FINAL FANTASY Y
〜Chapter 1 覚醒〜
3
フィガロ城――砂漠の中央に位置するこの城は、マシーナリー、エドガー王の
影響により、機械の発達が著しい。
先王がはやくに亡くなったため双子の兄弟の兄、エドガーが王座を受け継ぎ、
弟のマッシュは修行のため旅に出た。
若くして王となったエドガーは、慎重な外交を進め、今は帝国と同盟を結んでいる。
だが、それが正しい行いでないことは、何よりエドガー自身が身にしみて感じていることであった。
「ようこそフィガロ城へ」
いかにも国王らしいきらびやかな衣装に身を包んだエドガー王がロックとティナを迎えた。
ロックはエドガーと少し話をすると、
「俺が王様と知り合いだなんて驚いた?」
と、おどけたように言うと、そのままどこかへ言ってしまった。
「君が魔導の力を持つという…」
「ティナ…です…」
「そうか…私はエドガー…この国の王だ…でも、そんなに緊張しなくていいからな」
エドガーはくだけた口調でいい、和ませようとしたが、ティナの頭にあるのはひとつの問いだけだった。
「…あなたも、私の魔導の力を…?」
エドガーは微笑み、言う。
「いや…私としては、君の好みのタイプが気になるな…」
王座から離れ、出口に向かいつつ、続ける。
「魔導のことは…その次かな?」
「……」
エドガーは出口の前で止まり、
「しばらくはこの城の見物でもして、ゆっくりしているといい…」
言うと、小さな声で付け加えた。
「…私の口説きのテクニックもさびついたかな?」
エドガーが出ていき、ティナは一人残され、つぶやいた。
「普通の女性なら、今の言葉に何か感じるものなのね…」
フィガロ城には色々なものがあったが、中でも一番ティナの目を引いたのは、道具屋にあった見慣れない機械であった。
きいたところによると、戦闘で使う武器らしい。ティナには扱えそうになかったので、買いはしなかったが。
城には左右に塔があり、それぞれ渡り廊下のようなものでつながっていた。
その左の塔で、ティナはエドガー王の双子の弟、マッシュの存在を知った。
「エドガー…」
城から右の塔へ行く途中で、ロックはエドガーに声をかけた。
「ロックか…どうした?」
いつも陽気なはずのロックにしては、暗い声で言う。
「ティナのことなんだが…」
「ああ…大丈夫だ。まだあまり魔導についての話はしていない…」
「そうか…」
そう答えるロックの声には、やはり元気がない。
「もしかして…」
ロックはエドガーの思わせぶりな口調に身を緊張させた。
「心配なのか?」
しかし、エドガーの問いは、ロックの恐れていたものではなかった。
少し安堵し、言う。
「まぁな…」
「大丈夫だよ。あの娘は…しっかりしてる。きっと自分で道をひらくさ。ところで…」
いきなり言葉を切ったエドガーに、ロックは怪訝そうな顔を向ける。
「どうした?」
「…惚れたな」
「!?」
予想外のタイミングでの攻撃に、ロックは言葉が返せない。
「意外と奥手なんだな…なんなら、口説きのテクニックでも教えてやろうか?」
「…余計なお世話だっ!」
ロックがやっとそう言ったときには、エドガーは笑いながら塔に入っていくところだった。
「どうだったかね?私の城は」
再び王の間に姿を現したティナにエドガーは声をかけたが、ティナの返事は扉が開く音と、大臣達の騒がしい声にかき消された。
「騒がしいぞ!何事だ!」
若いながら威厳のある声で大臣に問う。
「はっ!実は、帝国のケフカ殿が参られまして…」
「ケフカか…ここには入られたくないな…私から出向こうではないか」
言うや否や、エドガーは颯爽と扉に向かった。ティナに
「しばらくここで待っていてくれ」
と声をかけることを忘れはしなかったが。
「ガストラ帝国お抱えの魔導士、ケフカ殿が何の用です?同盟国であるわが国にまで攻め込まんというような雰囲気ですな」
「ケッ!こんな小国の王が何をエラそうに――おい!靴!」
ハッ!という声とともに、隣に立っていた帝国兵がケフカの靴をきれいにする。
(このような人間は…人の上に立つべきではないな)
ケフカの姿を見ながら、エドガーは思った。
人の上に立ったからといって、ただ偉そうにしているだけでは、いずれ足元をすくわれる――エドガーは、王族であるがゆえに、いろんな王や
、皇帝などと呼ばれる人々を知っている。
そして、身の破滅を起こす何よりも大きな原因がその傲慢さなのだ。
「で、用件だが、ここに帝国の娘が世話になってないか?」
ケフカがその傲慢な態度で訊ねる。
「帝国の娘…魔導の力を持つという…?」
エドガーは軽く探りを入れるが、
「貴様に関係は無い」
ケフカの答えはそっけない。
「…ま、私にそのような心当たりは無いから、確かに関係ないがな…」
そして、あからさまに疑っているケフカにこう付け足す。
「娘なら…星の数ほどいるけどなぁ…」
そのエドガーのセリフに毒気を抜かれたケフカは、
「ふんっ!今に見ていろ!」
と捨て台詞を残し、どこかへ去っていった。
「ふぅ…疲れるよ。全く。…ティナをどうにかしなければならないな…」
そう一人つぶやき、エドガーはロックのところへ向かう。ロックは今の一部始終をすべて見ていたはずだ。
「ティナを、例の部屋へ頼む…」
「了解〜♪」
どこかふざけた対応をするロックだが、頼まれた仕事は確実にこなす、信頼できる仲間の中の一人だ。
「私は少し休む…」
エドガーは側近の一人にそうつげると、自分の寝室に向かった。