理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
高校生の物理  (5)熱機関   T-16 No322  2011年9月29日(木)
 
和美 学校でカルノーサイクルをやったのですが、もうひとつ、はっきりしなかったんです。
一平 ぼくは、もうひとつどころか、2つも3つもはっきりしなかった。
先生 では、どこがはっきりしなかったか、そこを示しながら、カルノーサイクルを説明してごらん。
和美 注射器に一定量の理想気体を入れる。
一平 理想気体はヘリウムがよいのだが、空気でもよい。
和美 この気体に熱エネルギーを与えて、外部に仕事をさせようというのです。気体の状態方程式は pV=nRT で p圧力 V体積 nモル数 T温度 Rは定数で8.3[J/mol ・K]
一平 この気体に△Q1 の熱を与えるんです。そうすると、気体が膨張して外に仕事をします。
和美 そのとき、この気体の温度を上げないでんですね。どのようにすると、そんなことができるんですか。熱効率が100%になっちゃいますよ。
先生 △U=△Q+△W という関係があるね。Uは気体の内部エネルギーで、これは気体の温度できまる。つまり、温度が高い方がより多くのエネルギーをもつことになる。
一平 それは習っていて、わかっています。内部エネルギーUを減らしたり増したりするには、エネルギーを熱という形で出し入れさせるか、仕事という形で出し入れさせるかです。
先生 そういうことだね。そこで、△Qの熱を与えても、△U=0 つまり温度があがらないように、与えた熱で、どんどん外に仕事をさせてしまうのだ。
 つまり、温度が上らないように、うんとゆっくり△Qを注入する。理想的に考えているので、1回の過程では、熱が全部仕事に変わってもいいのだ。
 ここで、pV=nRT のグラフを描いてみよう。下にピストンの位置を描いてみた。高熱源からQ1の熱量が入り込んだが、気体の温度を上げないで、すべてが仕事に使われてしまう。つまり、温度はT1のまま、体積が V1→V2 と変化して仕事をする。状態はグラフの上でイ、ロと移動する。
和美 ロの点で、T1の高熱源から離してしまって、気体を断熱膨張させるんですね。体積はV3まで増えます。 
一平 断熱膨張だから、外に仕事をしただけ温度が下ります。
先生 △U=△Q−△W=0−△W  △U<0  △T<0  温度はT1からT3へ下る。
和美 ロ、ハはどんな曲線ですか。
先生 pV^γ=一定 で、γは気体の比熱比だ。空気だとγ=1.4
和美 曲線がぐっと下るんですね。
一平 気体が自分の温度を下げて、外に仕事をするなんてことありますか。
先生 誰かがピストンを引いてもいいんだよ。
一平 それでは気体が仕事をしたこといはならないでしょ。
先生 断熱膨張で温度が下って、内部エネルギーが減るのだ。誰かがピストンを引いたのではなくて、気体が誰かにピストンを引かせたのだ、と考えればよい。
一平 へーッ、そういうことなんだ。
和美 イ→ロが第一過程、ロ→ハが第二課程、次は第三過程で、これは第一課程の逆です。外から気体に仕事をしてやって気体の温度が上がらないように、T3の低熱源へ熱を逃がします。体積がV3からV4になるまで、ピストンを押してやります。勿論、温度は一定のT3です。
一平 この過程では、仕事はみんな熱になってしまうんですね。でも、温度は上がらないのです。熱は低熱源に逃がしているんですから。
和美 △T=0  △U=0  0=△Q+△W  △W=−△Q この外から仕事をするのは誰なのですか?
先生 誰でもいいんだ。第一過程で外にした仕事の一部を弾み車にためておいて、それに第三過程をやらせてもいいし、多気筒のエンジンを組にしておいて、他のエンジンのどれかが、この時、第一過程に当たるようにしておいてもいいだろう。
和美 わかりました。第四過程は低熱源をはずして外から仕事をしてもらうと、内部エネルギーが増して温度が上がり、温度がT3からT1になってサイクルが終わりです。
先生 それでは、これらの過程を一覧表にしてみよう。
           第1    第2    第3    第4
            △U      0          −           0           +
       △Q     +          0           −           0
       △W     −         −          +           +
和美 △U=0 というのが等温過程、 △ Q=0 というのが断熱過程ですね。
先生 各段階の U, Q, W,に 1, 2, 3, 4 のインデックスをふるとしよう。|△W2|=|△W4|   ということがわかるかな。
一平  |△U 2|=|△U 4 |   だから、そうなります。
和美 そうすると、差し引き外にした仕事は |△W 1|−|△W3|になります。 それは、また |△Q1|−|△Q3| に等しくなります。
一平 高熱源からもらった熱量△Q1の方が低熱源に捨てた△Q3より大きかったんだ。
和美 そして、その差し引き外にした仕事の量は、四辺形に近いイロハニイの面積に等しいということは、学校で習いました。
先生 横軸が体積で、縦軸が圧力だから、この面積が仕事になるんだ。
和美 pVグラフの面積は pV=F×(V/S)=Fl=W です。  Fはピストンにはたらく力です。
一平 この図で言えば、第一過程と第三過程は、体積変化は同じ位なんだけど、第一課程の方が圧力が大きいので、仕事も大きいというわけですね。
和美 実際の蒸気機関ではどうなっているんですか。
先生 蒸気機関はシリンダーの中に蒸気が出入りするので、カルノーサイクルとは、ちょっと違うが、原理的には似たようなものだ。ところで、カルノーサイクルにはもう一つ大切なことがある。イロハニからV軸におろした垂線の足をイ’ロ’ハ’ニ’とすると、イロの過程で、気体が外にした仕事はどうなるのかな。
一平 仕事の量はイロロ’イ’イで、高熱源T1から貰った熱によってされた仕事です。
先生 ロハの過程は…
和美 気体が熱エネルギーの供給なしで、外にした仕事で、仕事量はロハハ’ロ’ロ、熱を貰わないで外に仕事をしたので、内部エネルギーが減少しました。つまり、気体の温度がT3に下がりました。
先生 そうそう。それでは、次の過程だ。
一平 ハニの過程ですね。外から仕事が供給されていて、気体の体積が減って圧力が上がっても、温度はT3 のまま上がらない。
和美 最後の過程はニイで、断熱圧縮で温度がT1へ上がって、はじめの状態に戻りました。
先生 この全過程で気体が外にした仕事の総量は、仕事イロハニイとなる。そして、そのエネルギー量は、高熱源から与えられ、低熱源に捨てた熱量の差△Qになるということ。
和美 気体が外にした仕事量は、T1から貰った熱量Q1と自分の内部エネルギーの減少。外からされた仕事量は、T3へ返した熱量Q3と自分の内部エネルギーの増加。ということになります。
一平 だけど、内部エネルギーの増減は等しい、つまり、ロハハ’ロ’ロの面積と,イニニ’イ’イの面積は等しいので、全体で使用された熱量△Qで、イロハニイに相当する仕事をしたことになります。
先生 外にした仕事は、導入された熱に等しくなり、|△Q1|/|△Q3|=|△W1|/|△W3| = T1/T3
和美 そうか、だからその熱機関の仕事率は (|△W1|−|△W3|)/|△W1|=(|△Q1|−|△Q3|)/|△Q1|=(T1−T3)/T11−T3/T1  になるんですね。
先生 カルノーサイクルは、熱効率が最大になるんだ。
一平 熱が無駄になっていないということなんだ。
和美 カルノーサイクルというのは、熱伝導がない理想的な熱機関ということですね。
 
 

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