ここでは、現在、国内外で流通しているヴァイブ・ブランドを紹介したい(中古品も含む)。現行商品でホームページを有しているブランドは、詳述を避け、留意点だけを述べる。既に消滅したが、現在も流通するブランドは、分かる範囲の説明を行った。
各ブランドに共通する仕様を概説する。
音板(バー)は、その幅で大きく分け、3種類存在する(厚みは、一部の児童用・学校用を除いて、全て13mm)。
正式な英語では、Graduate Bar という。ヤマハのカタログでは、幅;57mm〜39mm。低音部、中音部、高音部で幅が異なる。ムッサーのワイド・バーと同サイズと思われ、サイトウの最高機種もほぼ同じ。が、サイトウでは若干狭い、幅;51mm〜38mmのモデルがあり、これは、ディーガンのワイド・バーの同サイズ、と思われる。つまり、ヤマハもサイトウも、所詮はムッサーとディーガンの写し、ということ。
正式な英語では、Uniform-size Bar という。ヤマハのカタログでは、39mm均一。ムッサー、ディーガン、サイトウもほぼ、同じ。
俗に、Student model とも言う。幅;36mm〜32mm。非常に、幅狭い。
ジャズで用いられるのは、ほとんどがワイド・バー・モデル。大学生のコンボでも、ユニ・バー止まりだろう。ナロー・バーをジャズで用いられることは、ほとんど無い。サイズが合えば、ギターの弦のように、音板とフレームの交換は可能。ゲイリー・バートンなどは、ビンテージの音板を、特注のフレームに架装していたこともある。
外見の違いで、コンサート・モデル、ツアー・モデルがある。
脚が、重厚な木製レザー張りで、持ち運びよりも据え置きを重視している(但し、分解は可能)。ムッサー Century-vibe、ディーガン Aurora など。
コンボ・モデルとも言う。脚が、軽量な金属パイプ製で、持ち運びを重視する。フレームは分解できるタイプと、できないタイプがある。昨今は、折りたたみ式のパイプ脚よりも、分解ができ、サイズ調整のきくタイプに主流が移りつつある。
巨大なキャスターを有し、行進などに対応したモデル。マーチング・バンド専用。
詳述はしないが、シルバー/ゴールド、さらにグロス仕上げ、マット仕上げ、サテン仕上げなどあり、選択が可能。
さて、ようやく本題に入る。以下、ブランド毎に説明する。
打楽器メーカー、ラディッグ社のブランド。 泣く子も黙る、超有名。暫く、新機種が無かったが、ゲイリー・バートン設計と言われる、分解可能な Pro-Traveler や、ジョン・パイパーなる御仁による、照明機材の脚のような、超頑丈設計の Piper など、ここ数年は、新製品の発表も続いた。注意点は、現行の Pro-Traveler の型番が M-48 なのに対し、70年代のモデルでは同番号が、One-niter という、ユニ・バーのシングル・スピード・モデルだったこと。そして、同商品名が現行では、ワイド・バー・モデルらしいこと。もし、中古品を購入する際には、注意が必要。(このように、後先を考えない型番の付け方は、ズボラなアメリカ人らしい) |
ディーガン無き後は、ムッサーの最大対抗馬。デイヴ・サミュエルズ、デイビッド・フリードマン、マイク・マイニエリなど、ご歴々がこぞって、移って来ている。留意点は、国内モデルと海外モデルの仕様が異なること。例えば、国内モデルは古典的なアーチ型パイプ(YV-3200/3000)だが、海外モデルは現代的な放物線型(YV-3710/2700)となる。また、海外モデルには、マイニエリ監修による、3.5オクターブモデル(YV-3900)があり、そしてついに、4オクターブモデル(YV-4110)も登場した。
(※かつてジャズ・ライフ誌で、「軽量・安価なモデルを共同開発中」と、マイニエリ先生が話されていたが、その後どうなったんでしょうね?)
