日産リバイバル

第68回「カルロス・ゴーン氏、お前もか――新・日産リバイバルに必要なワークシェアリングの数式」(2009/02/18)

 日産自動車が2650億円の最終赤字転落と世界で2万人の人員削減を打ち出しました。
米国発世界不況の影響の直撃を受けての業績不振ですが、その遠因は日産本体にあるような気がしてなりません。
今回は日産社長とその親会社ルノーの会長兼CEO、カルロス・ゴーン氏の数式として考えてみたいと思います。

 最近のゴーン氏の発言で印象に残ったのが2つあります。

1)ビッグスリーの1つも欠けてはいけない。破綻整理があってはいけない

2)国が自動車業界を支援すべきだ

というものでした。

 1社でも破綻したら業界全体が大荒れになる、低コストファイナンスは必要という意味を込めたものでしょうが、
「ゴーン氏、お前もか」という思いを抱いた方も多いのではないでしょうか。
ビッグスリーのGM、クライスラー、フォードが米政府の公的支援を求めたときの姿とだぶって見えました。

 確かに米国発世界不況による、日本の製造輸出業への影響は甚大なものです。
昨年9.15のリーマンショック、その発端となったサブプライム問題が実体経済に与える影響が
ここまで大きなものになると想像した人は少数派でしょう。
しかし、です。

 経営者たるもの、口が裂けても政府の公的支援を求めたりしてはいけないと思うのです。
100年に1度の危機といっても気休めにはなりません。
企業にはどこかしら、この結果を招く原因が潜んでいたのです。

 日産の業績急転の原因は何だったのでしょうか。
言い切ると、過度のゴーン依存体質の弊害だったのではないでしょうか。

 1999年の日産の経営危機を、工場閉鎖や系列切りというコストカットを断行して
見事乗り切ったゴーン式企業再生術を賞賛した経営者も少なくないでしょう。
しかしゴーン氏のカリスマ経営がまさに、いまの日産の苦境を生んだ主因だったのではないかと思われます。

 それを裏付ける数字があります。それは日産の配当利回り、配当性向の高さです。

 配当利回りは現在の株価に対する配当額の割合を、配当性向は最終利益から配当に回る割合をそれぞれ示しますが、
日産はそのいずれも競合他社と比べて高いのです。

 ちなみに配当利回りを2月16日の株価終値で比較してみましょう。

 トヨタ4.62%、ホンダ3.91%に対し、日産は13.94%と突出して高いのがわかります。

 配当性向では、2008年3月期末で比べると、トヨタ25.67%、ホンダ26.01%、日産33.81%とこちらも高いです。

 一定の配当を確保しているのに対し株価水準が低ければ一様に配当利回り、配当性向ともに高くなりやすい傾向は確かにあります。
しかし、競合他社と比べてもこの数字は株主対策に厚い企業と見るのが普通でしょう。

 企業が利益を上げると次年度以降の設備投資や研究開発投資に回すと同時に、株主に還元しようとします。
日産のこの数字を見ると、同業他社に比べていかに株主に厚い企業であるかがわかります。



 日産の株価を語るには、その株主構成を忘れてはいけません。

 筆頭株主のルノーは発行済株式の44.3%を占める大株主です。
そしてゴーン氏は2005年4月からはそのルノーの経営トップでもあります。
09年1月からは欧州自動車工業会会長という公職も兼務しています。
つまりゴーン氏はルノーのほうばかりを見て、日産社長として仕事をしている、のではないでしょうか。

 日産の高配当政策は、日産からルノーへの上納金を厚くすることを意味することにほかなりません。
「とっても親孝行な会社」なのです。
ルノーもここ数年、業績が低迷していますから、日産から上がってくる収益には大きな期待を込めるのは当然です。

