FINAL FANTASY Y
〜Chapter 1 覚醒〜


2



「よう」


扉が開き、入ってきたのは男だった。名をロックと言う。


「ロックか…もうどろぼうから足を洗ったのか?」


その言葉には多少のからかいが込められていたのだが、ロックは過剰な反応を示した。


「どろぼうだって!?冗談じゃない。俺を呼ぶなら、トレジャーハンターと言ってくれ」


「はっはっは…そうか…じゃあそのトレジャーハンターさんに頼みがあるんだがな…」


老人は少し声を落として言う。


「今日、帝国の娘に会った」


「…生まれつき魔導の力を持つと言う娘のことか?」


ロックは得心がいったというようにうなずく。


「そうだ。さっきガードが来たが…なんとか裏口から逃がした」


「なら…」


老人は首を振りながらロックの言葉をさえぎった。


「彼女はまだ意識がはっきりしていないし…行くところも無いだろう。だからロック。 とりあえず彼女をフィガロ城へ…。そして、エドガー王の援助を受けて、バナン様に会いに行け。 …多分、今度の戦争では、『魔導』の力がキーワードになる」


「だがそれでは…彼女を利用することに…」


ロックのいかにも若者を思わせる正義感あふれる意見に、老人は苦笑しながら言った。


「バナン様も、無理やり引き込むつもりは無いだろう。多分、『逃げる』という 選択肢も残してくれるだろう。どちらにしても、バナン様に会わせるしかあるまいよ…それに…」


老人は少し間をおき、いたずらっぽく微笑むと言った。


「困っている女の子を放っておくのは…男のやることではないと思わないか?」


ロックもそれに応じて微笑み、言った。


「…。そうだな」


「では…頼んだぞ」


「任せておけ」


声の余韻が消える前に、ロックは姿を消していた。




「あちゃ〜あんなところに倒れちゃってるよ…」


老人の家の裏口から、娘の後を追ってゆくと、なんと洞窟の奥の方の床に 、穴が開いていた。


まるで何かの冗談のようだったが、古くからある洞窟なので、ありえないことではないのかもしれない。


「よっ…と」


ロックはまわり道をすることはせず、穴から飛び降りた。


それが一番の近道だったからだ。


「この娘が…魔導の力を持つという…」


ロックは気絶しているティナを担いだが、すぐ声が聞こえてきた。


「いたぞ!あそこだ!」


「ちっ!ガードか…ゾロゾロ出てきやがって…」


このままでは逃げ切れないと判断したロックは、ティナを静かに床に横たえた。


「あの人数を一人でやるのは…骨が折れるな…。もしかしたら、骨折しちまうかも…。 ってボケても誰も突っ込んでくれねぇし…」


などと訳のわからないことをロックが考えていると、


「クポー…」


「クポー!?」


モーグリの声だ。しかしなんで鳴き声がロックの口からも出たかは不明。


この洞窟は、モーグリの住処としても有名で、ロックとモーグリたちは仲が良いのだ。


「手伝ってくれるって言うのか?」


「クポー!」


声はさっきと変わらないが、幾分やる気がうかがえる。どうやら肯定の意ととって良いようだ。


かくして、ロックとモーグリ達によって、ティナを守るために共同戦線が張られたのだった。



乱戦だった。敵味方が入り乱れたため、攻める側には好都合だったが、守る側のロックたちは大変だった。


敵は、ロックやモーグリを倒すことを目的とせず、ティナだけを狙って突進してくるからだ。


そのため、ロックたちは撃退するだけで精一杯だったのだ。


そんな状況であったのだから、ロックがこう叫んだとしても、誰が責められようか。


「ちくしょう!!これじゃあらちがあかねえよっ!!」


だがその時、ロックは前の方――敵を仕切るガードリーダーのいる辺り――にモグを見つけた。


モグはロックの一番の親友であり、信頼できる戦友でもあった。


そのモグが、ロックにティナをつれて逃げるようにと合図を送っている。


自分がガードリーダーを引き受けてくれるつもりなのかもしれない。


「モーグリ!恩にきるぜっ!」


ロックは速攻でティナを担ぎ上げると、持ち前の逃げ足の速さで、出口に向かった。




そうしてロックが行きついたのは行き止まり。だが…


「ここをこうすると…」


『カチッ』という音とともに、ふさがっていたはずの洞窟の壁が開く。


これはロックが勝手に細工したものだ。ちなもに、外からも、開く。


「うっ…」


「目…覚ましたか?」


そう言うロックの口調はどこか、優しい。


「君の…名前は?」


「私は…ティナ…でも…他は思い出せない…前も…その前のことも…」


ロックは呆然と言った。


「記憶が…無いのか…?」


「ええ…でも…そのうち戻ると思…」


呆然とティナを見つめていたロックは、いきなり立ち上がると、ティナの言葉をさえぎり、言った。


「大丈夫だ!記憶が無くても、俺が絶対守ってみせる!!絶対君を見捨てたりはしない!!… とりあえず、フィガロ城へ行こう。話はそれからだ」


そういうとロックは外に向かって歩き出した。


ティナはそれを追いながら、ロックがいきなり感情をあらわにしたことへの 驚きと、何故だかわからないけど、感じたことの無い種類の喜びを感じていた。