った)、いろいろと珍しい体験ができたのは良かったのだが、ただでさえ気安く話しかけてくる彼と四六時中一緒にいた関係上いろんな話をしてしまい、そんなこんなで「お前次にはここで仕事してみないか。これからいろいろ面白いぞ」とか何とか言い出すものだから(またまたそんなこと言っちゃって、年度内の変てこな時期に異動なんてありえないじゃんよ)とか思いつつ二つ返事でOKしてしまったのが運の尽きだったようです。

 帰国後あっという間に人事部長に話がとおり、局と局の間で話がついてしまって、あとは時期を待つばかりとなりました。そんなわけで9月の半ばに異動が決まり、以後2ヶ月間は今までの部署の仕事を整理して引き継ぎ書類を作るという、なかなか後ろ向きな時間の過ごし方をさせてもらいました(おかげで毎日定時で帰れてコンサートにもたくさん行けたけど)。正直言って観光振興の仕事には限界を感じていたので、残るメンバーには申し訳ないけれど、ここらで一足お先に卒業させてもらうねって感じ。重要な政策であることには間違いないけれど、何か根本的なところでやり方を間違っているような気がする。管理職も含めて恐らく多くの人間がそのことに気づきながら、抜本的な改革に踏み出そうとしなかった(自分も然り)ことに、立ち上がって2年目という組織の若さ故の暴走性を感じずにはいられない。

 その点については多少苦々しい思いはあるのだけれど、いずれにせよ12月1日付で異動の内示があったからには baby, baby, don't look back というわけで新組織の人間として新組織の業務に邁進する他はないのだった。平たく言うとお水系の仕事というか、それじゃ平たすぎるのでもう少しまともに言うと上水道事業に携わることになります。雇われ人は自分の仕事を選ぶことができない。"Pull Me Under" を歌えと言われればどうでもいい歌詞だと思いつつも毎晩歌わねばならない、それが雇われヴォーカリスト。仕事を選べないとはいえ、声をかけてくれる人があることはありがたいことです。逆に言えば声がかからなくなったら組織内での仕事人としてはアウトなんだろうな、とか思いつつ明日から全く新しい職場で全く新しい人たちと全く新しい仕事をすることになりました。人生何がどう転ぶか分かりません。でも選べない以上はせめて自分で少しでも楽しんでいくしかない。BRITAで飲む水道水も今夜はまた格別に美味しい気がするのでした。


17 Nov 2003
Monday

 世間ではボージョレー・ヌーヴォーの話題で持ちきりのようだが、我らがビール界においては「ビアヌーボー2003」である。原料にこだわるサントリーならでは、2003年収穫の「獲れたて麦芽とホップ100%」の新作ビールだ。麦芽は国産大麦、ホップは国産ビターホップに加えてドイツのアロマホップを空輸して使用するという念の入れよう。派手なパッケージが目を引く。ビールに関して言うと恐らくこの種の華やか過ぎる缶はセールスに結びつかないだろう。それでも僕らはサントリーのビールを買う。彼らが新作の企画を怠らない熱心な会社であることを知っているから。真のビール好きとして応援したくなる会社だから。

 お味の方はすっきりとした飲み口で、いかにも新酒という感じ。ヘヴィなコクを求める向きには必ずしも向かないが、季節ものと割り切って新鮮な味を楽しむべきビールだろう。ヘヴィな料理と合わせると素敵な調和を見せてくれるに違いない。缶はきれいに洗ってしばらく飾っておくとしよう。木枯らしが吹いた東京は、ますます加速しながら冬に向かう。

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【朝日新聞個人的メモ】
★「物を持つのは大嫌いである。最小限の生活可能な移動手段さえあれば、家財道具なんて一切いらない。いつでも夜逃げできるように身辺はすっきりしている。寒さ、空腹、疲労には滅法強く、長時間にわたる移動も苦にならない。一旦獲物に的を絞れば、恐ろしいほどの集中力で仕留める自信がある」
(作家 鈴木 光司、自らと縄文人の共通点を比較して)



