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7.目の中で遊ぶ孫

「博司!! 外へ石、投げたらあかんでー!!」
孫の博司、5才を庭で遊ばし、芳光は、自作飛行機を作っていた。芳光は日頃から、博司を目の中に入れても痛くないほど、かわいがっていて、近所でも評判になるほどだった。今日は、芳光が大阪は南で開業している山田眼科の定休日、つまり日曜日で、昼前に起きて来て、一ヶ月ほど前から作りだしているアメリカ製の木製マイクロライト「コアラ」という機体を、庭の見える広い洋間で作っていた。「コアラ」といっても動物でもなければ炭酸飲料水でもない、飛行機だ。

今日から主翼を作るので、それに使うスプルースの木が反っていないか、細長い木の端に目を近づけ、片目で見ていた。さすがに目医者だけあって、視力はかなりのものだった。

一方、孫の博司は庭にある、ブランコ、鉄棒、スベリ台に飽きて、石を投げて遊んでいた。博司は自分の投げた石がブロック塀を越すのがおもしろいのか、外へ投げていた。

突然、「痛っ!! あ〜〜ガシャン」という音がした。博司は自分が投げた石が、誰かに当たったという事は、すぐにわかった。そして、芳光の方をうかがった。芳光は飛行機作りに夢中で気が付いていないようだった。博司は、知らないフリオ・イグレシアスして、罪悪感をかかえたまま、ブランコに飛び乗った。

そして、その石の被害者は、そば屋の出前だった。石が頭に当たり、自転車がよろけ、電柱にぶつかり、脳震盪をおこして倒れていた。そこへ、32、3才の婦人が通りがかり、そば屋を見て驚き、救急車を呼ぼうと公衆電話へ走った。その時、道ばたで昼寝をしていた犬の後ろ足を、ハイヒールのかかとで踏んでしまった。「キャイーン!!」犬は飛び上がり、大きな鳴き声を上げてクサリを引きちぎって、路地を大通りへ向かって走り出した。

そして、大通りへ出た出合い頭に、白い乗用車にはねられた。犬は即死、その車は10秒ほど止まっていたが、すぐに走り去ってしまった。

そして、その即死の犬の所へ、三輪車に乗った男の子が近づいて来た。男の子はよそ見をしていたため、犬の死体に乗り上げ、犬の死体の上に倒れ込んでしまった。男の子は驚きのあまり声も出ず、目をむいて、犬の血で血まみれになり、三輪車を引きずり、歩き出した。

しかし、その三輪車には犬の死体がひっかかっていて、犬の死体も一緒に引きずって歩いていた。そして、博司の家の前の道でそば屋の出前と、その自転車を引っかけ、博司の家の門を開けた。そう、その男の子は、博司の二つ上の兄の隆だったのだ。隆は血まみれで目をむき、三輪車と、犬の死体と、そば屋の出前と、自転車をズルズルと引きずって庭へ入って来た。すごい力だ。

博司は、隆をみたとたん、血の気がひき、口を開け、目をむき、ブランコから落ち、腰をぬかし、その場で這いずり回った。博司は声も出ず、芳光の方へ逃げようとしたが、ただ手足をばたつかせているだけだった。

芳光は、相変わらず後ろ向きで、スプルースの細長い棒をのぞき込んでいた。博司は、やっとの思いで芳光の方へ近づき、そして、芳光の背中に飛びついた。芳光の目はつぶれた。

二ヶ月後、芳光と博司は散歩をしていた。芳光は、両目をパッチリと開け、幸せそうにほほ笑み、歩いていた。そして、芳光の手につながれている博司の右目はなかった。



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  8.ガチョーン!

