Chicago B.L.U.E.S.へ

セッション当日

8月23日月曜日、Chicago B.L.U.E.S.のブルース・セッションは午後9時から。で、我々、実はこの夜もう一つイベントを控えていた。

前回の旅で世話になったロックバンドPhantom's OperaのシンガーだったColie Briceに渡米前連絡したところ、「結婚祝いにディナーを驕るから、NYCに着いたら電話してくれ」と言うことで、この夜Chicago B.L.U.E.S.まで行動を共にすることになっていた。彼とはインターネットを通じて知り合い、2年前の渡米時には当時のバンド・メンバーと住んでいたニュージャージーの家に泊めてもらってセッションや多重録音を楽しんだ。その際、彼の2ndソロCD(前作は'97年度のグラミー賞にノミネートされた!)でギターを弾いて欲しいと頼まれたものの、海のこっちと向こう、残念ながら上手く事が運ばずにお流れとなってしまった。結局旧知の光速ギタリストMichael Romeoとやらに頼んでレコーディングされたらしいその2ndソロが間もなくリリースと聞いていたこともあり、彼に会えるのが楽しみであった。



再 会

本音を言うと、Colieをホテルのロビーで待つ間「ニューヨークくんだりまで来てセッションで返り討ちに会ったら」と、私は結構バクバクだったのである。とそこに、懐かしの「チャーリーズ・エンジェル」を思い起こさせるような美人を伴っていきなり坊主頭で現れたColie。私に「長かった髪の毛は、何処に行ったんだ!?」とからかわれながらも、再会を喜ぶ。ふと見ると奴もギターを持参しており、やる気のようだ。お互いのパートナーを紹介したり、奴の2ndソロの宣材を受け取って盛り上がったりしている内、私はすっかり平常心に。

我々はタクシーをつかまえ、取り敢えずChicago B.L.U.E.S.のそばまで行く。Colieが約束通りディナーを驕るというので、通りを流して美味そうな店探し。程なく見つけたイタリアン・レストランに腰を落ち着けたが、Colieのガール・フレンド、イタリア系だと思うがさすがに良い鼻してたようで、この滞在中唯一当たった店として記憶に新しい。で、綺麗なだけに連れて歩いているColieもこのデレよう。エロおやじ丸出し、である。

しかしこのガール・フレンド、結構曲者で、私も多少英語が分かると言ってもニューヨーク界隈の早口英語は苦手、嫁に至っては挨拶を無難にこなす程度、と言う状況なのに自分のペースで会話を進めようとする。Colieは、前回の滞在で私の英語力は理解しているし嫁が英語を話せないことも伝えたので、それなりに気を使ってくれているのに、だ。で、なかなか食事中の会話が盛り上がらないことに多少機嫌を損ねたご様子(嫁が言うには「だったらついて来るな!!」という状態であった)。



Open Blues Jam

ご存知かも知れないが日本で言う「飛び入りブルース・セッション」を、こちらでは「Open Blues Jam」と表現する。ちなみに「Open Mic」ってのもあって、まあ要するにマイクを前に一芸を披露するようだ。

さて、会話もいい加減盛り上がらなくなってきたので場を「Chicago B.L.U.E.S.」に移すことにする。セッション参加はこの店の場合、ステージ脇に置かれたノートに名前を書き込んでいく(パートごとに罫線で区切られているので、自分のパートの所に記名)システムとなっていた。ジロキチ・セッションと、まあ似たような感じだ。Colieが手慣れた様子で私の名と、一緒に歌いたかったのであろう、その脇に続けて自分の名前を記入した。後になってこれが残念な結果を生むことになったのだが・・・。

我々はステージにもほど近い、この店唯一ボックスになったコーナーを占拠。このコーナーは一段高くなっており、ステージも良く見渡せる。ギターも2本あることだしこれで落ち着いて楽しめる、と思ったのは最初だけで、実は大きな落とし穴が隠されていたのである。



セッション・タ〜イム!!!

ホスト・バンドが何曲かやった後、セッション・タイムへ。ホスト・バンドのバンマスが進行役となり、先程のノートを見て参加者をステージに呼び上げていく。基本的にボーカル、ギター、ハープ等は2曲ずつ、リズム・セクションはこちらでも人口比率が低いのだろう、もうちょっと多目に演奏できるようだ。特にベースに至ってはかなりの部分、ホスト・バンドのベーシストが担当していたようだ。あとは適宜、ホスト・バンドのサックス奏者がステージに上がってきていた。また気になるギターアンプの方は、フェンダー・スーパー・リバーブとローランド!?のジャズ・コーラス(しかも60〜70Wの奴)であった。

さて、最初のセット。古びたレス・ポール・スペシャルのダブル・カッタウェイを抱えた極悪人面の黒人が出てきて一瞬「おおっ」と思わせたが、これが日本のセッションでも滅多にお目にかかれないほどしょぼいんだな。NYCでは黒人は皆ラップとかダンス・ミュージック方面に流れちゃうんだろうと考えていたのは、恐らく当たっていたのであろう。「Musicians Paradise "JAM"」のセッションにこの人が来たら、マスターの野口さんに、「次からは5時から来て下さい(野口さんはセッション初心者に、まだ店の暇なこの時間帯、稽古を付けてあげている)」と言われるのは確実である。結局この黒人だけは1曲でステージを降ろされる。

ところでホスト・バンドが演奏を始めた頃から感じていたのではあるが、店内冷房の寒さに苦痛を覚えてきた。私は体脂肪率ひと桁パーセントの男と呼ばれており、ちょっとの寒さであっという間にチルド状態になってしまう。ふと見上げると空調の吹き出しが我々の席からすぐの所に口を開いており、ただでさえ冷房が効きすぎていると感じる店の中でもひときわ寒い席に着いてしまったことに気付く。寒さ対策をしてこなかったと後悔しても後の祭り。セッションを控えての緊張かはたまた武者震い!?、と勘違いされそうなほど身体が震えてきた。そんな状態だから、そろそろ出番かとチューニングしていても指が震えてどうにもならない。

セッションの方はいずれも普通レベルの人ばかりで、取り敢えず返り討ちの心配は無くなってきた。一様にボリュームは控えめで、「まず歌ありき」といったところか。かつて爆音と呼ばれた私、今じゃすっかり大人しくなったとは言え若干の不安を覚える。また、ことギタリストに限って言うと「典型的なブルースのバッキング」みたいなモノは、誰一人やっていない。

そんな中、一人の若手ギタリストが私の耳を捉える。バッキングも良いセンス。ソロが回ってくると、脂増しバンドでのかつての相方ギタリスト、天野丘(都内・近郊のジャズ・バーで活躍中)を彷彿とさせるような、一から練り上げていくようなスタイルで惹き付ける。客からも大きな拍手が上がったが、Colieも良いと感じたのであろう、「やるじゃん。どうする?、どうする?」って感じで茶々を入れてきた。で、こういう時に限って私の出番はやってくる訳だ。



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