理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
高校生の物理 熱と温度  (1)熱と仕事 T-12 No318 2011年9月15日(木)
  
一平 今日は寒いね。
和美 あら、そう? それほどでもないよ。一平くん、熱があるんじゃない。
一平 そんなことないよ。風邪ひいていないし、和チャンは寒さに強いんだよね。
和美 それ、どういう意味?
一平 別に、特に意味なんてないけど。
先生 和美は心も体もゆたかだということだよ。
和美 わかっていますヨ。熱容量が大きいから冷えにくいって、いいたいんでしょ。
先生 すねてるね、今日は。
和美 ウフ。
先生 今日は熱と温度の学習をすることになっていたね。熱があるとかないとかいういのは、どういうことかな?
一平 言い方がおかしいんです。熱がないなんていうことないもの。そうじゃなくて、“普段より熱がある”ことを“熱がある”っていうんです。
先生 なるほど、では、熱があるかどうかはどうしてわかるの?
一平 熱があればわかりますよ。寒気がするから。
和美 体温計で測ればはっきりわかります。
先生 体温計で何を測るの。
一平 熱を測るんでしょ。
和美 正しくいえば、体温を測るんです。体温が平熱でないと、いつもより熱があることになって…
一平 熱が多いと体温が高く、熱が少ないと体温が低い。
先生 なるほど。
和美 体温でなくてもいいんですね。ものの持っている熱は温度が高いほど多い。つまり、ものの持っている熱の量は温度に正比例する。熱量をQ[カロリー]、温度をt[℃]とすると、Q=Ct Cは比例定数で熱容量といいます。
先生 和美の熱容量は大きくて…、という話とどうつながるんだ。
和美 自分のことって言いにくいんですよネ。
一平 では、僕が代わりまして、C が大きいと熱量 Q が少しくらい逃げても温度 t は少ししか下がらない。
先生 それでは、こうしてみよう。はじめもっていた熱量を Q 少し逃げた熱量を △Q とする。これに対応してはじめの温度を t、下がった分の温度を △t とするどどうかな。
和美 今持っている熱量は Q−△Q その時の温度は t−△t だから Q−△Q =C(t−△t)
先生 そうだね。そうすると △Q=C△t これを日本語に翻訳すると…
一平 熱が減っただけ温度が下った。
和美 温度が下ったのは熱が減ったから。
一平 増えてもいいんですよね。とすると、熱が出入りすると温度が上がったり下がったりする。
先生 C はどのように関係するのかな。
和美 C が大きいものには熱がかなり入っても温度はあまり上がらない。
一平 C が小さいときには少しの熱の出入りで温度が大きく変化する。熱しやすく冷めやすい。自分のことを言っているみたいだ。
先生 小学生が授業のとき、こう言ったという報告があるんだよ。「魚屋で売られている魚はみんな0度です。どうしてかというと、魚はみんな死んでいるから」
和美 かわいいわね。死んだから熱がなくなってしまうっていう考えは納得できますネ。
一平 でも、逆に、氷りづけにされている魚の温度は0℃だから、Q=Ct から見ると、熱をもっていないことになる。
和美 あれ、そうだね。変だな…?
一平 ここでいう温度は絶対温度じゃないの?
和美 ああ、そうか。じゃあ、t[℃] と書かないで T[K] と書いた方がいいですね。
先生 Q=CT  △Q=C△T かな。
和美 後の方の式は、温度変化だから、どっちでもいいのかしら。
一平 例えば、4[℃]から−1[℃]に温度が下がったとすると、△t=4−(−1)=5  5[℃]だけど、絶対温度でいうと 4[℃]=277[K] −1[℃]=277[K]だから
△T=277−272=5  5[K] で同じになる。単位が違うけど。
和美 でも、本当は、変化量というのは (後の量)−(前の量) だから △t=(−1)−(+4)=−5[℃] △T=272−277=−5[K] なんでしょ。
先生 そうだね。このマイナスに温度が下がったという意味が含まれているんだナ。単位のことは ℃ と K は目盛り間隔が同じなので、どっちでも同じことなのだ。それからもう一つ、℃ も K もそれぞれ二つの意味があることを忘れてはいけない。4[℃]というときには、t=4[℃]なのか △t=4[℃] なのか、はっきりさせないといけない。[K]についても同じだ。温度差の [℃] を [deg]と書くこともある。 degree の略だ。
和美 こんなふうに考えてくると、熱量は質量に似ていると思いませんか。ものが持っている量で、そこから出ていくと少なくなって、入ってくると多くなって…
一平 電気量にも似ているね。コンデンサーに溜められた…。
和美 熱量、質量、電気量ってみんな量という言い方をしているし…
一平 足し算や引き算ができるし…
和美 みんな保存量なんでしょう。
一平 質量保存の法則は習ったね。電気量保存ということも聞いたきとがある。
和美 熱量だって保存されるんでしょう。例えば、100[g]ずつの 0[℃] の水と 40[℃] の水を一緒にすると 、200[g]の20[℃] の水になるんだもの。ただ、この実験中、この装置に熱の出入りがないときには…ね。
先生 装置全体のことを系と呼ぶといい。系内では熱量は保存される。
和美 化学反応する物質の系では質量は保存されますね。それはそれでいい。だけど、系外から質量が入り込むと、系外で減った質量だけ、系内の質量は増えるんだから、そこまで系を拡げると、やはり質量保存は成立します。
一平 熱だって同じことがいえるんじゃない。
和美 質量も電気量も熱量も、何か「実質」みたいなものですね。「もの的」とでもいうのかしら…