   ガチョーン  いやーん、いやーん、いやーん  ンーン、さみしーい
   ごめんなさーい、わるかった  うれしカルカル  笑いチャンチャコ
   ほんまにもう、むちゃくちゃでござりまするわ  あっ、お呼びでない、こらまった失礼
   よいしょ、あー忙し、あー忙し  〜で、おまんねやわ  しょんなん言うたら、あかん
   〜〜君ではあーりませんか  スキがあったら、かかってこんかい!! くっさー
   えげつなー  おっさーん  アヘ、アヘ、アヘ  やんな  いいじゃなーい
   どったの?  ちょっと待って  ナハ、ナハ、ナハ  それはウソです  オヨヨ
   しゃいならー  マンマンチャー アン
   玉子の親じゃ、ピーヨコちゃんじゃ、ピーピーピーヨコピー アヒルじゃガーガー
   ポテチン  やめて、そめて、うすめて、きえて  アーホー  待ってくんろー
   ボヨヨーン  ケーロヨーン、バーハハーイ  ウッシッシッシ
   じょんじょろりーん じょんじょろりーん  どんなかなー
   どうして、どうして、おせーて、おせーて  シェーー
   ごめんくさい、こらまったくさい、あーくさー  夢もちぼうもないね  やめてちょ
   まかせなさい  アジャパー  誰がカバやねん  あんさん、別れなはれ
   言うて、みてみてみー  そうやがな そうやがな そうやがな
   やまの、あな、あな、あな・・・・・・
   短びの キャプリキとれば、スギチョビレ、スギ書きすらの、ハッパ、フミフミ
   さるまた、どっこいしょ  アッと驚く、タメゴロー なぬ
   びっくりしたなあーもうー  あなたのお名前何てェーの?
   カンチョー しちゃうから  オー モーレツ
   
   LOOKチョコレート  うぐいすボール  ベロベロ  ポンせん  冷しあめ
   わらび餅  はったい粉  そばボーロ  イモあめ  カルミー  スルメ
   サイコロキャラメル  チチボーロ  都こんぶ  マーブルチョコ  チビチョコ
   アーモンドキャラメル  パラソルチョコ  エンゼルパイ  チョコボール
   バクダン  ラムネ  イモけんぴ  ポン菓子  ウエハース  メガネチョコ
   穴のあいたドロップで、吹くと「ピー!!」と鳴るヤツ
   透明の太いストローに、赤やら 緑やら 黄色やらのゼリーが入っているヤツ
   チューブに入った チョコレート  赤胴鈴之助の当たりくじ付の豆
   ヒモのついた、アメ、ガムボール  シスコのコインビスケット
   パステルカラーのゼリービーンズ  ポン菓子をボールにしたヤツ
   そのまま食べるラーメン  最後まで食べてしまえるガム  甘い味の付いた紙
   カンパン  カステラのヘタ  サンリツパン  リッチパン  山パン  むしパン
   うぐいすパン  ロシアパン  ハチミツパン
   巻き貝型のチョコレートパン(コロネ)  ピーナッツロール
   甘納豆パン  レーズンロール  ウエハースパン  メロンパン

   ジャジャ馬  億万長者  名探偵フィリップ  おそ松君  モーレツア太郎
   ミスターエド  ケペル先生  宇宙エース  パピー  ソラン
   スーパージェッター  スーパーマン  グズラ  遊星仮面  ブースカ
   まるでダメ男  グーチョキパー  ポパイ  アトム(人間)
   週刊新潮は只今発売中です  鉄人28号  ハリマオー  メルモちゃん
   ビッグX  ウルトラQ  オバケのQ太郎  宇宙家族ロビンソン  アニマルワン
   紅い三四郎  柔道一直線  七色仮面  ガボテン島  オオカミ少年ケン
   キングコング  ドカチン  明るい農村  ひょっこりひょうたん島
   ロボタン  ゲゲゲの鬼太郎  ワンダースリー  ジャングル大帝レオ  JQ
   サンダーバード  少年ジェッター  光速エスパー  シャザーン  黄金バット
   シンドバットの冒険  ゴースト  トムとジェリー  バットマン  忍者部隊月光
   サスケ  カムイ  ぴゅんぴゅん丸  ピッカリビー  おはようこどもショー
   なるへそ君  マイティマウス  マイティハーキュリー  ゲバゲバ90分
   カリキュラマシーン  ワンワン保安官  エイトマン  ザ・ガードマン
   キーハンター  プレイガール  ライフルマン  怪人二十面相  怪傑ゾロ
   ヘッケルとジャッカル  ちびっこ大将  わんぱくトリデ  とんぼ天狗
   三バカ大将  ハリスの風  忍者ハットリ君(人間)  悪魔君
   カッパの三平  どっこい大作  おはなはん  いなかっぺ大将  チャコちゃん
   コメットさん  バンパイヤ  ドボチョーン一家  てなもんや三度笠
   どら猫大将  万国ビックリショー  チビッコのど自慢  ズバリ当てましょう
   スター千一夜  マグマ大使  人間モドキ・・・・・・ヒットパレード



