墓場から持ち帰った日本人形


あるところに、一人の女の子がいました。
お人形が大好きな女の子です。女の子の部屋の中には、いくつものお人形が
置いてありました。

ある日のこと、学校の帰りが遅くなってしまった女の子はいつもと違う道を
通って近道をすることにしました。近道をするにはお墓を通らなければなり
ません。もう日も暮れて怖かったのですが、仕方がありません。

うつむきかげんに女の子はお墓に入っていきました。敷石を敷いた細い道の
両側に冷たく並んだお墓の石、その後ろは鬱蒼とした竹林です。なるべく、
周りを見ないように、石畳ばかり見つめて歩いていきました。

と、女の子の目に何か気になるものが飛び込んできました。・・・人形です。
すぐ右側のお墓の上に、おかっぱにしたかわいい日本人形が置いてあったの
です。何日か前に、お母さんと一緒に通った時には置いてありませんでした。
「かわいい・・・」
女の子は思わず足を止め、ついついその人形を手にとってしまいました。
黒いつぶらな目が、まるで「連れていって」と言っているようです。
「誰が置いたんだろう。このままだと野良犬に持ってかれちゃう。雨が降ったら
濡れちゃうし・・・」
ほんの少しだけ迷いましたが、<今日だけでも>と思った女の子は、その人形
を抱いていってしまいました。

「トゥルルルルル・・・」
その日の夜、女の子の家の電話が鳴りました。お母さんはお父さんを駅まで
迎えに行って留守です。女の子が電話をとりました。受話器からは、今まで
聞いたこともないような女の人の声が聞こえてきました。
「あなた・・・いまお人形持ってますね。それは、お墓から持ってきましたね。」
びっくりした女の子は、叱られると思いましたが、正直に答えました。
「・・・はい」
「いまからあなたの家に行きます」
そう言うと、電話は「ガチャン」と切れてしまいました。けれどもしばらく
すると、また電話が鳴ります。
「いま、あなたのマンションの前にいます」
同じ女の人はそれだけ言うと、すぐに電話は切れました。が、またしばらく
すると、「トゥルルルルルル・・・」と鳴りはじめました。
女の子は受話器を持って、黙って耳につけました。
「いま、あなたのマンションの二階にいます」
すぐに切れました。少したつと、また鳴りはじめます。
「いま、あなたのマンションの四階にいます」
すぐに切れました。少したつと、また鳴りはじめます。
「いま、あなたの家の下の階です。階段を登ります、一歩、二歩、三歩・・・
ほら、もうあなたの家の前に着いた」

受話器を置きながら女の子は震えはじめました。すると、女の子の手の下で、
電話が鈍く鳴ります。
「いま、あなたの家の玄関です」
誰もいない家の中で、女の子はもうどうしていいかわからなくなりました。
涙がこぼれそうです。そして、電話のベルが・・・。
「いま、あなたの部屋の前にいます・・・」
魔物でも見るように、女の子は白い電話を見つめました。・・・すぐに鳴り
ました。
「いま、あなたの後ろにいます・・・」
驚いて振り返った女の子の前には、青白い顔の髪の長い、和服を着た女の人が
立っていました。
「きゃぁー!!」
と叫んだ女の子は、気が狂ったように泣き叫びながら、
「ごめんなさい!ごめんなさい!このお人形返すから助けて!ごめんなさい!
ごめんなさい!なんでもするから」
と、人形を差し出しました。

「なんでもするのか?」
女の人は、冷たい声で聞きました。女の子は震えながら、こっくりと頷きました。
すると、突然、女の人は女の子の手を取りました。その手は細くて、氷より
もっと冷たく感じられました。女の子は、もう声も出なくなって、ただ、
その手を振り払おうとするのですが、その手は女の子が振りほどこうとすれば
するほど、女の子の腕に食い込んでくるようでした。

「なんでもするというのなら・・・それなら、おまえを人形にしてやる・・・」
女の人はそう言うと、そのまま女の子を連れていってしまいました。その日
から女の子は消えてしまい、どんなに探しても、誰にも見つけだすことはでき
ませんでした。

ただ、あのお墓の上には、今も女の子そっくりの人形があるそうです。あなた
の家の近くのお墓に人形があったら、それは、あの女の子かもしれません。


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