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(5)特集 理科T・この一年  人間と自然を教えて  S-7  No335 
                    2011年12月1日(木)

 

  現在,私の学校では1年生に5単位の理科Tを履修させています.内容は,生物(的内容)4単位, 地学(的内容)1単位です. ですが, 時間的な関係もあって, 私はそのうち生物的内容として最終単元の<人間と自然>を1時間ずつ2クラスもつことになりました.

  私の学校の生徒たちは,入試戦争を激烈に闘ったて,全員が大学へ進学します.現在,この学校に在籍していること自体,彼らが受験に強いことを物語っています.教科書に書かれている内容で<人間と自然>をテストするといえば,全員が満点に近い点をとると思われます.私たちがこの現場でしなければならいことは,教育基本法の第一条にあるように<真理と正義>をこみで教えることと,民主的感覚(理念ではダメ)を身につけさせることと, 自然科学はものからじかに学ぶことが大切だというのを学ばせること, などです.   

  こんな状況の中で, 私は1単位の<人間と自然>を次のように計画しました.

  水のこと/空気のこと/食物のこと/エネルギーのこと   (1学期)

  食物連鎖/物質の循環/水俣病                     (2学期)

  千葉公害訴訟−青空裁判                (3学期)

 

  以下,その授業の内容とその様子をメモ風に書いてみます.

 

 水のところでは

 問:自分の飲んでいる水のルーツを探りなさい.

 問:自分の家の1日の水道水の使用量とその料金を調べなさい.

  問:自分の家の近くを流れる川の様子を調べなさい.

などという問を中心にして授業を展開し,その後で,水の汚染に関する学習をしました.私は千葉の水問題研究会の会員なので,資料や情報にことかくことはありません.生徒たちは水に関してかなり関心をもつようになったと思います.

  空気のところでは,大気汚染の裁判のことを中心にしました.はじめに四日市のことに触れた後,現在裁判が進行中の千葉,大阪,西淀川と多奈川,それに,やがて始まるであろう川崎・倉敷のことなどを教えました.それからSO2, NO2 などの環境基準が改悪されるなど,公害問題を行政・司法・立法とのかかわり合いで扱いました.川崎で訴訟が始まったときは,多くの生徒が, それをニュースで知っていました.

 食物については,まず,雑誌『プレイボーイ』(198123日発行)の写真を見せることで授業を展開してみました.

  ゆたかな女性の肉体の写真が並んだすぐ後に, ガリガリのアフリカの子どもの写真が続くといったこの雑誌の企画は「教材」として有効でした.実は,この雑誌は,以前に受け持った生徒の一人であるT君がもってきてくれたものです.T君はこの<飢餓大陸>を取材した三留理男氏に傾倒していたこと,そして,私がこの時の生徒諸君に私の<アフリカ報告>をしたことを思い出したりして,この雑誌を持って遊びに来たのでした.

  授業でヌード写真を見せた時,男の子はゲラゲラ笑い,女の子ははずかしそうに下を向いていましたが,続いて飢えた子どもの「ヌード」を見せると全員が目をみはってシューンとしたものです.感性に訴えることも重要なことなのです.

 ここでは,世界人口の1/4の「北」が食料の3/4を買い込んでしまっている不公平さと, 私たちの食料そのものが不健康食品になっていることを材料にしました.  

:「南」で餓死していて,「北」でダイエットしている矛盾は,どうして起きるのでしょう. 

:政府が買い上げたカドミウム汚染米を飢えている人達に贈るという「アイデア」をどう思いまいか(イタイイタイ病の患者さんは, みんな年配者です. 1年や2年汚染米を食べてイタイイタイ病にはなりません)

  生徒たちのうけとめ方は様々でした. 自分の食生活に目が開けるような授業も組みたかったのですが, 時間の関係でやめました.  

  エネルギーにかかわっては原発を中心には据えましたが, ここでは省略しておきます.

 夏休みには公害や自然破壊について,ひとつの課題にとりくむ” ように指示しました. 多くの生徒は, その関係の本を読んで感想を書いてきました. 元素の循環について調べてきた者もいます. そして,自分の家の近くの川の調査をしてきた生徒が数人いました.

  休みあけの授業では<人間と自然>にかかわる経験の1分間のスピーチをやりました.これには2時間かかりました.報告は多彩で,このテーマが生徒たちの意識の中にすみついているという感想をもちました.

 2学期は食物連鎖に入りました.導入部は教科書を使って生産者,消費者,分解者を教え,その後で

問:地域を設定し,その中での食物連鎖をいいなさい.

という課題を出しました.地域としては,森林,草原,砂漠,ツンドラ,湖沼,海洋,田園,畑などがあげられましたが,自分の家の庭とか校庭とかいう身近な<現実の場>は出てきませんでした.学校の西側にかなり広いブッシュがあって松や椎が生えているところがあります.そこの周辺の食物連鎖を調べさせようとした時の私とN君との会話です.  

T  あのブッシュの中の食物連鎖は, どうかな?

N  あんなところに動物はいないでしょう.

T  それじゃあ, 植物が生産したものはどうなるの?

N  落ちて腐るだけじゃないですか.

T  腐るのも食物連鎖だろ.

N  そりゃ….

T いや,もっとゆたかな食物連鎖があるはずだよ.現場へ行ってみないで頭の中だけで考えるのって,ダメだよネ.内容がプアで….

