夢が本当の話になるとき


葉子さんのクラスではほとんどの友達が塾に通っています。葉子さんは週に
三回、それも夜の九時までの塾に通っています。九時に塾が終わってから、
バスに乗って帰ってくるので、家に帰りつくのは十時頃になるということ
でした。私立の中学を受験する葉子さんは、とてもよく勉強していました。
その葉子さんが、とんでもなく恐ろしいめに遭ったのは、寒い冬の日のこと
でした...。

ある夜、葉子さんはこんな夢を見たそうです。
いつものように塾で九時まで勉強し、片づけをしてからバスに乗り、家の近く
のバス停で降ります。バス停から家までは十分足らずの道のりなので、お迎え
のない日は、いつも独りで歩いて帰っています。そのときもお迎えがなかった
ので、歩き始めました。そのあたりは住宅地で、街灯はついていますが、遅く
なると人通りも少なく、ちょっぴり怖い道です。

歩き始めた葉子さんは、いちばん最初の四つ角に立っている電柱の陰に、帽子
をかぶってジャンパーを着た男の人が隠れるように立っているのを見つけました。
その様子が、いかにも隠れているようで、怖くなった葉子さんは少し後戻り
して、電話ボックスから家に電話をかけました。
「もしもし、お母さん。変な人が立ってて怖いよ。迎えにきて!」
そう葉子さんは言ったのですが、お母さんは、
「いま忙しくて手が放せないのよ。独りで急いで帰ってらっしゃい」
と言ったのです。
仕方なく電話ボックスを出た葉子さんは、家のほうに向かって歩き始めました。
さっき人影の見えた電柱の陰には、誰もいないようです。
キョロキョロとあたりを見回して葉子さんはダッと走り始めました。
ところが、いつのまに出てきたのか、その電柱の陰から帽子の男が出てきた
かと思うと、葉子さんの肩をいきなりグッとつかみ、持っていたナイフで葉子
さんの胸をグサッと刺したのです。
・・・ここで夢から覚めました。

そして、その次の日、夢のことも忘れて、葉子さんはいつものように塾に行き、
後かたづけをするとバスに乗りました。
バス停に着いた葉子さんは、なんだか嫌な気分になってきました。どこかで
同じことをしたことがある・・・。そんな気持ちになったのです。
もしかしたら、と恐る恐る最初の四つ角の電柱を見ると・・・。あの男がいる
ではありませんか。夢とまったく同じ格好をした、帽子とジャンパーの男が
電柱の陰に隠れているのです。
葉子さんは少し引き返して、電話ボックスから家に電話を入れました。
「もしもし、お母さん。変な人が立ってて怖いよ。迎えにきて!」
葉子さんの心臓は、その音が聞こえそうなほどドキドキしていました。
でも、お母さんは、
「いますぐ行くから、そこで待ってなさい」
と言ってくれたのです。
ほっと安心して電話ボックスの脇で待っていると、遠くからお母さんが息を
切らせて走ってきてくれました。
「よかった。やっぱり夢は夢。あんまり心配しすぎて損しちゃった・・・」
そう思いながら、葉子さんが四つ角の電柱の横を通り過ぎたあと、後ろから、
あの男が一言こう言ったそうです。

「ちぇっ、夢と違う・・・」


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