4. ユーフォニアムの記譜法と移調について

1. ユーフォニアムの記譜法について

ユーフォニアムの記譜法は、ト音記号とヘ音記号の2種類におおまかに分類されます。

 一つは吹奏楽で使用されるバスクラリネットやテナー・サックスのパート譜のように、ト音記号上でin B♭(ビーフラット)、もしくはin B (ベー)の楽譜、つまり、実音よりも長9度高く記譜する記譜法です。このト音記号のin B♭の楽譜はトランペットやクラリネットが1オクターブ高い音域で、つまり実音よりも長2度高い記譜で使用しています。現在、イギリスやヨーロッパ諸国を中心に使用されている記譜法で、特に英国スタイルの金管バンドで使用されています。アメリカでも以前はこの記譜法が使われていた時期がありました。Euphonium T.C. (Euphonium Treble Clef)、「ユーフォニアム インB♭(ビーフラット)もしくはインB (ベー)のト音記号の楽譜」等と呼ばれます。

 もう一つはトロンボーンやチェロのパートと同じようにヘ音記号のin C (シー、もしくはツェー)の楽譜で、実音で表記される記譜法です。現在、日本やアメリカで一般的に使われています。
Euphonium B.C. (Euphonium Bass Clef)、「ユーフォニアム インC (シー、もしくはツェー)のヘ音記号の楽譜」等と呼ばれます。

 ユーフォニアムのパート譜の楽譜において、上記2つの記譜法が一度に使用されることは、ほとんどありません。したがって、初心者はこのどちらかの楽譜を読む事から始まりますが、吹奏楽からユーフォニアムを始めた方はへ音記号の楽譜を、ブラスバンドから始めた方はト音記号の楽譜を読むことが一般的です。

 中級者以上の方は、この2種類の楽譜を読む事が求められます。この事によって、ト音記号やヘ音記号で記譜された他の楽器の為に書かれた様々な楽譜をユーフォニアムで演奏する事が可能になるからです。

 上級者は、さらに難易度の高い曲を演奏する事になります。ヘ音記号では高音域の記譜において五線に収まらない加線上の音符が多くなり、楽譜が極端に読みづらくなります。その事態を避ける為に、へ音記号の楽譜上にハ音記号(テナー記号)を用いることがあります。

 また、へ音記号が主に使われているユーフォニアムの楽譜にト音記号が出てくる場合は、実音で奏します。チェロの楽譜の読み方と同じですが、ユーフォニアムの楽譜としては非常にまれな例です。しかし、チェロのパート譜をそのままユーフォニアムで演奏する時は、頻繁に出て来る記譜法ですので、上級者はこれらの楽譜も読む事が必要になります。

 その他の記譜法として、サクソルン・バスの記譜法としてフランスで、また、ファンファーレバンドで使用されるユーフォニアムの楽譜においては、へ音記号上に実音よりも長2度高く記譜される楽譜も使用します。ファンファーレバンドでは「Euphonium in B♭(ユーフォニアム イン ビーフラット )」もしくは「Tenor Tuba in B (テナーテューバ イン べー)」のパートの指定のされたヘ音記号の楽譜ですが、40年ほど前からはこのテナーテューバのパート名は使われなくなり、近年の楽譜ではユーフォニアムの名称が主に使用されています。また、最近の楽譜は2種類以上の異なる記譜をされた楽譜が含まれている事が多いので、この「ヘ音記号のインB♭」の楽譜を使用する事は稀になりました。

 プロフェッショナルのユーフォニアム奏者や指導者は、これらすべての記譜に問題なく対応する必要があります。

2. ユーフォニアムの移調について

 ピアノの楽譜やスコアを使って他の楽器が演奏した時に、その楽器の「ドレミ」の音の高さがピアノと異なる状態になる為に、楽譜上に記譜される音の高さを変える事を「移調」と呼びます。その移調されたパートの楽譜を用いてピアノと同じ音の高さ(実音)で演奏を行なう状態になっている楽譜に指定されているパートの楽器が「移調楽器」だと考えて下さい。つまり、オーケストラや吹奏楽等のスコアに記載されている各パートの楽譜の中で、読み替えをしなければ実音にならない状態の楽器、という事になります。

