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JAZZ LIFE 1990年 10月号

1990年7月29日“ランドゥーガ”対談
佐藤允彦×ウェイン・ショーター
『ジャズの“種(たね)”の育て方』

セレクト・ライブ・アンダー・ザ・スカイで佐藤允彦は自己のプロジェクト “ランドゥーガ”にウェイン・ショーターをスペシャル・ゲストとして迎えた。 そして公演後、ホテルに訪ねた佐藤をウェインはあたたかく招き入れた。

佐藤允彦:『ランドゥーガ』のために遠路おいでくださってありがとうございました。  昨日と今日演奏されてみて、いかがでしたか?

ウェイン・ショーター:まず、新しい音楽の成功に対しておめでとうを言いたい。  私自身はとてもリラックスできて、楽しかった。

佐藤:このプロジェクトは、今までに存在したことのない、つまりまったく類型のない音楽で、考えた本人でも結果がどうなるか全然予想がつかないものでした。  しかしあなたが参加を承知して下さった時点で、これは絶対に良い物ができると、確認しました。

ショーター:それは嬉しいね(笑)。

佐藤:まだ曲も出来ていないようなイメージだけの段階で、しかも直接お話する機会もなかったのにOKされたのは?

ショーター:プロデューサーの鯉沼氏との信頼関係だろうね。  これまで彼がオファーしてくれた企画はすべてうまくいっている。  それに、このプロジェクトについては、とても自信たっぷりな話しぶりだったし、彼がそれほどまでに言うのなら間違いはないと……。

佐藤:ほんとですか(笑)。  そんなに初期の段階で成算があったなんて、鯉沼さんもすごいひとだな。それはきっと、ぼくがいままでやってきたいくつかの試みが、どれもそこそこうまくいったという事で、あいつのやることだから、と信用してくれたのかも知れません。  で、それはいつ頃の話しなんですか?

ショーター:去年の11月、ブルーノートに出演した時だったな。

佐藤:それは東京の?

ショーター:そう、彼が楽屋に顔を見せて、ぼくのワイフや娘や、いろんな人たちがいるところで例の愉快な調子でね(笑)。  ……それで、彼の話からすると、日本の伝統音楽を基盤にしてジャズをやるのか、ジャズの上に立って日本音楽をやるのか、はっきり覚えていないけれど、とにかくそんなことだった。  ぼくは日本が大好きだし、何年か前にある人から、ミンヨーだっけ、それよりももっと古い、日本やアジアの起源、さらには世界の根源的な歴史の流れにまで溯る話を聞いて、そのことが頭の中から離れないでいた。だから、ぼくにとってたいへん魅力的なプロジェクトだったわけだ。  ミュージシャンは、自分の守備範囲を越えるのを恐れるべきじゃないからね。

佐藤:今回は全員が守備範囲を少しずつ越えたところで集まったことになりますね。

ショーター:そう、こういうものは、寄り集まってなにかするだけじゃフュージョンにもならない。コンフュージョン!(笑)。大事なのはそこから何かが発生するかどうかだ。  昨日、今日での我々は何かを掴んだという気がするだろう?新しいコミュニケーションの方法を見つけたのかもしれない。  旧来のやり方をいつまでも続けている必要はないんだから。ジャズがどこへ行くかなんて、誰も気にしちゃいないさ。

佐藤:太平洋のこちら側から言える事は、ジャズの「種子」はアメリカから来たものだけれど、それがこの土地に根づいて育ったのを見ると、おなじ品種でもずいぶんと違ったものになっているのだと思います。  フランスの葡萄をカリフォルニアで育ててワインにすれば、フランスで作ったものとは違う味になるはずですし、事実、カリフォルニア・ワインにはもうすでにオリジナルと言える味わいがありますよね。

ショーター:そうそう。「美味しくなった?」って言ってたのが、今では「美味しくなった!」(笑)

佐藤:ええ。  で、この国におけるジャズ、いや、世界中どこでもジャズはそうでなければならないと思うんです。ぼくは“ジャズ地酒論”と言っていますが(笑)。

ショーター:そのとおりだね。

佐藤:このプロジェクトで、ぼくにとってのもうひとつの大きな楽しみは、あなたとのデュオのパートでした。  ここを際立たせるために、ほかのところではピアノを一切弾かないというくらい。

ショーター:おやおや(笑)。

佐藤:あれは至福の時間でした。ずっとこのまま続けたいと思いましたね。

ショーター:将来またやる機会があるんじゃないかな。

佐藤:ぼくがもう1枚アルバムを作るときには、また参加してくださいますか?

ショーター:『ランドゥーガ』とは違った何かを?

佐藤:たとえばデュオ・アルバムとか。

ショーター:それはおもしろそうだね。

佐藤:あなたにも曲を書いていただいたり、あるいは、何も無しでパッとスタジオに入って演奏したり……

ショーター:いいねぇ……声を掛けてくれれば考えてもいいよ。  連絡先がわかるようにしておくからさ。

佐藤:ぜひよろしく。

―――ひとつお聞きしたいんですが、あらかじめ構成された音楽と、フリーのような音楽とでは、違うアプローチで演奏しますか、それとも音にしてしまえばどちらも同じだとお考えですか。

ショーター:書かれたものは、何も書かれていないかのように感じながら演奏する。  そして何も書かれていないものは、書かれているかのように感じながら演奏する。  書かれたものと書かれていないものとが交差する所というのが、まさに神秘的な地点でね。そこに真の人間像があるわけさ(笑)。

佐藤:今日はお疲れのところへ突然のおしかけインタヴュー、申し訳ありませんでした。  風邪気味ということですが、お大事に。

ショーター:ありがとう。


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