BILLY HARPER

 ON JAZZCRITIC VOL.52

ビリー・ハーパーが26年ぶりに母国で録音したストイックな魂の佳作。
BILLY HARPER / Soul Of An Angel
(METROPOLITAN RECORDS MR1120)
Recorded Dec.1&2.1999,NYC
Billy Harper(ts)
Francesca Tanksley(p)
Newman Taylor Baker (ds)
Eddie Henderson (tp)
John Clark(fh)
1/Thine Is The Glory
2/Credence
3/It Came Upon A Midnight Clear
4/Let All The Voices Sing
5/Soul Of An Angel
6/Was It Here...IsIt There?
ビリー・ハーパーのニューアルバムが発売された。
1964年にジェイムス・クレイのバンドでプロ・デヴュー以来、ギル・エヴァン
ス、ジャズ・メッセンジャーズ、サド=メル楽団、マックス・ローチ等のサポ
ート・メンバーという王道を歩んできたにも係わらず、母国アメリカ合衆国に
おいては顧みられることの少なかったアーティストだ。

ブラック・パワーを背景に設立されたインディー・レーベルStrata-Eastから
1973年にリリースされた初リーダー作「Capra Black」以来のUSAレーベル作品
となる。

彼のアルバムの殆どが、ヨーロッパと日本のレーベルによってリリースされて
いる。その理由は、ハーパー自身が言うようにアメリカでは、「シリアス過ぎ
る。楽しさや面白さに欠ける」という評価を受け続けてきたからだ。
しかし、その評価はハッピージャズ史観からのものであって、ブラック・ミュ
ージック史観からのものではない。

彼の音楽は崇高なまでに美しいブラック・スピリチュアルに溢れている。
そして、アフロ・アメリカンとしての視座のもとに表現している。確かに、そ
れは、コマーシャリズムとは無縁のものだ。ドレス・アップして、カクテルを
飲みながら、指を鳴らしてリズムを取るといったジャズとは対極にある。
確かに、ユーモアはない。この人がステージで馬鹿笑いをしているのを見たこ
ともない。いつも生真面目に会釈する。

しかし、正規の音楽教育を受け音楽博士号を持っているからなのか、実に美し
いスコアを書き、それを緻密にアレンジする。その整合感とクールネスを指弾
する向きもあるが、そのクリエイティビティは、ジャズ的な悦楽を喚起させる
に足るものであり、「確信犯的な静的グルーヴ」を提示しているのだと断言し
たい。

前置きが長くなったが、ニューアルバムは1曲目のエディ・ヘンダーソンの奏
でる立ち上がりのミュートプレイからスリリングだ。黒光りして腰の入ったハ
ーパーのテナーも健在だが、全体的にはレーベル・カラーというかプロデュサ
ーの思惑なのか、いつものハーパー的要素が希薄になっている。その分、ハー
パー未体験の方には取っ付き易いかもしれない。

フランチェスカ・タンクスレーのソロも聴き逃せない。そのアタックの強いア
グレッシヴなプレイは、性別を越えたアーティストとしての矜恃を感じ、改め
て惚れ直した。エディ・ヘンダーソンも不自然で不細工なウイッグを捨て去っ
て燻銀のプレイを聴かせてくれる。

あなたがもし興味をもったのなら、タイトル曲だけでも聴いて頂きたい。
音のエルドラドが、そこにある。

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