理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

高校生の物理  力6     大気圧   M-102 No297          2011年7月7日(木)
 
先生 今日はジュースをご馳走しよう。
和美 ご馳走さま。
一平 何です、この装置は。長いパイプが二階から下がっている。
先生 二階からジュースを飲んでもらおうという趣向だがね。
和美 へー!一階のジュースを二階から飲むんですか。
一平 ちょっと、面白そうだな。
先生 では、二階へどうぞ。
一平 それでは、ぼくからトライします。このストローを吸うんですね。
先生 ストローというのは、本来、麦わらという意味だが、これはプラスチックでできている細いパイプだ。でも、適当な呼び名がないのでストローということにしよう。
一平 では、いきます。ウム! なかなかきついぞ。
和美 ジュースが上ってきたよ。もう半分くらいまで上がった。
一平 口の中が痛くなってきた。
和美 もう少しだ。一平くんガンバッ。
一平 やっと、ジュースが来た! これじゃジュース飲むの楽じゃないや。
和美 2倍の長さのパイプの中央を二階から吊って、一階のジュースを一階で飲んでも同じことですね。
先生 そうそう。それなら、文化祭でもできるね。 ところで、“二階から目薬”という諺を知っているかな。
和美 知らないけど、うまく入らないということではないですか。
先生 そうだね。“効果が少ない”くらいの意味だ。
一平 それでは“二階からジュース”というのはどうかって、いうんでしょう。
和美 “努力すれば報いられる”というのかな。
先生 そんなもんだ。さて、和チャンもやってみるかい。
和美 当然です。では、大きく息を吸って…、ウウ、こりゃ大変だ。最後のところが難関だ…残念だけど、ギブアップです。
一平 和チャンは階段の途中からやればいいんだよ。
和美 これ肺活量の反対なんですね。吸い込みが弱いんだな、私は。
先生 真空ポンプに吸わせると、ジュースは四階まで上がるんだよ。約10メートルで、吸い上げられる最高なのだ。
和美 どんなことをしても、それ以上は上がらないの?
先生 そうなんだ。
一平 待ってください。神社にある松の木は高さが20メートルくらいもあるけど、先の方まで水が上がっているんでしょ。生きているんだから。生きものは別じゃないかな。
和美 物理では、生物とそうでないものも区別されないって、いうことだったじゃない。
先生 植物が水を上げるのは別の原理なのだ。井戸水もポンプで水10m以上も上げることができる。そのようなとき使うポンプは<吸い上げポンプ>でなくて<押し上げポンプ>なのだ。水をポンプで押し上げるのだ。もっとも、吸い上げポンプというのも、実は、大気圧が水を押し上げているんだけどね。
和美 説明がないとわからない。
先生 空気にも重さがあることを知っているね。 私たちは<空気の海の底>に棲んでいる。だから、どんなものの上にも空気が載っていることになる。
和美 手の平を上に向けても、空気の重さは感じないけど。
一平 手の甲も空気に押されているからかな。
和美 じゃあ、手が空気のサンドイッチになっているようなもの?手が潰れちゃうじゃない。
先生 身体の血液なんかも、すでに押されているから潰れないんだよ。水の中のスポンジが潰れないようなものさ。
一平 お茶碗を口につけて、中の空気を吸い出そうとすると、口の周りが茶碗の方に押し出されて痛くなるだろ、あれは、身体の中にも外へ力がかかっているからなんだね。
和美 そういうんだ。
先生 だから、パイプの中の空気を抜いてしまうと、水は押し上げられてパイプを上って行く。
一平 空気はどこを押しているの?
先生 一階にあるコップのジュースの表面だね。この空気が地球表面にあるものを押す力を大気圧といい、普通の大気圧の強さを1気圧という。1気圧は水を10m上げる強さなのだ。水の代わりに水銀だと76cmまで上げることができるので、1気圧のことを76cmHgと書くことにしている。
和美 Hgは化学記号で水銀のことですね。
一平 それでは1気圧のことを<10m水>と書いてもいいんだ。
和美 水の化学記号はHOでしょ。だから 1気圧=10mHO 格好いい。
一平 水銀の重さは水の何倍ですか。
先生 それをいうなら、水銀の密度、あるいは、比重はいくらかっていうんだね。
和美 それなら計算できますよ。1000cm÷76cm≒13  水銀の密度は13です。
先生 密度には単位があって 13g/cm^3、単位なしでいうときには比重というんだ。
和美 それじゃあ水銀の比重は13です。
一平 それなら、空気の比重が分かれば大気の高さがわることになるね。
先生 チョット待って。理科ハンドブックを見ると、空気の比重は0.0012だ。
和美 それでは、1000÷0.0012=830000   単位はcmだから、8.3kmです。だから 1気圧=8.3km空気=8.3km air と書いてもいい!
先生 実際には上へ行くと空気が薄くなるから、もっとずっと高いことになるけど…
一平 それにしても、毎日空気を背負って生活しているなんて考えなかったな。
和美 空気があることなんか意識しないもんね。                                   
先生 ここに注射器があります。
一平 いろいろの大きさの注射器があるんだ。でも、針はついていない。
和美 この大きいのは何に使うんでしょう。
先生 これは浣腸器だよ。
和美 ?