16 Nov 2003
Sunday

 日曜日に足を突っ込んだ00:35AM。大雨が降り始めた仙川でチャリを諦めて自転車置き場に放置し、傘を差して家路についた。今夜は渋谷でオフ会、なんと15人も集まっての大盛会。いつものメンバーあり、初めての参加者あり、久しぶりに海外から帰ってきた者あり。それぞれがとても楽しい人ばかりなのであっという間に時間が過ぎる。僕は場を設定させてもらっているだけなのだけれど、いつにも増して皆さんに感謝。本当にどうもありがとうございます。

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 ところでその中に最近結婚した人がいて、彼は指輪はしない主義らしい。昨日来ていた他の既婚者男性の多くは指輪をしていたようだったが、一般的には男性より女性の方が指輪をしているようだ。左手の薬指に指輪をはめるという習慣がいつ頃どのようにして始まったのか知らないが、多くの女の子は結婚後、あるいはステディなパートナーができると薬指に指輪をする。その結果、僕らは出会った女の子の薬指に指輪を見つけると普通は踏み込んだお付き合いを申し込むことはない。つまり女の子にとって薬指の指輪は単に自分のパートナーとの契りの象徴としてだけでなく、「相手は間に合ってるから声をかけないでね」といういわゆる「魔除け」の効力を持つということにもなる。

 そうした意味を持たされたアクセサリーが「指輪」であることは興味深い。ネックレスでもピアスでもアンクレットでもなく、リングであること。手作業中など常に自分の視界にあり、指先の細やかな動きに合わせて様々な表情を見せるリング。一度はめると容易に外れない、パートナーと自分を縛り合う柔らかな鎖の象徴としてのリング。エーリッヒ・フロムを持ち出すまでもなく、人は無限の自由よりは一定の束縛を求めるものだ。指輪をすることで何らかの安心感を得られるのならばそれで良いし、指輪ごときに束縛されるのが嫌な人にはしない自由もある。それは心の中でパートナーを想う気持ちとは直接関係ないことだろう。

 自分は知らないが、左手の薬指以外にも、リングをはめることには何らかの意味があるのかもしれない。例えば右手の薬指なら片思いとか、左手の小指なら恋人募集中とか。女の子とお酒を飲みながら、彼女の綺麗な指輪を眺めるのも悪くない。個人的な好みでいうと、人差し指に指輪をしている女の子って何だかかっこいい。理想的には左手の人差し指と右手の薬指に、それぞれ決して派手過ぎない指輪をしている子、それも左利きなら言うことはない。これらには全く根拠がなくて、純粋にビジュアルとして気に入っているというだけのことなのだけれど。

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「ベッカムに恋して」("Bend It Like Beckham"@ JAL欧州線機内)
 低予算映画ながらかなり好印象。イギリスに旅行したことがある人ならご存知のとおり、かの地にはインド系の住民が非常に多い。大英帝国と植民地インドの歴史を引っ張り出すまでもなく、街角のニューススタンドでチョコバーでも買おうものなら、店員の6割方はインド系だ。インド料理店は無数にあり、どこでも安くて美味しいカレーやタンドリーチキンが食べられる。伝統的なインド系イギリス人家庭とホワイト層との文化摩擦が映画のテーマのひとつだが、さらに(女子)サッカーという小道具でひねってみたらこんなに面白く仕上がった。主人公ジェス役の女の子、バーミンダ・ナーグラの演技が実にいい。正直でしっかり者で、自分の夢を大切にするタイプ=好感度満点。ついでに女子サッカーチームのキャプテン役で出ているセクシーなブラックの女の子は元All Saintsのシャズネ・ルイスなのだった(全然気づかず)。インド系の伝統文化を分かりやすく紹介し、淡いラブロマンスもあり、親友との衝突もあり、あちこちに笑いも散りばめられている。期待を裏切らないハッピーエンディングで観終わったあとも爽快。かなりお勧めの1本。


