理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

 磁気の学習指導にかかわる2〜3の提案


1. はじめに

理科教育の原理は<"もの"で教える>ことである.

授業やサイエンス・ショーなどで実験をしていて思うことは, ものの前では, 教師と子どもは同格であるということである. 教師には幅広い経験と, 豊富な知識があるが, 子どもにはフ
レッシュな感性と, 自由な発想があって, 第一, ものを見る目の数が違う. 子どもは多勢いるのだから. ああでもない, こうでもない, という子どものつぶやきを拾い上げ, ああ
したらどうか, こうしたらどうか, という子どもの提案を受け止めて, ものに学びながら積み上げてきた実験のうちで, ここでは, 磁気に関するものの一部を紹介してみる.



2. 渦電流 視点を変える

ビールのアルミ缶の底の部分を円形に切り取り, 底の膨らみを利用してローターにする(Fig.1). これを水平な机の上に置き, この円周に沿ってネオジム磁石の極を一方に
動かすと, ローターは渦電流によって磁石と同じ向きに回転する. この渦電流をじかに「見たい」と思い, 銅の円板の各所に切り込みを入れたりして, そこから電流を取り出して
LEDをつけようとしたが, すべての試みは失敗に終わった. やがて, 渦電流でじかにLEDを点灯させるのではなく, 電流との相互作用で, コイルに誘導電流を流してLEDを点灯させること
に思い至った.

原理は以下の通りである.

(1) 適当な非鉄金属の塊をフェライト磁石の近くで動かす. 磁石の方ではなく, 非鉄金属の方を動かすように, 視点を変えた.

(2) 非鉄金属に起きた渦電流で, 磁石の下に置かれたコイルに誘導電流を起こして,
LEDを点灯させる.

実験は以下のように行った.

(1) E・I型の鉄心が使われている電源トランスのIの部分を取り除いて,コイルが巻かれたE型鉄心(Fig.2)の部分を使った. 以下, これを<半トランス>と呼ぶ.

(2) 半トランスの鉄心の中央にフェライト磁石を置いて, その近くで厚い銅の円板を動かした.

(3) 半トランスに起きる電流は弱いので, 電流増幅装置を使った(Fig.3). トラジスタ2SC-1815のダーリントン結合を, さらに1段増やして3段にしたものを<3段アンプ>と呼ぶことにした.
3段アンプの入力端子を半トランスのコイルにつなぎ, 可変抵抗器を加減して, LEDが点灯する寸前にまで, バイアス電圧を上げておく.

以上の実験セットをFig.4に示す.

フェライト磁石の近くで, 銅の円板を上下に, あるいは左右に動かすと3段アンプのLEDが点滅した. アルミ, 鉛, 真鍮など他の金属でも, また, 閉じた空心のコイルでも同じで
あった.

誘導電流の大きさは, 磁束の変化の速さに比例する.

誘導電流 ∝ 誘導電圧 ∝ 磁束の時間的変化

そこで, 重い金属をゆっくり動かす代わりに, 軽いアルミの物体を速く動かすように発想を変えた.

 アルミを速く動かす「装置」として, 次の工夫をした.

(1) 1円硬貨を積み重ねた<ブンブンごま>を作った(Fig.5). 1円硬貨を10枚重ねてセロテープで貼りつけたものを二組作り, これを重ね合わせ, その間にたこ糸を挟んで固定し,ブンブン
ごまにした. これを磁石の上で回す.

(2) 以前, 熊本で<肥後とんぼ>という郷土玩具を入手した(Fig.6a).子どもは<ガリガリとんぼ>と呼ぶ.鋸歯状の凹凸をつけた竹の棒を擦って, その先につけたプロペラを回すというものであ
る.振動を回転に変換する力学的に優れた玩具なので, 理科の授業で使うことを勧めてきたが, 今回は, このプロペラのところに1円硬貨を数個貼りつけて(Fig.6b)振動させ
た.

(3) 竹の玩具に<カズー>という楽器がある. 両側があいている筒の途中に, 方形の吹口をつくり, 片方の穴にセロファンを貼って, 吹口から音声を吹き込むと, セロファンが
振動して曲を演奏できるというものである. 紙の筒とアルミ箔を使って, その中央に1円硬貨を1枚貼りつけたものを作った(Fig.7).

以上, 3例のいずれの場合にも, 1円硬貨の振動でLEDは点灯した.

このように, 玩具などを利用して遊んでみると, 実験の理解が深まり, 周辺の様子が見えてくる.

カズーの場合, アルミ箔の振動板だけでは灯かなかったLEDが, 1円硬貨1枚の追加で灯くようになったのは, 振動体である金属の大きさによるものであろう.

