Diary -February 2003-


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24 Feb 2003
Monday

 珍しく早く帰れたので少しだけ。

 今日はグラミー賞の発表日。結論から言うと、僕の予想通り Norah Jones が最優秀レコード、最優秀アルバム、最優秀楽曲(これは厳密にはソングライターの Jesse Harris への賞)、最優秀新人のいわゆる主要4部門をはじめ、多数の賞を総なめにしました。僕が彼女を予想したのは、元はといえば他のノミネート作品を(アルバム単位では)聴いていなかったから。Norah だって他の人に聴かせてもらったくらいのもので。でも聴いてすぐさまハマり、以後何度もリピートする作品になっています。

 この "COME AWAY WITH ME" というアルバム、何の変哲もない素朴なヴォーカルと、肩の力が抜けた優しさと、柔らかいピアノが妙に印象に残る、不思議な作品です。ラヴィ・シャンカールの娘にあたるインド系の女性であることは後から知りました。世知辛い今日この頃だからこその作品ですが、僕にとっては昨年10月末〜11月にかけての欧州出張の記憶と深く結びついています。リードシングルの "Don't Know Why" は移動中のヨーロッパのあちこちで静かに流れていました。地味な曲です。しかし優しい曲です。ホテルのロビーで、バーで、空港で。流れてくる度に、この曲がいかに人々に支持されているかを強く感じたものです。

 というわけで、その出張は主として "Don't Know Why" のゆったりしたメロディと、旧友との短い再会の記憶に彩られている。右の写真は以前トップページでも使った彼の車。見事に持ち去られたプジョーのマーク。だがいったい何のために? ..."Don't Know Why"

 彼のような「善き人」と過ごす時間は何ものにも代えがたい。汚れっちまった悲しみがみるみる洗い流されていくのを感じる。本当に幸せなことに、僕はそうした「善き人」を数人知っていて、ときどき彼らとお話をさせていただくことができる状態にある。あるいは先方はいやいや相手をしてくれているのかもしれない。けれど図々しい僕は、今夜も話が聞けるかもしれないと期待しながら足を運び、彼/彼女をぼんやり待っていたりする。できれば彼らには自分が「善き人」であることを否定してほしくない。あなたが自分でそう思っていようといまいと、僕にとっては「善き人」なのだから。

***

 またひとつ身軽になりました、という羨ましい声を小耳に挟みながら、常軌を逸したようにモノを増やし続ける自分。またひとつ身重になりました、とか対抗したいところだが、身軽の反対語が身重でないことは言うまでもなく。

 今回増えたのはお風呂用ラジオ。なくてもちっとも命に関わらないアイテムでありながら、あればあったでゆっくりとバスタイムを楽しめるもの。深夜の帰宅後、お湯を張った湯船で聴くAFNのオルタナティヴ・ロックや、二日酔いの朝に熱いシャワーを浴びながら聴くNHKのニュースが、これまでと違ったバスタイムを演出してくれるに違いない。もちろん防滴仕様はお風呂だけのものではなくて。キッチンに立つ間にもAFNが流れる喜びを表現する言葉を僕は知らない。ちなみにこれはいただきモノ。贈り主に果てしなく感謝。


23 Feb 2003
Sunday

 YES のリマスター盤のリイシューが始まっています。米Rhino とエレクトラの結託により、何度目か数えるのも面倒なCD再発。今回は割と初CD化のボーナス音源も多いのでそれほどひどい商売とは言えない。とかばってしまうこと自体が、かなりひどい商売に巻き上げられてきた過去を如実に物語る。いえいえ、本当にひどい商売というのは、「史上初! ロジャー・ディーンによるジャケット違い(中身は全く同じです!)10種類同時リリース」みたいなやつをいうのです。

 週末は久しぶりにイエスの初期4枚をじっくり聴き込んで過ごす予定だったけれど、とりあえず94年のリマスター盤よりは低音が豊かになっていることを確認した後は、リチャード・ボナのアルバムが流れっぱなしになっている。この人はカメルーン出身の天才的ベーシストらしく、ジョー・ザヴィヌルに起用されたりして一躍有名になった人らしい。ベースも超人的なのだけれど、やはり彼の「声」の素晴らしさには言葉を失う。何と表現してよいのかもわからない。アフリカのヴォーカリストといって、ユッスー・ンドゥールくらいしか思いつかないくらいだから、他にたとえようもない。とにかく心に響く温かい声の持ち主なのです。最近少し疲れているみたいなので、こういう優しい(しかし力強く肯定的な)音楽に満たされたかったみたい。こうして僕の日曜日の午後が静かに終わっていく。聴かせてくださったお方に、最大限の感謝を。

***

 そんなことしながらも昨日はイエスの99年作 "THE LADDER" を購入。3桁で買うのが目標だったので、新宿ユニオン(プログレ店)で800円で拾えてよかった。一般には Bruce Fairbairn の遺作として知られるこの作品、ロジャー・ディーンのジャケや9分超の大作が2曲入りといった外面とは裏腹に、結構ポップなサウンドだったりする。でもワールドミュージック的な味付けも大きく外してはいないと思うし、聴き込むとハマる可能性あり。ジョンのヴォーカルは相変わらず元気だし、すぐに脱退することになるイゴール・コロシェフの鍵盤もクラシカルで悪くない。何よりクリス・スクワイアのベースが上下に大きく動いていて、ラインを追いかけるだけで楽しめる。

 もう1作はシカゴの2枚組 "THE VERY BEST OF CHICAGO: ONLY THE BEGINNING"。先日のライヴ効果がまだ続いていて、昨年ライノからリリースされた決定版的ベストを新宿ユニオンで1,200円で拾う。古いグレイテストヒッツ1&2はもちろん、"THE HEART OF CHICAGO 1982-1997"の都合3枚を保有、さらに既に手元にはないものの "GREATEST HITS 1982-1997""GROUP PORTRAIT" なんかも律儀に買っていたのだから、さして驚くほどのことではない。いくつか新しいエディットが聴かれるのと、ライノならではの凝ったマスタリングを楽しむことができる。ニヤリとさせられたのは、ブックレットの一番最後のあたりにこっそり小さな文字でこう書いてあること。

"If you really want to know what time it is, log on to www.rhino.com."

