Diary -March 2003-


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30 Mar 2003
Sunday

 ええと、まず先週の前振りで書いた「その一週間の間に新しく恋をしてあっという間に終わった」というのはたとえ話であって、全くのフィクションですので誤解なきよう。誰も突っ込まないだろうと安心していたら、見事に勘違いしてくださったお方がいらして、正直ちょっと嬉しかったです(謎)。あとですね、東京都知事選挙に立候補している(がドクター中松よりさらにどうでもいいと思われているらしく全然マスコミに取り上げられない)「いけだかずとも」氏は僕とは全然関係ありませんので、これも誤解なきよう。

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 久しぶりに映画館に出かけました。シネセゾン渋谷の「24アワー・パーティ・ピープル」。マンチェスター、と聞いてベッカムと答えるか、ハッピー・マンデーズと答えるかでこの映画を見るべき人かどうかが決まる。マンデーズの代わりにインスパイラル・カーペッツでもストーン・ローゼズでも構いません。さびれかけたかつての工業都市マンチェスターが、突如世界の音楽シーンの中心に躍り出た80年代後半〜90年代初頭。ロック+ダンス+ドラッグの三位一体ムーブメント "MADCHESTER" を演出したファクトリー・レーベル創立者のトニー・ウィルソンを狂言回しとして、マンチェスターそのものの盛衰を描いた映画とでもいうべきか。

 映画自体はもっと早い時代、具体的にはセックス・ピストルズの初期ライヴ(客はたったの42人!)あたりから説き起こされる。自分はパンクはさっぱりなのでピンとこなかったが、42人の中にジョイ・ディヴィジョンを結成するメンバーやシンプリー・レッドのミック・ハックネルがいたりしたのは興味深い。ミックはこの後パンクからもマンチェからも遥かに遠いソウルフルな方向に舵を切っていくわけだが、新しい音楽の発生現場に偶然立ち会うこと自体が彼の嗅覚の鋭さを物語っているような気も。

 ジョイ・ディヴィジョンの短い活動期間はイアン・カーティスの自殺によって伝説にまで高められることになるが、史実としては知っていても、こうして画面で解説的に見せ付けられるとやはり重苦しい。評判が高まり、いよいよ全米ツアーへ出発、という時期に突然首を吊る気持ちはかなり理解できる。陳腐な言葉で説明する必要もないだろう。バンド名の由来も意外なものだった。割と重要なポイントなので、未見の人のために敢えて触れずにおこう。ニュー・オーダーはもう少し身近な気がするが、本当に身近なのは Electronic であったり Revenge であったり Monaco だったりするのは内緒にしておく方向で。

 あとですね、ハピマンのショーン・ライダー役とベズ役はなかなか似ててグーでした。特にベズのイカレポンチみたいな田植え踊りは相当似てます。ていうか真似しやすいのかあれ。

 ドラッグと銃で荒んでいくマンチェスターの様子を見るのはなかなか辛いものがありました。万人に勧められる映画ではありませんが、90年代前半までのUKロックに馴染みのある人なら多少は楽しめるでしょう。

 その後 Saki さん、まほさん、おしょうさんと出かけたベルギービールの会(@渋谷イドロパット)は例によって盛り上がり、一人あたり4〜5種類以上?のビールを堪能することができました。たくさん飲んでも不思議と残らない、むしろ身体にいいものを摂取したような気持ちになるのがベルギービール。次はどのお店に行こうかな。

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 映画続きで最近見たものなどを。

 まずは Saki さんにいただいた "JERRY McGUIRE"。これに「ザ・エージェント」などという邦題を付ける暴挙。確かにトム・クルーズ演じるジェリー・マグワイアはアメフト選手の代理人だけど、別にエージェント業の裏表を描くのが主題じゃないわけで。「ジェリー・マグワイア」という一人の人間が、ジェットコースターの如く乱高下する状況の中で、自らの生き方やパートナーへの愛情を確かめていくヒューマンドラマであることを高らかに宣言した原題を葬り去るこの傲慢さ。嘆いてもしょうがないけれど、本人にとってもおそらく会心の演技だったと思われるトム・クルーズの吹っ切れ具合が極めて印象的な作品だけにもったいない。"Show me the money !!!"、"You complete me." など名セリフも満載。

