理科実験を楽しむ会
 作用反作用(その1) 作用反作用とつりあいの混同 07年10月1日
 
  作用反作用に関する「理解」は、全日本的に混乱しています。
 
 例1 《物理の世界》(講談社現代新書 昭和48年4月 第24刷) 以後、” ”内は本文す。                                                        @
 ”「だいたいね、われわれが物の重さと呼んでいるのは、実は地球が引っぱっている力のことなのだ。それをはかるには…」
 「天びんを使えばいい。」
 「そう、ニュートンの第三法則だね。つまり、作用と反作用とはつりあうことを利用するわけなのだ。たとえば、つぎの図のように、ABの板の上に置かれた物体Mを考える。Mには重力がはたらくが、それと同時に、反対向きに板から物体Mに、等しい大きさの力、つまり抗力が生じる。この抗力が重さを示すのだ。…」”
 第1に  ”作用と反作用とはつりあう” は全くの誤りです。作用と反作用はつりあうことはありません。つりあいには無関係なのです。
 次に、挿絵に物体Mが描かれていないことです。重力と抗力は物体Mにはたらいているのですが、図では、両方の力が板ABにはたらいているようにみえます。
 著者たちのネームバリューによる影響の大きさが懸念されます。
  千葉高の授業で、この話しをしたときに、生徒の一人から <たかが、地方の一教師が>(正確な表現は忘れましたが)という批判を受けたことがあります。その時の私の「返歌」は<それでも地球は動いている>でした。  その生徒は、後日、理解してくれたようです。
 ちなみに、この著者に手紙を出しましたが<梨の礫(ツブテ)>でした。
 
  例2 《物理を楽しもう》(岩波書店 2001年10月23日初版)という本が図書館で目にとまり、借りてきまた。                                         A
 ”…、この力を鉛直抗力といい、通常Nという記号で表します。重力をWとすれば、角柱を真横から見た場合、WとNは図2.1(b)のような関係になっています。<あるいは、重力は角柱に及ぼす作用、垂直抗力はその反作用ということで、図2.1(b)は運動の第3法則を表すとも考えられます。>”  < >印は石井 
 ここでは、重力は角柱に及ぼす作用、垂直抗力はその反作用、が誤りです。例1では、物体Mが挿絵に登場しませんでしたが、こちらの例では、角柱に垂直抗力を及ぼす床が挿絵に描かれていても、本文の中に登場しないのです。だから、垂直抗力が重力の反作用だと勘違いをしてしまったのです。垂直抗力は角柱が床を押す力(これは重力ではありません)の反作用なのです。
 具合が悪いと思われる点について、2002年1月8日に著者と発行所に詳しく手紙を書きました。岩波からは10日(投函した翌々日です(!)に、著者からは11日(!)に返信がありました。
 著者の手紙には、”…私の記述に誤解を招くような表現がありましたので、ご指摘の部分を書き換えるようにいたします。…”とありました。
 この本は、1002年4月に重版があった模様で(そのことは連絡がありませんでした)< >の部分が次のように書き改められていました。
<もう少し詳しくいいますと、重力は鉛直下向き、垂直抗力は鉛直上向きで重力の大きさWと垂直抗力の大きさNとは等しくなっています。>
 ここでは 、WとNが等しくなっている、というだけでなく、この2力がつりあいの状態にあること、をはっきり述べなくてはいけません。このような関係では、作用と反作用とつりあいの2力は、みんな大きさが等しいのです。その中で、作用反作用はどれとどれか、つりあいはどれとどれかを、明確に理解することから、力学が始まるのですから。
 訂正された部分のコピーを送って貰った(そのように依頼しました)とき、岩波の担当者に、この部分について、別の人からの投書やメールがあったどうかを尋ねたところ、そのようなことは一切なかった、ということでした。世間一般における、この点についての理解の程度がわかろうというものです。
 