ブンブンごまの場合, 1円硬貨の個数によってLEDの明るさが異なるのは, 枚数(長さ)による振幅の違いや, 慣性モメントによる回転速度(振動数)に違いによるものであろう.

このほか, 種々な非鉄金属の道具を使って渦電流を楽しんでいるうちに思いついたのは, 仏様の鈴(リン)で, その実験結果は良好であった. そして, とどのつまりは, 近
くのお寺へでかけて, 梵鐘で実験する「破目」になったのである.LEDは明々と点灯した(Fig.8).

この実験は,3段アンプなど電気的装置を使わないでも,つまり,電源を用いなくても,半トランスと磁石を適当なものに選び,ブンブンごまを上手に使えば,感度のよい圧電ブザーを鳴らすことができる.



3. 磁性 物質を総点検する

磁石で鉄を吸いつける遊びは, 子どもにとっては魅力があるが, 学年が進むにつれて, しだいに馴染みが薄くなっていく. その結果, 世間の常識は "磁石につくものは鉄
だ" という限定された知識にとどまることになる.

強いネオジム磁石が手に入るようになったので, いろいろなものの磁性を調べる実験をしてみた. 試料は子どもに, 一人1点ずつもってきてもらうとよい.

例えば, 1円硬貨を, 両面テープで割箸の先端に貼りつける. 発泡スチロールのトレイを盆の水に浮かべ, この割箸をトレイに乗せてから,重さのバランスをとる(Fig.9).

トレイの動きが止まってから, ネオジム磁石の極を, 横から, ゆっくり, 1円硬貨に近づけてその動きを見る.

いくつか, 結果と注意点を挙げてみると,

(1) 非鉄金属の場合, 磁石を急に近づければ逃げ, 遠ざければ寄ってくるのは, 渦電流によるもので, 試料の磁性と直には関係ない.

磁石を別の割箸の先に貼りつけて固定し, トレイの方を静かに回して,試料が磁石に近づいてくるのを待つのがよい. 常磁性であるアルミの1円硬貨は磁石につくが, 反磁性の10円銅貨
は, 反発力により途中で止まってしまう.

(2) 子どもがもってきたラッキョウや人参は磁石から逃げた. 野菜や果物など多くが磁石から逃げるのは, 含まれている水が反磁性だからであろう.

クレヨンのおよそ半分は磁石に引かれ, 残りは磁石から逃げた. 色素化合物の種類によるものかもしれない.

(3) 磁石を割箸の先につけて使うのは, 身体の静電気や, 体温による空気の動きによる影響を減らすためでもある.

いろいろな物体や物質を調べてみて, すべてのものに磁性があることを確かめたい.

磁性のように, ある物性, 例えば密度, 弾性, 電気抵抗, 偏光などを学習したときいは, その都度, その視点での物質の総点検をしておきたいものである.



4. 交流モーター 私的新発見を味わう

ここでは, 簡単な交流モーターとしてのスチールウール・モーターについて述べたいが, その前に, その発想を得るまでのプロセスを記述してみる.

(1) 同調ごま

 室内配線用の3芯ケーブル(例 太さ1.6mmφ, 長さ10m, 500V, 16A)を,ひとつながりになるように順につないで, 大型のコイルとして使用した.(Fig.10).

Fig.11 のように, 左右が N・S に着磁され, 中央に穴のあいたタブレット型の磁石に, 楊枝の軸を挿して磁石ごまにする(Fig.11).

断面を横向きにした Fig.10 の大型コイルの中に置いた薄くて滑らかな皿の上で磁石ごまを回す. スライダックで数ボルトの電圧を加えて,こまに初速を与えると, その回転
数が交流の周波数に一致したときには,こまは安定して回り続ける. 同調ごまである.

(2) 遮蔽電極形誘導モーター

小型のビール缶(アルミ製)のふたから底へ, 真鍮棒の軸を通してローターとする(Fig.12).

コイルの断面の半分を, 厚めの銅板で遮蔽して, コイルの中央寄りの銅板の端に,
ビール缶のローターを置くと回転する. それは, 遮蔽銅板の作用により, 回転磁界の成分が発生するためである. 銅板の代わりに閉じたコイルを使っても同じことである.

これは遮蔽電極形誘導モーターのモデルになる.

(3) 鉄棒による回転磁界

銅板の代わりに鉄の棒を使ってみた(Fig.13). Fig.12 に示したローターをコイルの前に立てる. 鉄の棒をケーブルの輪に通し. その先端をローターの横に添えると, ロー
ターが回転する. 交流の交番磁界と, それによる鉄の誘導磁界が合成されて回転磁界ができるためである. アルミ棒ではだめであった.