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 ついにジョン・ボン・ジョヴィ演じるヴィクター・モリソンと、アリー・マクビールが結ばれました。いろいろ心配させやがって。よくよく考えると、こういう流れになること自体不自然なのだけれど、この際細かいことは忘れよう。それくらいジョンの演技に感心させられるシーズンだ。もっとも、「フレンズ」の役者演じるトッドも、登場回数こそ少ないながらいい味を出している。「ロリータ」の存在もスパイスになっていて、第5シーズンで終わっちゃうのが本当に惜しい。

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 また邪魔しちゃいました。そろそろ学習しないと、いい加減ほんとに怒られちゃう。

  "Some things are better left unsaid
  Some strings are better left undone
  Some hearts are better left unbroken
  Some lives are better left untouched
  Some lies are better off believed
  Some words are better left unspoken"

   -"Some Things Are Better Left Unsaid" by Daryl Hall & John Oates

 「黙っていた方がよいこともある」。ダリルに忠告されるまでもないこと。
 ではまた来週末に。


16 Feb 2003
Sunday

 ちょっと尋ねられたのでお答えしますと、僕が送ったメールは、受信者が返信しようとすると返信先のアドレスが「@pdx.ne.jp」になるように細工してあります。このドメインはDDIポケットのPHS「H"」(not "H)のものです。PDXというのは「PメールDX」というDDIポケット独自のロングメール呼称に由来しますが、そんなことはさておき、要するに僕は出先や職場などにいても、返信をもらったことをすぐに確認することができるようにしてあるわけです。携帯端末でEメールを受信できることの最大のメリットは、こうした即時性です。

 H"のEメールは3,000文字くらいまで(機種によっては10,000文字)受信可能なので、文章が途切れていることはほとんどありませんが、返信を書かなくてはならない場合、携帯端末で長い文章を作るのはやや疲れます。そこで、メールに目を通してみて急ぎのものであればすぐに短い返信をしておきます。これで、本当に重要なメールを家に帰るまでチェックすることができないという事態はかなり回避できるようになりました。しかし、用件が急ぎでなかったり、長い返信を書かねばならない場合はどうするか。そのために、H"には「メール転送」機能があります。

 メールセンター側の設定で「転送」をかけておくと、H"宛てに着信したメールは、コピーを別のアドレスに転送してくれます。ここで重要なのは「コピー」であること。つまり、H"はH"でちゃんとメールが読めて、それ以外に別のアドレスにコピーを回してくれるのです。そこで僕はパソコン用のアドレス(といっても出先や職場でも読み書きできるように goo や yahoo のフリーメールアドレス)に転送をかけています。これで、後でゆっくりPC端末で同じメールを読み、じっくり返信を書くことができるわけです。

 僕の料金プランの場合、Eメールの受信には1通あたり5円の料金がかかります。しかし、1日に10通も20通も受信することはほとんどありません。さらに、メール料金も含めて3,000円までの無料通話が与えられているので、たいていこの中で賄うことができます。現在利用している三洋のJ81は軽快な機種で非常に気に入っていますが、どうやらH"はストレート型端末路線を捨てたようなので、今後買い換える際には折り畳み型から選択することになりそうです。その筋の情報サイトによると、京セラ、三洋、日本無線の3社が新端末を開発中で、このうちどれかは春先にも発売になりそうです。背面液晶付き、カメラ内蔵といった他社では当然の機能がようやくH"にも搭載される模様で、多少楽しみにしています。もっとも、J81については完全に壊れるか、紛失するまでは使い続けたいと考えています。

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 最近、図書館でCDやビデオを借りています。
 昨日観たライヴビデオ2本。"Bee Gees Live One Night Only"。これはゴージャスなコンサートでした。何しろヒット曲が何十曲もあるので、途中のアコースティックメドレーにも入りきらないくらいです。ライヴ後半のディスコ時代のヒット曲が盛り上がりますが、前半に置いた初期のフォーキーな楽曲の魅力にも改めて感じ入りました。バリー・ギブのファルセットは97年時点でも健在、ロビン・ギブの透き通るようなヴォーカルも素晴らしい。しかし一番目を引いたのは先日亡くなったモーリス。リードを取ったのは1曲だけでしたが(とても良い歌唱だった)、ギターとキーボードでサポートしながら、いつも絶妙のコーラスをつけていたのがモーリスだったとわかっただけでも収穫だった。バリーとロビンの声はわかりますから、それをどけるともう一声、いつもかなり難しいパートを歌っている声がある。これがモーリスだったのかと。3人のハーモニーの鍵を握っていた彼が亡くなった瞬間に、バリーが「ビー・ジーズは終わった」と判断した理由がやっとわかりました。

 もう1本のボニー・レイット "ROAD TESTED" はこの順番で観るとやはりゴージャス感で劣ります。ゲストも豊富だし、いい感じに肩の力が抜けたライヴなのだけれど、コンサートの質がぜんぜん違う。もっともこちらはこちらで非常に可愛いおばさん(←誉め言葉のつもり)としての魅力を感じることができました。同じライヴアルバムを持っているので、これから聴くときにはビジュアルがより具体的になりそうです。

