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 だててんりゅう『77〜78未発表音源/レッドアフタヌーンブルース』
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2年ほど前、シネマのドラマー:谷口さんが家族サービスで東京に遊びに来た
ついでに、お茶の水のホールの下見に来てくれた。そのときに、「だててんり
ゅう」の話が出て、名前は知っていたものの「音」を知らなかった。プログレ
というより、関西ロック・シーンで古くから活動しているバンド。その名前を
聞いて「まだやっていたの?」という程度のお粗末な知識しか僕にはなかった。
それから2年ほど過ぎた先日、突然、だててんりゅうのリーダー:隣雅夫さん
からメールが届いた。

さて、隣さんから『77〜78未発表音源/レッドアフタヌーンブルース』のリリ
ースの話を伺い、プロモに協力しましょうということになり、サンプルなど早
々送って頂き、紹介することになった次第。本アルバムの紹介の前に、送って
頂いた他の音源、71〜73年:結成〜初期のCD−Rのお話をしたい。まだ、
大学生バンドの頃の音源だ。とても、大学生バンドとは思えない演奏力とセン
スの良さ。今の若い子達のバンドの多くが、演奏も拙く、ただ元気がよいばか
りなものだから、今の子達と比較してそのギャップに余計びっくりしてしまう。
でも、思い起こしてみれば、(僕は隣さんより4歳以上は若いと思うが)僕が
通った高校時代の同級生のバンドでさえ、平気でキング・クリムゾンの「21
世紀〜」を完コピしていた連中がいたし、文化放送のオーデション番組で優勝
した連中も同じ高校にいた。普通の進学高校のバンドが、その程度のことはや
ってのけた時代だった。

そんな時代でもずば抜けたテクニックとセンスを持った「だててんりゅう」は、
早々、『モップスコンサート」でオープニング・アクトをつとめる。以降、村
八分、四人囃子、頭脳警察、あんぜんバンドといった当時のロック最先端のバ
ンド、さらにはメジャーなアーティストと共演するなど、70年代半ばにかけ
て勢いづいていく。70年代後半になると、天地創造、ダダ、シェラザード、
アイン・ソフといったいわゆるプログレシッヴ・ロック・バンドとの共演も目
立ってくるわけだ。ハイ・レベルな演奏とサイケデリックな持ち味、即興演奏、
それにこうしたバンドとの共演から「だててんりゅう」をプログレ・バンド扱
いしたくなるのも分からないでもない。が、「だててんりゅう」は、やはりロ
ック・バンドなのだ。脳みそを使って能書きをたれながら聴くようなロックで
はない。ハートで聴くロックだ。初期の音源は、クリーム、コロシアム、バニ
ラファッジ、アイアンバタフライ等々と共通する、60年代末期のロックの匂
いがプンプンする。邦楽ロックでいえば、フード・ブレインやスピード・グル
ー&シンキ辺りに匹敵するだろうか。その熱い勢いのまま突っ走って、83年
に解散。以後、10年間沈黙。とはいえ、この時期のロックバンドとしては息
が長い方ではないかと思う。ライヴに生きてきたバンドなので、音源はライヴ
が中心だ。だから、関東までその名があまり行き届いていなかったのだろう。
たぶん、諸処のメジャーな邦楽ロック史の記事を読んでも、「だててんりゅう」
というバンド名は載っていないはずだ。ライヴ音源が多く残っている・・・そ
んな姿勢から、「荒んだ私生活、しかしあまりに純粋な精神の故に死んでいっ
た天才ジャズ・サックス奏者:阿部薫」の一連のアルバムを思い出した。そう
だ、同じ時代の匂いがする。時代が目的を喪失していたから、余計なことを考
えずに音楽そのものに没頭できた時代。いや、答えを出せないジレンマを突き
破ろうとすることから、逆に音楽を鋭い剣に変え、聴くものに緊張感を与えた
時代。ことばで何を伝えたらよいか分からないということが、かえって音楽を
凶暴にしたり、限りなく美しくしたりする。

 関西ロックはブルースが息づいている。プログレも関西勢が多いが、それよ
りも圧倒的にブルース系のバンドを多く排出している。だててんりゅうもそう
いった環境を作り上げてきたバンドのひとつだろう。どんなに複雑でサイケな
演奏をしてもギターやオルガンの唸りは、ブルースそのものだ。だから、殺伐
とした時代背景を通過したにも関わらずその演奏は熱く、けして冷めることは
ない。

なんてことを書いている最中、フジTVで元ブランキー・ジェット・シティの
ドラマー:中村達也率いるLOSALIOS(ロザリオス)のツアー・ドキュメントを
放送していた。これもロックの王道だ。こういうバンドが現役で存在し若い子
達が支持していると思うと日本のロック、まだまだ安心。こういうのも聴かな
くちゃいかんよ、おじさん、おばさん達! プログレ・ファンが喜びそうな音
です。ゲストに金子飛鳥のバイオリンとかも入ってます。(余談)(注:ジャ
ズ・ドラマーの中村達也さんではありません)

『77〜78未発表音源/レッドアフタヌーンブルース』
            WPR-1213 ¥2,500(税込)

たぶん、だててんりゅう を知らない人が多いと思い、長い前説になってしま
ったが、本作は、絶頂期の78年前後のライヴ音源を収録。恐い者知らずのテ
クニックとアバンギャルドな歌詞。78年といえば、洋楽も邦楽もAORが主
流、またはパンクやニュー・ウェイヴに火がついた時代。その中で、ロックの
王道+オリジナリティという時代の流行りに流されない姿勢は潔い。もし、日
本のロック・ファンがこの時代の邦楽ロックをちゃんと隅々まで聴き指示して
いたなら、だててんりゅうは、日本のフランク・ザッパになっていたかもしれ
ない。このアルバムを聴いて、音質がどうのこうのと野暮なことを言うロック
・ファンはいないと思う。収録最後の曲「毘沙門堂の風景」は、隣さんのソロ
演奏。しかもこのアルバムでは一番長い10分を超える作品。ひとりでピンク
・フロイドをやっているかのような作品だが、こういう曲もアルバムに入れて
しまうという姿勢そのものが「だててんりゅう」流なのだろう。

