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JAZZ LIFE 1990年 5月号

佐藤允彦
ライヴ・アンダー・ザ・スカイではぼくなりの「民謡」をやります

(1990年)4月21日に発売する、パーカッション奏者、高田みどりとの合作『ルナ・クルーズ』ではアレンジとプロデュースを担当し、よりポップなパーカッション・サウンドを作り出している佐藤允彦。折しもライヴ・アンダー・ザ・スカイの出演も決定した彼に、今回のアルバムのことを含め、いろいろ聞いてみることにした。
取材:久保田晃弘

「インD”」はもう死にそうなパターンで……

――今回の音を聴いていて思ったのですが、書き譜を事前に用意していたのですか。

佐藤:書き譜のものは、たくさんありますよ。

――「書く」ということは、つまり今回のレコードについて、佐藤さんはどういうコンセプトで臨んだのですか。プロデューサーという立場から、高田さんのどの面を出そうと。

佐藤:高田さんはバック・グランドが現代音楽ですよね。それともうひとつはアフリカの音楽とか韓国の音楽とかという面――そういう色彩が非常に強烈な二面ある。彼女の中では統合した状態であるんだけど、我々が見ていると、どうしても二面的に見えてしまう。それをトータルな感じに統一したいということと、みどりさんはアカデミックに聴こえてしまう部分があって、それをどうポップな仕立てにするか。みどりさん本来の音楽性に色を加えないようにして、その中からポップな色合いをどうやって出していこうかと。初めはこんなこと言ったら、みどりさんが怒るんじゃないかなとか、気にしてやっていたんだけど、そのうち、みどりさんの方が乗ってしまって、もっとここは、こうした方がいいんじゃないか」という発言が出たりして……。みどりさんは、ものすごくポップな状況に成り得る人だな、と認識してね。それでは、そうしようと。

――冒頭の「滅法傾盃楽」はちょっと下世話なノリですね。

佐藤:下世話でしょ。これはいちばん最後にできた曲なんです。全部マテリアルを録り終わって、もうひとつバカなことをやろうよ、という話になったわけ。レコーディングも順調に進んで、スタジオの日程も短く上がったものだから、あと1日や2日使ってもいいよ、っていうから……。それで、今までハネたリズムがないよね、となって、じゃあ阿波踊りをひとついきましょうということで、ぼくが最初にベースのパターンを打ち込んで、みどりさんがリズムを作って、これにメロディを乗せようよ、ということでメロディがいちばん最後に。メロディをその場でみどりさんが書いて、ぼくが音色を作って、インプロヴァイズのあとに入れて……と。それでずっーと並べて聴いてみたらいちばんインパクトあるし、おもしろいから、じゃあ、これはやろうかって。

――あれは、高田さんも今までやってないですし、そういう高田さんを聴いたことがないですね。1曲目ということもあって、このアルバムの“オッ”という感じが非常に伝わってきました。高田さんがやっていると息もつかせぬテクニックで聴かせるという感じがあったんですけど、今回はそういうところが前面に出てきていないように思えます。

佐藤:そうですね。とにかく何事にもよらず徹底しようということで、9曲目に「チャンドラ」という曲があるんだけど、もう、みどりさんのテクニックを見せるというのは、限定してしまおうと。「チャンドラ」とですね、「インD”」というのとね。「インD”」は、もう死にそうなパターンで。

―この曲は、こうやると(指を折って拍子を数える動作)わからなくなる。佐藤:これは勘定してもムリ。絶対に。ぼくだって勘定できないんだもの(笑)。

――勘定しないと、すんなり入ってくるんですけど、勘定すると。

佐藤:勘定したらダメですよ。まともな偶数の拍子は、3カ所ぐらいしかないじゃないかな。13拍子とか、20何拍子とか、そういうのが16回とかなるわけで……。それがまたわからないように、半端なところ半端なところにアクセントが入っているから。

――「インD”」はおもしろかったです。

佐藤:ぼくにはとてもできない、とギヴ・アップしてシーケンサーに入れて、その上に乗っかってやろうとするんだけど、どうしてもノリがね。4分の4とかの偶数ノリに慣れているから。ハッと気がつくと、とんでもない状態になったりするわけね。これはたいへんだったんですよ。

アメリカでやっているジャズをやってもおもしろくない

――佐藤さんの今年の話題は、まずライヴ・アンダーの出演だと思います。それについてうかがいたいのですが、ひとつはライヴ・アンダーという場と、もうひとつはこういう人たち(★註1)を集めて、どういう音を出したいかという。

佐藤:ライヴ・アンダーのプロデューサーの鯉沼さんは、ライヴ・アンダーとトーキョー・ミュージック・ジョイとふたつやっているでしょう。今までミュージック・ジョイには、ぼくの実験的な部分というのを買ってくれていて、やらしてもらっていた。それが今度ライヴ・アンダーをやらないかという話になってそれはもう絶対にやる!って言って。トーキョー・ミュージック・ジョイとライヴ・アンダーの違いというのは、両方ともギンギンのイヴェントだけど、ライヴ・アンダーのほうがポップでしょう。

――そうですね。

佐藤:その違いを、ぼくはよくわかっているから、ミュージック・ジョイではできないことをライヴ・アンダーでやってみたいな、と。何かやってみないかと話があったんで、ジャズをやるのも面白いけど、ジャズのグループというのは、今までたくさん来ているからね。ぼくが見ていて、いちばんおもしろかったのは、アフリカの帽子かぶった……。――サン・ラのアーケストラ。