 CDはビリー・ジョエルのミレニアム・ライヴ盤、キャンディ・ダルファーのライヴ盤、ジョン・コルトレーンの編集盤などを借りていました。今日はそれらを返却して、メタリカの「S&M」、シカゴの「ナイト・アンド・デイ」、ハービー・ハンコック/マイケル・ブレッカー/ロイ・ハーグローヴの「マイルス&コルトレーン・トリビュート」を借りてきました。メタリカは以前聴いたことがあり、非常に気に入っています。単なるオーケストラを被せただけでなく、一からアレンジし直した気迫が伝わる良い演奏。シカゴはライヴ効果。ブレッカーは東京JAZZでも聴かれたコルトレーンの "Naima" のソロを聴きたくて。ポータブルMDを買ってから、新しい音源を探すのに積極的になってきました。

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 ところで、ちょっとお知らせがあります。
 ご覧のとおり、僕の書く文章のクオリティは大きく低下してきました。情けない限りです。理由はいろいろ考えられますが、第一に仕事が再び多忙になってきたこと。第二にインプットとアウトプットのバランスが取れていないこと。第三に… いや、ここまでにしておきましょう。とにかく時間を置いて、自分なりに少し整理してみないと。そんなわけで、もしこの Diary を楽しみにされている方がいらしたらごめんなさい。しばらくの間、原則として週末更新ペースにさせていただくことにしました。平日読みにいらしても(多分)更新されていませんので悪しからずご了承ください。もちろんBBSやメールにはできるだけ毎日返事を書きますのでお気軽にどうぞ。

 写真は、トップページにもちょっと書いたベルリンの赤の市庁舎です。古さの中にも力強い新しさを感じさせるダイナミックな建造物でした。中で面会したベルリン市長は40代前半の若さで、しかもカミングアウトしたゲイということで話題になっていた人です。ベルリンは比較的同性愛に寛容な街ですが、首都の首長がカミングアウトするというケースは非常に珍しいことです。しかし彼は、発言の歯切れが良く、堂々と業務をこなしていることもあり、ベルリンっ子の支持度も高いようでした。実際に会って話を聞いてみると、穏やかで優しい物腰の中にも、タフ・ネゴシエーターぶりを感じさせる揺さぶり発言もあって、なかなか手ごわいぞと思わせました。日本にこうした「政治家としての魅力」を感じさせる人はいるのでしょうか。それとも僕の視野があまりにも狭くて見落としているだけなのでしょうか。

 それでは次の週末まで。


15 Feb 2003
Saturday

 とりあえず、生きてます。今日の日記は生存報告以外の何ものでもないっす。

 一昨日は久々に重い仕事につかまり、楽しみにしていたイベントにも行けず。昨日は昨日で、部長の送別会。じゃなくて快気祈念会。来週月曜日から1ヶ月以上入院・手術するとのこと。酒好きの彼は昨晩も最後まで上等な日本酒の杯をうまそうに飲んでいたわけですが。僕もちょっと付き合いすぎて今日は体調悪いです。日本酒の飲みすぎには気をつけよう。(これまでにも何度も誓ったような気もするが…)

 二日酔い退治に王道なし。
 でも何かいい方法を知ってるお方はどうか教えてくださいませ。


12 Feb 2003
Wednesday

 今日のひと口メモ。けんちん汁を作る時にはいきなり具を煮込むのでなく、根菜類や豚肉を最初に軽く油で炒めてから水を足した方が味が染みて美味しいです。なーんだカレーと同じことか。先週までそんなことも知らなかったという… 思わず翌日はけんちんうどんにして食べちゃいましたが、これも悪くなかった。日々是学習也、ですね。

***

 そういえば、こないだ下北沢の 「TROUBLE PEACH」 に行ってきました。

 踏み切りそばの2階。ボロボロの階段を上っていく時点でかなりヤバい軋み。薄暗くて、今にも崩れ落ちそうな店内。高円寺など一部のエリアを除いて「ロックバー」なるものが絶滅しかけている今日では貴重な存在。あたかもここだけ時間が止まっているかの如く、昔のロックバーの雰囲気を留めています。

 店内のレコード棚には、ボロボロに擦り切れたジャケットのアナログレコードが山のように積み上がり、店員はそこから適当に(あるいは意図的に)レコードを引っ張り出してはかけてくれる。リクエストなんかもできちゃうらしい。音響的には決して優れているとは思いませんが、天井にあちこち7つ8つと取り付けられたスピーカーから降り注ぐアナログレコードの音は、柔らかくて温かくて、カールスバーグ・ドラフトのグラスが進みます。スクラッチノイズすら心地良い。

 土曜の夜、僕が飲んでいた間にもニール・ヤングの "AFTER THE GOLD RUSH" やチープ・トリックの "AT THE BUDOKAN" などがかかりました。"Southern Man" のニール、"I Want You To Want Me" のロビン。塩化ビニールの黒いディスクに封じ込められた彼らの声は、何年経っても衰えることがない。一方で Ash の "1977" のアナログ盤がかかったりして、時代を自由に行き来する感覚も新鮮。下北沢のロック好きみたいな連中がやってきて、ビールを飲んでは去っていく。そんな空間がごく当たり前のように存在していて。なんだかちょっと懐かしくて、嬉しい夜でした。今度行ってみませんか?


