ランドゥーガ研究会 トップページ JAZZLIFE誌掲載記事のスクラップ 目次ページ
JAZZ LIFE 1990年 7月号

佐藤允彦 ランドゥーガを追う

別れ道のある譜面を書いて、ゲーム的なものをやりたい

先月号では、「コード・ネームは使わない」「メ□ディとべ一スのパターンを入れ換える」など、新しい可能性を示してくれた。 そして今月はさらに進んだ形として、1枚の譜面が目の前に広げられた。それは今までに見たことのない、まるでフローチヤートのように複雑な記号の絡みあった譜面(P.75参照)。 はたしてこの中からどんな可能性が見えてくるのか。 また一歩「ランドウーガ」に近づいた。
取材:久保日晃弘 楽譜画像

ユニゾン状態の“ズレ”を前提にしている

――今までお話をおうかがいしてきて、おもしろいんだけど具体的にはどうなっているんだろうかと思うんです。 そういう意味で今回は具体的な展開にしてみたい。記譜が難しいとおっしゃっていましたが、今こうして譜面を目の前にしてみると……。

佐藤:結局、この上の方は何人かでやるわけてす。

――それはユニゾンですか?

佐藤:今回は根本的に全部ユニゾンなんです、考え方としては。そのユニゾンの状態が、“ズレ”るということを前提にしておくと、その、“ズレ”がすごくおもしろいなっていうことになる。 たとえば(譜面を指さしながら)ここはこういうふうにする。このあたりも一応合わせることができる。3拍だとか、拍数が決まっているからね。 こぶしは当然、“ズレ”てくるわけで、それははここに記号があるでしょう。これは何拍あってもいいわけだから(笑)、“ラ〜ラ”って人もいればさまざまな人がいる。それで、その次の時にはまた、“ズレ”てくる。 だから根本的に、基本的にはみんなで、何となく合わせる方向になる。拡散しないで、どこかでみんなで合わせましょうという合意事項みたいなものがあって、なおかつ自分のパルスみたいなものに沿ってやっていく。 だから,“パラッ”ってやって、次の“パラララ〜”となると、一応みんな誰かでないかなって待っていたりする、早すぎたりした人は。それで“パララ〜”と行くでしょう。ここにこういう印があって、この音程は何度繰り返してもいいという。つまり“ターラララ、ターラララ、ターララララ〜ラ”という悪じになるわけね。

――このサックスというのは?テナーとかですか。

佐藤:これはこれでひとつの例なのね。これはこれでひとつの例。これはこれでひとつの例。この印はここにもあるけど、反復していいんだよというふうに。

――なるほど!

佐藤:“ターラララ、ターララララ〜”誰かが“ポーッ”と降りてやっていても、誰かがやっているかもしれない。そうするとこの、“ター”って伸びた音とこれとの間に何かが生じてくるわけでしょう。 そして今度、誰かが“タタララ〜ララッ”というのを、タララ〜ペラッ”としたり“ペラッ”“ペラッ”“ペラッ”と3人だったらそれで、“ズレ”たりしてさ(笑)。 そうするとこれは“タラリラ”っていうのが1個で、“タラ”がいくつかあって、“タラリラリ〜”とか“タラ〜”ってやる人もいるわけでしょう。さらに“パラ〜ラッ”と上に行く人もいるし“パラ〜ララ〜ッ”という人もいる。

――その矢印はどっちでもいいわけですか。

佐藤:そう、どっちでもいい。

好きなところで 乗り換えができる譜面

――もちろん音のインターヴァルとかは考えてあるのですか。

佐藤:考えてありますよ。ここはいろいろな問題をはらんでいて、こっち側にあるスケールから違うスケールに乗り換わってもらって、次は違うスケールに行っちゃう。 だからこれは使っている音が、ある箇所では決まって5音階を使っているんです。こっちに行こうがどこに行こうが大丈夫なわけで、Gの音が、“タ〜”と伸びていてもいい。