先生 質量が保存量だっていうことはわかるね。電気量も保存量なんだよね。+と−で0になっているのを分離すると、+と−の同じ量の電気が得られる。代数和的に、つまり、+−を考えれば保存量なんだね。そう言わなくても、ミクロ的に見れば保存されることは容易にわかる。 ところが…
和美 あっ!熱は発生することがある!
一平 そうだ。摩擦熱とか。
和美 反応熱っていうのもあるし。
一平 硫酸と水を交ぜると、持っていられないぐらい熱くなる。
和美 そうすると、今まで考えてきたことがメロメロになっちゃう。
先生 いやいや、そうあわてなさんな。これから本番というところなんだ。ある事情から、気体で考えることにしよう。大形の注射器の中に気体、例えばヘリウムガスを閉じこめて考える。もちろん、注射器の口は閉じてある。ピストンの重さは考えなくてもいいように横にして考える。外の大気圧は1[気圧]、従って、中のヘリウムも1[気圧]で、温度は0[℃]としよう。
和美 標準状態ということですね。
先生 そうそう、そこで、中の気体の温度を上げるにはどうすればよいかというと…
一平  全体をお湯の中へ浸ける。このとき、ピストンが落ちないように注意する。
和美 お湯がない場合には、ピストンを押してもいいわね。
先生 その場合には条件があるんだった。
一平 まわりを断熱材、例えば、発泡スチロールで覆って熱が逃げないようにする。
和美 あるいは、ピストンを急激に押して、熱が逃げないうちに温度を測る。こうすることを断熱圧縮というんですね。
先生 そこいらへんのことは、きちんと学習しているね。
一平  先生、授業ではここで圧気発火機の実験をやりました。
和美 あれは感動でした。丈夫なガラス管の中に少量の綿を入れておいて、ピストンつきの金属棒で急激に空気を圧縮すると綿に火がつくんだもの。
先生 綿の発火点は500[℃] ぐらいだ。
一平 それにしても、注射器の中の空気を圧縮しても熱く感じませんね。
先生 気体は熱容量が小さいからさ。サウナ風呂の中の空気は100[℃]にもなっている。
一平 それでも、火傷をしないんですね。                                         
先生 ところで、君たちの言い方をすると、断熱圧縮すると熱が発生するんだね。では、ピストンを押さえておいた状態で気体を熱し気体の温度が上がってからピストンを離すとどうなるね。
和美 断熱膨張して外に仕事をするから、その分だけ熱が消滅する…?
一平 熱の発生はやったけど、熱の消滅なんていうことは聞かなかったように思うけど。
先生 そこで、これまでのことを分子運動で考えてみよう。気体の温度は分子の運動エネルギーだと考えていいことを知っているかな。
和美 少し面倒でしたが、理解はできました。ヘリウムのような単原子分子の気体では、その分子の質量を m、速さを v とすると 1/2mv^2=3/2kT  kは比例定数なんでね。
一平 要するに、分子の速さ v が大きいと、温度 T が高いということです。
先生 そこがわかっていればよろしい。 シリンダーの回りを熱してやるということは、シリンダーの分子運動が激しくなって、これに衝突した気体の分子は、シリンダーにこづかれて速さが大きくなる。つまり、温度が上がる。これを何というんだっけ。
和美 熱が入ってきた。
一平 熱を貰った。
先生 では、次は、ピストンを押し込んでやる番だ。ピストンをそのままの状態にしておいた時、このピストンに直角に当たった気体の分子はどうなると思うかな。
一平 もちろん、跳ね返るでしょう。
和美 分子の世界は完全弾性体と考えていいって聞いたことがあるんです。だとすると、同じスピードで跳ね返ります。
先生 その通り。そこで、ピストンを押し込んでやると、どうなる?
一平 野球の場合、投球をバットでヒットするのと同じだ。跳ね返った分子のスピードは大きくなる。つまり、温度が高くなる。
先生 今度は、その逆を考えよう。ピストンを押す代わりに引いてやったらどうなる?
一平 ちょうど、バントをしたときのように、分子が跳ね返ったスピードは小さくなる。つまり、温度が下がる…少しわかってきたぞ。
和美 まとめると、こういえばいいかしら。
    外から熱を貰うと、気体の熱量は増えて温度が上る。
    外に熱を与えると、気体の熱量は減って温度が下る。
    外から仕事をされると、その分、熱が発生して温度が上がる。
    外に仕事をすると、その分、熱が消滅して温度が下がる。
先生 うまく言えているが、そうではないんだ。
和美 どこがいけないんです?
先生 ものの温度が高いのは、ものが熱を多く持っているからだというのは、温度の原因を熱だとする思想なのだ。人間がものに触って解るのは寒暖の度合い、つまり、温度なんだ。ものの分子運動の状態は温度だけで言い表せるのだ。そこで、再び、エネルギー保存則を思い浮かべてみよう。それはどういうことだったのかな。
和美 力学的な運動には潜在的なポテンシャル・エネルギー P と、顕在的なカイネティック・エネルギー K があって、その和 メカニカル・エネルギー M  が一定に保たれている。つまり、P+K=M で、このMを機械的エネルギーともいいます。マクロにはエネルギーが保存されるということです。
一平 ただし、この場合、熱の発生がないことが条件です。
和美 熱が発生する場合には、機械的エネルギーが減少しただけ発熱します。
先生 そして、その当量関係が成立するんだった。                     
和美 熱の1[cal]が、機械的エネルギ−の 4.2[J]に相当します。