11 Feb 2003
Tuesday

 日曜月曜と、www.sengawa.com のリンクから飛んできたアクセスが多かった。僕の住む仙川の街のサイトだが、理由は明白。そう、土曜日の夜に放映されたアド街ック天国の影響。番組で紹介されたお店は軒並みお客様増加、女将さんのまやさんが再三登場した広島風お好み焼き「まや徳」なんて、普段から人気だけど今や店の外に長い行列が出来てるくらい。うちのすぐそばにあって、確かに美味しいのだけれど、地元住民としてはしばらくほとぼりが冷めるまで待つかな、とか思ってしまう。

 この番組は結構好きで、行ったことがない街でもつい興味を引かれて見てしまう。逆に今回は、自分が住んでいる街だというのに知らないお店がいくつかあって新鮮な発見も。ご覧になったお方ならお分かりのとおり、なんてことのない静かな住宅街です。緑も多いし、川(仙川)も流れている。商店街は小ぢんまりとしてて物価は安く、桐朋と白百合があるので女子大生とか多いかな。だけど、なんてことのない街、急行電車すら通過する街だからこそ好きなリズムがあって。僕はもうしばらくここに住み続けそうな気がしています。

***

 街の魅力といえば、ニューヨークのそれはやはり格が違う。東京都とは姉妹都市関係でもあり、個人的には多少ライバル意識を持ちながら日々の仕事をしているわけですが、絶対にかなわないなーと思わせる部分も多くあります。そんな街を舞台にした映画を観たのを思い出しました。そう、「ギャング・オブ・ニューヨーク」。どこで観たのかって? もちろんサイパンですよ。多分島にひとつしかないと思われるシネマコンプレックスで。冷たい大雨に降られて、どこにも行けなかった日の唯一の娯楽。もちろん字幕なんてない。

 まず最初にお断りしておきますと、僕はディカプリオをあんまり評価してないし、ダニエル・デイ=ルイスの映画はまだ観たことがない(「マイ・レフト・フット」さえも!)。キャメロン・ディアスも観たことないかと思ったが、どうやら「マスク」で観ているようだ。Somebody, stop me! あれはいい映画だった。で、マーティン・スコセッシはデ・ニーロものでいくつか観ていて、基本的には好きですが、だからといってこの映画を「生涯忘れられない傑作!」「この愛と戦いに興奮と感動の声!」とかいうレビューにはやっぱり納得できそうにない。

 もちろん、ディカプリオに関していうとこれまで観た中では一番よかった(「タイタニック」の∞倍)と思うし、ダニエル・デイ=ルイスの鬼気迫る演技にはマジびびりました。スコセッシが気合入れたと語るだけあって、暴力描写はなかなかヘヴィ、観ててかなり「痛い」シーン連発。僕は大量の血が苦手らしく、刃物&殴打場面で埋め尽くされたパートは辛かったです。しかしそれ以上に、この映画を指して「ニューヨークはこうして創られた --- 今、アメリカの原点を描く」とか評しちゃうのはいかがなものかと。非常にざっくり言っちゃうと、血で血を洗うストリートの抗争に終始する映画です。その名も「ニューヨークのチンピラたち」。

 もちろん、19世紀半ばのマンハッタンに先に入植していた人々と、新参のアイルランド系移民との文化的対立に興味をそそられたスコセッシ(イタリア系移民)が暴力的に描きたがった気持ちは分からないでもない。でも、それにしてはえらく冗長で陳腐な叙事詩だし、奴隷解放のための徴兵制に反対するNY市民の暴動を政府が武力で鎮圧するシーンはひどく野暮ったい。しかもその武力行使がディカプリオたちの… いや、ここまでにしとこう。ラストはかなり脱力系だった、とか言っときます。とりあえずこの Miramax 映画には間違いなく膨大なカネが投入されている。それだけは画面の端々から毎秒100万円くらいの勢いで感じられるので、その手の巨大なセットと衣装とプロップとメイクが好きなお方には自信を持ってオススメできます。

 あとこれは映画公開前からかなり話題になっていたのでネタばれにならないとは思うけど、最終場面で19世紀のマンハッタンから現在の摩天楼がそびえ立つマンハッタン(もちろんWTCあり)まで一気に早回しで見せるシーンは本当に必要だったのか? 9.11の影響で公開を延期したという逸話も含め、あんまり納得はいってないんですけど、サイパンの映画館は昼間料金が何と4.5ドル、これで600円くらいならまあいいやと大いにお得感を感じたことを特筆しておきます。唯一の収穫は、先にゴールデン・グローブ賞の映画音楽部門も獲得したU2のテーマ曲 "The Hands That Built America "。上に述べたような理由で歌詞には共感しがたいが(こんな手に造られてたまるか(笑))、楽曲そのものは悪くなかった。ていうか、この映画にちなんだアイルランドのアーティストで、この歌詞を歌っても大衆からボコボコにされないのって、今や彼らくらいのものなんじゃないかな。そういう意味でちょっとじんときたエンドロールではありました。また好きな曲がエンドロールだったよ!というオチらしいですこれ。

***

 映像系つながりでネタをまとめて。まず、テレビ朝日で月曜20時から放送していた海外ドラマ「F.B.Eye」があっさり最終回に。耳の不自由な女性FBI捜査官と聴導犬、というプライムタイムにしては大胆な設定で気に入っていたのですが、やはり打ち切られてしまいました。声優がダーマ役の雨蘭咲木子さんで笑わせてもらったのになー。続きは3月後半から22時30分ごろの時間帯に放映するようです。