――それはおもしろいです。

佐藤:それで、これは違う節に行くんだけど、ファソラシ♭ドミ♭みたいなのがずっとあるでしょう。ここで“タ〜ラ”と半音になった時に“タラララ〜”と違うスケールに行くという。 この次の時にたぶん話すことになると思うんだけど、ひとつの音階でやってはつまらないから、いろいろ転調したりして、ペンタト二ックを乗り換えていくような、そういう節がいっぱい出てくると思うね。 それから、ここはだいたい3秒半ぐらいの“タ〜リラ、タ〜ララ、タ〜リラ、タ〜ララ、タ〜リラ、タ〜ララ”というのをみんなでずーっとやっているわけですよ。途中で好きなところで乗り換えることができるようになっている。 これはテンポが速くなったり遅くなったりしている。ここに3秒半でやっているのに対して、ほとんど同じなんだけど、カッコがついているでしょう。これはどんな音に行ってもいいわけ。 すると、“タ〜ララ、ピパ〜、ピパ、ララ〜”とやってもいい。同じところから出て、それが違うパターンに伸び縮みみたいなのをしている。コード・ネームとかハーモニーの概念を使わないでどうやってバラすかということを考えているんです。ここはキューがくるまで続けている。こっちに乗り移ってもまた戻る。そういうふうなイメーシを掛け合わせているわけです。 それからこれは“タラタラタラ、タタラタラタラ、タラタラタラ、タタラ……”というの8分音符をコンスタントにしておいて、この中から何度も好きなだけやれるのね。 ここから矢印で、こっちに行くと“タラタラタラ、タタラタラタラ”というのと“ラタタラタタ、ラタラタ”というのを繰り返す人の2種類、二重になってくる。 そのうちにこれとこれとほ全然違う、もっと上の方でF#とかE♭とかが入った“ピ〜ア”とか“ピラァ〜”とかを1回やるのね、繰り返しじゃなくて。1回やったら、これは行ったり来たりできる。こっちへ来て戻ってというように。 そしてまた“タラタラタラ……”って時に、下の方で“タカタカタカタカ”。こんなような書き方をしながら、前回のような普通の書き方の中にこういうようなのものがいろいろ混ざって入ってくるという、みてくれは。

――それはアイディアみたいな点で。

佐藤:そう。どこかに組み入れている。もちろんもっと複雑な感じになるか、もっとシンプルになるか。

――スケール的にここまでというのは、どういうスケールなのですか。

佐藤:これはもうペンタトニックなんですよ。ここで使われているのは、ペンタトニックですね。 ここもペンタトニックなんだけど、上に違う音が重なって、下にも違う音が重なっている。

――メロディ楽器はここではとにかくこういうふうになると。

佐藤:そうです。これはメロディ楽器じゃないと使えない。

――リズムは?

佐藤:リズムはドラムの音に……。 それでこれは基本的には、どういう種類の楽器が

――まあ一応何人かいないといけないんだけども、どういう種類の楽器でも何人か集まってもできるというふうにしたいのね。

――もっと開かれた状態というか。

佐藤:そうそう。これは誰とか決めない。 だからリズムの方もパターンのパートと、それからアクセントのパートというように分けて2段にして、上の段はパターン、下の段にはアクセントと。 そうするとたとえば“タチタチタチ……”というパターンがあったとするでしょう。こっちでも何拍かに1回だけ“パタンッ”というのがあって、そのアクセントは何でもいいわけ。“トチトチトチ……”とやるかもしれないし、拍子木みたいなものを持ってきて“カンカンカンカン”ってやる人もいるかもしれない。要するにそれはパルスが出てきているから。ビートに。

パターンをキユーでつなぐゲームみたいなおもしろさ

――これはリハーサルの時からおもしろそうですね。

佐藤:リハーサルの時は、みんなでかなりとっちらかっちゃうと思うんだよね。概念ができあがってくるまで。

――それだから逆におもしろくなってくる。

佐藤:だから1回だけね。そんなに次から次へと新しい記譜法が出てくるわけじゃないから、たとえぱ何回繰り返してもいい。何回繰リ返してもいいから、ここは右から左までずっと作っていきなさいとかね。いっぱい分かれ道のある譜面をやろうと思うんです。 それで、この譜面の書き方はいわゆる現代音楽の中で、かなり試みられた書き方なんですよ。 もっと複雑なめんどうくさい約束ごとのものがいっぱいあるんだけど……。だからそれを持ってきたからといって、別に新味はないのね。ただあまり見たことがないだろうし、ぼくらもそれでインプロヴァイズというのをほとんどやったことがない。

