形  体積
個体
液体 ×
気体 × ×
理科実験についてのお問い合わせ等はメール・掲示板にてお願いいたします。
掲示板 石井信也
理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

雑誌<理科教育>へ 
    (3)特集 物質の三態  S-5  No333    2011年11月17日(木)

 

 物質の三態について 特に,教える側の心づもりに関するいくつかの提案

 

 小学校における<物質の三態>は,学習指導要領が改訂されても“相変わらず”といったところで,<水の域>を出ていません.

 中学校ではどうかといいますと,

  (3) 物質と原子

     ア 純物質と混合物

   (ア) 純粋な物質の融点や沸点は, 物質の種類によって決まっていること 

だけになってしまいました. これまでは, まがりなりにも「物質の三態」という項目があったのでが….

 今まで気がつかなかったのですが,この期に及ぶまで(?)本誌で<物質の三態>を特集したことがなかったことも,ちょっと不思議に思えます. 

 

 ものには三つの状態がある

 

 身のまわりを見渡して,目にうつるものをかたっぱしから書いてみました.

 本,えんぴつ,定規,電卓,はさみ,窓,かばん,時計,机,けしごむ,原稿用紙,鉢植えのプリムラ,…,みんな固体ばかりです.つまり,道具(広い意味で)は<形を保持しうる材料>で作られているものが多いということにです.その材料という点から,これらを書き直してみますと,木,紙,ガラス,金属,布,陶器,プラスチックス,土,石,…,となります.

 “液体は?”と探してみると,孔版用修正液があるだけです.台所へ行ってみると,そこは液体の宝庫でした.

 醤油,ゴマ油,マヨネーズ,鶏卵,酒,酢,牛乳,水道水,…,これらのものは,その液態という存在状態をうまく利用してつくられたり,使われたりしているのに気づきます.

 気体のプロパンにしても同様です.

 何しろ,すべてのものが三つの状態のいずれかで存在している,ということを確かめたいものです.<物質の三態>の前に<物体の三態>についてやっておきたいものです.

 

 三つの状態にはそれぞれ特徴がある

                                                                               

 <三つの状態>は形と体積に関して右のような表ができます.                                  

 液体は,それぞれの容器に入っています.私の血液も,海水も同うに「容器」に入っています.     .

 気体はふたつきの容器に入れなければなりません.プロパンガスはボンベに入っています.        

大気も重力場という「ふたつきの」容器に入っていることになります.                 
                                                           (○決っている,×決っていない) 

そして更に, 気体は容器に詰め込むこともできます。                                                                                              

  このほかにも, 三つの状態にはいろいろな特徴があります. 弾性波の横波は固体だけが伝えます. ですから, 横波は固体判別器(?)になります.

“固体はみんなばねである”ともいえます. 固体でなら家が建てられます.(三匹の子ぶた)

  液体には“ものをとかす”という性質があります.そして化学変化の有効な場をつくります.他の物体に浮力を与えることもできます.

 気体もうまく閉じ込めるとばねになります.温度,圧力が同じなら,同体積中には同数の分子が存在します.その運動性は抜群です.

 人間や犬にとって<におい>は気態なのです.(魚にとっては液体? 溶液だから)

 

  三つの状態は互いに移り変わる 

 

  <机>というのは物体の名(あるいは道具の名)で形態を表しています.それをつくっている<木>というのは材料の名の状態をも含んだ名称です.それに対してセルロース(他の成分もあるだろうが)という名称には, 本来“状態概念は含まれない”と考えるべきでしょう. 物体から(材料を通して)物質を抽出した時には, 形態はもちろんのこと, 状態までも捨象したことを忘れてはなりません. もちろん, これは教師の側の心づもりであって, 逆に, 三態体変化の学習を通して, このことを教えることが重要だと思います.

  “すべてのもの(物質)が三態変化する” というところへ来て「人間も?」なんて聞かれてとまどったことはないでしょうか.

  「固体はかたい」と子どもはいいます.“見えて, 重くて, かたいもの”これが, 生活経験の中で,子どもたちが自ら構築した<もの>の第一定義なのでしょう. ですから“気体もものである”ということを承認させるまでには, かなりの抵抗があるはずです. 空気をビニールの袋に入れて触らせること, ビーカーを逆さまにして水の上にかぶせ,水が入ってこないのに気づかせること,スプレー缶に空気を圧入してその重さの増加を測らせること等,すぐれた実践がありますが,もっと直接的に,気体が液体や固体になることを見せることはより有効です.   