 昨日のNHK教育「サブリナ」には Hanson が出てきてびっくり。ザックは「ジャガイモ持ってきて!」とか「アイダホに行く」とか相変わらず田舎ネタでからかわれているようでした。もう全米チャートで大ヒットを飛ばすことはないだろうけれど、音楽好きの一家として地道に続けてほしいものです。あとテレビ東京でいつの間にか火曜20時から Buffy The Vampire Slayer やってるんですね。ノーチェックでした。あ、今この瞬間はテレビ東京でやってる「ショコラ」を録画中。いくらジョニー・デップでもこれは映画館で観るほどじゃないだろうと以前パスしたものですが、こうしてバレンタインシーズンにぶつけてTV放映してくれるんなら大いに歓迎。あとでゆっくりチョコレートでも食べながら観ることにしよう。


9 Feb 2003
Sunday

 シンプルを以って旨とするのが僕の信条だったはずなのに、今僕は自ら人生をどんどん複雑にしている。図書館で借りればいいさとか、ラジオで聴けるじゃんとかうそぶいていたのにCDを山のように買いこみ、読みきっていないのに書店や古本屋を回って新書や文庫を何十冊も仕入れてくる始末。もちろん時間を見つけてちゃんと聴き通すし、読みきるつもりではいるけれど、ちょっとペースが尋常でない。おまけにポータブルMDプレイヤーまで買っちゃうし、モノを増やしまくってプチ後悔。

 独り暮らしの醍醐味が自分だけのルール作りであることに異議はない。モノを増やさない。お皿はすぐに洗う。週末は靴の手入れをする。音楽を持ち歩かない。エトセトラ、エトセトラ。自分できっちり決めたルールをきっちり守りきったときの小さな達成感は、他に類似した感覚を探すのが難しいくらいだ。誰かと一緒に暮らすとこうはいかない。一事が万事、自分と相手の妥協点を探しながら生きていくことになる。自分だけのルールを押し付けた瞬間にタッチアウト。

 とはいっても独りなら、自分で決めたルールを自分で破るのもまた自由。きっちり決めたルールを、きっちりひとつひとつ破っていく快感も否定しない。多分今の自分はそういう時期なんだと思う。うまく説明できないけれど、人生を複雑にする方向に逃げるシーズン/季節が到来したというだけのこと。だからあまり深く追求せず、流れに身を任せる方向で、どこまで流されるか試してみようと思ってる。生きていると時折大きな波や小さな波が押し寄せて、自分を沖合いにさらっていこうとする。必死で抵抗してしがみつくのも美学かもしれないけれど、あっさり押し流されるのもまた美学。押し流された果てに、僕はどの海岸にたどり着くのだろう。

♪When I'm falling, calling, I return
 Floating closer to your shore

 I start to drift with the tide
 Maybe I'll reach, I'll reach the beach
 My heart is sealed watertight
 Maybe I'll reach, I'll reach the beach


 --- "Reach The Beach" -The Fixx, 1984


8 Feb 2003
Saturday

 MD/ヘッドホン話はちょっと別にテキストを起こして Monthly Texts コーナーのネタにする方向で。書く時間を作れるかどうか微妙ですけれど。そのうちに。

 ようやく先週の『アリー my ラブ5』の録画を見ました。
 ジョン・ボン・ジョヴィ。今週はちょっとやり過ぎかとも思いましたが。でもやっぱり良いキャラ。痴呆の老女に対してかつての恋人を演じ、優しく接する彼。どうしてこんなに優しくなれるんだろう。どうして会ったばかりの相手の心にすっと入り込めるんだろう。「…じっくり派じゃないからさ」。僕もじっくり派じゃありませんが、惚れっぽいだけじゃだめなので、むしろじっくり時間をかけなくては。修行が足りません。ちなみにジョンに関していえば、先々週の放送でのオープニング画面、彼のアップでスタートした回も印象的でしたね。

***

 さてアリーといえば、2月6日の朝日新聞文化欄「探求」で 「『アリー』が映した『私たち』の今 (議論誘った『ポスト・フェミニズム』の裏表)」 と題したコラムがあった。藤生京子という筆者については詳しく知らないのであまりツッコミたくはないのだが、書き出しでいきなり自分と夫が「30代後半の夫婦」であること、アリーが夫婦にとって「毎週、格好の議論の材料を提供して」くれること、そして同年代の夫に言わせると彼女は「聞いて聞いてと頼ってくるくせに、へ理屈を主張する。と思えば、感情で論理を踏み倒す」と内幕を暴露する。僕などはこの時点でほとんど読む気を失う。実際、コラム全体を通して当たり障りなくポスト・フェミニズムとアメリカ社会の現在を軽くなぞったようなレビューだ。僕がこれ以上に面白いレビューを書けるかというと怪しいところだが、一人の読み手として面白がらない自由はある。

 唯一気に入ったのはエレインにちゃんと着目していたところ。「エリート弁護士たちの狭い世界の物語に終わりかねないところを秘書エレインの劣等感や野心も織り交ぜ、階層が厳然として存在する社会の実態を描いても見せた」。確かに彼女の存在がドラマのリアリティを増し、広い層の心を捉えるのに貢献したであろうことは僕もかねがね指摘してきたとおり。彼女がアリーにつけたあだ名 「イラつき女」 に言及しているのもナイス。常に何かにイラつき、何かを恐れ、不安がっているアリーは執拗に 「運命の人」 にこだわり続ける。運命の人に出会うことイコール真実の恋愛と考えている限り、人生は永遠にアンハッピーだと思うのだけれど、アリーはもう気づいただろうか。第5シーズンで biological daughter に出会ってからはどうやら気づいたようにも見えるが、何かに依存することで生きがいを見出そうとする点で何ら変化していないような気もする。このあたりは今シーズンのラストまで見てから考えてみよう。

 しかしこの藤生京子のコラムの最終文には脱力した。曰く、「笑いのうちにしんみりとさせてくれたこのドラマは、果てしない自分探しに疲れた『あなたと私の物語』だったのかもしれない」。