 キャメロン・クロウ監督の映画を見たのは多分「シングルス」に続いて2作目ということになるはずだけれど、何だかすごくしっくりくるようになってきた。ときどき挿入される漫画っぽいコマとか、ラストに訪れる予定調和的なハッピーエンディングがちっともいやらしくない。落ちてほしいところに落ちてくれる。あとはキャスティングが非常によい。ロッド・ティドウェル役の俳優のしゃべくりもすごいが、やっぱりレニー・ゼルウィガーの初々しさだろう。台詞もたどたどしく、演技自体は不安なところもあるが、キャラ的にそれがずっぱまり。彼女の柔らかい微笑みはすべてを許す強さを持っているようだ。彼女はこの後 "Bridget Jones's Diary" でブリジット役を射止めることになる(映画は未見)が、原作に入れ込んだ自分からしても、これこそ完璧なキャスティングというべきだろう。彼女以外のブリジットなんて想像できない。

 次に、「ロック・スター」。マーク・ウォールバーグ&ジェニファー・アニストン主演のちょっとお馬鹿系ロック・ムービーで、本当は映画館でみんなとわいわい見たかったのだけれどタイミングを逸し、何と九段の千代田区立図書館で発見して借りてきたという代物。大いに笑わせてもらったが、一番笑ったのはやっぱりラストで Marky Mark & The Funky Bunch の曲がかかるところ。さすがに全米#1ヒットを持っているだけの事はある。

 あとはさらに下らない映画たち。「親指スター・ウォーズ」「親指タイタニック」
 レビューを書くのもはばかられますが、とりあえず1回見る分には笑えました。

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 今夜はこれから「アリー my ラブ5」の最終回。
 いろいろな思い出に浸りながら見ることにします。


23 Mar 2003
Sunday

 一週間おきに日記を書いていると、その間にいろいろなことが起きる。時にはリアルタイムで追いかけない方がよいこともある。たとえばその一週間の間に新しく恋をしてあっという間に終わったとか、たとえばどこかの国がどこかの国に対して戦争を始めたとか。僕などが書かなくても時間はどんどん過ぎる。犬は吠えるがキャラバンは進む。

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 さて今日は、調布にある深大寺温泉 ゆかりに行ってきました。意外でしたか。実は僕は温泉がかなり好きです。温泉に入っている間は世間のトラブルを多少忘れてぼんやりすることができる。こんなに近くにあるのなら入らない手はない。などと思ったわけではなくて、あくまでも無料券をゲットしたからなのですけれど。朝日新聞販売所もたまには乙なことをする。こういう場合の「乙」がどうして「粋だ、気が利いている、味わいがある」という意味になるのかさっぱり分からないが、分からないままに妹を誘って温泉に出向くことにしたわけです。いや他の女の子を誘ってもよかったのですが、(1)妹の誕生日プレゼントに適当なものを思いつかなかった、(2)他の女の子を誘っても一緒にお風呂に入れるわけではない、という事情を総合的に勘案した結果がこれだったと。いやむしろ女の子の方から僕を温泉に誘ってほしかったという説もあるんですけど。

 さて上のサイトをご覧になっても分かるとおり、ここは「風水温泉」を名乗っていて、それ自体はかなりどうでもいいものです。個人的には趣向を凝らした種類豊富なお風呂があるかどうか、お湯が自分の肌に合っているかどうかこそが重要。前者についてはほぼ合格でしょう。狭い敷地にごちゃごちゃと詰め込んだ感は拭えないものの、東京で温泉やるならしょうがない。サウナもかなりいい発汗が得られるもので◎。サウナ(塩釜風呂というのだよ)の隣に「霧の摩周湖」という謎めいた名前の小部屋があり、興味本位で足を踏み入れた僕はその場に凍りついた。いや文字通り凍りついたのであって、実はこれ低温マイナス2℃という極寒の冷暗室なのでした。サウナ直後に入ったりして身体を冷やすためのものらしい。天井にはプチつららが下がっていたりして、1分間入っているのが限界。ネーミングにやられたという感じだった。これが「サロマ湖」だったら多分入らなかっただろう。せめて足元にマリモとか転がすくらいの演出は欲しかった。