13 Nov 2003
Thursday

 仕事帰りに新宿厚生年金会館で観てきた21st Century Schizoid Bandが思いのほか良過ぎて、ちょっと心地良いアフターショックに浸っている。メル・コリンズとイアン・マクドナルドという稀代のサックス/フルート奏者が左右のチャンネルからステレオでぴったり息の合ったアンサンブルを聴かせてくれるなんて、こんな贅沢がこの世に有り得るだろうか。イアン・ウォーレスのドラムが期待以上だったのも嬉し過ぎる誤算。流石にキング・クリムゾン上がりの連中は基本技術が鬼のように高い位置にある。いろいろな発見があったライヴになったが、2ndから4thまで、特にアルバム "ISLANDS" の楽曲の良さを再認識できたのは大きい。メル・コリンズとイアン・ウォーレスが暴走するライヴ盤 "EARTHBOUND" の凄さを多少は実体験できたように思う。客の入りは良くなかったが演奏は文句なしに素晴らしかった。

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【朝日新聞個人的メモ】
★「数年前アイルランドを訪れたことがあったが、何処の酒場に行っても、何時の間にやらギターと唄が始まり、誰も彼もが声を合わせて陽気に身体を動かしていた。
 それで解った。アメリカに渡ったアイルランド移民を源としてカントリーミュージックが生まれ、アフリカの黒人奴隷たちの音楽と融合してジャズやブルースが生まれたことを。それがロックンロールとなり、リズム&ブルースが生まれ、欧州には逆輸入の形をとってビートルズやレッド・ツェッペリンといったケルトの香り漂うロックバンドが生まれたことを。」
 「それにしても、数十人が統率されてステップを踏み続ける場面は圧巻だ。あんなにも激しく踊っているというのに、微動だにしていないように感ぜられるのは何故だろう? 一人一人の振動が響きあって倍音となり、溢れるエネルギーが渦巻いて、地球独楽(ジャイロスコープ)のように停まっているというのか?」
(俳優 佐野史郎さん、「リバーダンス」公演について)



12 Nov 2003
Wednesday

 ノー残業デイなので早々に帰宅。途中で寄り道して腕時計を1本購入し、家で軽く夕食をとってからジムに出かける。平日だというのにかなり混雑していた。23時再帰宅、干してあった洗濯物をたたみつつ新たな洗濯を行い、待ち時間に電子レンジで温めたミルクを1杯飲む。以前はビールなど飲んでいたのだが、最近は眠る前にホットミルクを飲むことが増えた。ビールは血管を収縮させるらしい。血液をサラサラにするためにはビールと同量の水を摂取する必要があるとかいう話を聞いた。それにアルコールに頼った睡眠は浅くて疲れが取れないような気がする。慌ただしい毎日の中で唯一リラックスできるのは睡眠時間。であればこそ深く落ち着いた眠りにこだわる。ホットミルクでぐっすり。Good sleep。

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【朝日新聞個人的メモ】
★「19世紀末までワインは新酒で飲むものだった」
 (フランス食品振興会日本代表 ジャンシャルル・クルーアンさん、ボージョレー・ヌーヴォーについて)

★「旧石器捏造事件もそうだが、歴史の事実ときちんと向かわず、物語にして楽しんでしまうところが日本人にはあるように思う」
 「ウソだと知りつつ流通させるから、ますますウソが広がってしまうんです」
 (評論家 長山靖夫さん、「有栖川宮」詐欺事件に見る日本人の深層について)



10 Nov 2003
Monday

 阿川佐和子さんが「今後は『ひとり』の覚悟を決めつつ…」書いた「いつもひとりで」が文春文庫から発売される一方で、最後の砦かと思われた磯野貴理子さんが結婚を発表した今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。winterでございます。

 まあそんなことはどうでもよいのでして、先日何気なく入ったセブン・イレブンで目に留まったブルボンのお菓子は2曲入り8cmCD付きなのでした。お菓子というより明らかにオマケの方が重要。「J's ポップスの巨人たち〜フォーク/ニューミュージック黄金時代編」と銘打たれたその箱には、あの頃の懐かしい曲がCDになって収められています。例えば南沙織の「17歳/潮風のメロディ」。例えば甲斐バンドの「HERO/安奈」。例えば渡辺真知子の「かもめが翔んだ日/唇よ、熱く君を語れ」。久保田早紀の「異邦人」だってあります。しかし僕が迷うことなく手に取ったのはこれ。南佳孝の「モンロー・ウォーク/スローなブギにしてくれ」。