 

  まず氷攻め

 

 私の実践では,まず“すべてのものは温度を下げると気体→液体→固体と変化する”ことを理解させること,にいきつきました.

 はじめ,液体チッソでその辺にある液体のものを凍らせました.ベンゼン,ヘキサン,酢酸,メタノール,エタノール,硫酸,それに生徒がもってきた牛乳,コーラ,食用油,洗剤,ガソリン…すべてのものが固態になります.生徒の言葉を使えば,あるものは<氷>になり,あるものは<ワックス>とか<シャーベット>になりました.ここまでやって「“すべての液体は固体になる”といってもいいか?」と問うと,「液体チッソは固体にならないからだめだ」といいます.

 かくして “チッソの固体化作戦”にとり組みました. 液体チッソより低い温度のものは手に入りませんので, ほかのものを使って冷やすことはできません. では, どうしたらよいでしょう. 討論の中で「真空ポンプでひいて激しく沸騰させたら?」という意見はどのクラスからもでました. 私としても始めての経験でしたが, 試行錯誤の結果は…

  試験管に1/3ぐらいの液体チッソを入れ,沸騰石を落として綿の栓をし, 発泡スチロールの台に乗せた三角フラスコに試験管を立て, 真空鐘に入れて減圧します. これらは生徒たちの提案です。はじめ激しく沸騰しますが, やがて静かになったかと思うと,突然,シャーベット状に凝固しました. ここまできて “すべての液体が固体になる”が, その実践的方法論をも含めて承認されました.“すべての気体は液体になる”も同様です.

  <物質総点検主義>で, プロパン, CO2, NO2, SO2, NH3, O2, 空気, とやっつけました. 液体チッソではいかなかった水素も, 激しい膨張をさせれば “自分で自分を液化させる”という予想ができたのは, 先の固体チッソの経験がものをいったことになるのです. (空気圧入缶から空気を噴出させるとき, 缶が冷えたのが初経験)

  いろいろなものを冷やしていくと,“すぐ参ってしまうやつとしぶといやつがある”(生徒のことば)がわかります. 「一番しぶといのはヘリウムね…」と,ヘリウム液化競争をひとくさりやり,最後に「そのヘリウムの液化装置が千葉大に入ったんだってよ」と付け加えると「行ってみたい」という生徒が何人もいました.

 

 次は火攻め

 

 氷攻めが終わったら,次は火攻めです.

 分子性物質は容易に融けます.金属も何種類かは試験管の中でも融けます.<metalでmedal作り>も面白いし,お湯の中で融けてしまう(溶けるではない)ウッド合金にも目をみはります. ウッド合金を作る実験もしたいものです.(後日、サークルで実験した)

 最後に<塩>を融かします.量を少なくするのがコツで,パイレックス試験管(普通の試験管と値段は変わらない)に入れて, バーナーで加熱するとすぐに融けます.この実践は何度も報告されているので省略しますが,生徒の次のようなことばが印象的でした.融解(液化)した食塩を見て

P  このみず, どこからきたのかな.

T  もっと熱したらどなる?

P  みずがなくなってカサカサになって…

T  それからもっと熱したら?

P さー? それにしてもわかないなー!?

 食塩だけではすみません.もっと他の塩もやらなければなりません.KCl, AgNO3, Na2CO3, ZnCl2, NaHCO3, KI, NaBr, CuCl2, CaCl2, CuSO4・5H2O,カリミョウバン, ….  物質の共通性の中にある多様性には驚かされます. 上の<生徒と私の対話>が必ずしもナンセンスでなかったことが,やってみるとわかります(硫酸銅を是非). 

  途中で分解してしまうものは,さらに “分解してできたものの三態変化を考える” ということで<火で攻めきる>学習も楽しくできます.もちろん,道具立ての制限がありますから,あとは生徒の知恵を借りて,<手の届かぬ所>は便覧の数値を使います.<物質の融点・沸点>の表には,<物質の火攻め・水攻め作戦>とでもサブタイトルをつけたいものです.この表は,裏から読めば<物質の判定>にも使えることを確かめます.

 このように,物質は三つの状態で存在するので,物質という時には“どの状態にあるのか”を明らかにしたいものです.

  気体の二酸化炭素−炭酸ガス, 固体の二酸化炭素−ドライアイス, 液体の二酸化炭素―炭酸水は駄目!(これには,適当なあだなをつけたいものです)などということを意識的にやっておくことも必要でしょう.融けている鉄は「火」であって「水」(液体)ではない,と思っている子もあるはずです.

  このようなことをふまえた上で, 結論として“すべての物質は三態変化する”とおさえたいと思います. 熱分解するものについては軽く触れるだけでよいでしょう.