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9.時間の裏側

モドキは、いつものように、カーペットの継ぎ目を椅子でまたいで足を組み、机に肘をついた。そして、おもむろにタバコに火をつけ、グラスを回し、中の氷を回した。

タバコを吸いながら、回る氷をぼんやりと見ていると、急に背スジが寒くなり、フワッと身体が 浮いた。いや、身体が浮いたのではなく、モドキ自身が身体から離れ出したのだ。そして、スーッ!! 一挙にモドキは、身体から離れ出た。

それは、どうしようもない恐怖を感じたが、モドキは自分でも驚くほど冷静で冷たく、無表情で時間の裏側のような感じだった。

モドキは今、天井の照明の笠の所にいる。そして、そこから自分の身体を上から見下ろしている。右肩が下がって、後頭部の毛が立っているのがよくわかった。そして、モドキの身体はぼんやりとアホみたいな情けない顔で、グラスの氷をながめていた。モドキは少しショックだった。
時計の針は午後8時37分だった。

モドキはアパートの壁をなんなくすり抜けて、隣の部屋に入った。そこは、どうも女の部屋らしかった。それは、とてもいい匂いがしていたからだ。部屋全体はクラシック調で品の良い感じだ。シャワールームで音がしているのでモドキは、無表情の顔のままシャワールームに入った。案の定、女はシャワーを浴びていた。

モドキは、上から下までなめるように見たが、湯気がすごいので、あまりよくは見えなかった。しかし、かなりの美人で、なぜか、英文タイピストだとわかった。モドキはさっきの部屋へもどり彼女の出てくるのを待った。

すると、ドアの方から競輪の選手が自転車で軽快に走って来て、モドキの前を通り過ぎようとした途端、その選手は突然、日焼けした野性的な全裸の女に変わってしまった。

モドキは「もう少しはやく変わっていたら、前から見れたのになあ」と一瞬、思ったが、競輪の自転車は前屈姿勢なので、後ろからの方がいいアングルで見れるはずだと思いなおし、その女の後ろ姿の自転車のサドルと女のケツの間を、突き刺すような視線で見た。しかし、なぜかその女の<ケツの穴からコスモスの花が咲いていて、よく見えなかった。モドキは無表情のまま、遠ざかって行くコスモスの花を見えなくなるまで見ていた。

そうこうしていると「カチャッ」シャワールームの開く音がして彼女が出て来た。彼女はバスタオルを身体に巻き、ソファに色っぽく腰掛け、テーブルに置いてあったエロ本を読み出した。

彼女は、しだいに顔を赤らめ興奮しだした。そして、タオルの胸元が少しはだけた。彼女は自分の形の良い乳房をゆっくりと愛撫しだした。モドキは、ナマツバを飲んだ。彼女は口元がゆるみ、すこし息づかいが荒くなって来た。そして手の動きを少し激しく、見ていたエロ本はテーブルに置き両手で乳房を愛撫しだした。しばらくすると、彼女は横になった。そしてタオルの前が完全にはだけた。モドキはまた、ナマステ、いや、ナマツバを飲んだ。