♪I've been searchin' my soul tonight
 I know there's so much more to life
 Now I know I can shine a light
 To find my way back home


 この人は5年間に渡ってこのドラマのオープニングを見てこなかったのだろうか。ヴォンダ・シェパードが歌うこの主題歌は、本ドラマが毎回毎回 「果てしない自分探しに疲れた『あなたと私の物語』」 であることを高らかに宣言し続けていたのである。


7 Feb 2003
Friday

 昨日軽く触れた「書斎が要らないマジック整理術」(ボナ植木、講談社+α新書)の補足。タイトルどおり、書斎をなくしてしまおう!という本です。コメディマジシャンのナポレオンズですから、真面目な整理術本とは雰囲気が異なります。お笑いを交えつつ、押さえるところはしっかり押さえた軽快な一冊。

 書斎を持つことが知的活動の前提条件のように言われていますが、本当に必要なのか?という疑問から始まり、書斎があると本やメモやビデオやCDがどんどん溜まって見つからなくなること、それを探すことはきわめてストレスフルで心と身体に悪いことを立証していきます。そして、すべては「メモ帳」から始まること、常に携帯して「歩く」ことがアイディアの源泉であること、すべてのメモをひとつのメモ帳に書き込むべきことなどを分かりやすくコーチしてくれるのです。増殖する本やその他のデータ類への対処法も示され、いよいよ最後は究極のマジック、「書斎消滅」へ… ここからは本書をお読みいただくことにしましょうか。

***

 整理術の本を読みつつも、自分自身は間違いなく人生を複雑する方向に突進してます。何だか急にポータブルMDプレイヤーを購入したくなってしまい、カタログを集めたり店頭で眺めたりと大忙し。冷静に考えればMDはSONYかSHARPしかありえないのですが、充電池による再生時間重視の自分は Victor の再生専用機(何せ充電池のみで48時間!)にも惹かれています。繰り返しますが冷静に考えればSONYかSHARPしかありえない。特にSHARPの1-bit機は、あれで価格があと4,000円位安けりゃ最強なんだけどなあ… 問題の Victor 機はヨドバシカメラで軒並み売り切れ・入荷待ち、もう少し悩むことになりそうです。皆さんが利用中orオススメのMDプレイヤーがあればBBSで教えていただけますでしょうか?

 ついでに、あまり悩むほどの値段じゃないので勢いで明日にでも買っちゃいそうなのがヘッドホン。現在のオーディオ環境が貧弱なので、手軽に音質のグレードアップを図ろうとすればヘッドホン購入が近道です。確かに頭の中で音が鳴っちゃう点でスピーカーリスニングとは根本的に別物と考えねばなりません。とはいえ、ツボにハマれば脳内でエンドルフィンが暴発する快感発生装置にもなりうるのがヘッドホン。これもオススメをお尋ねしたいところですが、実はもう候補は決まっちゃってて。それも自分的にはかなり意外なメーカー。おっと、ここから先は次回に続きます。


6 Feb 2003
Thursday

 ボン・ジョヴィといえば、何度か書いてきた愛用の「3冊100円」ミニノートのルーツは彼らに遡る。厳密には100円ショップのミニノートじゃなくて、もう少し上等なスパイラルノートだったような気がするけれど。

 いずれにせよ、96年のボン・ジョヴィ横浜公演で会った彼女は、コーラスを一緒に歌うために歌詞をミニノートに書きつけ、コンサートの直前まで覚えようとしていた。その瞬間、「これだ!」と思ったんですね。小さくてどこにでも持ち運びできるメモノートに、覚えたいことや考えていることや気づいたことを書きつける。それだけでずいぶん違ってくるのです。

 僕らは案外いいアイディアをしばしば思いついている。でも悲しいかな、次の瞬間には忘れているのです。例えば今夜何食べようかなとか、あの子可愛いくね?とか、あっそうだ電話かけなくちゃとか、雑念がよぎった瞬間にアウトです。少なくとも凡人の僕は、思いついた瞬間にメモを取らなければ忘れてしまう。同様に、いつでもノートを手元に置いておき、ぱらぱらめくらなければ暗記することもできない。「そのうちまとめて覚えりゃいいや」の「そのうち」は永遠に来ないのだから。メモ帳の重要性は、今日読み終わった「書斎が要らないマジック整理術」(ボナ植木、講談社+α新書)でも強く主張されています。ナポレオンズの植木さん、飄々とした文章で軽く読めますので、モノが増えて困ってる人などはジョークのつもりで読んでみると面白いですよ。基本的なメモ観/人生観は僕のそれとかなり近いように感じました。

 もう一人、同じような影響を与えた女の子がいました。彼女はミニノートじゃなくてB5の大学ノートを持ち歩いてたな。話してて内容がちょっと込み入ってくると、居酒屋だろうとファミレスだろうとすぐにバッグからノートを取り出して書いてくれたのを思い出します。その頃もう社会人だった僕は、ノートを持ち歩くという行為自体が既に懐かしくも新鮮で。何かどうしようもなく可愛いと思った記憶があります。シンプルな黒のトートっぽいバッグだったけど、外にポケットがいくつか付いていて、ペンを挿せるようになっていた。赤と黒のペン。もう何年も前なのに鮮明に覚えているものですね。

 「ノートを持ち歩く」 「すぐにメモを取る」 「好きな歌詞を書いてときどき眺める」 という素敵な習慣を教えてくれた彼女たちにとても感謝しています。遠く離れたところから。

***

 結局、大修館「ジーニアス英和辞典」(第三版)を購入。噂どおり、語法・用例が異様に豊富。めくってるだけでしばらく楽しめる辞典だ。誰しも英和辞典を買うときに試しに引いてみる単語を持っている人には親近感を感じる。僕の場合、それは例えば "fix" という動詞で、俗語で「麻薬をうつ」という語義がしっかり載っているかどうかを確認せずにはいられない。The Fixx のファンにしか通じないネタですみません。One thing leads to another. Saved by zero. Are we ourselves?