先生 物体が持っている機械的エネルギー以外のエネルギー、言い換えれば、ミクロのエネルギーのすべてを内部エネルギーといって、普通 U と書くんだ。
和美 そうすると、こいういうことになりますか。エネルギーには M  と U がある。 M には P と K がある。
先生 そうそう。U にも P と K があって、その K の部分が温度として感じられる。その関係が単分子の気体では 1/2mv^2=3/2kT 
一平 U の P は何ですか。
先生 100[℃]の液体の水と、100[℃]の気体の水では、どちらが運動エネルギーは大きいと思うかな?
和美 それは同じです。温度は運動エネルギーの大きさだっていうことですから。
先生 そうそう。でも、100[℃]の水蒸気の方が内部エネルギーは大きいんだ。
和美 それは1[g]の100[℃]の水を蒸発させるのには540[cal]の熱が要るのだから、当然です。
先生 それが U の P だ。内部エネルギーの分子論的ポテンシャル・エネルギーだね。
和美 そうか。くっついている水の分子同士を引き離すエネルギーが U の P なんですね。
一平 床にあるボタモチを棚に上げるのと同じだ。くついている地球とぼたもちを引き離すエネルギー…
先生 そこで、内部エネルギー U を増やすのにどうしたかというと、それには2つの方法があって…
和美 外から熱を与えるか、仕事を与えるか、ですね。
一平 与えるのはエネルギーなのだから、熱で与えるか仕事で与えるか、といった方がいいのではないですか。
先生 それがいい。それは、雑然と与えるか、整然と与えるか、ということだから。いずれにしても、熱の形での移動を△Q、 仕事での移動を△Wとすると △U=△Q+△W
和美 熱というのは、ものがもっているものではなく、エネルギーの移動する状態をいうんですね。
一平 仕事というのも、ものが持っているものではなく、エネルギーを移動させる方法をいうんだ!
和美 それじゃあ、はじめに出てきた Q=Ct も △Q=C△t というのが正しいのね。
一平 硫酸に水を交ぜると温度が上がるのは U の P が K に変わったということなんだ。
先生 昔、水の融解の潜熱は80[cal/g]だなんていったね。
和美 80[cal]の熱を与えても、0℃の氷の温度が上がらないので、熱が隠れてしまうと思ったんだ。
先生 潜熱だから、熱がもぐるとか、しずむとかいう感覚かな。潜在という概念は、熱を物質的に考えた熱素説の名残みたいなもんだな。熱容量なんていうのも熱素的な匂いが感じられる。熱を与えたのに温度が上がらなかったということだ。分子のポテンシャルになってしまったのだから。ここで、これらのエネルギーを表にてみよう。エネルギーをEと書くと…
 
                       M(マクロのE)                                      U(ミクロのE)
  P(ポテンシャルE)   位置E(棚ボタ、ダムの水、引き絞った弓)         分子の結合E(状態E、融解・気化・化学結合)
  K(カイネティックE)    運動E(投げられた球、電車)                分子の運動E(熱E、温度)

和美 熱はミクロの運動エネルギーなんですね。科学で使う熱とい言葉は使い方は難しいんですね。
一平 力という言葉だって同じだったよ。物理で限定されてしまうと使いづらくなる。
先生 でも、物理的な言い方が正しくわかれば、普段、使っている言葉は、それなりに使っていいんだよ。化学では反応熱が何カロリー発生した、なんて言ってもいいのだ。
 生活で使う言葉、理科で使う言葉、物理で使う言葉は、ニュアンスが異なるのだね。

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