イリノイ州シカゴで、1880年に誕生した老舗メーカー。その年、永遠のライバル、ラディッグ社の創設者 William F. Ludwig, Sr. は、未だ1歳に過ぎなかった。かつてのアメリカは、コカコーラにペプシ、リーバイスにラングラー、フェンダーにギブソン、ローズにウーリッツァーと、市場を席巻する代表ブランドには、必ず2位をつける、対抗ブランドが存在した。その2社が切磋琢磨して、健全に発展する市場が形成されて来たのだ。そのかつての名門は現在、チャイムのみヤマハでブランドを残している。ここでは、往年の名機を詳述したい。
Commanderワイド・バー/ツアー・モデル。マイク・マイニエリ、デイヴ・パイクら、70年代の前衛/ジャズロック・シーンの愛機と言えば、この機に他ならない。現在、世界のスタンダード、ジーンズで言えばリーバイス501とも言える、ムッサー Pro-vibe の、唯一、生涯のライバル。(他のメーカーは、ほぼ、この2社の模倣) |
スタジオ・モデル。ムッサー Century-vibe の好敵手。ワイドショー草分け、「小川宏ショー」で小川さん(※同姓のヴァイビスト)が弾いていたのも、このモデル。70年代初頭、千葉の高校生だった筆者は、銀座ヤマハの中2階に鎮座した Aurora 2 w/electric pick-up を、厚顔ながら試弾させて貰い、日記に絵付で、その感動を遺した。
先駆的、4オクターブ・モデル。但し、現在他社のそれがワイド・バーであるのに対し、ユニ・バーだったため、最低音はほとんど音程が聴き取れなかったのではないか。マイニエリ先生が、ニューヨークのご自宅で使用されていた。
ユニ・バー。外見は、Commander とウリ二つ。注意点は、ムッサーの Pro-Traveler と間違わないこと。
ナロー・バー。
Electra-vibeナロー・バー。共鳴パイプ/モーターが無く、エレクトリック・ピックアップ専用。外見は、ABSケースの一体型で、エレクトリック・ピアノ風のパイプ脚を備える。その斬新なデザインは、60〜70年代当時を髣髴とさせる。ミルト・ジャクソンを始め、多くの有名ヴァイビストが一度は使用しているが常用には至らず、そのほとんどは、場末の無名なコンボに供されたと推定される。新たなセンサー・ピックアップを搭載して、蘇って欲しい。 |
一時期、デイビッド・フリードマンが契約していた(現在は、ヤマハ)。興味のある方は、ホームページへ。
打楽器メーカー。現行では唯一のモデル(751)は、金属性のフレームを持ち、発売された70年代より今日に至るまで、その斬新なデザインは、決して廃れていない。
コマキ楽器が取り扱っていたことがある。4オクターブ・モデル(RVC-400)、3オクターブ・モデル(RVC-303)がある。
同じく、コマキ楽器の取り扱い現行商品。4オクターブ・モデル(VP-4)のみ。
日本、アメリカでは、打楽器メーカーのパール・ドラム(日本)が扱っている。ヴォイジャー・フレームという、X型のカメラ・スタンドのような脚が特徴。詳しくは、ホームページ参照。
Sonor(ドイツ)打楽器メーカー。ヴァイブはあまり知られていないが、VB-500/300 という、なかなか落ちついたデザインの機種がある。余談だが、XR-400(Xiro-rimba) という小型のマリンバは、珍しくヴァイブと同じく全音と半音が同一面上に位置され、クリーム色の音板(Palisobo bar)と透明アクリルの共鳴パイプが、非常にキュート。部屋の装飾品にも最適。(※オークションや楽器店で見付けたら、必ず教えてください) |
ヴァイブ界の貴公子、ジョー・ロックご愛用。詳しくは、ホームページで。
ついに、新星登場。シンセ・ピックアップをはじめから内臓。超高級感溢れる仕上り。恐らく、ヴァイブ界のロールス・ロイスか、ランボルギーニに成り得るのではないか。詳しくは、ホームページへ急げ!
ディーガンをはじめ、いくつかのブランドが既に消滅しているが、中古市場などでは流通もある。多少の調整、加工、修理は可能な楽器だから、ダメもとで購入するもよし。
Ajax、Jenco、Kosth(コッス)、Loyola、Leedy、など。
60年代後半のジャズロック・ムーブメント以降、アコースティックのヴァイブに、エレクトリック・ピックアップを装着するミュージシャンが登場した。しかし、初期のピックアップは性能が悪く、ジャズロック鎮火後は廃れたが、後述するシンセ・ピックアップの登場で、現在は標準装備化している。
60年代〜80年代、ムッサー、ディーガンは共に、カタログにアクセサリーとして、マグネチック・ピックアップを掲載していた。これは、ギターの電磁式ピックアップと同様、音板の直下に長いバー状のピックアップを置き、音板の振動を電気信号に変換する。特性は、アタック音が極端なオーバーロードによりボコンと歪んだ音になり、減衰音は自然にファズ、ディストーションのかかった音となる。この辺は、ジャズロック風ではある。あのゲイリー・バートンも当然使用していて、70年代初頭の日本公演(私は高校時代、観に行った)では、彼が持参したのは、ムッサー Pro-vibe の共鳴パイプを外し、ピックアップだけを装着したモデルだったが、電圧の関係で正しく作動せず、急遽、増田一郎氏の機材を借用した、という話がある(高校時代、私は増田氏本人から聴いた記憶があり、赤松氏も証言している)。ところが、ワーナーパイオニアから発売された東京公演のジャケット写真では、彼のムッサーからはパイプが消えていた。この写真、いつ撮られたのだろう?