 ルノーを親会社に持つ日産のいびつさはもう1点あります。
手厚い利益還元対策は株主に対してのものだけではありません。役員報酬も巨額なのです。

 08年3月期、トヨタが役員33人で15億円、1人あたり4551万円なのに対し、日産は9人で25億円。
日産の役員は年俸制のため、単純にトヨタ、ホンダとの比較はできないものの、1人あたりの平均報酬額は2億7800万円に上ります。
さぁ、そのうちゴーン氏はどのくらいもらっているのでしょうね。
どうしてもビッグスリー首脳や米金融トップのような巨額報酬体質を思い出してしまいます。

 しかし一転09年3月期は悲惨な状況です。日産は役員賞与はゼロ、取締役、執行役員の報酬10%カットを打ち出しました。

 日産がなぜここに来て役員報酬カットを打ち出したのでしょうか。
この変更こそが、日産が「公的資金」を得るための布石ではないか、と思えてなりません。
先週、日産は米国政府に対して「電気自動車の生産と搭載バッテリーの開発」を支援するための融資を申請しました(最初の審査はクリアしたようです)。

 参考までに、親会社のルノーはフランスのサルコジ大統領から30億ユーロ(38億9000万ドル)の融資を受けています。
見返りは国内雇用の維持です。

 さて、金融機関の融資基準厳格化に対応して企業の資金繰りを下支えするため、日銀は企業が短期金融市場から資金を調達する
無担保の約束手形、コマーシャルペーパー(CP)を買い取ることを表明しました。

 が、このCP買い取りには条件があります。
発行企業の格付けが上から3番目の(a−)であること、さらに米国投資銀行のように巨額な役員報酬を支払ったりしていないこと、が挙げられているそうです。

 現在の日産の格付けは格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)で、投資適格ギリギリのトリプルBプラス(BBB+)です。

 役員酬のカットでCP買い取りに向けた条件整備に乗り出した、と考えるのが普通でしょう。


68回「カルロス・ゴーン氏、お前もか――新・日産リバイバルに必要なワークシェアリングの数式」(2009/02/18)

 仮に日産が政府資金を得たとしても、日産の明るい未来は遠いようにわたしには思えます。
なぜなら自動車市場を牽引するといわれる環境対応車(エコカー)の取り組みが遅れているからです。

 今年は三菱自動車が「i MiEV」を、富士重工業が「ステラ」という電気自動車(EV)をそれぞれ出し、
「EV元年」と呼ばれます。
昨年、リッター180円を超えたガソリン価格はやや安定していますが、中長期的にはガソリンが安くなることはなさそうです。
今後、エコカーはますます注目されます。

 ホンダが2月6日に発売した新型ハイブリッド専用車「インサイト」は当初見込んでいた注文を上回り、出足好調のようです。
落ち込んだ自動車販売の中で唯一活況が見込めるエコカーなのですが、ラインアップが競合他社にくらべて少ない
日産はスタートダッシュで出遅れ販売機会を失う一方です。
今後、どれだけ追いつけるか、ゴーン氏も正念場でしょう。

 日産はNECとEV向け電池の共同開発を進めていましたが、結局、EVは来年投入することになりそうですね。



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日産自の格付け、ムーディーズが2段階引き下げ

ムーディーズ・インベスターズ・サービスは25日、日産自動車の発行体格付けを「A3」から「Baa2」に2段階引き下げたと発表した。
自動車業界では金融危機を受け世界的に販売が失速している。
ムーディーズは「日産自の収益性とキャッシュフローは大幅に悪化した。
2009年3月期から10年3月期にかけても引き続き圧迫される」と判断した。
すでにスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も日産自やトヨタ自動車の格付けを引き下げており、
業績落ち込みが顕著な自動車の信用力低下が鮮明になっている。


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三菱自は電気自動車を出しますが、日産はどういうエコカー戦略を描いているのでしょうか。

 日産はエコカー対応が遅れましたね。ルノーと共に消えて行く……なんてことがなければいいと思います。
2010年にEVを発売すると表明していますが、これで生き残れるかどうかわかりません。
マーチくらいの小型車で4人乗り、航続距離200キロのEVだとされています。