 あとですね、この温泉のお湯にはちょっとビクーリしますよ。何とお湯が黒い。いや正確には濃い茶色という感じなのですが、どやどや入ってきた子供たちがいみじくも言っていたように「コーラみたい!」なのです。もちろん炭酸は入ってませんが。あるいは薄いコーヒーみたいな感じか。どっちにしても肌には全然色は移りませんし、お湯自体も程よく滑らかで肌がすべすべする感じです。お湯が茶色いことによるデメリットは、底が見えないため、湯船に足を入れるときちょっと怖いことでしょう。露天風呂に入るときなど、底に届くべきところで届かない、みたいな恐怖はちょっとあります。あと、湯船の中を移動中に他の人の足を踏んでしまったりという事件も発生します。混雑しすぎていたのも理由のひとつですね。正直、芋の子を洗うとはこのことかと思うくらいお客さんがうじゃうじゃ入っていました。

 とか何とか言ってるうちに約束の2時間が経過、妹と待ち合わせて温泉を出ます。次は深大寺名物のそばを食べに行くのです。これがもう、たくさんの蕎麦屋が並んでいて目移りするくらいですが、あらかじめネットで調べておいた「湧水」というお店に入ります。まずは生ビールで乾杯。続いて僕は天ぷらそば、妹はおろしそばを注文。ここの蕎麦はかなり美味しいです。蕎麦粉の香りが強くて、コシのある蕎麦。つゆはやや濃いように思われましたが、トータルでの食感はかなり良いでしょう。生ビールお代わり。つまみに蕎麦豆腐を頼みます。蕎麦粉50%とあるけど本当かな。確かにそれっぽい香り高きお豆腐でした。そしてデザートはそばようかん。「湧水」特製のそばようかんは三層構造。いずれも蕎麦粉が程よく利いており、甘さ控えめ(というかほとんど甘くない)の素敵な甘味なのでした。ハッピーバースデイ。こんなもんで良かった?

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 多少は身体とココロを休ませることができたかなと。
 また明日から1週間、気力だけで頑張りまっす。


16 Mar 2003
Sunday

 そもそも僕は血液型で分類されるのが大の苦手だ。ABO式血液型で4タイプに人を分類できるなら、対人関係はどんなに楽になるだろうと思う。にもかかわらず世の中には血液型占いがはびこり、キミはAB型だから○○だね、と決めつけにかかる。前にも書いたことがあるはずだが、僕は占い全般が苦手だ。岩月謙司が占い好きかどうかは知らないが、男女を単純に二分化するやり方に同意するのは難しい。ちなみに僕自身はジェンダーの差異をすべて文化の産物と言い切るところまでは行けないようだ。どちらかというと性差というよりも個人差による部分が大きいように思う。つまり60億の人がいれば要するに60億通りのパターンがあって、その振幅のレベル差にすぎないような気がしている。ちなみにこの文章中でも随所にあいまい表現を用いることによって、断定論調が苦手なことをひそかにアピールしているつもりだが、どうだろうか。

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 さて皆さんは避難場所を持っていますか?

 幸いなことに僕は持っています。どうしようもなく追い詰められた時に逃げ込むことのできる場所。それは何とキッチンにあった。週末、僕はしばしばカレーを作ります。それはすべてのトラブルを忘れて没頭することができる幸せな時間。にんじん、ジャガイモ、玉ねぎを切って鍋に空け、軽く炒めます。玉ねぎに火が通っていい匂いがし始めると、もうすべての理屈を通り越して楽しくなってくる。豚肉(鶏でも牛でもよい)を加えてさらに炒め、BRITAの美味しい水を加えて煮立てます。その間に追加用の野菜類、たとえばピーマンや茄子などを刻む。忘れちゃいけないのはキノコ。たいていは舞茸だけれど、時にはエノキだったりシメジだったり。いずれにせよこいつのおかげでぐっとディープになる隠し味。癌にアガリクスが効くと言うけれど、実は成分的には舞茸と似たようなものらしい。+\100でこれだけ美味しくカレーを食べられるのなら、僕は断固舞茸を支持する。