彼女は、右足をテーブルにかけた。そして、左手はそのままで右手が滑るようにそこへ下がって来た。モドキはナマハゲ、いや、ナマツバを飲んで、グッと近よった。彼女の右手中指はあらわに広げられたマンゴの実の中に滑り込んだ。口からは小さな吐息がこぼれ、身体は波うち、腰が大きくゆっくりと上下した。

その時、テレビがつき、竹村健一がブツブツのケツを出し、太股を自分で指さして「まあ、だいたい部やねえ」と言った。モドキは今はええとこやから絶対に見ないようにしようと思ったが見たらあかん、見たらあかん、と思えば思うほど見てしまうのだった。今度は竹村健一の顔がアップになり、一九分けの髪の毛を反対から分け変えるといった「竹村健一の逆一九分けのコーナー」という場面になった。竹村健一は、それをされながら、あの口調で「こらぁ〜話にならん!!」と言っていた。
モドキは、覚めかけたので必死に彼女の方を見た。彼女は、先ほどのなまめかしいポーズのままで身をくねらせていた。

彼女は、人差し指と中指でマンゴを押し広げ、種をむき出した。「アーッ!」彼女は激しくうめき声を上げた。そして、モドキも激しくマンゴにむしゃぶりついた。彼女は昇りつめ、そして、興奮のあまり聖水を吹き出した。モドキは聖水を浴びながらジッパーを下ろした。そして、彼女を見ると、それは、彼女ではなく、坂田明さんがステテコ姿でソファに横になり、扇子を広げ、胸元をあおぎながら、田中角栄のものまねで「まぁ、その〜」と言っていた。

モドキは驚き、首を横に振って、もう一度よく見た。すると、先ほどのなまめかしい彼女だった。モドキは安心して、ピカピカに光った自分自身のスプーンでマンゴを深くすくおうとした途端、「ジリリリリーン!ジリリリリーン!」けたたましい電話の音。モドキは、すごい勢いで、モドキ自身の身体に吸い込まれた。「ハッ」モドキは、グラスの氷を回していた。モドキは勃起していた。
「ジリリリリーン!ジリリリリーン!」そして、受話器を取った。「モシモシ」「オー、モドキか?オレや、テルキや」モドキの勃起していたものが一瞬にしてうなだれた。この時ほどモドキは、テルキを憎んだ事はなかった。

時計の針は、午後8時39分をさした。
スプーンは、させなかった。



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10.鏡の中

「ガチャ・・・スーッ バタン!」

政夫が帰って来た。いつものように、午後10時半だ。政夫は何も言わずにキッチンにやって来て、着がえもせずにテーブルについた。そして、隣の椅子にカバンを置き、ネクタイを少しゆるめた。日出子もまた、何も言わない。それは日出子が何を言っても、政夫はうるさそうに「ウーン」としか言わないからである。そして、日出子は、政夫の毎日の同じ仕草を見ながら、ご飯をよそった。

政夫は、タバコは吸うが、酒は一滴も飲まないので、ただモクモクと食べていた。日出子はそれを、向かいの椅子にすわって、頬杖をつき、さみしそうにだまって見ていた。

そして、いつも政夫は、夕食を食べ終わるとお茶を一口飲み、チラッと申し訳程度に日出子に目をやり、サッサと自分の書斎へ引っ込んでしまうのである。今日も例外なく、その通りであった。

日出子は、夕食の後片付けをしながら、深いため息を一つついた。すると、口から、タコやイカのように真っ黒なスミが(モクモクモク)何の抵抗もなく(モクモクモク)とめどなく(モクモクモク)あふれ出て来た。日出子は、ただ茫然と、口を開けたまま立っていた。

