バジング(buzzing) その1

金管楽器奏者は、ウォーミングアップでしばしば、バジングをやると思います。 ここで言うバジングとは、楽器をつけないで、唇を振動させて「ピー」と鳴らすアレです。 本当は、楽器のあるなしに関わらず、単に、「唇を振動させて音を出すこと」をバジングと呼ぶような気がしますが、 ここでは、「楽器本体なしで唇の振動で音を出すこと」と定義することにします。 だれか、これの正しい呼び方を知っていたら教えてください。

音響工学的な視点では、「バルブの出口側に管(楽器本体)をつけずに、入り口側のタンク(口腔内の空間)とバルブのみで起こす振動」、 ということになります。 これから、バジングについての説明をしますが、まず、金管楽器の発音におけるバジングの重要性を述べたいと思います。

バジングできない音を出すことはできない

金管楽器奏者は、演奏したい音の周波数でのバジングを(短い時間ですが) 管の共鳴(共振)の助けを借りずに独力で維持できなければなりません。

例えばトランペットでハイノートを出そうと思ったら、その周波数でバジングができなければなりません。 よく勘違いされますが、「バジングは低い周波数で振動させていても、楽器を当てることで、管の共鳴によって高い音が出る」というのは間違いです。 もちろん、マウスピースを当てることによって、マウスピースを当てないときよりも唇の張力(硬さ)を上げることができるので、 高い音が出やすいとは思いますが(いわゆるプレスというやつです)、少なくともマウスピースを当てた状態では出したい音を出せなければなりません。

・厳密には、演奏したい音の周波数ぴったりではなく、(+,−)型振動では少し高め、 (+,+)型振動では少し低め、 の周波数でバジングしなければなりません。(後述する予定)

・楽器管本体ではなく、マウスピースの共鳴は利用できます。ただ、マウスピースの共鳴は、鋭いピークをもたず、 なだらかなのでこの効果は少ないです。(できれば後述する予定)

金管楽器と異なり、木管楽器は、管の共鳴の助けを借りることができます。 というより、むしろ、管の共鳴によって、出る音の周波数が決まります。 そもそも、木管楽器では、バジング(楽器管本体なしでの振動)は不可能です。(後述


直感的な説明

管の共鳴は、入り口から出口に向かう波(空気の振動)と、管の出口で反射して入り口に戻ってくる波が、干渉することで起こります。
したがって、共鳴が起こるまでには、最低でも、波が一往復する時間が必要です。 これは、管の1次振動(基本振動)の1周期の時間に相当します。
なので、例えば8次振動を励起しようと思ったら、少なくとも8周期分は、管の共鳴の力を借りずに振動を維持しなければならないということです。

トランペットの例でいえば、唇の振動によって起こされた波が、管を一往復するのには、 1次振動であるB♭2(116Hz ペダルトーンのドです)の1周期、0.008584秒かかります。 少なくとも、この間は、独力で鳴らしたい音を維持しなければなりません。 8次振動であるハイB♭(B♭5)を出すには、8周期分は管の共鳴の力を借りずに振動を維持しなければならないということです。

木管楽器には、指孔(管側孔)がたくさん付いています。リードで起こされた波は、 リードから一番近い孔のところで(一部は)反射します。 したがって、木管楽器では、管全体の1次振動の周期よりも、ずっと短い時間で共鳴が得られることになります。

金管楽器の高音域が豊かな音色を持つように聞こえるのは、ここで説明した、音の立ち上がり時における、 唇と管内の空気柱の異なった挙動が原因だと言われています。

・当然、指孔のついた金管楽器(コルネットゥCornett、オフィクレイドOphicleide、セルパンSerpent 等)では、 管の共鳴を早くから利用できます。

・トランペットの1次振動は、実際には、B♭2(116Hz)よりずっと低く80Hz程度です。 これは、主に、ベル(管出口での急激な広がり)の影響です。 また、この振動は、なだらかで鋭いピークをもちません。 したがって、ペダルトーン音域では、同じ運指でいろいろな高さの音が出せますが、音はにごり気味になります。(もしかしたら後述するかも。)

・バジングを独力で維持する必要があるのは、管の共鳴が利用できない最初の数周期だけです。 いったん、共鳴が得られれば、それ以降は、バジングの維持に共鳴の助けを借りることができます。(後述する予定)


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last update : 2004/2/16

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