ハイブリッドかEV持っていないメーカーに未来はない

――将来のエコカーのイメージ像の中でプリウス、インサイトといったハイブリッドカーはどう位置づけられますか。

 ハイブリッドカーは現実解です。今後のエコカーは石油価格が変えていきます。
石油価格が現在の水準のままだとハイブリッドカーのままで乗り切れるでしょう。
ただし石油価格が昨年のように上昇すれば、次のエコカーの現実解を探さないといけません。

 経済回復と共に原油の供給不足が起き、昨年のようにガソリンスタンド(GS)で給油のために長い行列ができるようになると、
ハイブリッドカーよりも燃費がよいEVの存在感が高まるでしょう。

 次のエコカーが必要になるときに向け、自動車業界には再編も含めて大きな動きがあるでしょう。

 少なくても現時点でハイブリッドかEVを持っていない自動車メーカーは、生き残れない。
これから着手しようとしても遅いのです。

 まず電気系の学生がいません。トヨタがごっそり採用したためです。
特に中部地区ではほとんど残っていないそうですよ。

 ではほかのメーカーがトヨタから人材を抜けるかというとそれも無理。
トヨタは現在でさえ3000人の電気系技術者が足りないと言っていますからね。

 仮に新規採用しても主力になるのに10年間かかります。だからこれからやろうとしてもすでに遅いのです。


自動車販売が大きく落ち込んでいますが、インサイト、プリウスといったハイブリッド車や、
今年相次ぎ出てくるEVは、自動車販売のテコ入れに貢献するでしょうか。

 

 深刻なのはガソリン価格が安定してきても車販売が戻らない点です。

 昨年リッターあたり185円まで上昇し、いまは100円〜110円と、昨年から比べれば安定しています。
でもクルマの販売は戻っていませんよね。
つまり消費者がクルマはなくても困らないんだ、ということを知ってしまった。
だから今後も車販売全体が急回復することはないと思います。


でもエコカーだけは違う位置づけです。消費者は従来のクルマとは違い、エコカーをエコプロダクツとして見る。
だから、自動車販売が低迷してもエコカーだけは順調に売れ続けると見ています。

 その点から見ると、一定の国内需要は喚起するでしょうし、米国市場でも販売を上向かせる一定の材料にはなるでしょう。

 また、4月から環境対応車についてはさらに減税幅の拡大が検討されていますが、こうした減税措置もエコカーには間違いなく追い風です。

――米ビッグスリーもたとえばGMが電気自動車「ボルト」といったエコカーの開発を進めていますが、ホンダ、トヨタと実力差はありますか。

 ビッグスリーはトヨタとホンダと比べると単なるポーズですね。

米国市場で日本メーカーのエコカー普及に、オバマ政権のグリーン・ニューディールが効きますか。

 インサイトが発売され、5月にはプリウス新型も投入される。
でも米ビッグスリーはエコカーの用意がない。
ビッグスリーは日本の自動車メーカーや電池メーカーと提携するしかないでしょう。

 グリーンニューディールで投じられる米国民の血税はビッグスリー経由で間接的に日本企業に回ってくることになるのではないでしょうか。






































 いずれにしても、カルロス・ゴーン氏に一極集中しすぎたマネジメント体制を早急に志賀俊之COO(最高執行責任者)ら他の経営陣へ分散することが不可欠です。業績下方修正を発表した会見で、ゴーン氏は日産の実質的な社長権限を志賀COOに委譲する意図を表明したそうですが、少々遅すぎたきらいがあります。

 ゴーン氏は日産の在庫削減を目指した国内販売体制の見直しの一環として、週4日の勤務体系といったワークシェアリングの導入を検討するそうですが、真っ先にゴーン氏自身のワークシェアリングが求められているのではないでしょうか。

 日産の公的資金支援のカギを握る日銀のCP買い取り。この制度の適用を日産が受けられるかどうか。またゴーン氏自身が第2の日産リバイバルプランのシナリオをどう描くのか。しばらく注目していきたいと思います。