 辛口カレールーを割り入れてゆっくりとかき混ぜたら、後はコトコト弱火で煮込むだけ。どれくらいじっくり煮込めるかが如実に味に影響するから面白い。僕なんかここでコーヒーを入れて、お気に入りの靴を一足磨いちゃったり、日曜の新聞の書評欄をじっくり読んじゃったりする。頃合いを見て火を止め、大盛り(に限る!)に盛り付けたご飯にたっぷりとカレーをかけよう。脇にはキムチを添えるのがお気に入り。ビール好きの自分もカレーの時ばかりは一休み。BRITAの冷水に限ります。熱いカレー+冷水=これ最高。今夜のカレーもやっぱり美味しかった。

 カレーのない世界は想像したくない。カレーを食べられないことのつらさより、作ることのできないつらさの方が大きい。どちらかといえば。


9 Mar 2003
Sunday

 天気のよい週末だった。花粉症持ちには厳しい季節だが、それでも日光に当てた布団で眠るのは何より気持ちいい。ジョン・ボン・ジョヴィは残念ながらアリーと別れてしまい、今NHKではU2の "ELEVATION TOUR" アイルランド公演を放送している。このツアーの米国公演もTVで観たが、アイルランドの盛り上がり様はレベルが違う。日本まで来てくれなかったのが残念でならない。80年代洋楽がルーツの僕の世代にとって、U2の頑張りには勇気付けられるばかりだ。新作からの一連のヒット曲に、初期のシングル "Out of Control" が違和感なく挟まる。基本がまったくブレていないことの証明だ。本当に素晴らしいバンドだ。

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 僕もご多分に漏れず、ネット(といってもニフティサーブのフォーラム/電子掲示板)にハマったころは、文字コミュニケーションの難しさに戸惑ったものだ。当然伝わると思ったことが伝わらなかったり、曲解されたりしたことは数知れない。恐らく自分も相手に迷惑をかけていたことだろう。そんな中、あるバンドの素晴らしさを語っていたはずなのに、どこかですれ違って議論になってしまったことがあった。ESSでディベートを少しかじったりしていたものだから、ロジックで説き伏せること自体は容易であるように思われた。そのバンドのライヴの出来・不出来に関する議論で、相手はライヴそのものをほとんど観ていないという。議論の趨勢は明らかだった。しかし、ポイントを攻めて断定形のロジックを積み重ねた自分に相手が返した言葉は意外なものだった。

 彼はパニック障害(のような症状)があって、コンサート会場のような場所には長くいられないのだという。すべての人が貴方と同じように自由にライヴを楽しめるわけではないのだ、と。こういう議論ができる貴方のことが私はとても羨ましい、と。音楽に絶対的な「良い」「悪い」はない。断定形で語るのは時として危険だよ、と。僕は顔から火が出るほど自らが恥ずかしかった。彼は人間的に立派な人で、若い子の面倒見もよかった。ある女の子などは彼を慕い、翻訳家である彼について英語を勉強していたくらいだ。僕はそれ以来、逃げ道を許さない断定形の表現を控えるようになった。この音楽は良い、という表現を避け、「好きだ」というようになった。(ついでに言えば「嫌いだ」ともあまり言わなくなった。言葉自体が読み手に与えるネガティブなインパクトが全く不要なものだからだ)

 そんな彼が、ロンドン行きが決まった僕にあるレコードを勧めてくれた。イギリスに行ったら、ぜひカンタベリーに足を運んでみてください。そして Hatfield & The North というバンドを聴いてみてください。駅を降りて目の前に広がるなだらかな丘陵が、その素晴らしい音楽とどれほど柔らかく調和しているか、ぜひ身体全体で体験してみてください、と。

 僕は迷わず実行した。そして全身で体験した。今でもカンタベリー系ロックと言われるCDが僕のラックにたくさん並んでいる。良質のBGMに過ぎないという声もあるだろう。熱心に耳を傾ける音楽ではないという意見もあるだろう。だが個人的には彼の思い出と相俟って、どうしようもなく大切な音楽たちだ。東京で聴くそれは、確かにあの頃と同じ音では鳴ってくれない。だが今でも間違いなく、少しだけ心を温かくしてくれ、彼への感謝の念を呼び起こしてくれる。