 まさかこんな形で大好きな曲のCDシングル(ちょっと違うけど)が手に入るなんて。オリジナル7インチのジャケットを再現したアートワーク、歌詞&解説付き。お菓子も付いて330円。いやお菓子にCDが付いてるんだったか。なくなり次第終了の限定発売なので、勢いに任せて上に挙げた渡辺真知子や甲斐バンドもまとめて大人買いしてしまう可能性大。♪Want you 俺の肩を抱きしめてくれ〜

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「マトリックス・リローデッド」(9月のJAL欧州線機内)
 前の座席の後ろにくっついているような小さな画面で観るべき映画でないのは百も承知ですけれど、とてもお金を払ってまで長い行列の後ろに並んで観たい映画でもなかったので、多忙な出張の息抜きに機内で鑑賞しました。個人的には1作目の方が楽しめたかな。それってしょうがないんだよね。何度恋に落ちようと初恋には絶対にかなわない。Sade も歌ったとおり。Never as good as the first time。

 そういう2作目のハンディを考慮してあげるならば、アクションシーンに関しては十分に楽しめる映画です。エージェント・スミスが無限増殖するシーンや高速道路でのカーチェイス/バトルシーンはやはり秀逸。ほとんどアニメーションを観ているような非現実的な映像世界が展開されます。ここまで来ると無理に特撮で作る必要があるのかどうか微妙。アニメ観てりゃいいっていう人もいるでしょう。まさに後半の「カギ」を握る鍵職人や、モーフィアスの刀使いバトルなど、日本的なモチーフが過剰に導入されている点も賛否が分かれそうです。ややくどい気がしないでもないですね。

 殊更にロジックをひねり回すような台詞がかなり邪魔をしてしまったのは残念だけれど、3作目が同時進行していたのなら密度としては薄くならざるを得ない。そう割り切れるかどうかが勝負。少なくとも長い行列の後ろに並んで混雑した映画館で観てたら割り切れなかったに違いないです。「レボリューションズ」? うーん…


9 Nov 2003
Sunday

 選挙に行かない人も多いのだという。僕も偉そうな口をきくつもりはない。政治や行政にはかなり不信感があって、29歳になるまで一度も選挙権を行使したことなどなかった(それ以降は今回も含めすべての機会に選挙権を行使している)。マニフェストなる怪しげなイタリア語が飛び交った今回の選挙も、別段これまでの不信を拭い去るものではない。個々人の1票など全体の中ではコンマ以下の誤差に過ぎないのは事実だが、コンマ以下の集積が最終的に順位の逆転につながることもある。少なくともそう思わなきゃ投票所なんて行けないのかもしれない。

 ところで投票率を上げるのなんて簡単だ。投票したことのある人なら分かると思うが、その夜の選挙速報TV特番を見る面白さが全然違う。投票しなかった人は「つまんねーなあ。日曜洋画劇場やってくれよ」という気持ちかもしれないが、投票した場合多少なりとも選挙結果を追いかけてしまう。政治に全然関心がなかったとしても、つい自民204議席、民主190議席…などと獲得議席数の予想をしてしまったりする。そこでだ。投票所で投票を済ませた人のみに用紙を配布して実施する「選挙ロト」を提案したい。各党の獲得議席数を予想して記入する。これでもうみんな開票速報に釘付け、日テレも視聴率確保にあくせくする事なし。何も1億円当たるなんて言わなくていいよ、MAX100万円でも全然OK。軽く10%は投票率上がると思うんだけど。

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 11月1日の映画ファンサービスデイにもう1本銀座で観た映画のご紹介。

『アマロ神父の罪』("El Criminen Del Padre Amaro")@テアトルシネマ銀座
 ガエル・ガルシア・ベルナルと聞いてピンとくる人はかなりのラテンアメリカ映画通だろう。だがメキシコでは間違いなくNo.1の若手俳優であり、例えば『アモーレス・ペロス』を観た人なら、第1ストーリィで兄嫁に恋する若者を演じたガエル・ガルシア・ベルナルを忘れることはないだろう。文句なしに鮮烈で、存在感のある演技だった。『アマロ神父の罪』で演じる役柄はどちらかというと誉められたタイプではない。メキシコの田舎の教会に赴任してきた若き神父アマロが16歳の少女と恋に落ち、肉体関係を持って転落していくスキャンダラスな物語だ。

