Random Disc Review #10
Michelle Shaprow - Purple Skies (P-Vine, 2011) → amazon.co.jpへ

天才作曲家

たまたま NHK-FM「世界の快適音楽セレクション」で耳にした "Ferris Wheel" にヤラれた。声・曲・アレンジともドツボにはまり一耳惚れ。こんなことはチボ・マット以来の衝撃(12年ぶり)かも。早速アルバムを入手して全曲聴いたが、どの曲も素晴らしくて圧倒された。基本的にはR&B風のポップスで、声の良さ(カワイイ)と完璧な歌唱力も大きな魅力だが、それだけではない深みがある。いわゆる歌姫というだけでなくソングライターとして、複雑なコード進行に乗っかったスムーズなメロディ作りの才能は並外れている。例えば、"If I Lost You" のヴァースとコーラスが最後に融合するとこなんか見事だ。誰々の影響というのが見えないメロディの新鮮さ・変幻自在なアレンジ・快楽的音響は、やはりチボ・マットを思わせる。他に感覚的に近いのは、スクリッティ・ポリッティ"Ferris Wheel" のエンディングは "Word Girl" の引用か?)、プリファブ・スプラウト、バート・バカラック、ミシェル・ルグラン"Windows" はフランス映画の主題歌のよう)、ブライアン・ウィルソン、プリンス(?)…その辺が好きな人は要チェック。珠玉のポップ・ソング集ってことでは、ポール・ウィリアムスの「Someday Man」(ロジャー・ニコルス作曲)に近いものがある。ただ、日本人との共作1曲はハウス風で他と異質、しかも曲が弱い。入れない方が良かった。

Keith Jarrett - The Koln Concert (ECM, 1975) → amazon.co.jpへ

フォーク、カントリー、ゴスペル、R&B的メロディの奔流

全くの即興でありながら豊かなメロディーが次から次へと溢れ出て来る驚異の「ケルン・コンサート」。イントロ(かつてTVCMに使用された)から美しい世界が広がるパート1は親しみやすいフレーズ満載で飽きさせない。ダンサブルなビートが延々と続くパート2は比較的地味だが、その構築性は驚くばかりで、流れが実に自然かつ効果的。鮮やかな場面転換もあり、バート2bの後半、繰り返されるビートがドローン状になって催眠効果が高まった末に、彼方から甘美な旋律がフワーッと浮かび上がってくるところなんぞは鳥肌もの。アンコールのパート2cは曲としての完成度が高く、あらかじめ作曲されていたものと思われる。

彼のソロ・ピアノはアメリカのポビュラー・ミュージック(フォーク、カントリー、ゴスペル、R&Bなど)がルーツにありながら、時にはモーツァルトやベートーヴェンみたいになるところもあったりして、クラシカルな要素は古典派からロマン派〜現代音楽まで縦横無尽。逆にジャズっぽさは薄い。4ビートには絶対ならない。

ソロ・ライヴ録音は多数出ているが、おすすめは最初の「Solo Concerts: Bremen & Lusanne」、日本での5公演を収めた「Sun Bear Concerts」、アンコール "Mon Coeur Est Rouge" が絶品の「Concerts: Bregenz/Munchen(ヨーロピアン・コンサート完全版)」

V. A. - The Best of Bond ... James Bond (東芝EMI, 2008) → amazon.co.jpへ

ボンド主題歌まとめて一枚に

年代順にオリジナル・ヴァージョンでほぼコンプリート収録。これは便利だ。
前半はそれぞれの時代の空気を感じさせる名曲がズラリ。中でも『ロシアより愛をこめて』"From Russia With Love"(歌:マット・モンロー)や、ソフト・セルがカヴァーした『007は二度死ぬ』"You Only Live Twice"(歌:ナンシー・シナトラ)は素晴らし過ぎる名曲中の名曲!
後半になると多少質は落ちるが、『カジノ・ノワイヤル(2006年)』"You Know My Name"(歌:クリス・コーネル)はカッコイイ!
番外編の『カジノ・ノワイヤル(1967年)』(バート・バカラック作曲)と『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(ミシェル・ルグラン作曲)が入ってないのは残念だが、収録時間も目一杯だから仕方ないか。

中山忍 - アイドル・ミラクルバイブルシリーズ (Sony, 2005) → amazon.co.jpへ

音程の不安定さが快感に?

全シングルAB面をデジタル・リマスターで完全収録し、楽天使(河田純子・田山真美子・中山忍の期間限定ユニット)名義のアルバムから天地真理のカヴァー2曲を含めた18曲入り。コンプリート・ベスト(決定版)と言える内容。

いつ脱線するかとハラハラ・ドキドキ、見守ってあげたくなる危なげな歌唱、力の抜けた透き通る声質が魅力的で癒される。純情で控えめなキャラがたまらん。とりわけデビュー曲 "小さな決心"(1988年)は今や絶滅してしまった清純アイドル歌謡の最後にして最高傑作ではないか。切ないサビ「わたし初めてだーからー♪」に胸キュン。極め付けのフニャフニャ歌唱は巻上公一作詞・奥田民生作曲 "光のオペラ"(1990年)で炸裂する。コンピューターで不自然なまでに音程補正するのが当たり前になった昨今では、このような天然な歌が音盤に刻まれる機会はめっきり減っているから貴重だ。ゆらぎに微妙なニュアンスというか味があっていいのだ。正確に歌えばいいってもんじゃない。無味乾燥ではつまらない。

前半はほとんど後藤次利作曲。胸を締めつけるサビがあったりするものの、80年代後半(J-Pop以前)の歌謡曲然としたシンセ主体の音作りが今聴くと古色蒼然。それが終盤になると小西康陽らピチカート人脈(より正確にはテッチー人脈か)が動員され、様相が一変。YOU作詞・戸田誠司作編曲のシングル "箱入り娘の嘆き" はテクノ歌謡にセックス・ピストルズ風ギターが融合したキャッチーな佳曲。高浪慶太郎作曲・小西康陽編曲のラスト・シングル "ロマンティック" も味わい深い。ちなみに90年のラスト・アルバム「箱入り娘」は、ピチカートでセルフ・カヴァーされる "ラメント No.5" のオリジナル・ヴァージョンも含まれ、その筋のマニア垂涎の幻盤?(小室哲哉提供の捨て曲が邪魔なんだが…)

アイドル歌謡からJ-Popへとトレンドがシフトしていく端境期はこの辺だったのかもしれない。このディスクには消えゆくアイドル歌謡の最後の輝き(あがき?)が封じ込められている。

中山忍:1988〜90年の間に8枚のシングルと4枚のアルバム(1枚はベスト盤)を残して歌手活動を休止。現在は女優として主にサスペンス系に多数出演中。ちなみに中山美穂は実の姉。(独り言:姉より妹の方が圧倒的にイイ)

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