 ちなみに、progressive jazz は載っているが progressive rock は見当たらない。代わりといっては何だが、grunge なら載っている。1 汚いもの〔人〕; ごみ、くず 2 グランジ《a 【音楽】 音をひずませるロック音楽の演奏法; 〜 rock ともいう. b 【服飾】だらしなく汚れた感じの服装 <◆1990年代前半に米国で流行>》。そうか、「音をひずませるロック音楽の演奏法」 だったんだ! じゃあひずんでないロック音楽は何て言うんだ?とかツッコむところなのかもしれないが、こんな俳句みたいな字数でグランジを定義しなくちゃならないとしたら、自分だって思いきり窮地に立たされる。いわんやプログレをや。

***

 帰り道に古本屋に立ち寄ってみたら、さっき買ったばかりの「ジーニアス」が半額以下で叩き売られていた。しかも新品同様。かなり落ち込む。どうしてこんなときに限って普段滅多に立ち寄らない辞書コーナーとか丹念に見ちゃうかなオレ。


5 Feb 2003
Wednesday

 今日のハッピーカップルはこちら
 「多少の違いがあっても、それでも、お互いの人格を認めあって、更に幸せと思えるのが『長く二人で暮らす原点』なのかなあ。だってほんのささいなことでも、今まで別に生きてきた二人が一緒に暮らすのなら、どんなに気の合った人同士だって一つくらいは妥協や我慢があるんじゃないかと思うから。」

 まさしく御意。僕だってCDは自分のルールに則ってきちんと整列しているのがお気に入りだし、自分なりに心地良い時間の過ごし方だってある。だけど他人(そう、他人!)と暮らすことの面白さというのもきっとあるわけで。そんな時は相手がぐじゃぐじゃにしたCDをこっそりきちんと並べ直しておけばよいだけだ。「一番必要な人がいない部屋は、本当の僕の家じゃない」 と言ってくれる相手に愛してもらえるなんて、なんてハッピーなカップル。

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 近頃街角でバレンタインのチョコレートがたくさん売られていたり、新聞の折り込みチラシで各デパートが揃ってバレンタインの贈り物セールを展開していたりしますね。東急ハンズのチラシは毎年手作りチョコレートの材料と道具がたくさん載ってます。味はともかく(?)、好きな人のために何かを作る(チョコでもマフラーでも音楽でも)という行為自体に意味があるのでしょう。

 実は先日の告白ネタも、こうしたバレンタインのトレンドに引っ掛けたものだったわけですが、ぶっちゃけどうかといえば、2月14日/バレンタイン・デイの機会に、本当に初めて相手に想いを伝えるというケースは稀なのではないか。現実には、もともと付き合っているカップル同士がお互いの愛情を確かめ合うための儀式になっちゃってるような気もする。だからもし万が一、本当にこの日に「好きなんだから、とりあえず告っちゃえ!」とばかりにぶつかってみるつもりの女の子がいたら、どうかうまくいきますように。ていうか女の子だけの日にしておくなんてもったいない。男の子たちもこの際じゃんじゃん声かけてみると良いよ。

 "...And baby you know my hands are dirty
  But I wanted to be your Valentine..."

 ボン・ジョヴィの "I'll Be There For You" のこのパートに関していえば、間違いなくリッチー・サンボラのコーラスパートの方がカッコいい。みんなもこの際大声で歌ってみると良いよ。


4 Feb 2003
Tuesday

 ♪みんなが見ている、あいつを見ている、 あいつは、あいつは、あいつは誰だ!
  あいつは… タマさーん!
  タマさん!タマさん!タマさんタマさんタマさん!

 どう考えても一部にしか通じないネタでオープンしちゃってすみませんwinterです。どうやら週末に Chicago 公演を観て以来まだネジがいくつか飛んだままらしいです。

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 僕は英語という言語に興味を持っている。これは全く個人的な趣味だ。いささかの邪念もなく、単純に語法や単語の語源を調べて面白がっている。英和辞典が古くなったので買い替えを検討しているが、書店に行くといつも膨大な種類に圧倒されてしまう。いくつかの辞書を開いてめくりながら比較していると、時間は飛ぶように過ぎる。その結果、ついに僕はどれも買わずに家路を急ぐことになる。当面はジーニアスの 3rd Edition で用が足りるように思われるので、遠からず購入することになるだろう。だが理想的にはあと数冊、できれば英英辞典と類語辞典もリプレイスして本棚に並べたい。辞書なんて一冊3,000円くらいのもので、賭け事や不毛な飲み会に比べれば遥かに安価な娯楽だ。ローリスク・ハイリターンの投資だといっても良い。

 これは辞書というより個人的には読み物と捉えて大切にしている本に、講談社の「アメリカ日常語辞典 All About America」というものがある。1994年発行、当時で¥3,800の書籍だ。タイトルのとおり、アメリカの日常語をアルファベット順に並べて解説しているもので、もとはジャパン・タイムズ社発行の週刊紙「ステューデント・タイムズ」に連載されていた記事をまとめたものだという。著者が何十回もアメリカを訪れて足で稼いだ情報を、別の切り口からまとめた「アメリカ見聞記」といってよいだろう。膨大な現代アメリカの人名や地名、ブランドネームや特殊な言い回しが紙面を埋め尽くし、そのひとつひとつに丁寧な解説が付されている。全くランダムにページをめくると、こんな言葉を拾うことができる。

