理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

 雑誌<理科教室>へ 
(4)実践記録  気体<高1 化学>  S-6 No334  2011年11月24日(木)

 

 

@ はじめに

 

  <ものとこどもに依拠する> これが私の理科教育の方針です.

  自然科学はものから学ぶのが本筋です. <先生から教わる> <本から学ぶ> <テレビで知る> 等は,あくまでも補助手段です.自然か事実を掴みとるのが基本であることを忘れてはなりません.このことがあってはじめて,間接的な方法も併用できるのです.座ったまま,結果だけをかき集める「能率的」なやり方は,やがて観念論へ堕していく危険性があります.

  じゅ業は,授業であっても,受業であってもいけません.それは,こどもと教師が一緒になって創りあげていく方法なのです.そうでないと,こどもがズッコケているのを知らずに,教師はピエロのように振る舞うことになるでしょう.子どもがわからないところは,本質にかかわるところが多いようです.微かな子どもの声を聞きとって,そこを切り開いていくことこそ,じゅ業の本質なのではないかと思います.<ものと子どもに依拠する>というのはこういうことです.

 ここに報告するのは,おおらかな子どもたちとドジな教師(生徒の表現)の学習の記録です. モルを教えるためのアプローチです. 時数は10時間.

 

空気にも重さがある

 

  まず, 空気からはじめます. 空気に重さがあることは, タテマエとしてはわかっていても, 確信をもっている生徒は少いようです.

  「空気の重さ,感じないよな」が実感のようです.それどころか,空気がものであるという認識さえさだかでない生徒もいます.   

  空気の重さの測り方をみんなで考えた後で,空気圧入管を紹介します.実験用二酸化炭素(市販:酸素, 窒素もある)の超小型ボンベに自転車用のムシ(自転車屋で購入)を使って, <空気入れ>で空気を圧入します. 重さの増加分が入った空気の分, と言うことになります. これを水上置換でメスシリンダーにとり,1リッターの重さ,つまり密度を出させました.

 結果は表1の通りです. この日の気温は25℃でした.  

 

 班  ボンベの重さ  空気を入れた重さ  空気の重さ  空気の体積   密度  評価

       [g]            [g]              [g]         [l]        [g/l]  

  1   132.8           136.3            3.5         3.04       1.15   

  2   130.3           134.0            3.7         3.24       1.15   

  3   128.8           132.3            3.5         2.75       1.25   

  4   128.3           132.3            4.0         3.50       1.14   

  5   128.2           130.0            1.8         1.60       1.13   

  6   133.0           135.8            2.8         2.17       1.28   

  7   128.0           130.4            2.4         2.03       1.13   

  8   128.0           131.0            3.0         2.89       1.03   

  9   130.0           132.9            2.9         2.65       1.09   

 10   132.0           135.4            3.4         3.00       1.13   

 

  生徒の声と私のコメント

  「空気を入れるボンベはあたたかくなり,空気を出すとつめたくなる」

 「こんなに小さいところに,あんなに空気が入るとは思わなかった」 

  620ccのボンベに3000ccの空気が入る」という言い方は, 一部の生徒を混乱させました. 「中の空気は濃いんだ」という生徒のことばを使って, 620ccの濃い空気が3000ccの薄い空気になった」というのがよさそうです. 数年前「ナンデー, 気体の体積って容器の体積のことか」という生徒のことばにハッとした記憶は今でもフレッシュです. 生徒のことばで教えることは有効です.

  水上置換すると(後で0℃という条件をつける)標準の濃さの空気になり, その体積が標準の体積だと教えておきます.

  他のガスについては, CO2ボンベなどを使ってもよいのですが, ちょっともったいない気がします. ドライアイスを使ってもよいようです(水への溶解はあまり気にしません). ブタンガスは100円ガスライターを使って測ります.

 

ちりもつもれば―大気圧

 

  私の学校には, 大小数種類の注射器(一部はかん腸器)が用意してあります. まず, 大きい注射器(200cc)を見せ, ピストンをいっぱいに差し込んだまま口を封じ, 引っ張って抜けるかどうかやらせます.

 T 誰か抜いてみないか.

 Ps 中村, 中村, (中村は非力で抜けません)

 T 強力なのは誰だ?

 Ps 黒岩(黒岩は簡単に抜いてしまいます)

 T では, 今度は僕がやります. (細いのをとり出して抜いてみせる)

 P 年より用.

 T 引っ張った時, 中に何があるの?

 P 真空.

 T はなすとピストンがもどるのは?

 P 真空がひっぱる.

 T 真空って何もないんだろ. それがひっぱる?

 P ?

 T そのひっぱりの大きさを測ってみよう.

 

  ピストンにばねばかりを結んでひっぱりました. 結果は次の通りです.

 

   ピストンの直径    断面積       引っ張った力

      [cm]           [cm2]         [kg]

      1.00            3.14           3

      3.38            8.97           9

 

 ここで,真空は何もないので力を及ぼさないこと,空気がピストンを押していることを教え,空気の押す力,つまり大気圧は1cm2について1kg重であることをおさえました.