  例3 《法則と定数の事典》(岩波ジュニアー新書 1982年1月出版)                                             B
 ”作用と反作用は、このような、物体間の相互作用である。ここで作用する力は、たとえば、ばねのような力学的力、万有引力、電磁気的な力など、どのような種類であってもよい。<一方の力と他方の力の種類がちがっていてもよい>”  この< >の部分に著者はアンダーラインを付しています。
 これに続いて、ばねとその上に乗った分銅の例があがっていますが、著者は重力と、ばねが分銅を押す力が、作用と反作用であると思いこんでいます。物理の学者一般にこの傾向があるように思われます。 例1の作者たちも同じです。
 その結果として、著者がアンダーラインで強調するような勘違いが起きるのです。種類の異なった力が、作用反作用の関係にあるなどということは、あろう筈がありません!
 ばねが分銅を押す力が弾性力なら、分銅がばねを押す力も弾性力です。重力は相互作用で、重力の反作用は重力です。電磁気力は相互作用で、電磁気力の反作用は電磁気力です。
  本の例(説明)をあげておきます。
 ”ばねばかり 
 質量Mの分銅に、重力F=Mgがはたらき、その力がばねをxだけ押しちぢめた。押しちぢめられたばねは、ばね定数kであらわされる力 F’=kx で、分銅皿を上方に押す。FとF’がそれぞれ作用と反作用で(どちらをどちらとよんでもよい)、それらの力はつりあっている。すなわち、F=F’ Mg=kx  ばねと机の接するところは、ばねの伸びようとする力F’が机を押し、机は抗力N(皿とばねの質量が無視できるくらい小さでれば N=F=Mg)で、ばねを上方に押している。この2つの力はつり合っている。すなわち F’=N である”
   Fは分銅の重力で分銅にはたらいています。F’はばねが分銅を押す力で、分銅にはたらいています。それらの2力はつりあいの力であって、作用反作用ではありません。
  ”FとF’がそれぞれ作用と反作用力で、それらの力はつりあっている”例1と同じで、作用と反作用はつりあわないのです。
 次は机とばねの関係です。 ”ばねの伸びようとする力F’が机を押し、机は抗力Nでばねを上方に押している。この2力はつり合っている。” この2力はつりあっていません。作用反作用です。要するに、メチャメチャなのです。
 その他、ばねがおし縮められて、伸びようとして…、などの表現については項を改めて述べます。
 
 例4 小学校の教科書(啓林館 昭和44年検定)                                                                C
 かっては、小学校6年の<物の重さ>の部分で力を教えていました。そのことは評価されますが、その教科書はこうなっています。 
 ”(つるまきばねの)指針が50g、100g…をさすように、指で引っぱる力は、それぞれ、50g、100g…のおもりと同じはたらきをしている。それで、力の大きさは物の重さで表し、50gの重さ、100gの重さなどということができる。、また逆に、物の重さは、物を下向きに引っぱる力(1)であるといえる。
 ばねばかりのかぎを引っぱると、指はばねによって引きもどされるように感じる。その感じは、ばねののびが、大きいほど強い。ばねがのびると、ばねにはもとにもどろうとする力(2)が生じ、その力は、のびが大きいほど強い。ばねがのびたまま止まっているとき、ばねを下向きに引く力(3)と、ばねが上向きにちぢまろうとする力(4)とが等しくなっている。1つの物(5)に、大きさが等しく、向きが反対の2つの力がはたらいていて、その物が止まっているとき2力はつり合っているという。”    (1)(2)(3)(4)(5)は石井による。
 力学では、力が何にはたらいているかが大切です。例えば、上述の(1)(2)(3)(4)の力は何にはたらいていると思いますか。この例では物(5)は何でしょう。その物にはたらいている力はどれでしょう。また、右側の図の矢印が力だとすると、それらは何にはたらいていると思いますか。 図には、これらの力がはたらいている物が描かれていません。これは、始めに挙げた例1と似ていると思いませんか。
 上に示した教科書のコピーは啓林館のものですが、教育出版、信教[信濃教育会編]、東書、学図、大日本など目についた教科書はみんな同じパタンで、同じような図を載せています。学習指導要領の拘束力がいかに強いかがわかります。
 
 例5 伝達講習会
  学習指導要領が変わるときには、伝達講習会なるものがあって、指導主事から、その精神についての講義を受けることになっています。
 理科の伝達講習会を受けた(受講義務がある)とき、私は、この教科書の例などを引用して、作用反作用とつりあいの混同が著しいことを述べ、”法的拘束力を持つ学習指導要領に準拠した教科書が、揃ってこのようなことになっているのはどうしたものか”と質問したのです。
 指導主事の解説は次のようなものでした。 ”ばね秤とおもりの間に小さいリングをつけてこれを両側から引くとすればつりあいで、リングを徐々に小さくしていって最後に点になった状態が作用反作用だと考えればよいのではないか” それ以来、私はこの考えを<リングの思想>と呼ぶことにしています。
 リングがあればつりあい、なければ作用反作用、であって、その区別などはめくじらをたてるほどのことではない、というような雰囲気でした。
 後日、”(力のつりあいと作用反作用は)単に気持の違い”と切り捨てた本がある、ということを《物理教育通信No102》で読んだことがあります。驚きというほかありません。
 今、興味や関心を持つ一つの物体があり、そのものの運動(変形も含めて)を解析しようとして力を考えるのですから、物体がなくては何も始まりません。力学はものから始まるのです。 作用反作用も、着目するものにはたらいている力を発見するのに、有効なのです。敢えていえば、作用反作用は<力の発見法則>といってもよい位のものです。
 平行四辺形の2つの辺に矢印がついているのような図があって、力を合成せよ、という問題をよくみかけます。ある時、生徒から質問がありました。
 ”ものはどうなっているの?” ”矢印のもとの所に小さいものがあると思えば…” ”え!小さいと吹っ飛んじゃうよ”
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掲示板 石井信也