Prologue
〜FINAL FANTASY Y〜
炭坑都市ナルシェ…数々の山に囲まれ、フィガロ城の北東に位置する街だ。
真冬に突入し、真っ白な雪に埋もれたこの街の平和が今、脅かされていた。
街には、帝国の魔導アーマーの影が、三つ。
「なんなんだこの犬がっ!」
帝国兵、ビッグスは、自分たちを奥へ進ませまいとする犬――シルバリオ――を蹴散らしながら叫んだ。
「ま、街の守りなどこのようなものだろうな」
相棒がシルバリオをどんどん退けていく後を追いながら、ウエッジはつぶやいた。
城でさえままならない魔導アーマーの襲撃を、こんな街のガード程度でどうにかなるとは思えない。
ビッグス一人に戦闘を任せているが、問題は無いだろう。
「ここは通さんぞ!」
多数のシルバリオを引き連れたガードが幾人、また向かってくる。
「街を守る」という気持ちは立派なものだ。そしてそれを実行しようとするものも。
帝国の強大さの前に逆らおうとするものは少ない。
そして今日も、こうして減っていくのだ。
「無謀だな…」
物言わぬガードの屍を見、ウエッジはつぶやいた。
こうまでして守るもの――そして俺たちが奪おうとしているもの――一1000年も前から凍りづけになっているという幻獣にいったいどんな意味があるのだろうか。
ふとウエッジは隣にたたずむ三つ目の影――これも魔道アーマーに乗った…少女だ――を見た。
整った顔立ちをしているのだが、その無表情さゆえに、冷たい印象を受ける。
「その娘…たった三分で兵士を50人殺したそうだ」
いきなりのビッグスの声に、ウエッジは驚いた。タイミングと、内容に。
このような話をされても、娘の表情は少しも動きを見せない。
「だが今は大丈夫だ。ケフカ様の魔力がこめられた髪飾りの力で、俺たちの命令どうりに動く」
「それは俺も聞いた…さていよいよ洞窟の中かな?」
ウエッジがいよいよ見えてきた洞窟の入り口を見ながら言った。
「そうだな…。そろそろ警戒しなくちゃならねぇな…。あの娘を先頭にして突入しよう」
ビッグスの言葉に、娘が無表情のまま先頭に立ち、洞窟の中に進んでいった…。
不気味な洞窟内の雰囲気に臆することなく、娘は進んでいった。
襲いかかってくる命知らずの魔物もいたが、全て三人によって撃破されていった。
「あったぞ!」
洞窟に入って数時間、やっと三人は目標の幻獣を見つけた。
それはまるで、この洞窟の奥底に安置されているかのようであった。
昔から今まで…そしてこれからも永遠に…。
何も語ることの無いその凍れる幻獣は、三人にそう主張していた。そう、明らかに。
しかし、帝国からの命令を受けているビッグスたちには、そんな雰囲気の中でも、進んでいくしかなかった。
(何者だ…)
目の前の幻獣は話してはいない…だが、その意志を感じることは簡単なことであった。
そんな状況にありながらも、ウエッジは冷静に告げた。
「おまえを…捕獲する…」
ウエッジがそういった瞬間、それは起こった…。
世界が凍った。
(もうだめだな…)
これは幻獣の怒りだ。ウエッジは思った。
これほどの力があるなら、その力を欲しがるのも無理は無い。とも。
だが…これはこの世に災厄をもたらすのではないかと、ウエッジは危惧した。
が、それを心配する必要はもうなくなった。
なぜなら
次の瞬間、ビッグスとウエッジという存在は、この世から消えてしまったからだ。
この静かな地獄の中でも、娘はやはりその表情を変えなかった。
だが、娘は戸惑っていたのだ。
自分の心の中に広がる、言い知れぬ恐怖と…安心感に。
昔から魔導戦士として育てられた娘には縁の無かった感情――愛――がその中に感じられたからかもしれない…。