 そこで,食物連鎖の一断面として, 2次消費者(小型肉食動物)をとり出してみせようと思い,腐肉トラップを仕掛けてみました. ブタ肉の小片を入れた牛乳瓶を, 4本埋め込みました. そのうちの1本は設置したところがわからなくなってしまいましたが, 23日のうちに, アオオサムシ, エンマコガネ, センチコガネ, ヨツボシモンシデムシ, ヒラタシデムシ, クロシデムシ, ハネカクシ(2種 同定できず), ゴミムシ(同定できず), オカダンゴムシ, ミツカドコウロギ, フイリワラジ, ツヅレサセコウロギ, ミツカドコウロギ, サビキコリ, 等々, かなりの収穫がありました.  その後, 雨のため瓶が水浸しになって, 採集は中止になりました. 生徒たちは動物世界のゆたかなさに驚いていました. それよりも, 私はこのブッシュに入った時の蚊の襲撃のすごさに辟易したものです. ヘビもいるはずです. 小鳥も来ています.イヌやネコも出入りしていると思います. ツルグレン装置を作って土壌動物も取り出してみせたいものです.

  食物連鎖の次に, その栄養物質の構成元素としての C N の循環を, 夏休みに調べてきた者に発表させました. 更にそれを P, S, Ca, Cu, Fe に広げて, 最後にHgへもっていきました. 私の授業にいささかの不満気であった K君はリンの循環を発表してからは, 授業への取り組みが前向きになてきたように思われます. ここではリン濃度の測定をやってみせました. 手賀沼のリンの濃度は 0.81ppm(昨年の年平均)です. 富栄養化の限度が 0.10ppmですから, いかに高いかわかります. 琵琶湖や霞ケ浦に比べて, 千葉県の印旛沼, 手賀沼などへの対策が遅れていることについて話をしました.     

  いよいよ水俣病です. 去年の夏の科教協熊本大会の後, 地域見学で水俣へ行っていろいろ取材してきましたが, 続いて, 新潟民教連に参加した後, 阿賀野川を見て, 地元の方々の話を伺うなどして, 材料をしこたま仕入れてきていたので, リアリティーのある授業ができたと思っています.

  私が出張の日, 水俣で譲ってもらった水俣病・授業実践のために” という教材資料(水俣芦水公害研究サークル作成)の中の<海の死は人類の死>をプリントして読ませ,その感想を書かせました.次の文はA君のものです.

  ≪公害の問題を考えるとき,いつも頭にくることは,やはり,自然界の食物連鎖というサイクルの,いちばんてっぺんの存在となってしまった人間の責任についてである.他に例をみないその生命力や種の維持の確実性は,まず食生活という面から大自然のサイクルを大きく変えていってしまった.それだけではない.人間社会という社会活動において,他の生物のしたことのないさまざまん活動を始めている.工業生産というその活動は,それまで地球上に存在しなかった物質まで作りだしてしまっている.そしてその工業生産という活動は,計画性のなさ,また単なる利益の追求というような点において,人間はもちろんのこと,植物,動物におおきな被害を与えているのである.普通のホニュウ類などに見られないだけの能力を持ち,活動している以上,それは当然責任がともなうことだろ思う.人間が悪いから人間なんてどうでもいい,と言っているのではない.この地球はかけがえのないものなのだ.それはもちろん人間にとってもそうだけど,他の動植物にとっても大事なものだ.そのあたりを考えたら,いい加減な活動は絶対できないし,してはいけないものなのだ.

 この文章では,そのかけがえのない大切な自然である海に対して, 人間の無責任さからきた汚染について述べられている.そこまで海を犠牲にしてまで, 人間は活動をしなけばいけないのか.どこまでそういう活動は必要なのか, と思う.少なくとも,絶対的な安全性が保障されていない段階で活動していいはずはないと思う.人間を守ることは当然大切だけど,その他の生物を守ることは絶対的に必要だと思う.≫(以下略)

 

  122日から3日にかけて, 冬季のNOX測定が全県的に行われたので, これを授業の一部として採り入れました. 100本のカプセルを全生徒にわたして測定に参加させました. 回収率は98%でした. 結果は, 最も高いところは市内柏台の 0.079ppm, 最も低いところは前述のK君のところ, 山武郡大網町の 0.012ppmでした. 感想文のA君は2本持っていって, 結果は 0.025ppm, 0.021ppmでした. NOXの環境基準値は, 以前は 0.02ppm以下でしたが, 改悪されてからは 0.04ppm以下に変わりました. A君のところは旧基準では×で新基準では○ということになります.このA君が次のような年賀状をくれました.

  ≪あけましておめでとうございます.ちょっとここらで機嫌をとっておこうと思い(?)年賀状を出しました. 先生が授業で戦争についてふれたとき僕は考えました. 僕たちは戦争の体験がない.これはやはり怖いし危ない, . 自分で, 今あまり時間がないけれど, いろいろ読んで. 知らなければならない, . 3学期には川鉄のことを中心にいくそうですが, うちは母子家庭で母は川鉄につとめているのです. そのうち, 僕なりの意見を言わせて下さい. 元旦≫

  明日から, その3学期が始まります.                                                            (千葉県立千葉高等学校)          
 
   注:これは1983年の実践です
                                                                                                  
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