理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

高校生の物理 運動3 変形(2)      M-106      No301      2011年7月21日(木)
 
先生 前回は、つるまきバネを引く実験をしたが…
和美 つるまきバネを引くとき、その伸びは引いた力の強さに比例しました。そして、力を取り去ると、元の長さに戻りました。
先生 そうだったね。そのような性質を弾性といいます。
一平 あの後の実験を、家でしたんだけど、そのときつるまきバネを伸ばし過ぎたためか、力を取り去っても元の長さに戻らなくて、少し長くなっちゃったんです。
和美 それじゃア、お店で使っているバネ秤は使えなくなっちゃうよ。
先生 そうだね。だから、ばね秤はある長さ以上には伸びないように作られているんだ。ついでに、一平くんが使ったつるまきバネを、もっと引っ張ると、もうその状態で突っ張ってしまって、元には戻らなくなる。このように、力を取り去っても変形が元に戻らない性質を塑性(そせい)というね。
一平 要するに、つるまきバネが壊れてしまったのでしょ。
先生 つるまきバネは変形がよく表れるように創られた製品だが、物質についても同じことがいえる。弾性的な物質と塑性的な物質をあげてごらん。
一平 粘土は塑性ですね。それに銅やアルミも変形したままだ。
先生 塑性のことを英語でプラスチックという。
一平 エーッ。だけど、プラスチックのものさしには弾性がありますよ。
先生 そうだね。しかし、熱を加えて曲げるとよい塑性を示すようになるんだ。熱可塑性という。
和美 プラスチックの容器なんかは、プラスチックの板を押しつけて作るんですね。
先生 そうそう。加圧成型だ。
一平 それは金属でも同じです。鉄の板は弾性があるけれど、大きな力を加えれば成型できるもの。 ジュースの缶はアルミ板をプレスしてつくるという話を聞いたことがあります。
先生 物質の変形には、それぞれ固有の性質があるが、一般にいえば、外力が弱いときには弾性を示し、外力が大きくなると塑性を示すんだ。
一平 それでは、粘土もはじめは弾性を示しますか。
先生 力が弱いうちには、小さい範囲で弾性を示す筈だ。
和美 お豆腐を静かに押すと変形した後で元に戻るけれど、もう少し強く押すと変形したまま、つまり、塑性を示し、もっと押すと穴があいたりして、破壊してしまうことになります。これならみんな、夕食のときに実験できます。
先生 お行儀が悪い!って、お母さんに言われそうだね。 ここに直径1mmで長さ2mの銅の針金がある。これで実験してごらん。
和美 針金の一方の端をどこかに縛っておきたいです。
一平 階段の柱はどう。
和美 柱が傷つかないように新聞紙を巻いてから、それに針金を巻きつけます。
一平 どのくらい伸びるんだろう。
和美 “下手な考え休みに似たり” やってみればわかるよ。
一平 これでは、針金を持つ手が痛くて、思い切り引けないよ。
先生 縄跳びの持ち手を利用しよう。
和美 はじめの針金の長さを測っておこうよ。先生、巻き尺を貸してください。ええと130cmです。
一平 よし、これでOKだ。では引くよ。ヨイショッと。
和美 グッグッと伸びるみたい。はじめから塑性の段階だ。ずいぶん伸びたよ。
一平 どうせだ。伸びるだけ伸ばしてやろう。ウハーッ!
和美 あれあれ、切れちゃったよ。柱に縛ったところで切れた。長さを測ると 25cmも伸びたことになる。
一平 柱に縛るところで、針金を何回も巻いたので弱くなってしまったのではないかな。そこを注意深くやれば、もっと伸びたかもしれない。
先生 多分ネ。
一平 針金を触って気がついたんだけど、銅の針金は引きには強いけど、押しには弱いんだね。ちょっと押してもフニャッと曲がってしまうもの。
先生 そうそう、金属の針金は引きには強いんだが、押しには弱いんだ。逆に、引きには弱いが、押しには強い物質を知っているかな。
一平 思いつかないナ。
和美 そんなものあるかしら。
先生 チョークがそうだよ。未使用の長いチョーク両端を両手で持って引いてごらん。案外、たやすくちぎれてしまう。今度は押してごらん。こちらの方は相当に強い。
和美 鶏の卵は外からの押しに強いが、中からの押しには弱いっていうのを聞いたことがあります。
先生 だから、鶏が孵えるとき、雛は中から卵を割って出て来られるんだよ。外からの力は押しの力としてはたらき、中からの力は引きの力としてはたらいているんだ。
一平 チョークと卵の殻から連想すると、素焼きの植木鉢なんかも、押しに強いんじゃないかな。
先生 セメントなんかもそうだ。だから、押しに強いセメントに引きに強い鉄筋を入れてコンクリートにして利用するんだ。ただし、この両方の熱に対する伸び具合が同じでないと、冬と夏の寒暖の差で破壊しまうが、これがたまたま等しいので具合が良い。逆にこれで作られた建造物を破壊しようと思ったら、高周波を使って鉄筋の部分だけ温度を上げると、この部分だけ熱膨張してセメントから離れ、全体がぼろぼろになってしまう。
一平 ものを作るときには、壊すときのことも考えておかなければならないんですね。
先生 物質は変形や破断に強いばかりが良いというわけではないことも知っておこう。自動車のフトンログラスは破壊されるときには粉々に割れるようなものが使われている、というより、そのよに創られたガラスが使われている。
和美 おしぼりの袋は引っ張るとすぐにちぎれるようなものが使われているようです。
一平 材料は使いようなんだ。
和美 人もそうかしら。人材なんていうもの!
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