  問「では,一番太い注射器は直径4.16cmですが, kgの力でひっぱれるでしょう」計算させて, 実際にそうなることを確かめました.

 

  生徒の声と私のコメント

 「注射器をひっぱる実験で,始めに思ったことは,外から空気がおしているのではなく,中に空気が入っていないから注射器をひっぱっても抜けないと思った」(本田)

  まさにアリストテレスです.こう考えていた生徒は他にもいたはずです. 

                     

  次の時間には, 細いパイプで牛乳を2階から飲ませました. 私は2階からは飲めませんでしたが, 生徒の中には3階までも吸い上げた者がいます. 生徒たちは「吸っている」という感じを強くしています.

 次に12.5mの屋上から真空ポンプで水を「吸い上げ」ます. パイプは外径1.30cm, 内径0.90cm, 塩ビ製繊維入りのものです. 今年は真空ポンプが故障していたので, このやりとりは以前のものです.

  T いくら吸っても水は10m以上あがらないだろう.

  P もっといい真空ポンプを使えば.

  T これ以上はダメなんだなー.

  P どんなことをしても? じゃあ, あの松の木はどういうことになっている?

  T !? (松の木は20m以上ありそうです)

  今年は, はじめからパイプに水をいっぱいいれて, 上部をゴム栓で閉じ, それを, 階段のすき間を利用してもちあげました. 10m以上げると, 水は<おいてきぼり>をくいます. 高さを測ったら9.8mでした. 「あっ,そうか.だから9.8なんだな」なんていうへんな理解を示す「ものわかりのいいもの」もいました.  

 

  生徒の声と私のコメント

 大気圧が水を押しあげているという実感を与えるには, パイプの下に葉書をくっつけて水が落ちないのを見せるとよいでしょう. (10mの水柱ではちょっとむりですが)

 「大気圧が水を10mまで押し上げるーこれは今までの僕の考え方とは全然反対のことであった. というのは, 水が水を引く(はじめの水はポンプが引く)のではなくて, 大気圧が水を押し上げているのであった」(清水)

 “もっといい真空ポンプを…”のところで、“東葛高校で借りれば…”という発言がありました。東葛高校は近くにある受験高です。入試学力の低い本校の一部の生徒は、自分たちの学校の実験装置は安物?で、ついでに言えば、教師の程度も「自分たちと同様」と思っているようです.                                               

 次の時間には水圧の問題と,それに関係して潜函病の話をしました. 水のこともからめて,空気の重さ1.3mg/cm3と大気圧1kgw/cm2の関係を教えました.

 

 生徒の声と私のコメント

 「世界中の空気の重さはどれくらいだろう」(木村)

  地球表面1cm21kgの空気が積もっているので 4π×(6400×103×102)2×1[kg]5×10^18[kg] と計算してみました. 

 「水中では10mの深さで1atm増すが, 空気中では何m上がると1atm低くなるだろう」(小林)

  この疑問は, この問題のつかみにくさを示すものと思われます.

  最後に, 出しておいた問をまとめました. 「新幹線でトンネルに入ったとき,耳がへんになりましたが,この時,車中の気圧は高くなったのか低くなったのか調べる方法を提案しなさい」

 

 生徒の提案

(1) ゴム風船を持っていく.

(2) ゴム風船を使った方法.

(3) ガラス容器を(さかさにして)水の中に立てる.

(4) 試験管にサランラップでふたをする.

(5) 注射器を持って行く.

(6) 気圧計を持っていく.

  ここで, 数年前, 修学旅行のとき私がやった方法を紹介しました. 新幹線内で求めたお茶の容器は気密になっていたので, ふたに穴をあけてストローを刺し, ご飯粒で, 穴のすきまを埋めました.

T 水をストローの途中まで上げるにはどうする?

P 吸う.

早川  吹く.

T そうです. 吹くと…水位が上がって…ところが, この水はすぐに落ちてしまいました.

P もれていた?

T いいえ. もれていません.

P ?

T 手で持って作業していたから…

P 空気があったまっていたから?

T そうです. 今度は手を使わないで…. そしてトンネルに入るのを待ちました. トンネルに入って耳がへんになる頃, 水位はどんどん上がっていって, ついに吹き出ました. 圧力は?

P 高くなった.

P 低くなったんだよ.

T さて, どっちかな? (ここで討論が始まる. 討論の中で、トンネルから出るとどうなるかも、出てきました)

 

気体の体積は温度と圧力にかかわる

 

  はじめは、温度と体積の関係です。(ガラスパイプを立てて体積の変化を測れるようにした)のような三角フラスコを水浴で温めたらどうなるかを話し合いました. 冷やしたらどうなるかも予想させました. それから実験です. 一つの班は希望により, ひやす方もやりました. 三点がほぼ一直線上にあることを確かめ, あとは二点主義でいきました.

T ず―っとのばして横軸と交わるところを言ってください.

P ちょっと狂うとすごく違っちゃう.

T こうするのを外挿するといいます. 結果を言ってください.

P 260.

315.

T 気体が気体のままなら, そこで体積が0になるわけで, それが最低の温度と考えられそうだ,というわけです.