種々なタイプのローターを作って, この回転磁界で回してみた. 卓球に小さな穴をあけてスチールウールを詰めたローターを, コイルの中の皿の上で回したとき(Fig.13), 鉄棒を取り去って
も, ローターが回り続けるのに気がついた. 回転磁界で回っているのではなさそうである.

後日, ヒステリシス・モーターなるものがあることを知った. 交流の場で鉄のローターが磁化される際に, 位相が遅れるので, 外の場に引かれて回るのだという. この卓球が回り
続けるのは, この原理によるものであろうか.

このような発見はこれまでにも, いくつもあった. すでに知られてことであっても,
私的に「新発見」をする喜びは大きい. 子どもにも, こういう発見を味あわせたいものである.

(4) スチールウール・モーター

スチールウールを詰めた卓球を, 交番磁界で回した装置を, コンパクトに作り変えてみた.

フィルムケースの口に近いところに, 0.4mmφのエナメル線を30回, 途中, 軸を挿すために少しのスペースをあけて巻く. スチールウールを直径1cmほどの球に丸めて, 中心に0.6mmφの
真鍮の軸を挿し, コイルの間にあけた穴に軸を挿してローターにする(Fig.14). 球と軸が一緒に回るように接着する. コイルに交流電圧 1〜2V を加えてから, 初速を与えると回転する.
ローターはどちらの向きにも回転させられる. これをスチールウール・モーターと呼ぶことにした. 最も簡単な交流モーターとして, 教材として使えると思う. ただし,初速は
与えなければならない. 



5. 電流にはたらく力 電流という"物質"で考える

電流が磁場から受ける力を, 教科書では, 電気ブランコの実験(Fig.15)で説明する.
しかし, これには, 以下に述べるような問題点がある.

(1) この記述では, 電流は一方的に力を受けていて, その反作用が見えにくい.

(2) 電気ブランコの実験からは, 電流が受ける力が, 後述する実験(b)のように,<思わぬ方向にはたらく力>という感じは受け取れない.

それに, フレミングの<左手>が出てくる必然性がないので, 生徒は言われるままを覚えることになってしまう.

(3) この力が現れる理由を, 磁石と電流の磁力線を合成した図から説明しているが,
この問題点については後述する.

電流が磁場から受ける力は, 電流間の相互作用として理解させたいので, その準備として, 電流間にはたらく力に関する次の三つの実験を見ておきたい.

実験(a) 始めは, 電流と電流が及ぼし合う力を見る実験である. この力は小さいので, 軽いアルミ箔を使った.

幅1cm, 長さ50cm ほどの2本のアルミ箔を, 2cmの間隔で鉛直に緩く張って, バッテリーで電流を流す(Fig.17). アルミ箔を並列につないで, 同向きの電流を流した場合には引き合い, 直
列につないで, 逆向きの電流を流した場合には斥け合うのを見せる.

実験(b) 次は, 電磁石が電流に及ぼす力を見る実験である. Fig.18 のように, 鉄棒の電磁石を水平に保持し, そのN極の前に, 1本のアルミ箔を鉛直に張って, バッテリーで上から
下へ電流を流す. 授業では, 事前に, アルミ箔の動きを予想させてみるとよい.

電流を流すと, アルミ箔は電流の側から見て, 電磁石の左手に曲がり込んでいく.
電磁石の左側では, コイルに流れる電流は下向きなので,アルミ箔の下向きの電流は,
同じ下向きのこの電流に引かれて移動したのである(Fig.19).

コイルの電流と直線電流の向きを, いろいろに変えて実験すると, 直線電流はいつでも, コイルの電流が同じ向きに流れている側に, 引かれるのがわかる. フレミングの
左手の法則の実体が見えるということである.

実験(c) 最後は, 電磁石を棒磁石に替えて, 上と同じ実験をする. 磁極の向きが同じなら, 結果は同じになることから, 磁石の内部にも, 目に見えないミクロの電流が存在
することがうかがえる. 磁石を見たら,右手を出して, 磁石の内部の電流の向きが「透視」できるようにしたい. これらの実験から, 電磁力の本質が電流間力であることを頭に置い
て,教科書の記述を見直してみよう.

(1) 電流が磁場から受ける電磁力を, 電流間の力として見ると, <電流が磁石から受ける力>の反作用<磁石が電流から受ける力>が見えてくる.

 電流を固定して磁石が動けるように, この実験をセットすれば, 磁石が電流に引きつけられるのを見ることができる筈である.このことについては, この項の最後に述べる.

 (2) 次は, 電磁力がはたらく方向について, である.