6 Mar 2003
Thursday

 岩月謙司を話題にしたところ、さっそく掲示板に反応があった。その人は2冊ほど著書を読んだとのことだが、自分ももう1冊、講談社+α新書の「なぜ、男は『女はバカ』と思ってしまうのか」を購入してしまっている。岩月はいくつか違ったキーワードを用意してはいるが、基本的なスタンスはまったくブレていないので、その意味では何冊も読む必要は薄いといえるだろう。

 また、和田秀樹の受験指南書との類似性も指摘されていた。自分は彼の受験書に世話になった記憶がないが、やはり新書で発売された「大人のための勉強法」という本は続編も含めて2冊ほど買わされてしまった。確かに、岩月のスタイルと類似する断定形、単純な公式化が印象的な本だった。「メタ認知」というキーワードは岩月の「幸せ恐怖症」と並んで近年のヒットだったと言ってもいいかもしれない。

 僕の文章は断定形を避けた文末になっていることも多い。ちゃんと理由があって、カンタベリーとも多少関係しているのだが、それについてはまた週末にでも。


5 Mar 2003
Wednesday

 僕は本を読むのが遅い。ざっと読んでだいたい分かったようなつもりになるのは得意だが、じっくり読むと非常に時間がかかる。同時並行で数冊読んでいることが多いせいでもあるが、そんな slow reading を楽しんでもいる。だって同じ本をたった1時間で読み終わってしまうのと、10日かけてじっくり読むのとでは、後者のほうがたっぷり楽しめるような気がするじゃない?

 毎月数冊購入するようになった新書もどんどん積み上がるばかり。その中で例外的にあっという間に読了したのが、ちくま新書の「女は男のどこを見ているか」(岩月謙司)だった。昨年9月の発売以来、20万部を売るベストセラーになっているから、既に読んだ人もいるだろう。「論座」4月号で岩月謙司と香山リカが男女の違いをめぐって対談しており、今朝の朝日新聞にダイジェスト記事が掲載されている。

 岩月の主張は極めて明快だ。男女には本質的に動かし難い差異がある。男の子は本来冒険好きで、「英雄体験」をして「知恵と勇気」を授かる。一方女の子は、親から多くの愛を必要とし、その影響を受けやすい。親より幸せになると彼らの妬み・憎しみを受けるため、無意識的に幸福を回避してしまう「幸せ恐怖症」の暗示(呪い)をかけられている。男女の恋愛の本質は、男の子が英雄体験でつかんだ知恵と勇気で、女の子を幸せ恐怖症から解放してあげる(呪いを解く)ことにある。以上。

 香山リカはこれを「こんな本が売れるとはフェミニズムの敗北ではないか」と反論する。社会的な押し付けや刷り込みによってジェンダーの違いを正当化する理論だというわけだ。議論の内容はさておくとして、岩月の文章の分かりやすさは驚異的だ。主張がまったくブレることなく、「〜なのです」「〜だからです」と断定形の短文を積み重ねて押し通す。すべての議論には例外があるものだが、ここでは一切の例外を捨象し、その存在すらほのめかさない。恐らく意識的なテクニックであろうし、著者がこれ以外の考えを現実に認めないとは思わないが、すべての読者がそうした手法を認識できない可能性もあるので、ある種危険かもしれない。(←たとえばここで岩月は「…かもしれない」といった悠長な表現はせず、「危険なのです」と言い切ってしまう。) 

 岩月の提示する男女差のパターンがどれほど一般的なものかはわからないが、「幸せ恐怖症」の呪いという概念は理解しやすいものだ。「女は男のどこを見ているか」という書名は「モテ系」のハウツー本を想起させる。実際、冒頭から一定のページまでは「どうすれば女性にモテる男性になれるのか?」というテーマで読むことも可能だが、後半部は様相が変わってくる。男女問わず、どのように生きるべきなのか、人間とはいかにあるべきか、といった一種宗教的な色彩を帯びた語りにすり替わっていく。かなりスムーズに展開されている(しかも例によって断定形で例外を認めない)だけに、読み手にとっては危険な部分でもある。陰徳を積め、誇りの持てる生き方をせよ、自分らしくあれ、魂を清らかに保て。女性は男性がこれまでにしてきた行いや、その男が本質的に「良い」人間であるかどうかを、ほとんど瞬時にして本能的に見抜くのだという。次から次へとダメ男に引っかかる女性もいるが、これは逆に、やはり無意識的にそういう男を本能的に見抜いてみすみす近づいてしまうのだという(どうしてそういうことが起こるかというと、同様にダメ男だった父親の存在が深く影を落としているという)。

