貴乃花

29日の読売新聞夕刊一面において、「駆け引き相撲に怒る鬼」という見出しで、横綱決戦を制し鬼の形相で土俵に立った貴乃花の想いが解説されている。

なにを隠そう、ボクは大鵬の時代からの大相撲ファンである。
ふだんテレビをほとんど見なくなったものの、27日の夕方はテレビの前にいた。

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前日の武双山戦で右膝を阿脱臼し、千秋楽を休場すると思われた横綱・貴乃花が強行出場し、結びの一番で武蔵丸と対戦した。
結果は報道ですでにご存じと思うが、あっけなく敗れたために優勝決定戦となり、再び武蔵丸と対戦し、奇跡的な勝利を収めて優勝を果たした。

それでは悪魔になりきって、貴乃花の作戦を想像してみよう。


武蔵丸は気がやさしい上に、大けがをしている自分とは取りにくいはず。とはいっても、どう考えても本割りでまともにぶつかっては武蔵丸に勝てそうもない。ならば、さらなる武蔵丸の動揺を誘うべく、結びでは簡単に負けてやろう。当たった瞬間に転んでしまおう。けが人と決定戦で再度勝負をする、居心地の悪さを助長してやろう。長引けば膝への負担も大きいし、どうせ捨てる勝負ならすぐに負けた方が都合がいい。これで、武蔵丸は精神的に相当つらいはずだ・・・
たしかに自分の膝は激痛を伴ってガクガクしている。しかしそれを耐えて、武蔵丸の想像になかった取り口をすれば、勝てるかもしれない。お客さんも、それを望んでいるはずだ・・・
おそらく武蔵丸は、私が捨て身の変化をするか、いつものように左の前みつをねらってくると思っているだろう。ならば、立ち合いからつっぱってやろう。意表をつかれ、ひるみながら受けるはず。そこで左上手をとったらすぐ投げよう。相撲が長くなれば、止まってしまったら、勝てない・・・
いや、どんなことを考えていたかは、本人にしかわからない。または、絶体絶命の極限状態では“無心”だったかもしれない。
お相撲さんでだれが好きかといえば、出てきた当時からずっと貴乃花だ。どちらの四つでも取れ、つっぱりもあり、基本に忠実な正攻法で戦い、駆け引きをせず、感情をいたずらに表に出さず、負けた相手に礼儀をつくし、常に勝ち続ける。
言葉にすればごく当たり前のこれらの美学を実践しているのが、貴乃花なのだ。その彼が、初めて見せた鬼の形相。
常に強いものや王道に反発し、判官びいきをしてしまうボクだが、レッドツェッペリンと貴乃花だけは、なぜか例外なのである。

上記の悪魔が述べたことは、本当はどうでもよいことだ。30年以上相撲を見てきて、初めて涙が溢れてきたのだから。

2001/5

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