 『アモーレス・ペロス』は冒頭のカークラッシュが衝撃的だったが、『アマロ神父』のオープニングも凄い。静かにメキシコの山道を走る長距離バス。深夜に突然バスを停めて乗り込んできた女の子と共に銃を持った男たちが乱入し、怒号を上げながらアマロら乗客の金品を強奪するシーンの緊張感といったらない。思いきりラテンアメリカ的な展開だ。無一文になってしまった隣席の老人に対して、翌朝アマロは降車時に財布からお金を渡すのだった。聖職者として当然の行為ではあるが、ガルシア・ベルナルの澄んだ瞳はまったく嫌味を感じさせない。…少なくともこの時点までは。

 アマロの転落ぶりについて同情できるところもあれば、許せない部分もあるだろう。聖職者といえども所詮は人間だ。性欲も権力欲も名誉欲もある。傾き始めたアマロが必死に地位にすがろうとする様子が醜く、哀しく描かれている。酷い男だと思うかもしれない。だがその一方で僕らの心に潜む邪悪な傾向をあぶり出しているのも確か。少女アメリア役のアナ・クラウディア・タランコンの表情と演技も素晴らしい。16歳の少女役にしては身体中から女の魅力が溢れている。実は、黒髪と黒い瞳が印象的な彼女は撮影当時22歳なのだという。少女のようなあどけなさと、聖母マリアのような神聖で無垢な美しさが同居している。

 映画は衝撃的なクライマックスに向けて突き進む。慎重に張り巡らされたキリスト教的な伏線がテンションを保ち続ける。例えば破門されようとも信じる道を行く同僚の聖人らしい生き方や、ディオニシアなる怪しげな魔女風の女性が演じる極めて暗示的な役回り、生まれつきの障害を負った成人女性、そして真面目な青年を陥れる邪悪な謀略。教会の腐敗や神への背徳行為といった個別のテーマ以前に、人間として生きることそのものの重さ、難しさを感じさせる映画だ。「人生なんて、何かの罰ゲームとしか思えない」と言った人がいた。全くそのとおりだし、アマロの犯した罪は彼に更なる罰ゲームを迫ることになるだろう。

 『アモーレス・ペロス』にしろ本作にしろ、ラテンアメリカ映画は凄いことになっている。SFXもワイヤーアクションもないが、えぐり出されるテーマは重層的で、濃密で、情熱的で、忘れ難いインパクトを持っている。21:15〜23:20までのレイトショーだったにも関わらず、銀座テアトルシネマがぎっしり埋まっていたのが実に印象的だった。


4 Nov 2003
Tuesday

 さて地上波の海外ドラマといえば、NHK教育で長年続いてきた「サブリナ」("Sabrina The Teenage Witch")がついに先週終了した。高校生だったサブリナは大学生を経てロック雑誌の編集部に就職するに至った。ボーイフレンドも何人か変わったが、最終回では今シーズンに出会った男性といよいよ教会で結婚式を挙げる土壇場で「この人は運命の人じゃない」と気付いて式をキャンセルしてしまう。教会の外に飛び出してみると、最初のシーズンからずっとサブリナのそばにいたのんびり屋のハービーが待っており、ファンのみんなも納得するハッピーエンド。後半のシーズンではアッシャーやアヴリル・ラヴィーン、アシャンティなど人気歌手のゲスト出演も連発してくれてとても楽しめたのだが、始まりあるものには必ず終わりが来る。サブリナとハービーが末永く幸せであることを願って送り出すとしよう。