 

  それはミクロを反映している

 

  物質に関する認識を広げるためには, 博物的なプロセスが必要であると思われます. 物質の三態についてもそうです. これまで, いろいろな例を挙げてきたのもその意味でです. この段階を経ないで, 単刀直入にミクロの世界に踏み込むことはどんなものでしょうか. 「粒」の導入のむずかしさは, 多くの実践が示しています. 例えば, メタノール風船を粒で理解させようとすると, 粒の性質や粒の間の状況などについて新たな問題が起きてくるようです. 真空や物質の不連続性の認識は, 人間にとっても難関だったはずです. 義務教育が修了する頃までに<原子論>が定着すれば申し分なし,というところでしょう.  

  <化学結合>からみると,物質は金属・イオン性物質 分子性物質に分けられます.それぞれ,金属結合・イオン結合・共有結合が対応しています. 共有結合は強いのですが, それでできた分子はお互いに結合力が弱いので, 常温で気態や液態(水銀は別にして)の物質の多くは分子性物質です. 分子性物質にはもちろん固態のものもあります. それらの区別は分子量でわかります. 多少の例外はあっても “分子量50以下は気体, 170以上は固体”とみてよさそうです. (『理科教室』No199, 三態変化と分子量, 拙稿). また, 次のような規則性もいえそうです. “融点については, イオン性物質で300℃以下のものはなく,分子性物質では300℃以上のものはない”第0近似(?)で, いろいろな法則をみつけてみましょう.

 

  自然界での三態変化

 

  水だけで三態変化を教えること(小学校改訂指導要領)は, “三態変化が物質に一般的な性質である” ことを教えないとう点でよくありませんが, 水で三態変化を教えるということは, 水が特殊な物質なので具合が悪いという批判もうなづけます. しかし, そんな特殊性の故に…, ということになりますが, 水の三態変化が地球の上で果たしている大きな役割については教えたいものです. 気温の緩和をはじめとし, 台風として(海流や季節風とともに)エネルギー輸送の役を担い, 陸に降った雨や雪は大地を穿ち, 割れ目の水は凍結して岩石を壊し, 火山の噴火には爆発の役を果たし, 雷を起こしては空中窒素を固定し, 植物の葉から蒸発しては物質を輸送し, 動物の体表から発汗しては体温を調節するなどなど….     

  もう一度<三態変化の眼>で自然を眺めまわしてみたいものです.ここでの趣旨は,それらの現象を解析しようというのではありません.自然現象は過冷却一つをとってみても<実験室的>なそれとは違って, 複雑で,とても一筋縄ではいかないものです.水がいろいろに姿を変えながら, 地球を<水の惑星>たらしめたことを, ダイナミックにつかませたいのです.

  水のことはこの位にして, 別の例をあげておきます. アイソスタシーの考えは “固態のマントル(横波が伝わるから固体のはず)の上の地殻がマントルから浮力を受ける” というものです. “固体も時間のスケールを変えると液体のように振る舞う” というのはレオロジーの分野です. 山津波の土砂の流れは, それを「液体」の理論で追求して効果があるとするなら,それは大胆に採用すべきでしょう.ガラスは液体,澱粉は固体,ゆげは液体―は本筋ですが,ガラスは固体,澱粉は液体(状),ゆげは気体で通用する分野もある, というわけです. “かたく考えない”ことも時には必要のように思われます.

  ここで, 一人の作家のことばを紹介してみます. 何とリアルに<空気>をとらえていることでしょう.

  風に逆行して,静かに走った後,彼はガソリン転把(テンパ)を自分の方へ引きよせる.機はプロペラに吸い込まれて飛び出す.

  弾性力の空気の上の最初の反動が,やがて治まる.すると初めて地面がひろがり,車輪の下にベルトのように光りだす.

  最初のほどは感じのなかった,ついで液体のように感じられた空気が,今や固体化したと判断すると,操縦士はそれに凭(モタ)

    れかかり, それを攀(ヨ)じ登って行く.                        サン・テグジュペリ  夜間飛行(新潮文庫) p.124             

  ちなみに, 気体の状態方程式がそなまま希薄溶液に使えるという洞察は, 柔軟なあたまによってなされたに違いありません.

  なぜ物質の三態を学ぶのか

  “すべてのものは原子からできている”という大仮設を設けると, 物質の三態及びその変化が, 眼からうろこが落ちたようにみえてきます. 「三態変化ってそういうことに対応していたのか」「だから何でも三態変化するんだな」ということになります.さらに「ちがった原子の間ではひっぱりあう力が弱いんでウッド合金はすぐに融けるんだな」などと,マクロな事実がこの原子仮設で納得できるという経験をつみ重ねつつ,<原子実在>の確信を深めていくことになるのです.その意味で,三態変化は<原子論への一里塚>です.