あたりは、アッと言う間に、まっ暗になった。何の光も入ってこない、ほんとうの、まっ暗闇じゃござんせんか。

日出子は、我に返った。手に持っていたはずの、政夫の茶わんと、ママレモンの付いたスポンジを持っている感覚がない。日出子は、手を振ってみた。やはり、何も持っていない。そして、自分の顔をさわってみた。顔はある。肩、腕、(ウン?おかしい)胸、(アレ!?服がない、裸?)腰、ケツ、(アレ!?)大事な所、(アハ〜ン)何もきてない、まる裸だ。

日出子は、とりあえず歩き回った。テーブルもなければ椅子もない。ここはどこなのだ、キッチンではないことは、わかった。日出子は、歩き続けた。しかし、なぜか上下の感覚がなく、上に歩いているような気もするし、下のような気もする。とにかく、歩いた。音のない、まっ暗闇だが、日出子には恐怖感はなかった。どのくらい歩いただろうか。目の前を光が、スーッと横切った。日出子は、引っぱられるように、その光を追った。そして、だんだん近づき、そして、追い付いた時には、その光の中に入っていた。

その光の中は、永久に光が走り続けていた。日出子の影も、永久に広がる空間の形に、忠実に走り続けていた。宙にポッカリあいた、この空間はどこにつながっているのか、誰も知るものはいない。ただ、この空間は、光のスピードで広がり続けているのだけは、確かだった。

日出子が右足を上げれば、その影は光のスピードで後を追った。しかし、不思議なことに、半分は左足を上げていた。

日出子と同じ右足を上げている影を見ると、みんな、ほかを見ていた。そして、左足を上げている影を見ると、それは、必ず、こちらを見ていて視線が合うのである。

一方、政夫は書斎で、本を読みながら寝てしまっていた。そして、夢を見ていた。

その夢は、政夫は、鏡を見ていた。すると、その鏡の中の自分が、ゆっくり、グルーッと後ろを向いた。政夫が自分の後頭部を見て驚いていると、後頭部の自分は、鏡の奥へ向かって走り出した。政夫は、とっさに追いかけようと身を乗り出したが、鏡で、デコを打ってしまった。しかたなく見ていると、鏡の中の自分に、大小の歯車が、ゴロゴロと転がって来たり、飛んで来たりして、自分は、のたうちながら逃げ回っている。政夫は、それを見て、鏡に両手をあて、大声で「逃げろ!!逃げろ!!」と、叫んでいた。政夫は、汗ビッショリで、動悸が激しく、心臓が破裂しそうだった。まさに、鏡の中の自分と、つながっていた。

突然、鏡に、政夫自身の赤い血管に包まれた、カミソリの刃が映った。それは、激しい動悸で(ドキドキ)血管がふるえ(ドキドキ)今にもカミソリの刃に触れそうだった。(ドキドキ)もう、これ以上、動悸が激しくなると血管は、政夫の血管は無惨にも切り裂かれるであろう。

すると、今度は、大きなビルディングが映り、鏡の中の自分に迫って来た。鏡の中の自分は、それに向かって走り出した。(どうしようと言うのだ、体当たりでもする気なのか)激しい動悸が、なお一層、激しくなって来た。政夫は思わず「やめろ!!やめるんだ!!やめてくれー!!」鏡の中の自分には、政夫の声が聞こえはしないのだ。政夫は、手に汗をにぎって拝むように見ていた。

鏡の中の自分は、その大きなビルディングに向かって走って行き、全身の力をふりしぼってジャンプした。飛び越えようとしたのだ。その時「ドキッ!!」「アーーーーー!!」

「ハッ!!」政夫は、目を覚ました。汗ビッショリになっていた。政夫は、少し、朦朧としていたが、手で頭をコンコンと叩き、頭を振って時計に目をやった。午前7時5分、もう、起きなければならない時間だった。