 一方で10月から第2シーズンが始まった "The West Wing"(「ザ・ホワイトハウス2」)もかなり快調に飛ばしている。1stシーズンの衝撃的な幕切れ(大統領狙撃)で注意を引きつけておいて、おもむろに各スタッフがホワイトハウス入りした経緯を説明するあたり、周到に計算された展開に唸らされる。米国政治を取り巻くさまざまな論点や、英米に定着している二大政党制のあり方などが分かりやすく示されており、11月9日の総選挙に向けて考えさせられる点も多い。今この瞬間に米国が直接の国民投票で大統領を選べるとしてマーティン・シーンが立候補したら、ブッシュに圧勝できるのではないか。良いリーダーの下で働けるスタッフは幸せだが、自分を含む大半の勤め人には直属の上司を選ぶ権利はない。残念ながら。

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 11月1日は土曜日だった。女性は毎週のようにレディースデイがあるが、僕にとって月の初日は1,000円で映画を観られる貴重な「映画ファンサービスデー」。平日は残業でほとんど利用できないので、こうして週末にぶつかる時はつい映画館をハシゴしてしまう。この日も仙川からチャリを飛ばした。…銀座まで。

 仙川から新宿に出るのも銀座に出るのもはっきり言ってあまり違いはない。とはいうものの、ちょっと冷静に距離を考えてみよう。YAHOO!路線情報で最寄り駅を入力すると、経路や料金のほかに距離が表示される。おそらく路線距離の単純合計なのだろうが、自分が走るコースは概ね線路沿いなので大きな誤差はない。結果は仙川〜新宿が約11.5km、仙川〜銀座に至っては約19.1kmなのだった。つまり往復約40kmを走破していたことになる。新宿までの所要時間から逆算した平均時速は約13kmといったところか。普通のシティサイクルで交通量の多い国道を走るのだからこれが限度だろう。銀座でも特に疲労感は感じなかったので、時間さえかければ東京ディズニーランドまでの往復くらいは可能だ。もっとも到着後入園する間もなく引き返す必要があるが…。何だかもっともっと長距離のツーリングに出かけてみたくなってきた。

 銀座では映画を2本観たが、今日はその片方を紹介しよう。

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★「女神が家(ウチ)にやってきた」("Bringing Down The House")@銀座シネパトス
 この春公開と同時に全米興行成績No.1を記録した超話題作がようやく登場!…なのだが、都内上映館はほぼここのみという惨状。スティーヴ・マーティンとクイーン・ラティファによるコメディで、とにかく楽しめる。仕事一筋だが家庭はバラバラの弁護士と、脱獄囚のブラック女性がチャットで出会い…という内容。製作総指揮も行ったクイーン・ラティファの頑張りが光る。「シカゴ」のママ・モートン役で注目を集めたが、実は映画出演やTV番組のホストのキャリアは長く、「セット・イット・オフ」での壮絶な演技などは忘れがたい。本作のようなコミカルな演技もお手のもので、うまく作品を重ねれば次世代のウーピー・ゴールドバーグのような存在になれるかもしれない。ちなみにラティファは僕と同じ70年生まれだ。スティーヴ・マーティンは大好きな俳優。あちこちに爆笑ネタを散りばめながら、最後はぐっと心温まる演技を見せてくれる。それにしても繁華街のクラブに乗り込むシーンには笑った。何とエミネムも真っ青の超ハズしたヒップホップ・ルックに身を包んでブラックのスラングを撒き散らし、挙句の果てにはダンスフロアで brothers & sisters と踊りまくるのだ(実際にはそれらしく手足を動かしているだけ、でも笑える)。全体的に人種差別をあからさまに取り上げてコメディに茶化しているのだが、差別に鈍感な層には笑えないかもしれない。笑えないということはつまり、WASPから最も遠いラティファがスティーヴ・マーティンの人生に欠けていたものを取り戻させ、家庭を再生させる「女神」として機能することも(真の意味では)実感しにくいということだ。まばらな座席を見回し、この種の映画を日本でマーケティングすることの難しさを改めて感じさせられる。とてもいい映画だけにもったいないことだ。