 さて,もう一つ.これまでにも述べてきたことですし,また自然科学の学習全般にわたっていえることですが,ものの三態の学習は,それによって “自然をよりゆたかにとらえる” ためだ,といえます.

  <メタノールふうせん>をやった時のことです.「エタノールふうせんもできる?」という生徒の質問がきっかけになって,<エタノールふうせん>の他にも<水ふうせん>や<エーテルふうせん>もやることになりました.さて,どのようになったと思いますか.  

  食塩を融かした時です.「これでも食塩の一部は蒸発しているのだろうか」ということになりました. さあ, どのようにするば確かめられると思いますか.

  「100℃以上の水蒸気があるだろうか?」を問題にした時です. 銅のパイプ(解体屋で安く買える)に水蒸気を通しながら加熱し, その水蒸気でマッチに点火する実験やりましたが, 「二酸化炭素でも点火するかなあ」という意見がきっかけになって,CO2, O2, N2, 空気でもやることになりました. サークルの時に提案された<はいた息>でもやりました.さあ,どうなったと思いますか.液体チッソの際,生徒の一人がいいました.「これに食塩を溶かして電解しよう」.残念ながら食塩は溶けませんでした.温度の低さではなく,双極子モメントの問題なのでしょう.実験に使った後の,残った液態チッソをガラス皿に入れて放置しておきました.だんだん減ってきて,最後に白いものが残りました.そして,その白いものはすぐに消えました.ドライアイスだったのでしょう.双極子モメント 0 の N2 は,同じく双極子モメント 0 の CO2 を溶かした, と考えられます. “似たもの同士は溶けあう”のです.

  「それが液体になったというのはどういうこと?」「それが液体になったらどんなになると思う?」「それが液体になったのはどうして」という扱い方もあるでしょう. でも私は「それが液体になったら(君なら)どうする?」と問いかけたいと思います.

  「液体チッソに食塩を溶かそう」と提案した生徒はなかなかなものです(あまり成績のよくない生徒でしたが). 水銀は多くの金属を溶かしアマルガムをつくります. ウッド合金を作ってお湯の中に融かしました. ウッド合金の m.p.(融点)は66℃〜71℃です.この融けているウッド合金の中に m.p.327℃ の鉛が容易に溶けこんでしまいます.(ウッド合金の中味を知っていればなんということはないのですが). 食塩の m.p.は800℃ですから, バーナーとパイレックス試験管を使わないと融かしにくいのですが, 同じ塩でも塩化鉛の m.p.は313℃ですから, アルコールランプに普通に試験管で容易に融けます. その中に, 食塩はいとも簡単に溶けてしまいます. “液体になったら何かを溶かしてみよう!”と思うようになることはすばらしいことです. 液体アンモニアなんかはぜひやってみたいものです. ちなみに, 水溶液では

  BaCl2+AgNO3   → AgCl +Ba(NO3)2 ですが,アンモニア溶液では 

  AgCl +Ba(NO3)2→ BaCl2+AgNO3    なのだそうです! これはまだやってみませんが.  液体については, 他の考え方もできます. “液体になたら電気を通してみたい”“液体になったら熱交換に使える” “その液体には何が浮くだろうか”(液体チッソの比重は0.18でした). まだまだありそうです. “気体になったら何ができるでしょうか?” “固体になったらどうしたいと思いますか?”

  人間は長い間, 積極的に自然に働きかけ, それを変化させ利用してきました. もちろん, 物質の三態はその変化を利用することもありました. 火を使って, 動物から“脂をとかして油として”集め, 灯火その他に用いることもありました. 特に, 寒い時期には氷を融かして飲み水を得たこともあったでしょう. 氷のはった湖の「おとしあな」に象を追い込んで狩ることも発見しました. このような経験の蓄積が科学を形成するもとになったのです.

 科学教育では “科学を武器として使う” ことを教えたいものです.<武器としての科学><攻めの科学><activeな科学><dynamicな科学>, まあ, 何と呼んでもいいでしょう. 要するに “科学は使えなくてはダメ”です.

  子どもに「何々しよう」と言わせたいものです.「何々してみたよ」という子どもに育てたいものです.物質の三態変化を学習させた後で,一人一人の子どもが “三態でどれだけ自然(もの)を伐り開けるようになったか” をもって, 教えた教師側の評価としたいものです.