なお、ディーガンのエレクトラ・ヴァイブは、全ての音板にピックアップ(恐らく、初期の振動検知型コンタクト・マイクだろう)が1個づつ付随している。ムッサーのピックアップは、ディーガン用のサイズも用意されており(ワイド・バー・タイプは、ムッサーより若干、狭い)、取り付けが可能。他のディーガン製品にもピックアップ装着済みのモデルがあったが、詳細は不明。
80年代、かつてアメリカの雑誌、Percussion(現在は、廃刊)でデイヴ・サミュエルズが広告に出演しているのだが、それがマグネチック・タイプなのか、ピエゾ・タイプなのかは不明。このメーカー、現在でも打楽器メーカーだが、ピックアップの販売は無い。マイニエリ先生がステップス・アヘッドでブリブリ弾いていた頃は、どこのピックアップを使用されていたのか、いつかは確かめたい。
それぞれの音板の裏に、セメダインで接着した超小型センサー・ピックアップを通じて、アナログ信号をアンプに、デジタル信号をシンセ音源に伝える、画期的なシステム。これ無しでは、現代のジャズヴァイブ・シーンは語れない程、重要な機材となった。詳しくはホームページで。
他に、ニューヨークのクラブジャズ・ヴァイビストJimmy は、シカゴ製のセンサー・ピックアップを使用していると語っており、小さなメーカーでは他のタイプのピックアップがあるのかもしれない。
シンセドラム・メーカーのシモンズが作ったシンセ。音板部分には何のクッションも施されておらず、手首への衝撃が激しい。現在は製造されていない。
ロイ・エアーズを始め、多くの前衛的ヴァイビストがご愛用。特にヨーロッパ方面のミュージシャンでは、ヴァイビストとは既に言わず、マレット・プレイヤーと称しているようだ。音板部分には、ネオプレーン状のクッションがあるが、やはり衝撃は避けられない。デイヴ・サミュエルズはスパイロ・ジャイラ時代、巨大なクッションを敷いてプレイしていた。日本では一時、コルグが輸入していた。
シリコン・マレットに近い外観だが、特殊なマレットで演奏するらしい。
シロホンの木製音板をダミー音板として使用し、さらにフローティング(本物のシロホンやヴァイブのように、浮かせている)構造のため、アコースティックに近い演奏性が得られるらしい。要注目の機材である。
その他、シンセ・メーカーのCrumar がフライト・ケース一体型の試作品を出したこともある。
さらに情報は、
などを参照頂きたい。
ここでは、ヴァイブを運搬するケースを考察する。普通、国内での移動程度ならば、剥き出しのまま、車のトランクなどに積むのが一般的だろうが、航空機を伴う移動などでは、何らかの形でケースに収納しなくてはならない。そこで、以下の種類があり得る。
ベニアや合板に合皮を被せたケース。ギター用など、軽量の楽器では一般的だが、重いキーボード系は少ない。例外は、フェンダー・ローズ・ピアノの本体一体型ケース。
ハードケースよりさらに厚い合板を使用し、全ての角を金属で保護し、ハンドル、ラッチなども埋め込み式の頑丈なケース。シンセ、音響機材、精密機材などを航空機で運搬する際の定番。特注も可。難点は、高価なことと、死ぬほど重いこと。メーカーは、Anvil, Duplex など。
ビニール、ナイロンなどの中綿をラミネートしたもの。安価、軽量、特注可だが、ショックへのプロテクションは、全く考慮されていない。ヴァイブでは、分解したパーツ用ならば、使用される。
ハードケース並の頑丈さを持ち、かつ、軽量にしたもの。ベニアやプラスチックなどで骨格を作り、発泡スチロールで強度を出し、外皮はナイロンなどで被う。最近、ギター用ケースとして、増えている。シンセ用などもあるが、強度のために、外観が大きくなる傾向あり。
FRPやABSに高度の圧力をかけ、圧縮形成したもの。外見の特徴は、強度を稼ぐための「凸凹」。安価で軽量なため、最近はフライトケースに代わって、伸びている。但し、型がいるため、特注は事実上、不可(型代で、楽器が何台か買えそう)。
メーカーは、shok-stop、skb、gator、mts、protex、など。
FRPの代わりに、紙に高度の圧力をかけ、薄い板状にしたもの。それをケースやトランク状に折って鋲留して整形する。非常に軽く、特注も可能だが、完全な密閉はできない。ドラムのパーツケースなどで用いられている。筆者は以前、楽器用では無いが畳1畳分くらいの大きさのケースを特注したことがあり、価格は10万円程だった。
筆者が学生時代使用していたのは、棺程もある大きな木箱。その中にフレームを丸ごと入れて運んだ。もちろん、運ぶのには4人かかりだった。昨年、ニューヨークで取材したヴァイビストは、ディーガン・トラベラーをフレームごと、エアーキャップ(通称、プチプチ)でぐるぐる巻きにし、スペイン・ツアーに持って行くところだった。ロイ・エアーズのアルバムで、彼が大きな籐の箱から身を乗りだす写真があるが、これは手製のヴァイブ・ケースなのでは無いか、と想像しているのだが。
以上