次に示す実験は, 科学の祭典で見たもので, 実験(b)のアルミ導体の方向を, 縦から横に変え, かつ, 装置を簡略化したものである(Fig.20). 幅1cm, 長さ20cm のアルミ箔
を, Ω形に弛ませて, その両端を机に貼りつける. 箔の下に, 磁極が上下になるようにネオジム磁石を置く.

"アルミ箔に電流を流すとどうなると思う"の問いに,子どもたちの答えは "下へ"
動くか "上へ" 動くか, のどちらかである. ところが, 電流を流すと, アルミ箔は "横へ" ずっこけてしまう. この実験を見たときの小学生の表現は "いやがっている!"
であった. このような結果を予想できないのは, この力が, ものとものとを結ぶ方向にはたらいていない, つまり, 生活経験的ではない, からであって, 私はこれを「非ニュートン
的」でると表現している.

 この実験では, 子どもから "電池を反対にしよう" "磁石を反対(裏)にしたら" などの声が出る. 最後に, コンセントからの電流を流すと,アルミ箔には振動が起きて, 子ど
もたちは驚き, 興味を示すので, 交流という種類の電気があることを知らせる契機となる. そして, この横向きの力がモーターへつながることも教えたい.

(3) 次は, 電気力がはたらく理由の説明についてである.

電場や磁場を表す力線は, 流体力学からの引用であろうが, 投げられたボールのカーブを説明するマグヌス効果の図と, 電流が磁場から受ける電磁力の図は, 同じ形でありながら, 力を
受ける向きが逆であるのは頷けない(Fig.21).

"磁力線にはそういう性質があるのだ" とするのは, 説明のための説明でしかない.
これは, 千葉の物理教員仲間の見解である.

電流間の力は基本的な力なので, それがはたらく理由の説明はないのである. これは, 電荷間に力がはたらく理由を説明しないのと同じである. +の電気と―の電気が引
き合うなどの理由の説明を, 聞いたことがあるだろうか.

 さて, 電気に関する電荷に相当する, 磁気に関する磁荷が存在しないことがわかっていて, 磁気の原因が電流に書き換えられた現在でも, 磁石の N極, S極 には, 磁荷とい
う「もの的」なエトヴァスが貼りついているようなイメージで, 磁力を考えるのが一般のようである.

 ヴァーチャルな磁荷や, 非物質的な磁場は, 初学者にとっては考えにくい.磁気に関する学習では, 磁極や磁場などと併せて, その背後にある実体としての電流を見逃さないよ
うにしたいものである.

 物理では,<作用反作用>は「力を見る」ときのガイドラインともなる重要な原理なので, 電磁力の反作用も見せておきたいものの一つである.これに関して, 以下のよう
な実験をしてみたので述べておく.

 小型の盆の中央に穴をあけ, 被覆導線を通してから穴の隙間を接着剤でふさぐ.盆に水を張る.方位磁針をケースから取り出し,発泡スチロールの「舟」に貼りつけて水に浮かせる(Fig.22).

磁針は常に地磁気の方向を向いているが,バッテリーで導線に電流を流すと,磁針の「電流」は導線の電流に引きつけられて,導線に「接岸」する(Fig.23).

生徒に実験させる場合には,磁針の代わりに, 容易に手に入るゼムクリップか縫針を磁石で擦って磁化したものを使うとよい.



6. おわりに

1969年の高校紛争で "物理の授業はわからない" と生徒に突き上げられて以来, "物理の授業は実験を中心にして行う" ことにした. そうすることで, 生徒は主体的に授業に参加するよ
うにもなったし, 実験を提案するようにもなった. それよりも, 私自身が, 授業が楽しくなり, 物理が「わかる」ようになった.以後, 開発した実験もかなりの量になった.

 実験では,教科書に書かれている内容の, 実体的背景が見えるだけでなく, 書かれていない未知の世界への戸口に立つこともありうる. 知識の量が少ない子どもにとっては, 実験から得た事柄の
多くは「新発見」なのであって, その喜びは大きい.

 それに加えて, 実験でものと遊び, ものとつき合ってくると, ものの世界が広がって見えてくるのも嬉しい.

渦電流で, 磁石の代わりに金属の方を動かすとう発想から,

回転(ブンブンごま)→振動(ガリガリとんぼ)→音(カズー,鐘)

へと, 考えが発展してきたことを先に述べたが, かくして, 現在, 最も魅力を感じているのはブラスバンドの金管楽器で, 楽器が鳴ると, それに貼りつけた色違いのLEDがチラチラ光った
ら楽しかろう, などと空想が駆け巡ったりする.

以上が, 理科教育は "ものと子どもに依拠する" という<もの派>教師の「哲学」の実践である.

 理科の教師は "ものと子どもに従って危うからず" である.



2004年12月13日

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