 ユーフォニアムは変ロ調の管を持ちますが、日本においてはユーフォニアムパートの記譜はヘ音記号のインCの楽譜を主に使用する機会が多いので、ユーフォニアムは移調楽器ではないと考える方が多いようです。しかし、この事はよく注意しながら考えてみる必要があります。

 英国スタイルのブラスバンドの奏者や日本の吹奏楽の奏者はインB♭のト音記号もしくはインCのへ音記号のパート譜のどちらかしか読まない方が多いようです。しかし、多くのユーフォニアムの協奏曲やソロの作品においては、ト音記号のインB♭の楽譜とヘ音記号のインCの楽譜の両方が用意されていることが多いのです。そして専門的にユーフォニアムを演奏する日本の奏者のほとんどは、現在、このどちらの楽譜にも対応出来るように訓練をしています。
 
 まだ日本では普及が始まったばかりですが、ファンファーレバンドと呼ばれるジャンルにおいては、これらの楽譜に加えて、インB♭のへ音の楽譜もユーフォニアムパートに含まれる事があります。ですから、この楽譜についても対応する事が必要になるわけです。

 しかし、ファンファーレバンドのスコアにおいては、インCのへ音で記譜されている場合と、インB♭のへ音の記譜がされている場合の両方が混ざっていますので、その作品の記譜の状態によってはユーフォニアムは移調楽器の扱いをされたり。移調楽器ではないという扱いをされる、と言う事が起きてしまいます。とても複雑ですね。

 さらに、B♭管を使用する私達ユーフォニアム奏者は、運指(指使い)でピストンやロータリーの「0番」(何も押さない状態)、つまり実音のB♭を「ド」と考える方と、「1・3番」つまり実音のCを「ド」と考える方と、両方の奏者が混ざっている事になります。この場合、楽譜ではなくて、楽器の「ドレミ」の運指そのものが「移調」をしている、もしくは、していない、と言う事になります。これは、トロンボーンのスライドの、ポジションのどこを「ド」とするか、ということをトロンボーン奏者が選ぶ事と同じ事がユーフォニアム奏者にも起きているのだ、と考えて下さい。この場合は、インCのへ音の楽譜を演奏するユーフォニアム奏者の中で、楽譜をすでに「移調」をしている奏者(1・3番を押して実音のCを「レ」と読んでレミファ♯ソ・・・と音階を読むとC音階)とそうでない奏者(1・3番を押してドから音階を読んでドレミファと読むとC音階)が混ざっている事になります。ですから、各奏者はそのれぞれの状況に応じてインB♭やインCの楽譜に対応する事になります。以下の表を見て参考にして下さい。

変ロ長調を演奏する場合

実音 B♭ C D E♭ F G A B♭
B♭読み ファ
C読み シ♭ ミ♭ ファ シ♭
運指 0 13 12 1 0 12 2 0

ハ長調を演奏する場合

実音 C D E F G A B C
B♭読み ファ♯ ド♯
C読み ファ
運指 13 12 2 0 12 2 12 1

 頭で考えるとすごく難しいですね。でも演奏すると、どのような楽譜の読み方をしても出る音は同じですから、聴いている方は「移調楽器」であるかどうかの判断をする事はほとんどできない。ですから「移調楽器」という「楽器」が存在するのではなくて、ユーフォニアムが移調楽器として扱われている状態のスコアやパート譜が存在している、と考える方が解り易いかもしれません。

 ですので、ユーフォニアムパートは移調楽器として扱われる事がありますが、移調楽器という楽器が存在するわけではありません。「スコアやパート譜の状況により、ユーフォニアムパートは移調楽器として扱われる事も、扱われない事もある、しかも奏者の楽譜の読み方によっても状況が変化する。」ということです。


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