 これまでいろいろな人が提唱してきた理論の焼き直しに過ぎないように思われるが、極めてわかりやすい「キーワード」と、反論させない独特の「文体」を提示したという点において、それなりに面白い読書ができる本だ。僕個人としては、男女は完全には理解し合えない生き物同士かもしれないが、違いがあるからこそ面白いし、お互いに惹きつけられ、励まし合って生きていける存在なのだろうという気がしているが、どうだろうか。


3 Mar 2003
Monday

 「実はホームページ見させていただいてるんですよー」
 もう、えーっマジすかって感じで。
 こっちが台に仰向けに拘束されて身動きできない状態で、耳元でそんなこと囁かれたら普通驚きます。いや、別に普通に美容室のシャンプー台で髪洗ってもらってるだけなんですけど。

 「私なんかが言うのも何ですけど、感心だなーって思ってるんですよー」
 いや全然そんなもんじゃなくて。更新も全然できてなくて。文章のクオリティも安定的に低めで。とかなんとかどぎまぎしながら苦しい弁解。だってこちらはシャンプー台で仰向け、顔にはタオルがかけられて視界ゼロ、しかも彼女の指は僕の頭髪を洗っているわけで。生殺与奪の権利を相手に握られて。文字通り、まな板の上の鯉。

 彼女は吉祥寺にある行きつけのお店の可愛いスタッフ。映画好きらしく、よく「最近何かご覧になりましたか〜」と尋ねられます。残念ながらいつも気の利いた答えができない自分。TV鑑賞ばかりで映画館に足を運ぶことが極端に少ないので、新しい映画について話せるネタが少ないのです。映画紹介の番組や雑誌のレビューなどそこそこ情報は仕入れているつもりでも、観てる映画の絶対量が少なすぎる。

 「こないだ1人で銀座のミニシアターに観に行ったんですよー」
 彼女の言葉に「それじゃ、今度一緒に何か観に行きませんか?」とか答えておけばよかったのかな。自分自身、何かついでがないとなかなか映画館まで出かけないので、いつもきっかけを探してる訳で。でもひょっとして映画は1人で観るのが好きなのかもしれないし。そんなこんなで、この続きは今度お店に足を運ぶ日まで持ち越しに。

***

 さてそんな僕は昨夜もTVで映画鑑賞。「007/The World Is Not Enough」。洋楽好きなら Garbage の歌う主題歌(英国小ヒット)を押さえておかねばなりません。007シリーズは密かに好きだったりします。無駄に豪華なアクション、毎度お馴染みのセリフ("Bond, James Bond." とか "Shaken, not stirred." とか)、ボンドガールとのお決まりのベッドシーン。偉大なるマンネリ、英国の寅さんであるわけです。99年のこの作品ではボンドガールにソフィー・マルソー。「ラ・ブーム」とか思い出した人は思いっきり歳がバレます。しかしいつ見ても本当に可愛いっすね。ていうか大いに年齢不詳。無駄に肌を露出しまくる演出ですが、全然歳とってないんじゃないか。ある意味由美かおる的な存在かもしれない。他には「フル・モンティ」で楽しませてくれたロバート・カーライルが悪役で登場。ちょっとアブナいテロリストを演じています。

 個人的には怪作「スターシップ・トゥルーパーズ」(大好き!)で強烈にセクシーな存在感をアピールしていたデニース・リチャーズが、ここでも超可愛い原子物理学者みたいな役で登場したのがちょっと嬉しい。正直言ってほとんど演技らしい演技もできない脚本なのだけれど、彼女の大きな瞳と素晴らしいボディがあると画面の明るさが全然違う。うっかりしてたけど、「天才少年ドギー・ハウザー」とか「ビバリーヒルズ高校白書」にも出てたんだね。どこかで見ているはずなのに、はっきり思い出せない。