佐藤:そう。あれがいちばんおもしろかった。あれぐらいインパクトのあることができるのは、ぼくらだったら「民謡」ではないかって話になってね。民謡といっても、民謡をそのままナマでやるんじゃなくて、ぼくなりにいろいろ――伊藤多喜雄さんのアレンジをずっとしてきて、本当にいろんなことに気が付いた。たとえば民族音楽という中で、ベースというのはどういう役割をして、どういうものになっているのかとか、その他いろいろ世の中でペンタトニックと呼ばれているシステムが、邦楽の中ではそのシステムがどうに使われているのかとかね。いろいろ気付くことがあった。それらを全部まとめて、コード・ネームとか、それからスケールとかという既成のインプロヴァイズの母線みたいなものから外れて、もっとおもしろくできそうな感じがするというところから、これは始まった。そもそもはアメリカでやっているジャズをやってもしょうがないんじゃないかと。タンポポが咲いていて、風が吹いて綿毛がパーッと飛び散ったわけでしょう。日本にそれが落ちて、芽が出たのなら違う種類のタンポポにならないといけない。同じ種類のタンポポが咲いてもおもしろくない。土の性質が違うし、気候風土も違うわけだからね。でもタンポポはタンポポだという、そのへんがうまくいくとおもしろい。ジャズというのがどこまでジャズなのかわからないけど、リズムの側面とインプロヴァイズの側面があって、そのふたつを満たしていれば、ぼくはジャズなんじゃないかなと思っている。そうするとインド音楽もジャズかもしれないし、阿波踊りもジャズかもしれない……。津軽じょんがらなんかもそうだよね。そういうのがあるわけだから、世界各界共通なのかな。

――このメンバーは?

佐藤:本当は日本人ばかりでやってもいいんだけど、日本人が日本人の音楽をやるというのは……。なるべく白人じゃない人を呼んで来て、ぼくが考えた日本の音楽を彼らのわかるように書いて説明をした場合、彼らがどういうふうに受け取って、どういうことを返してくれるか。それがおもしろいから、なるべくいろんな国の人を集めてくれと言った。アレックス・アクーニャはアルゼンチンだし(★註2)、ナナ・ヴァスコンセロスはブラジルでしょ。サキソフォンを何人か入れたいから、誰がいいか、といろいろ話し合って、やっぱりウェイン・ショーターじゃない?って話になって、鯉沼さんに「絶対ウェイン・ショーターに交渉して」とワガママ言って。かなり難航したけど、最終的にOKしてくれた。――個人個人には非常に有名ですけども、グループにしてみるとわからないですね。佐藤:わからないでしょう。で、ぼく自身もどういうものを書くかわからない。ウェイン・ショーターもどういうものをやらされるかわからない。よくねぇ〜、見ずにOKしてくれたなぁ。ぼくは今でも半信半疑なんですけども。空前絶後のチャンスだから華々しく散ろうかと……

――何が起こるか楽しみですね。

佐藤:ぼく自身も非常に楽しみですね。どういうふうに書けば、どういうふうに返って来るのかというのが全然わからない。他にも高田みどりさんと峰厚介さんと梅津和時さんと、それからベースの岡沢章とギターの土方隆行を入れて、とにかく大混戦状態に(笑)。

――峰さんと梅津さんというのは、また全然違っておもしろいですね。

佐藤:おもしろいでしょう。だから同じ譜面を書いても、絶対解釈が違ってくるだろうし、そういう乱反射したものがどうなるかということですね。基本コンセプトは――伊藤多喜雄さんのアレンジすることについていうと、彼はいわゆる民謡歌手じゃなくて、そのへんのおじいさん、おばあさんに直接マイクを向けて歌ってもらっているという歌がある。そのテープをぼくに送ってもらって、だいぶ勉強になりましたよ。だから、今度のライヴ・アンダー・ザ・スカイの「ランドゥーガ」というグループのコンセプトの素というのは伊藤多喜雄さんからもらっているの。そういった中で非常に貴重な経験をさせてもらったな、と思って、多喜雄さんにはすごく感謝しているのね。

――佐藤さんの活動というのは、何が動いているのですか?

佐藤:今年は、どういうわけかコンサートが多くて、ひとつは日本たばこ産業のコンサートのシリーズで、ぼくがプロデューサーにされてしまったのがひとつあって、「サウンド・イン・ピース」という。それは6月に。同じ雰囲気でエディ・ダニエルズというクラリネットがいるでしょう。彼を呼んで、12月にそれをやるという。年2回シリーズでやっていく。

――それを佐藤さんが全部アレンジして……。

佐藤:アレンジして全部めんどうみて、という感じ。それともうひとつは厚生年金会館の自主企画みたいなもので、6月14日に……これは「佐藤允彦スルー・アウト」という、徹頭徹尾、佐藤允彦という。それと6月23日に、カザルスホールで、ベースとピアノとストリング・クァルテットで、セロニアス・モンクの曲ばかりやる(笑)。――“プレイズ・モンク”って、すごいなあ。佐藤:おかしいでしょ。どうなるかわからないんだけど……。あとはこれは北海道だけなんですけど、札幌交響楽団と中川さんとね。それからライヴ・アンダーですね。これはちょっと入れ込んで書きますんでね。

――楽しみですね、ライヴ・アンダーは。

佐藤:ぼくも事前にこれだけやりたいことがあるのは初めてなのね。空前絶後のチャンスだから華々しく散ってみようかな、と。

★註1:佐藤允彦(p)アレックス・アクーニャ(ds)レイ・アンダーソン(tb)土方隆行(g)峰厚介(sax)岡沢章(b)高田みどり(per)梅津和時(sax)ナナ・ヴァスコンセロス(per)ゲスト:ウェイン・ショーター(sax)
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★註2:ペルー出身というデータもあり。
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