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上野正章様より2003/10/12-13に行われた高槻ワークショップの感想をいただきましたので、ここに掲載します。


ランドゥーガ 2003.10.12-13 高槻

上野正章

はじめて参加したランドゥーガが面白く、多くの発見があったので、もう一度参加することにしました。再度高槻で開催されることを知ったので迷わず即座に申し込んで。いわゆるランドゥーガの「リピーター」というものになったわけです。

もう一度参加すると決めた途端に新たな興味が湧いてきました。それは、同じことの反復なのか、それとも違ったことをするのかという興味です。もちろんこれは参加者次第でしょう。つまり、参加者の入れ替わりが激しければ即興演奏の初心者を対象にした即興の基礎を教える同じ内容が望ましいですし、参加者が固定傾向にあれば、内容に変化をつけて即興演奏を練り上げる方向に持っていくのが望ましいですから。

そんなことをつらつら考えながら、じきに日が過ぎ、当日会場に行ってみると、今回はわりと少なめの人数(十数人ぐらい)。そして、そこそこ音楽の心得のある人々がかなり多く集まっているようでした(私は残念ながら…)。わりと前回姿を見かけた人がたくさんいて。そのせいでしょうか、半年前の三月、同じく高槻で行われたランドゥーガのように即興のもっとも原初的なところからはじめるというよりも−つまり簡単な声や音を発するというところからはじめるよりも−実践しながら即興について学んでいくという形で、ランドゥーガがはじまりました。

私は前回と同様に恐々少しずつ音を出したりしていたのですが、そのうちに気づいたのが、小人数で行う即興の醍醐味でした。なによりも参加者の音をすべて聴き取ることができる!!大人数で行った前回は、音が分かれて把握できなかったのですが、今回は全体の音の配置を知ることができ、落ち着いて演奏することができたような気がしました。

また、そこで気づいたのが、少人数の即興なら、うまくすると、全体を一人で制御することができるということでした。具体的には口琴を持って参加されていた方がいたのですが、絶妙の間をとりながら音が発せられると、その音が全体の音の群れに影響を与えて形を変えていくことが感じられ、それはそれは面白いものでした。口琴という楽器の選択も重要な要素なのかもしれません。きわめて存在感の強い音の楽器ですから。なるほどこのようにタイミングをはかって音を出すのかと、何かを理解した気持ちがしました。

さて、しばらく演奏していて思ったのが、即興演奏の練習はスポーツの実戦練習に近いということでした。例えば野球やサッカーの練習試合です。もちろん音楽には勝ち負けはありません。この点は違います。しかしながら、一つのゲームにおいて全員、あるいは数人数で行われる個々の出来事を抜き出すことができ、また、その中の幾つかにおいて自分が主役になる状況が生じるというスポーツのあり方は、きわめて即興演奏と良く似ているように思ったのでした。また、そういったスポーツにおいては試合形式の練習が重視されます。臨機応変に状況を判断して行動することは、個人練習では学べないからです。この点も、即興演奏に似ているかもしれません。

さらに続けるならば、そういったスポーツでは、実戦練習だけで練習は充分だと言えないこともまた事実です。確かに試合のルールを知っているならば、試合をすることができる。しかしながら、なかなか楽しむとまでは行きません。それなりにボールを狙った所に投げることが出来なければ、あるいは丸いボールを曲がりなりにも足でコントロール出来ないと、ゲームを楽しむところまで行きません。そして不思議なことにこの点においても、スポーツと即興演奏は似ているのです。即興演奏するためには、音をそれなりにコントロールする技術が必要ですから。

もう少し音をコントロールしたいが−それには練習しなければ−でも、なかなか大変−。また、即興演奏に参加しているだけで即興演奏のセンスは磨かれるのだろうか、それともそういったものは天性のものなのだろうか。そんなことを考えながら、一日目が終わりました。

二日目は一日目とは打って変わって、初心者の人が沢山参加していて、全体の人数も20人程度。そこで行われたのが即興のための初歩練習でした。取り出されたのは幾つかのボール。それをぱらぱらと並べて、それを音に見立てて即興を組み立てるということです。ちょっと抽象的な言い方ですが、具体的には例えば赤いボールが三つ、青いボールが三つ、黄色いボールが二つ並べてあれば、その違いを音に翻訳して、ちょっと演奏してみるということです。つまり、赤を高い音、青を低い音、黄色を赤と青の中間の高さの音と見立てるならば、高い音が三つ、低い音が三つ、両者の中間の高さの音が二つと変換することができます。また翻訳は一通りとは限りません。ボールの位置を音の持続に変換することも可能です。例えば赤−長い、青−短い、黄色−休符というように。

これは実に面白い試みだと思いました。なかなか手がかりを見つけることが難しい即興演奏の取っ掛りを見つけるヒントとして視覚的なものを応用することは、新鮮な工夫だからです。その辺にボールを投げ、その止まった位置を音に変換すると、簡単に自分の思いもよらない音の配置を簡単に得ることが出来ます。いろいろ試みて音の並べ方の勘を養うこともできます。

またこの方法は、私を魅了して止まない偶然性の要素を、音楽の生産的な手段に結び付けているとみなすことも可能です。全く何もないところから何かを作ることほど難しいことはない。とはいえこれを克服するために、手本を見て真似て練習して備えるならば、そこから離れることが難しくなってしまう。だから自分の可能性を広げるための何らかの方法が必要で、そのきっかけとして、偶然、つまり適当に転がっていって止まったボールの配置−そしてそれは誰にもコントロールすることが出来ない−を活用するのです。

午前はそんな感じに終わって、午後からは集団の即興でした。午前の成果を生かそうとしましたが、それはそれ、これはこれで、それでもやはり即興はなかなか難しいものです。面白かったですが。

なお、偶然の活用に関しては、即興演奏とスポーツとはちょっと違うかもしれません。楕円のボールをコントロールしようと努力したり、細いバットで小さなボールを叩いて狙った所に飛ばしたり、スポーツにおいては、人間の制御が及ぶか及ばないかというぎりぎりの程度のところに領域を設定して、その上で偶然性を技術でなるべくコントロールしようとします(例えばゴルフコースなど、絶妙の設定をしている)。ただし、人間のコントロール出来るか出来ないかという微妙な領域で戯れるということにおいては、両者はそれほど違いはないとも言えるかもしれませんし、いずれにせよ、理屈を捏ねる余地は沢山ありそうです…。

今回のランドゥーガ、即興演奏への取っ掛りが見えてきたことが収穫でした。雲の形を見ながら音を積み重ねてみると、自分が頭を捻って考えるのよりも遥かに良い響きを得ることが出来たりするかもしれません。

©上野正章

最終更新2004/3/16
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