エモコアとはなんぞや


エモコア、エモ、ポストロック、音響、エレクトロニカ、カオティック。ここ数年、 今までになかったジャンル名が誕生し、順調に音楽ファンを惑わせてくれています。 メタル界でいえばミックスチャーみたいなもんでしょうか。オルタナメタル、ヘビィロック、 モダンへビィネス、ラップメタル。この辺のキーワードにメタル小僧達は困惑でした。 今回は前者の『エモコア』とはそもそもどんなものをさすのか、という事をまとめてみようと 思います。


ハードコアバンドが『より複雑に』『よりメロディアスに』変化していったのがエモコアの はじまりといわれています。つまり、エモコア=ポストハードコア、という図式がこの 段階では成立しているんですね。ちなみにエモコアの元祖と呼ばれているのは90年代初頭から 活躍したCapNJazzというバンド。聞けばわかるとおり、たしかにハードコアが複雑化され、 メロディアスに変化しています。このバンドに在籍していたボーカルのティムキンセラが のちにJoan Of Arcを結成、ギターのビクターがGhosts And Vodkaを、残りのメンバーが Promise Ringを結成し、エモコアブームを支えることになりました。


現在エモコアの代表格と呼ばれるバンドといえばやはりjimmy eat world、get up kidsそして promise ringあたりでしょうか。彼らが皆、同時期に『普遍的なロック』へとサウンド形態を 変えていったのは非常に印象的でしたが、それはまぁおいといて。彼らには共通の特徴が ありました。疾走感と軟弱哀愁メロディです。この3バンドが、本来ポストハードコアとして 広義的な意味を含んでいるジャンル名であったはずの『エモコア』を、『彼らのような サウンドこそがエモコア』というイメージに転換してしまいました。


いわれて思い出すのはLimp Bizkitなんかが流行っていた時期。もともと『様々な音楽を ごったにしたジャンル』をさすはずであったミックスチャーが、ラップ+メタルという 図式化された音楽形態をさすジャンル名に変わっていった時期です。同じ事が 『エモコア』に関しても起こっていたといわざるをえません。本来、音響的アプローチを とりながら進化していったPeleやAlohaといったバンドも、複雑でドラマティックな演奏形態を 確立したNahtのようなバンドも、DC的な不協和音リフとアジテーション満載なボーカルを フィーチャーしたAt The Drive Inのようなバンドでさえも、『エモコア』『ポストハードコア』 として語られるべきはずが、エモコア=疾走感と軟弱哀メロ、に置き換えられてしまったばっかりに 『あいつらのどこがエモコアなんだ』という誤解を招く結果となってしまったのです。


その結果、WeezerやFoo Fightersのようなただのロックバンドが、疾走感と軟弱哀メロというキーワードに ヒットしてしまったばかりにエモコア扱いされるような紛らわしいことになってしまった わけです。まぁFooFightersの場合は初期メンバーがエモの大御所Sunny Day Real Estateによって 構成されていたってのも原因ではありますけどね。 そしてエモコア=ポストハードコアという図式がくずれ、まるでポストハードコアは 音響をとりいれたハードコアバンドを指すだけの言葉になってしまいました。


もはやエモコアという言葉は疾走感と軟弱哀メロという特定の音楽形態を指すジャンル名に なってしまいました。今からそれを修正することは出来ないでしょう。しかし、このような 背景があったことを理解し、是非、様々な『エモコア』バンドに触れて行って欲しいと 思います。