――そうなんですか。 そうなると本当にプレイヤーが、いわゆるアレンジャーとプレイヤ一の関係じゃなくて、主体的に自分で歌を歌いながらメロディを制作していくみたいな感じですね。

佐藤:そうなりますね。

――曲の始まりには、「せーの」ぐらいは出すわけですよね。

佐藤:うん、それはキューでね。誰かがソロを、“パーッ”と取っていると、みんなは定型のパターンみたいなものをやっていたりするでしょう。キューがくると別のパターンが入ってくる。

――そういうパターンみたいなものがあって、キューでつないで次へ行くというような。

佐藤:あるいはソロの人がキューを出したりとか。 どこまでうまくいくかわからないけど、そういうゲームね。ゲーム的なおもしろさっていうのをやりたい。 そういうのがあると、とっちらかった感じになるじゃない。

――そうですね。

佐藤:でも音楽になる。あるところで強力な合わせみたいなものが、“ドカーン”とあってね(笑)。

――ぼくらは聴く時にいろいろルールがわかって、観ていると絶対に楽しくなりますね。

佐藤:あっ、わかって観ていると楽しいし、たとえわからなくても、どうなっているんだろうと思うだろうね。

――この場ではゲームをいろいろ公開するという意味で。「こういうルールがあって、このルールでやっていますよ」という。

佐藤:ドラゴン・クエストやマりオみたいに、マニュアル・ブックみたいなものがあって、「ここをこうやると穴が出てきますよ」みたいのがあるじゃない(笑)。

――あります(笑)そういう意味ではワクワクしてきます。 実際に目の前で響くか頭の中て響くか、そういうノリで「あっ、あそこで視線があった」とかが、わかりながら聴くと楽しいですね。 そこでまた、いろいろな楽器の音域とか特性みたいなものが重なるわけですか。

佐藤:そうですね。

プレイヤー自身が選ひ取るおもしろさ

――これは「サックス」と書いてありますけど、当然オクターヴ、音域は変わるという。

佐藤:オクターヴということはある。できればユニゾン。 別れて行くところは絶対にユニゾンがおもしろいだろうと思う。

――これは今回のセレクト・ライヴ・アンダー・ザ・スカイのバンドだけというよりは、楽器を持つ人が何人か集まってやったりするとおもしろいでしょうね。

佐藤:うん。できたらね、おもしろいよ。 だからサックスでもパターンのパート、アクセントのパート、メロディのパートというのがあって、2人とか3人いればパターンのパートの人が“トッテ、トッテ、トッテ……”と吹いて、それを今度+3だとか−4で音程

――トーナル・センターを“ビュッ”と上げたりすると、隣で吹いているヤツがすかさず“ヒュッ”と変わってきたりとかさ(笑)。そういうことができるじゃない。

――そうですね。

佐藤:そうすると、セッションというと必ずドラムスがいて、ベースがいて、ピアノがいて、管楽器がいてという観念があるけど、そういう観念ではなくて人間がふたりいればゲームができるわけですね。

――そうやって管楽器が集まって、たとえばリズム・パターンにおいては音程を決められないとか……。

佐藤:結構、おもしろいでしょう。

――その時その時で違う音の重なり方があったりとか。

佐藤:絶対に、おもしろいと思うね。 そういうパルスが完全に決まっている時と、それがクラシックみたいに自由に歌えるというような。 お経でも合わせようとする気はないわけでしょう。

――そうなんですよ、意外と最近おもしろいと思っています。トーナル・センターが変わるというか。

佐藤:変に2度で並行していたりする。合わせようとしていないのに、なんとなくみんなと合ってきたりとかあるわけでしょう。たまにひとりだけ調子のはずれた人もいる(笑)。

――います。ひとりだけ盛り上がっているような人が(笑)。

佐藤:そういうのをやりたい(笑)。

――ここでのアドリブの空間というのはどうなるのですか?