 SPEED LIMIT 55
 fizzies
 workout

 それぞれ、オイルショックの影響で87年まで続いた制限速度(時速55マイル)、発泡性飲料(ソーダ類やコーラなど「泡」の出る飲み物)の一般名称、ワークアウト(ジェーン・フォンダがロスで経営しているエアロビクススタジオの名前でもある)のことだが、逐一詳しく解説してあって読むだけでも面白い。たとえば「55」についていえば、この由来を知っているのと知らないのとではサミー・ヘイガーの全米ヒット "I Can't Drive 55" の楽しみ方も少し変わってくる。「言葉」というのは本来的に面白いものだが、ついでに言うと、その面白さを分かっている人と話すのはもっと面白い。

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 横綱2人がともに外国人となり、加えて貴乃花引退で人気低迷する大相撲界。起死回生の救世主たりうるのはやはりボブ・サップしかいないよ。誰か早く化粧まわしを作ってやりたまえ。


3 Feb 2003
Monday

 今回のスペースシャトル事故については既にあちこちでいろいろなことが言われている。前も書いたように、僕は大学の同期の友人(角野 直子)が宇宙飛行士になり、宇宙ステーション事業に関わっているので、それほど無関心ではいられない。飛行機に乗ってロンドンに行くのとはわけが違う。死亡事故につながる確率は、文字通り桁違いに高い。だがこの種の事業に100%の安全というものはありえない。あとは飛行士自身がリスクを背負うしかない。

 いろいろな言葉を見かけたが、一番印象に残ったのは、今朝の朝日に立花隆が寄せたコラム中での向井千秋さんの言葉だった。実際のフライト中に不具合が生じて、死が避けられないことになったらパニックに陥るか、との質問に彼女は冷静に答える。「それは、墜落が避けられない状態になった旅客機の機長と同じで、やらなければならないことが目の前に山のようにあるに違いない。無我夢中でいろんなことを試みるうちに、最後の瞬間がくるだろうから、そうなる暇はないだろう」。

 たとえどれほど死の危険があろうとも、人はそら(宇宙)を飛びたいという気持ちを抑えきれない。それは人を好きになる気持ちを抑えきれないのと、どこか似ていなくもない。

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 とにかく告ってから、自分に惚れさせればいいんだってば。

 昨日の彼女はそう断言してから、ややあって補足しました。「でもね、これって女から男への場合に限るんだよ。逆の場合はいろいろな事情があって、条件揃っててもなかなか同じようにはいかないってのが私の経験なのよね」。

 おいおい。それを先に言ってくれ。


2 Feb 2003
Sunday

 ある人が言うのです。

 もし気になる異性がいるとしましょう。
 (1) その人には現在ステディなパートナーがいない。
 (2) 貴方のルックスにはまあまあ自信がある。(絶望的ではない)
 (3) その人はまあ人並みに異性に関心がある。

 以上を満たす場合には、まず理屈は置いといて告白せよというのです。相手が自分のことを好きかどうかなんて関係ない。まず告って、それから自分に惚れさせる方が、その逆よりはるかに簡単かつ労力が少なくてすむというのです。そうだったのか!

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 まったくもって脈絡のない文章は、そのまま昨日のシカゴのコンサート@国際フォーラムに続きます。前日にキョードー東京に電話してみると、「2月1日の公演の当日券は、一応出しますが、若干枚しかありません」と脅されて。だから気合い入れていきましたよ。15時30分に駆けつけてみると、既にカップルが待っていて、僕は3番目で列に並びました。ところがこの直後から続々と人が集まってきて、16時の時点では30人以上の列に。しかし運命の女神は僕に微笑む。

 非常に年配の女性2人が僕の前のカップルに接近してきて、なにやら話しかけます。「当日券に並んでるんですよね?」 「ええ、そうですけど…」 「実は私たちS席の券が余ってしまって… よろしければいかがかと思って」 「そうなんですか!」 「ここじゃ何ですから、あちらへ一緒に来ていただけますか?」 …というわけで、16時10分時点で僕は当日券待ちトップの座を勝ち取ったのでした。ここで、日帰りで東京に来ていたなおさんが出現。僕に福砂屋手づくり最中を手渡します。カステラで有名な同店ですが、あんこものもなかなかの素晴らしさ。帰宅後いただいた手づくり最中、自分であんを盛り付けて挟むという手間と労力が美味しさを倍増させてくれました。ご馳走さま。

 そんなこんなで16時30分。当日券販売開始です。「それでは列の先頭から5番目までのお方はカウンターにどうぞ」と呼ばれ、S席8,500円を払った僕の手に渡されたチケットは、1階5列12番というものでした。え? マジすか? 1階5列12番? そう、それは紛れもなくステージの目の前。やや左寄りでたまたま前に席がなく、事実上最前列になる部分でシカゴのライヴを見ることができたのです。

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 シカゴのライヴは、いいんですよ。
 彼らの場合、いつも一定のレベルを保ってくれるんですけど、そのレベルというのが非常に高い位置にあるんですよね。

 そんなお話を前の晩に聴いたばかりでしたが、まさにそのとおりでした。
 すべての偶然は、必然だから。思い立って当日券に並んだこと、たまたま1番に繰り上がったこと、ステージの目の前の席で見ることができたこと、そして何よりこの夜のコンサートにめぐり合えたこと自体に、何らかの意味があったのかもしれない。少なくとも、そんな気持ちになったって罰は当たらないと思うんだけど。


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