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伊崎豊道散文詩

展翅

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少女に関する四篇

ある休日のこと、 連れ立って近所の自然公園へと行った。 ある種の心労と睡眠不足からか 野原に腰を下ろしてから程なく 強い眠気に襲われた。 眠りから覚めると 血にまみれた野原。 ―これは君のものか? いつのまにか周囲に人気はなく、 遠景の奇怪な建物の頂点で 空の色が分かれるのを見た。 大気が光を散乱し、プリズムの役割をする、という話を思い出した。 ではあそこを飛んでいる虹色の蝶は 何を分離しているのだろうか?

目が覚めた。部屋には光が無い。 湿った空気と 重く、しかしながらやや快い香りは 傍らに寝そべる裸の娘の存在を表している。 かつてこの部屋は私の脳そのものであり、 この娘は私の水面に写る像、すなわち 実体であり尚且つ虚像でもある存在だったはずだ。 だが私の周りの圧倒的なその生命は その命ゆえに私の箱庭を雲散霧消せしめるのだった。

己の浅はかさ―それはいつまでも残る、彼を特徴づける性質なのかもしれない。 そのために安住の地を追われた放浪者は 河のほとりの集落で、その地の伝説を聞いたのだった。 話に出てくる娘は聖者と遊女の両方の側面を備えているのだと彼は理解した。 その娘が一人の男の魂を解放する様が 彼にははっきりと想像できるのだった。 娘の顔が一瞬見えたような気がした。 その顔に全く見覚えは無かったが、 同時に非常に懐かしく思えたのだった。

世の不条理によって 多くの少女たちがその人生を狂わされ、 命すら投げ出すのだと、世の識者たちは言う。 しかしながらこれは真実ではない。 血と水の原理によって 円環の運行が修正されることを 少女たちは感じ取ることができるのである。 娘たちが知ることは無い。 ただ 自らが反復の中に組み込まれていることを 彼女等のラビリンスによって 感じ取るのだ。

 

或る娘に就いて

娘よ―理を知らぬお前は父無し子を身籠った

娘よ―白痴の如き精神は

子に訪れる無惨な死を想うべくもない

娘よ―賢者の祝福、

その恍惚は

お前のものではない