佐藤:アドリブの空間は、その人のために全員が奉仕するっていうんじゃなくて、みんなが決まったレヴェルの、あるグランドのところをやっていると、ひとりだけ飛び出す権利みたいなものがあったりする。 それでだれが飛び出してもいいよとか、ここはふたり行っていいよとか、ここはひとりだけとかね。そういうものもわかりやすく書いてあって、そこで“ピャー”と。

――ジャズライフはプレイヤーの読者もかなリいるわけで、みんなもこういうこともやってみましょうという。

佐藤:そう。 だけどインプロヴァイズというと、どうしてもみんな「コードがある」とか「スケールがある」とか「小節数がある」とかを考えてしまう。ところがそうじゃないと思う。 もっと自由なものなんだけど、その自由を「コード・ネームがない」「スケールがない」「小節がない」というんだったら全部がフリーかというと、そうじゃなくて、それに替わる遊び道具みたいなものが、ルールみたいなものがあればそれを使って遊べるというのがあると思う。

――今、思い出したのは高橋悠治さんがソロをやる時、何もないという場合に、バッティングの可能性としてはおもしろいし、限定されたある4つの音しか使っちゃいけないという制約された中で即興する、自由にやるというのはすごくおもしろい。制約されたというのは。

佐藤:だから、これなんか何度繰り返すかということも自分で見てたもの、自分だけで決めていてもつまらないわけ。 誰かが“パーッ”と行ったから、「よし、オレはそっちに行かないでキープしていよう」とか「あっ、オレもそっちに行ってやる」とか、そういう選び取るおもしろさがあるでしょう。 これも完全にそうなんだよ“タ〜ラ〜”というのがあって、8分音符ふたつは何を吹いてもよくて、また“パ〜ラ〜”というのがあって8分音符ふたつは何を吹いてもいいわけだから。“タ〜ラ〜、ピパポ、ラ〜”とかね。

――それはセッションをやっていて、おもしろいなっていう部分が出てきますよね、言葉では何とも表現できない。 その言葉では表現できないおもしろさを、今までみんなが気にしなかったというか目をつぶってきた部分をあえて取り上げてきたというか。

佐藤:そうだね。 曲というよりは システムを作りたい

――あとはリスナーとしては、こういうことをウェイン・ショーターやレイ・アンダーソンがやるというのに興味が湧いてきますね。

佐藤:そうすると、どうなるんだろうなって(笑)。 建前としては誰でもできるという面があるんだけど、たとえばウェイン・ショーターみたいになれぱ、彼にだけ1枚特別な譜面を渡してね。「ここになったら、この音順になったら節を作ってよ」とか(笑)。そういうことをやらしてみたい感じがする。 みんな特別なんだけど、特別な感じの人にはそういうことをやってもらいたいと考えている。

――ちょっと話の流れからはずれてしまいますけど、デューク・エリントンみたいに、アレンジャーとして書く方ですか。

佐藤:本当はね。本当はそういうふうに書きたいんだけど、今回はそれとまったく裏返しになっているわけですよ。 どういう能力の人が来るかわからないということがあるでしょう。それに結構、今後の展開みたいなことも考えていて、この機会で決して終わるんじゃなくて、この方式でいろいろなところから、いろいろな人を呼んでやってみたい。アジアのミュージシャンとかアフリカのミュージシャンとか……。

――それはおもしろいですね。いろいろなミュージシャンとの組み合わせで。

佐藤:今回の基になる節というのは、だいたい日本の民謡の中にある節なんですよね。それをできればもっと東南アジアから音の使い方持ってきて、こういう方式でできたらおもしろいと思う。

――楽器としてもいろいろな選択ができるようになりますね。

佐藤:何でもいい。胡弓でもいいし、ガムランでもいいし、ヴァイオリンでもいい。相当欲張った考え方なのね。 だから曲というよりはシステムみたいなものを作りたい。

――その「はじめの一歩」でやろうと。

佐藤:そう、「はじめの一歩」でね。

――全体の状態はどうですか?佐藤ざんのグループの進行状況というのは。

佐藤:進行状況?う〜ん、少しずつぼくがスケッチを作っているという感じかな。

――リハーサルの予定とかは。

佐藤:うん、それはもう決まっていますよ。ライヴの前に4回。

――はしめの一言はどう言われますか。まだ決まっていません?

佐藤:はじめの一言は「このプロジェクトに参加していただき、ありがとうございます(笑)。 ぜひトリップしてください」ということをね(笑)。


JAZZLIFE誌掲載記事のスクラップ目次
ランドゥーガ研究会 http://sound.jp/randooga/index.html