政夫は、書斎を出て洗面所へ行き、顔を洗った。なんとなく鏡を見るのが恐かったので、見ないようにした。そして、キッチンへやって来た。アレ?朝食の支度が、まるでできていない。できていないどころか、昨日の夕食の片付けの途中のままである。いつも、午前7時には、パンとコーヒーと、スクランブルエッグにサラダが用意できているはずなのだ。結婚してから、未だかつて、こんなことは初めてだ。政夫は呼んだ。「日出子!日出子!」返事がない。政夫は、部屋中探し回った。日出子の姿はない。政夫は、キッチンに戻って来た。そして、時計を見た。途端「ガチャーン!!」その時計が落ち、歯車が飛び散り、政夫を襲った。政夫は、それをうまくよけたが、時計の針が腕に突き刺さった。
鏡には、カミソリの刃を持って、ほほ笑んでいる、日出子が映っていた。



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11.山岸 明

「ぉぃ・・・・・・おーい、聞こえるか?おまえや、おい!」
「アレ!? ダレや!? どこにいる!?」
「キョロ、キョロしても無駄や、ワシにはおまえが見えるが、おまえにはワシが見えない」
「アレ!? ダレや!? どこにいる!?」
「キョロ、キョロしても無駄やて、言うてるやろ!ワシにはおまえが見えるが、おまえには」
「アレ!? ダレや!? どこにいる!?」
「ひつこいヤツやのー!! そやから」
「アレ!? ダレや!? どこ」
「アホか!おまえは!! おまえの目の前におるんじゃ!! キョロ、キョロすな!!」
「エーッ目の前に?ダレもいてへんやんけェ」
「おまえ、何も聞いてへんのか!おまえにはワシが見えへんのやて、さっきから言うてるやろ!!」
「ほんまけェ なんで見えへんねん?おまえダレや?」
「ワシは、田中一夫という、死神じゃ」
「へェー、死神のくせに、えらい平凡な名前やのう」
「ほっとけ!! ワシも気にしてるんや、そんな事より、おまえは明日の午前10時3分で死ぬ事になったんや」
「ガーーーン・・・・・・・・・、そ、それは、ほ、ほんまか!?」
「ほんまや」
「ウ、ウソや!ウソやーッ!! ウソに決まってるー!! オ、オレはまだ死にたないわー!!」
「かわいそうやけど、これは順番や、しゃあないわ」
「ウワぁーー!! クソーー!! おまえなんか、先に殺したる!!」
「アホか!! ワシは死神やど!この世の人間に殺せるわけないやろ!まあ、あきらめて・・・なあ、山岸明君、アハハハハハハハハハハ 死ね

山岸明は、泣きわめきながら自分の部屋を飛び出し、愛車のドゥカッティ、マイクヘイルウッド900ccデスモに、ヘルメットも着けずに飛び乗った。ガソリンは昨日、入れたばかりで満タンだった。そして、割れんばかりにエンジンをふかし、夜の街へ飛んでいった。

街は、午前1時過ぎだというのに人々がひしめき合い、かなりのにぎわいだった。さすがに金曜の夜だ。しかし、厳密には土曜日になっているのだが、人々は金曜の夜の延長を酒に酔い、うかれ気分で楽しんでいるのだった。

4〜5人で肩を組んで笑いながら歩くサラリーマン、若い男女が冗談を言い合いながら通り過ぎる、鼻歌を唄いながら行くチンピラ、大学生のコンパのバンザイ、アキラは、その何の心配事のない、まして、今は死ぬことなどは考えてもみない顔が憎たらしかった。

そして、アキラは酔っぱらいのおっさんを細い路地に引っぱり込み、思う存分、殴り、蹴り飛ばした。そして、財布を抜き取った。6万円ほど入っていた。アキラは、それから金持ちそうな酔っぱらいを5人、路地で殴り蹴り飛ばした。金は全部で55万円ほどになった。そして、その金をGパンのポケットに押し込み、目についた黄色いカンバンの「クレイジー」というスナックに入った。