 何代目か忘れた007役のピアース・ブロスナンは、前作あたりから完全に違和感がなくなってきましたが、相変わらず演技力がどうこうというレベルの役者じゃないっす。要するにスーツを着たまま全力疾走する姿が絵になるというだけのことで採用されているわけですから、むしろ走り終わった後に "SPEAK LARK" とか言ってくれた方が笑いを取れたりなんかする。個人的には、映画冒頭のテムズ川を下りながらのボートアクション(真横にビッグベンが!)とか、気球からミレニアムドームに落っこちてくるシーンとか、ロンドンの街を最大限に活用したロケでいきなりつかまれました。謎解き面ではあまりにもお粗末な仕掛けで泣けてきますが、本作ではカスピ海沿岸の石油パイプラインをネタにしたり、現在公開中の "007/DIE ANOTHER DAY" では北朝鮮ネタだったりして、テーマの鮮度は悪くないっすね。

 来週の日曜洋画劇場は「007/For Your Eyes Only」。洋楽ファン的にはシーナ・イーストンのタイトル曲で熱くなりたいところです(実際、彼女のレパートリーの中で最も好きな曲のひとつ)。


1 Mar 2003
Saturday

 今週は精神的にも肉体的にも相当疲れたので、金曜の夜を早めに切り上げてルネッサンス仙川に向かった。午後11時まで営業している近所のスポーツジムだ。疲れやストレスがたまっている時こそ、身体を動かすべきだというのが僕の持論だ。やけをおこしてお酒を飲んだり、買い物に走ってみたりしても効果は少ない。一時的な逃避は後に深刻な後悔をもたらす。

 マシントレーニングも行うが、一番好きなのは走ることだ。少なくとも30分以上、距離にして5キロは走る。時速は9キロ強。スピードより走っている時間そのものを楽しんでいる。金曜の夜、ジムには仕事帰りと思しき女の子もたくさん見かける。みなそれぞれのスタイルでマシンに取り組み、黙々と汗を流している。1週間の終わり、というよりは週末の始まり、という感覚だ。少なくとも僕にとっては、オンからオフへの切り替えとして有効に機能する。

 走り始めてしばらくすると、だんだん身体が軽くなってくる。体調にもよるが、自分の場合は10分程度でその状態にすることができる。全身の毛細血管に新しい血液と酸素が送り届けられている感覚だ。肉体的に負荷をかけているはずなのに、むしろそれが心地よく感じられ始める。いわゆる「ランナーズ・ハイ」と呼ばれる高揚感だ。いったんここに到達すると、その後の走りは極めて安定する。放っておけばいつまでも走り続けることができるような感覚に陥る。

 僕は走りながらいろいろなことを考える。休日の予定を立てたり、文章のプロットを構成したりもする。最近の行いを反省してみたり、明日からはこうしようと思ってみたりする。日頃は雑事に追われてゆっくり考えられないことを、いろいろな角度からじっくり考えるいい機会だ。走っている間は、誰にも邪魔されることなく純粋に深い思考に没入することができる。ランナーズ・ハイに向かうにつれて、少しずつ雑念が取り払われていくのを体感することができる。

 逆にいうと、走りながら雑念がよぎり始めたら止め時だ。自分の場合、40分も走っていると次第に集中力が落ちてくる。無理せずスピードを落とし、ウォーキングに切り替える。再び集中できるようであればまた走り始めてもよいし、そうでなければ機械を止めて別のマシンに移るべきだ。僕はステッパーでもう少し有酸素運動を続けてから、最後に筋肉系のマシンに向かうことにしている。先に一部の筋肉を酷使してしまうと、ジョギングのように全身を使う有酸素運動を行う際に、どうしても不自然な形で負荷がかかるからだ。

 シャワーを浴び、着替えて自宅に向かう。金曜23:00。ここから49時間の週末が始まる。心地良い疲れは熟睡をもたらし、雑念を振り払った心が良質の音楽と何冊かの本、数本の映画を吸収するだろう。

♪I'll do what I want to anyway
 I'll do what I want and I'll do it in my own time

 - "My Own Time (I'll Do What I Want)" / Asia, 1983


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