FINAL FANTASY Y
〜Chapter 1 覚醒〜


4



目覚めたとき、エドガーはすぐに異常に気がついた。


「っ…!?」


普段は『威厳のある王』を無理にでも演じなければならないエドガーだが、このときばかりは走って表へ出た。


「……」


目に入ってきたのは、火だった。


「…ケフカか…」


エドガーはつぶやき、周りにいる兵士に状況の説明を求めたが、みな消火活動や原因の追究やらで、まともに状況を把握している者はいなかった。


「エドガー様っ!」


息を切らしながらやってきた大臣は、息が整うのも待たずに続けた。


「城が原因不明の火事に見舞われています!今総力をあげて調査、消火活動を行っていますが…」


「原因はケフカだ…」


「しかし、火はいろいろなところからあがっておりまして…」


「奴は『魔法』を操るときいている。それくらい造作も無いだろう…」


そうエドガーが言い終わると同時に、ケフカが姿を現す。


「その通りだよエドガー…これも貴様が正直じゃないからだ…」


そう言うケフカを無視し、エドガーは大臣に命令を与える。


「あれの用意を…」


「かしこまりました」


言うなり大臣は走り出した。


「…貴様…無視したな…ガストラ皇帝は生かしておけとおっしゃっていたが、もう我慢ならん!やってしまえ!」


ケフカが言い、隣に立っていた兵士の一人がエドガーに斬りかかる。


「エドガー王っ!」


周りにいたフィガロの兵士が悲鳴に近い声を上げたとき、もう帝国兵はエドガーの目前だった。


「…!」


エドガーは目の前の兵士が本気で自分を殺そうとしていることを悟ると、マントで隠していた剣を抜き、すさまじい速さで一閃した。


「!?」


その瞬間、殺されたものと思っていた帝国兵は、生きているという事実に驚きをおぼえ――次にやってきた激しい痛みにのたうった。


剣を握っていた右腕の、肘から先が、無い。


「一国の王が、そんなに弱いとでも思ったか?殺さなかったのは同盟国である帝国へのせめてもの礼儀だと思え」


「なら娘を渡せ」


自分の命令で部下が腕を失ったというのに、平然な顔をしてケフカは言う。


「だからいないと言っているのに…そろそろいいかな…?」


言うとエドガーは城壁まで走り、登ると、向こう側に飛び降りた。


「!?」


これには、フィガロ、帝国の兵士、さらにはケフカまでもが驚きをあらわにした。


「クエ〜」


「…!チョコボか!」


だがケフカは鳴き声をきき、状況を把握した。


「一国の王ともあろう者が、国を捨てて一人で逃げるとはね…」


嘲るような笑みを浮かべ、言う。


そんなケフカの笑みを凍らせたのは、エドガーの一言だった。





「乗れ!ティナ!ロック!」


ティナとロックがチョコボに飛び乗ると、三人は城から一気に遠ざかった。


「キィーーー!こうなったら、もうこの城を滅ぼすまでです!!」


「はたしてそんなことができるかな?」


中央の塔に立った大臣が言い、誇らしげに続ける。


「フィガロ城の勇姿を見るがいい!フィガロ城潜行モード、セットオン!」


大臣の声とともに、左右の塔が城に接着し、フィガロ城は砂の海に潜る。


「……」


取り残されたケフカの心の中にはいろいろな感情が渦巻いていたが、それは放置されてから数分後、ケフカ自身が言った言葉に集約されているのかも知れない。


「つまらん!」




「いまごろケフカはどうしてるだろうなぁ?」


「きっと砂漠に埋もれちまっているだろうぜ」


笑いながら話すロックとエドガーだが、ティナは黙ったままだ。


そんなティナにロックが声をかける。


「そういえば自己紹介がまだだったな…俺は…」


「ロック…どろぼうさんでしょ?エドガーからきいたわ」


ロックは笑っているエドガーを一睨みし、言う。


「俺はトレジャーハンターだよ…今は特技を利用して、エドガーと反帝国集団『リターナー』のパイプ役として動いてる…」


エドガーがそれにつなげて言う。


「実は…ティナに会ってもらいたい人がいるんだ…。そのリターナーの指導者、バナン様に。きっと今度の戦争では、『魔導』の力がキーワードになる…と思っているのでな…」


ロックは同じような言葉をどこかできいたような気がしたが、深くは考えず、ティナの答えを見守ることにした。


深く考えると、いろいろ言ってしまいそうなきがしたから。


「…こわい…」


「それはわかる。だが、ずっと逃げているわけにもいかないだろう?せめて話だけでもきいてもらえないか?」


「何かあっても、俺が守るからさ」


と、ロックが付け加える。エドガーが横で意地の悪い笑みを浮かべていたが、ロックは無視し、続ける。


「だから、行ってみよう?」


「……わかった」


ためらいながらも、ティナは言った。


「よし。だったらコルツ山を越えるぞ」


エドガーの声で、三人はコルツ山に向かってチョコボを進めるのであった…。