Antonio Farao

 on JAZZCRITIC VOL.66

ジャック・デジョネットのプロデュース作業に感心するファラオの新作。
Antonio Farao / Thorn
<G:enja ENJ-93992>
Recorded 19&20 Apr.2000,NYC
Antonio Farao(p)
Chris Potter(ts&ss)
Drew Gress(b)
Jack DeJohnette(ds)
1/Thorn (5:44)
2/Time Back (7:32)
3/Preludio (7:20)
4/Epoche (7:01)
5/Caravan (5:25)
6/Arabesco (6:58)
7/B. E. (6:49)
8/Tandem (7:44)
9/Malinconie (4:08)
アントニオ・ファラオの新作。
邦盤がプレスされるはずだし、世評ほどの才能があるとも思えず、そのナル
シズムだけが過大評価されているのであろうファラオを採り上げるのは、如
何なものかと言われそうですが、ジャック・デジョネットが参加し、尚且つ
プロデュースするという作品を無視するわけにはいきませんよね。

その期待に違わずデジョネットの才能を再確認する作品となっています。
質の良くない素材も、料理人が一流なら、それなりに旨くなる。嫌みではな
くファラオの過去の作品と比較しながら、デジョネットのレシピを想像する
という楽しみを享受させてくれる作品です。
でも、デジョネットには、こんなアルバイトばかりでなく、スペシャル・エ
ディション的な新展開を期待したいですよね。

アントニオ・ファラオは、1965年ローマ生まれ。御幼少の頃からクラシック
の教育を受けていたが、上の二人の兄弟と共に、いつのまにやら「ジャズの
道へ」という、ヨーロッパの白人ミュージシャンに多い転落の履歴を持つ御
仁。それでも90年代初頭には、イタリアのジャズ・ジャーナリズムで高い評
価を受けるとともに、フランコ・アンブロゼッティやダニエル・ユメールと
いった欧州のビッグネーム、さらにゲーリー・バーツ、リー・コニッツ、ス
ティーヴ・グロスマン等(他にはスタジオ・ミュージシャンのジェリー・バ
ーガンジー、イタリアに朽ち果てたトニー・スコットなど)との共演を重ね
るうちに、アンブロゼッティの口利きで独エンヤより実質的なソロ・デビュ
ーを果たしたというプロフィールをお持ちの伊太利紳士でございます。

この作品を結論づけるとクラシック敗北主義者でジャズの創造主たるアフロ
・アメリカンへの敬意を持たないファラオは、相も変わらず小手先(ゆえに
スキル至上主義者は絶賛する)だけのプレイに始終しています。しかし、御
大デジョネットが仕掛けた壮絶なグルーヴに舞い上がった瞬間だけは、流石
に聴かせてくれるのです。 <2>などデジョネットの太鼓がなければ凡作に終
わっていたでしょう。この瞬間を聴くだけでも、このディスクは価値を持つ
と申し上げておきましょう。

しかし、 <5>のエリントン・ナンバーを聴くとデジョネットが幾ら煽ろうと
も、その「軽さ」は覆い隠せないのです。このニュアンスは、サイラス・チ
ェスナットと聴き比べて頂ければお判りいただけるはずです。天才チェスナ
ットには失礼な話しですが。

しかし、デジョネットは、キース・ジャレットというキング・オブ・ナルシ
ストとの共演で会得した「ピアニストとの対峙の仕方」を思う存分発揮して
おり、そうした視点で鑑賞させて頂くと非常に面白いものがあります。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのクリス・ポッターと組ませたり、ラストでは思う
存分、キース・ジャレットのエピゴーネンを演じさせてみたりと、掌中で弄
ぶが如くプロデュース業を楽しんでいらっしゃる。

そうした意味において、ファラオの作品のなかではクオリティの高い作品と
評価すべきなのかもしれません。
それなりに楽しませて頂きました。合掌。
<26/Dec./2000>


<memo>
ヨーロッパのジャズ事情を無視し続け、ヨーロッパ・ジャズなどオタクの領
域だなどとあからさまに差別視する日本のジャズ・ジャーナリズム(そんな
もの存在しないけど)は、この作品をファラオのセカンド・リーダーだと書
き連ねるに違いない。
しかし、イタリアでのリーダー作も含めると4作目に当たることを一応記し
ておきたい。
1991 Antonio Farao Quartet / VIAGGIO IGNOTO <D.D.D.>
1996 Antonio Farao Quartet feat. F. Ambrosetti <Dischi della Quercia>
1998 Antonio Farao/BLACK INSIDE <Enja>

GENERAL INDEX
RECOMMENDS TOP