 ついでに銀座シネパトスについてちょっとメモしておくと、晴海通りをずっと進んで歌舞伎座を過ぎたあたりにある。入り口は地下にあり、雰囲気はいかにも「昔の銀座の映画館です」という感じ。スクリーンは小さめ、後ろの席では画面の迫力が感じにくいだろう。一見古びてはいるが、音響はかなりしっかりしていて何の問題もない。こういう古い映画館は何だか子供の頃を思い出して懐かしいので、個人的には決して嫌いではない。ただ、新しい劇場と異なり座席が互い違いになるようには配置されていないので、前の席に座高の高い人が来るとスクリーンが見づらい点に注意すべきだろう。


3 Nov 2003
Monday

 この季節の楽しみの一つが東京国際映画祭だ。毎年職場で少しだけ招待券が回ってくる。映画の内容などチェックせずに、ランダムに引き当てた招待券でコンペティション部門を観に行くのはわくわくする。英米の映画もあるしアジアの映画もある。最近はラテンアメリカの作品も捨てがたい。渋谷オーチャードホールでこの週末に観ることができたのは「カレンダー・ガールズ」というイギリス映画。既に英国では史上7位の興行収益を上げる大ヒット作になっているという。

 1999年、英国ヨークシャーの田舎町に住む平凡な中年女性達が前代未聞の「婦人会ヌードカレンダー」を発表。世界中で話題を集めたこの驚くべき実話を基に女性達の<友情の絆>をユーモアたっぷりに描いた感動のドラマ… というあらすじ抜粋ではうまく伝わらないかもしれないが、脱ぐ点だけ取り上げれば「フル・モンティ」の中年女性ヴァージョン。英国の田舎の保守性と、それをぶち壊す元気な女性たちの摩擦をテーマに、あちこちに笑いのタネが仕込まれている。脚本に相当時間をかけたというだけあって、台詞がよく練ってある印象を受けた。後半、ビッグになりすぎて親友同士がぎくしゃくしてしまうあたりは予想通りの展開だが、特に嫌味は感じない。むしろ観ていて安心できたが、それはベテラン女優たちの演技の賜物だろう。

 主演はジュリー・ウォルターズとヘレン・ミレン。どこかで見たことがあると思ったら、ジュリーは「リトル・ダンサー」でバレエの先生役をしていた。「ハリー・ポッター」シリーズにも出演しているようだ。ヘレンも見たことがあるような気がしていたが、「ゴスフォード・パーク」で最も印象的なメイド長のミセス・ウィルソンを演じていた。上映後にプロデューサーが出てきてティーチ・インが行われ、そこでも語られていたのが英国における50代・60代の女優たちの層の厚さだった。日本ではこうした女優たちは高齢の部類に入り、演じられる役柄がかなり限られてしまう。だが英国には実力ある年配の女優たちが多く存在している。さまざまな映画で印象的な役を演じているが、この映画ではそうした女優たちを一堂に集めてキャスティングすることができたのが勝因だったとのこと。ジュリー・ウォルターズもヘレン・ミレンもまさかこの歳になって映画でヌードになるとは思わなかっただろう。だが案外乗り気だったのかもしれない。「今脱がなきゃ、いつ脱ぐの?」 映画中の他の女優の台詞からの引用である。

 さて帰り道、オーチャードホールから仙川まではちょっとした距離がある。もちろん自転車の話。渋谷だから当然自転車で遊びに行ったわけだ。まずはNHKの近くの井の頭通りに出る。井の頭通りはずっと進むと最終的に20号線(甲州街道)と交わるのだが、この日は環状7号線と交わったところで右折し、松原の交差点で20号に合流した。ちなみに井の頭通りは坂が多過ぎる上に車線が少ないので、自転車走行には適していなかった。渋谷への行き方については今後一考を要するだろう。20号をしばらく走ると明大前で、ちょっとお腹が空いていたので餃子の王将に立ち寄って夕食を食べた。王将はそれほど混んでいなかったが、この週末は明大も学園祭だったようだから、居酒屋などは大変なことになっていたに違いない。

 渋谷から仙川まで自転車で約1時間。ちょっとした運動プラスいい映画を観られて良かったな。ついでに中古屋めぐりもして Cutting Crew のベスト盤や Dan Fogelberg の新しいベスト盤など6枚ほど購入したのだった。"One For The Mockingbird" はいつ聴いてもカッコいい。


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