P 273度ということ?

T 273℃になるというわけ.

P みんなバラバラじゃん.

山口 へたな鉄砲も数打ちゃ当たる. 

T ていねいに何度も実験すると,だんだん値が一定してくる.

P 左の方に点があるとねらいがつくよ.

P ドライアイスで冷やせば.

P 液体空気じゃ.

P バカ, 空気が液体になっちゃう.

T じゃあ, 液体にならない気体を使ったら.

P 水素.

P ヘリウム.

P みんな同じになるのか?(ひとりごと風に)

T みんな同じになるんです.(ややおしつけ)

P ?!

P やってみなけりゃわからない.

T この点をみつけるのを一生の仕事にしている人もいます.

P 食っていかれるの?

T 大学の先生だからね.

  (はじめの温度はくみおきの水で水浴させる方がよさそうです. フラスコの中は乾いていないとダメです)

 

    はじめの  (水浴)  フラスコの(T)  出てきた    後の(T')    評価

       温度T    温度T'      空気の体積    空気の体積  空気の体積

 

  1   25.8       61.9        361            44          405         

  2   25.2       67.0        360            41          401         

  3   24.5       69.5        366.5          42.5        409         

  4   26.5       66.5        366            40          406         

  5   24.8       66.5        367            33          400         

  6   24.0       65.0        361            43          404         

  7   25.2       63.0        372            41          413         

  8   23.0       66.0        360            35          395         

  9   24.5       64.5        362            42          404         

 10   24.0       68.0        372            54          426         

 

  生徒の声と私のコメント

 どんなガスでもみんな同じだということは,一つの班くらいは水素でやらせなければいけなかったと思う.「やってみなけりゃわからない」といった森川はイタズラボーズです. 

 どんな気体もしまいには液体になるのだから,(すべての気体は三態変化すると一学期にやった)最後のところでは(グラフが)どうなるかわからない, と言われて困りました. (気体の体積が0に収斂するという意味を吟味しなければなりません)

 

 次の時間は,気体の体積と圧力による変化です.どこでもやられているように,台秤と注射器を使用した実験です.断面積2.83cm2のものを使いました. 外圧を2, 3, 4atmにして, 体積を測りました. はかりの読みは生徒二人にやらせました.  

  積が一定になることは容易にわかりました.

 

  P(atm)  1       2       3        4

  V(cc)  20      10       6.5      4.2

 

  生徒の声と私のコメント

 「気体の体積が圧力に対して反比例するのがふしぎだ.圧力を2倍にしたとき体積ぴったり半分にならなくてもよいと思ったから」(増田)

 「なるほど! でもやってみたらそうなった.自然は単純なんだ.半分になったり,3割になったり,60%になったりしないのです. いつでもピッタシ半分. ガスによって差別(?)もしない」

 

  ボイルの法則もシャールの法則も定式化しました. 気体の状態方程式はやりません.

 

気体と気体の化学変化

 

  まず, 水素と酸素でゆっくり遊ばせました. キップの装置から上方置換で水素をとらせ点火させました. 大きい爆発をさせようとして水素をいっぱい(といっても試験管ですが)とっていって「爆発しない」と首をかしげている子がいます.酸素ボンベから酸素をとって各班にわけ,その中に燃えさしを入れさせました.自由にやらせたのですが,水素と酸素を一緒にして…という班が出ませんでした.燃料は気体の状態で空気と交ざっていると危険であること,特にそれがせまい器に入っているときには,一層の注意をするようにと教えました.

 水素と酸素の体積をはかって塩ビパイプに封入し,放電で点火させました.残った気体が何であるかは容易い判定がつきます.それを表にしてみました.(爆発はかなり烈しいので, 量が多いときにはパイプをスタンドではさんでおくとよいでしょう)    

 

     はじめの  はじめの   残った気体        反応した   反応した

       水素      酸素     酸素は× 水素は○   水素       酸素

  1    3.1       6.2           × 4.6         3.1        1.6

  2    4.2       4.6           × 2.6         4.2        2.0

  3    3.4       3.1           × 1.4         3.4        1.7

  4    6.6       2.4           2.3         4.3        2.4

  5    5.0       2.0           1.1         3.9        2.0

  6    5.0       2.5           × 0.9         5.0        1.6

  7    9.8      10.0           × 5.2         9.8        5.0   (単位はcc)

                                                  

  水素の体積が酸素の体積の2倍であることは容易にわかりました.

  次の時間です. 200ccの浣腸器に, かわいたアンモニアガスと塩化水素をとって,  細いパイプで結びました. アンモニアガスを静かに塩化水素の方へ(逆でも同じ)移行させると, 塩化アンモニアの白い粉ができて体積はほとんど0になります. この白い粉をとり出して, 2, 3人になめさせてみました.

 「変な塩」といった感じです.アンモニアと塩化水素は体積で1:1で反応することを説明しました.

 この後,「気体同体積中同分子数」をひっぱり出し,次に,モルに入りましたが, 紙面の関係で割愛します.              (千葉県立清水高等学校)

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