先生 これで大気圧を測ってみようっていうんだ。
一平 どうやるんだろう。
先生  注射器のピストンを十分に押し込んでおいて、針を刺す口のところを指で押さえる。こうしておいて、ピストンを引っ張る。
一平 口を押さえている指が痛くないですか。
先生 口の先が小さいので大丈夫だ。それは引くぞ。ソレッ……ピストンから指を離すと、ピストンは元に戻る。
和美 ピストンが引かれた時、この隙間はどうなっているんですか?
先生 何もないんだよ。だから、ピストンを引くのを止めると、ピストンは元に戻る。
一平 何もないということは、真空ということですか?
先生 そうだよ。
和美 エーッ。そんなに簡単に真空ができるとは思っても見なかった。
一平 ぼくにやらせて…。こうして、ここを指で押さえてからピストンを引くと、ソーレッ、案外、簡単なんだ。これじゃ、和チャンにもできるよ。
和美 そう? 二階からのジュースではギブアップしたからね。
先生 それでは、この注射器でやってごらん。少し細いものだけど。
和美 ではいきます!ソレッ。ああ、できた。ヤッター!
先生 それでは、どのくらいの力で引けたか測ってみよう。
一平 ピストンをばね秤で引くんでしょ。
先生 そうだね。でも、そんなに大きな力を測るばね秤がないのだよ。
和美 弱いばね秤を並列にすれば測れるでしょ。
先生 5キロのばね秤で、例えば15キロもの力を測るのは大変だ。3本で引いて3本の目盛りを同時に読まなければならない。そこで、いいことを考えついた。
一平 ?
和美 …
先生 ヘルスメーターに乗ったものが、ピストンを下にした注射器のボディーを持って鉛直に支える。ヘルスメーターに乗らない者が、ピストンを握って真下から引く。
一平 <なるほど・ザ・ワールド>だ。ヘルスメーターの目盛りが増えるんだ。
和美 ヘルスメーターの目盛りを引き算すれば、ピストンを引いた力が出てくる!先生のアイデアですか?
先生 多分、そうだよ。では実験にかかろう。私がヘルスメーターに乗るから一平くんにピストンを引いもらおう。ぶら下がるつもりで引いていいからね。一番大きい注射器を使おう。
和美 まず、先生の体重を量っておくのです。62kgです。では用意はいいですか?いきますよ。ではスタート…
一平 ヨイショッと…ピストンを下からひ引くのも大変だな。
和美  ピストンが下がってきました。一平くん頑張っています。目盛りは76kgになりました。ピストンの位置で、目盛りの読みは変わらないね。実験は終わりです。
一平 草臥れるよ。
和美 それでは計算します。ヘルスメーターの目盛りは 76−62=14 で14kgです。 
先生 この力はピストンの太さによって違ってくる。このピストンの直径を測っておこう。ノギスという物差しで測ると、直径は4.2cm です。
和美 それでは、ピストンの断面積は (4.2÷2)^2×3,14=13.8  約14cm^2 です。
一平 ヘーッ! 14cm^2で14kg か。1cm^2で1kgか。覚えやすくていい。
先生 全く偶然の値なのだが、1cm^2で1kgというのはラッキーだったね。覚えておきたいね。
和美 それではそれを、こちらの小さい注射器で確かめておきましょう。
一平 この小さい注射器はピストンの直径がちょうど2cmだ。
和美 それでは、その面積は暗算でもできて3.14cm^2。だから3.14kgの力で引くと引き出せることになります。これなら、5kg用のばね秤で測れます。
一平 では二人でやってみよう。和チャンそっちから引いてよ。先生はばね秤の目盛りを読んだください。
先生 OK…えーと、約3kg 。
和美 これで大気圧は1cm^2で1kgであることが確かめられました。
一平 水を引き上げたときと同じように、一方は真空になっているので、大気圧が見えてくるんですね。パイプのように縦になっていても、ピストンのように横になっていても、どちらにも大気圧がかかるんだ。
和美 空気の重さが横からかかるって、どういうことになっているんですか。
先生 重さは横からだって、かかるんだ。空気がいつでも動いているから、横からぶつかっても重さになるんだ。もちろん、斜めからだって…。これを分子運動という。
和美 空気がぶつかっている?
先生 ピストンの外側から空気がぶつかって、人がピストンを引きだ出そうとしているのに対抗しているんだ。
一平 あんな軽い空気が、あんな小さい面積にぶつかって、あんな大きい力をつくっているんだ!! 
先生 最後に迫力ある実験をしてみる。コーラの空き缶に少しの水を入れ、ヒーターに載せます。すぐに、水は沸騰して口から湯気がでてきます。火傷しないように缶をヒーターからおろして、口の所の水気を拭き取ったら、口を布のガムテープで蓋をします。そして、冷たい水の中へ入れると…
二人 ウワーッ、缶が潰れた!
先生 水蒸気と一緒に空気も外に出てしまった状態で蓋をしたので、中の水蒸気が冷えて水に戻ってしまうと、缶の中は真空に近くなってしまって…
一平 大気圧に押されて潰れたんだ…
和美 何しろ、1cm^2に1kgですからね。缶の面積を考えると、すごい力を受けていることになる。
先生 ドラム缶でやってみたことがあるよ。
一平 外で焚き火をして…? 
和美 すごい迫力だったでしょうね。
先生 缶にオイルが残っていると危ないので、十分に注意をすること…。
一平 やってみたい!
先生 ガソリンスタンドにドラム缶をたのんでおくか。
 
 
 
 
 
 
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