さて、今回、販売用として、『レッドアフタヌーンブルース』の他、下記2枚
もお預かりした。録音時期でメンバーも違い、曲風も違っている。

だててんりゅう『凪(ナギ)』1979〜1982年の音源
           WPR-1211 ¥3,000(税込)

ファンク色が濃くなっている。ボ・ガンボス出身のKYONをはじめ、多彩な
ゲストとの録音は、まさに関西ロックの音。初期の重圧な音と比較して、シン
プルなロックに仕上がっているが、手抜きのない真摯な音作りは変わっていな
い。隣雅夫の嗜好は、ソロ・ブルース・ピアノに凝縮。これがときには重圧に
なり、変則的になることで曲風が変わっていくのだろう。しかし、根底にある
ものは同じなのだと思う。もっとヘヴィじゃなければ「だててんりゅう」じゃ
ないと思う人は、彼らを分かっていない。

だててんりゅう『2001拾得ライブ!』
     WPR-1212 ¥2,500(税込)
時代が変わって録音技術も機材もグレード・アップし、音質がはるかに向上し
たうえ、テクニックも劣っていないため、圧倒的な質の高さで迫ってくる楽曲
は圧巻。だててんりゅうのアルバムの中では、たぶん、一番プログレ・ファン
に受けそうに思う。比較したら怒られそうだが、僕が再発盤でライナー・ノー
ツを書いた、売れ筋度外視でやりたい邦題だった頃のプリズムの傑作ライヴ盤
『Live Alive vol.2』に匹敵する緊張感がある。『2001拾得ライブ!』もそう
だが、こんなアルバムはスタジオでちまちまとは作れない。ライヴだからこそ
生まれた極度の緊張感をこうして体感すると、本当に録音に残し、発売してく
れてありがとうと言いたくなる。だててんりゅうの良さは、プリズムにはない、
ロックな感覚が炸裂していることだ。最後の7曲目「くる日もくる日も」は、
まるで良き日のクイックシルバー・メッセンジャー・サービスみたいで、こう
いう部分で、緊張感を一気に解いて、ロック酔いさせてくれるのが心地よく嬉
しい。

僕は、どうも(父方の系図の記録では)ふる〜いご先祖は関西人らしく、東京
の流行り一辺倒の入れ替わり文化は、居心地が悪い。仕事がら全国のライヴハ
ウスの情報を眺めることがたまにあるが、決まって関西のライヴハウスの方に
見たいバンドが出演している。流行に流されていないアイデンティティを持っ
た音楽をやっているアーティストが多くて羨ましい。もちろん、東京にもそう
いうアーティストはいるけれど、リスナーがついてこない。そういうアーティ
ストにライヴハウスが積極的でない。これでは、育つどころか良いアーティス
トが消滅していくだけだ。

上記3枚供、今週中に http://www.rockjazz.com/shop/ にて販売開始致し
ます。試聴もできるようにしますので、まずは聴いてみてください。

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            ◆ CD紹介 3作品 ◆
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『axis』  AV-0001 \ 2100(税込)
『presto』 PS-0001 \ 2000(税込)
『META PARADIGM』
Luminous-Free LSM-001 \ 2300(税込)

この3枚は、上記のすべてのバンドに参加しているメンバーの田中さんからお
預かりしたCD。
prestoは、ディスクユニオンの評でも絶賛されたプログレ・バンドで、唯一の
アルバム。ラッシュやドリーム・シアター辺りが好きな人なら、絶対OK。が、
次の曲で、ふっと柔らかい女性ヴォーカルが出てくるあたりは、心地よく裏切
ってくれる。この辺りがオリジナリティかと思う。ラッシュばりの曲の直後に、
ブラジル音楽っぽい柔らかいサウンドになるのが曲順的にも心地よく、メロデ
ィも郷愁的。いずれ隠れた名盤のひとつになると思うので買っておきましょう。
曲のセンスが大変良く、個人的には、ラッシュより好きだ。

axis は、presto がさらに発展したバンドで、基本的には同路線だが、presto
時代よりもアルバム全体には統一がとれている。prestoでの良い意味での裏切
りがなく全体像を想像しやすいため、好みが分かれるかもしれない。
多分、axisはヴォーカルパートが多くなった分、全体に整ったように感じるの
ではないかと思う。どちらがプログレッぽいかは、聴く人の好みで分かれるか
と思うが、28分に及ぶ組曲 "the end"という曲もあり、こちらに勝算ありかも。
おもいきりプログレってます。この曲だけのために買っても損ではありません。

『META PARADIGM』 は、うちで何度かライヴをやって頂いたバンド、ルミナス
・フリーのアルバム。ライヴでは、映像とのコラボが中心だったので、アルバ
ムを作ると聞いたとき、ライヴを知らないとリスナーには難しいんじゃないか、
と思ったりもした。が、実際に出来上がると、繰り返す音の渦と、ちりばめら
れた音色がイマジネーションを十分に刺激してくれる。僕は、タンジェリン・
ドリームの発展系と思っているが、たぶん、世代で違った感想を持つだろう。
今の若い子達なら、音響系、エレクトロニカ、ということになるだろうか?

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