店内は、文字通り、気ちがいのようなさわぎだった。カラオケではハゲの下腹部の出たおっさんが、昭和ブルースを歌っていた。「生まれた時が悪いのか〜 それとも、オレが悪いのか〜」「そうじゃ、おまえが悪いんじゃ!!」アキラは、そうつぶやきながら、一番奥の四人掛けのボックス席に腰を降ろした。

センスの悪いエンジ色のフランス王朝風の椅子が、いやに気になった。アキラは、ふだんは別に気にもならない事が、いちいち気になったが、それは、今さらどうでもよい事だった。

そこへ、赤いチャイナ服のスリットが、腰のあたりまで入ったドレスを着た、たいへん色っぽい女がアキラの顔をのぞき込んで「どうなさったの?むつかしい顔をして、はじめてのお客さんネ、何になさいますか?」女はまわりがうるさいので、少し大きめの声でアキラの耳元で言った。熱い息がかかった。

アキラは、いつもなら少しはドキッ、として、かっこをつけるところだが、むつかしい顔のままで「レミを一本入れてくれ」と無愛想に言った。

カウンターでは、カウンターをはさんで腕相撲、手品、トランプ占いなどで盛り上がっている。隣のボックスでは、若者たちが、ギャー、ギャーさわいで水割りのかけ合いをしていた。そして、そのシブキがアキラの顔に飛び散ってかかった。アキラはうるさくて、イライラしていた所へ、顔にかかったので、カーッと頭に血が上り、こぶしを作って立ち上がろうとした。その時「おまたせェ〜!」先程の女が、レミと水割りのセットを持って来てアキラのすぐ隣にすわった。スリットが大きく割れて、白い太股がアキラの前に放り出された。

女は、カラオケにリズムを合わせながら、水割りを慣れた手つきで作った。アキラはそれを一気に飲みほし、次はストレートで三杯、たてつづけに飲んだ。女は驚き「お客さん、だいじょうぶですか?何かあったんですか?」アキラは何も言わず、スリットの割れ目へ手を差し込んだ。「いやー!! やめて下さいよー!!」アキラは、その美しいチャイナドレスをスリットの所から、ビリビリに引き裂いた。そして、女の顔を平手打ちし、レミをラッパ飲みで、口に含み、女に吹きかけた。まわりのざわめきが一瞬、シーンと静まり返ったが、アキラはかまわず、さっきの隣のボックスのガキどもの顔を殴り、蹴り上げ、そばにあった花ビンを投げつけ、めちゃめちゃにした。

ガキどもは死んだ。店の女たちは一斉に悲鳴を上げた。アキラはカウンターに座っていた客も、後ろから首を絞めて殺し、そのまま、後ろにひっくり返した。すると店の奥から、こわそうな、お兄さんが3〜4人、飛んで出て来た。アキラは手に持っていたレミを、ゴクッと一口飲んで、そいつらに投げつけ、店を逃げ出した。そして、表通りに止めてあったドゥカッティに飛び乗り、大通りを矢のように走り去った。後を追いかけて来た、こわいお兄さんたちは、もう少しの所で、地団駄を踏んだ。

アキラは、顔がゆがまんばかりに飛ばした。心の中で「もう、どうにでもなれ!! どうせオレは・・・・・・」アキラは悲しげに苦笑した。

しばらく走っていると、パトカーがサイレンを鳴らして追いかけて来た。「前の単車!! 止まりなさい!! 前の単車!!」アキラは、また悲しげに苦笑して、スロットルを全開にした。アキラを乗せたドゥカッティは、アッという間にパトカーを引き離し、見えなくなった。アキラは、この時思った。「さすがにドゥカッティだ。トルクが強く、加速がいい。そして、エンジンの振動が身体にズンズン伝わって来る」そして「張り込んで買ってよかった」と思った。

アキラは、夜の街を疾走し続けた。途中、ボコッという音がして、アキラは大きくよろけたが、すぐに体勢をとりもどした。後ろにはネコが砕けていた。アキラは、どうでもよかった。そして、しばらく走っていると、カチャカチャと牛乳配達、そして、新聞配達が、ちらほら見かけだした。その若者たちは、後ろの方から聞こえて来る、けたたましい単車の音に首をすくめ、道路の左側により、それをやり過ごそうとしていた。それは、暴走族だと思ったからだ。

アキラは、広く開けられた道路の真ん中を突っ込んで来た。そして、彼らを左足で、次々に蹴り倒した。彼らは、ガードレールや電柱に、いやというほど叩きつけられ死んだ。アキラは、たいへんな興奮状態で、目の下にクマができ、目は血ばしり、もう、すでに、殺人鬼と化していたのである。

あたりは、しだいに明るくなり、朝日がアキラの目に突き刺さった。アキラは、なんとも言えず悲しく、涙があふれて止まらなかった。アキラを乗せたドゥカッティもその涙と同様、止まらず、走り続けた。

そして、アキラは、横断歩道で朝の通勤、通学の列に突っ込んだ。「ドーーン!! ガシャーーン!!」「ウワーッ!! キャー!!」

15人ほどがはね飛ばされ、そのうち、5人が即死、5人が大ケガ、アキラも転倒して飛ばされ、肩と手、足をすりむき、頭を打った。アキラは一瞬、ふらついたがなんとか起き上がり、頭から血を流しながらも、ドゥカッティを起こし、また走り出した。すると、すぐ後ろで、ザーーッとスルような音がするので後ろを見ると、マフラーの所に、一人、死体がひっかかっていて引きずっていた。アキラは無造作に足で蹴り離した。

アキラは、そのまま、高速道路に入り、山手に向かった。もちろん、金は払っていない。都心へ向かう車線は、ぎっしり渋滞していたがアキラが走っている下り車線はガラガラで、飛ばし放題だった。

アキラは、ふと、時計に目をやった。午前9時25分、アキラは無表情で走り続けた。すると、後ろから、すごい勢いで、パトカー、白バイが10台ほどサイレンを鳴らして追いかけて来た。アキラはスロットルを全開にした。しかし、パトカー、白バイはグングン近づいて来た。(高速では車の方が有利だし、日本の単車は速いのだ。)差はかなり縮められ、アキラは、次の出口で高速を下りようと思った。しかし、その出口は塞き止められ、おまけに道路の端から端まで、バリケードが張られていた。アキラは時計を見た、途端、「キーーッ!!」急ブレーキを踏んで止まり、もう一度、目をこすって、よく見なおした。午前10時13分、10分も過ぎている。

驚いているアキラの耳元で「おい、ワシや、聞こえるか?」死神の声だ。「おい、おまえ!! 何やこれ!! どうなってるんや!!」「ごめん、ごめん、間違うたんや、山岸明とちごて、山崎明やったんや、ごめん、ごめん、わるかったのー、まっ元気で長生きせえよ、ほな、さいなら、ポテチン」「アッ!おい!ちょっ、ちょっと待てや!! わるかったではすめへんど!! コラ!! 元気で長生きせえよやて、そんなアホな!」

アキラは、すでに何十人という警官に囲まれていた。そして、気が遠くなって行くその中で叫んだ。

「死神よーー!! 殺してくれーーー!!」



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12.狂蘭

           今さら、戻れるわけなどない筈さ

           この大きな流れを変えるのは 誰
           この大きな錯誤を変えるのは 誰

           いいかよく聞け、おまえは狂ってる
           そんなに驚くことはないさ 狂ってる
           みんながみんな狂っているから
           正常に見えるだけなのさ 狂ってる
           心配することはないさ
           行きつく所まで行けばわかるのさ

           いいかよく聞け、これが最後の警告
           生命の回転に逆らわなければ
           いいだけなのさ
           心配することはないさ
           行きつく所まで行けばわかるのさ
           おまえが死ねばわかるのさ

           今さら、戻れるわけなどない筈さ


           でも大丈夫…蘭、蘭、蘭