理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

物理読み物5 水も空気も「固い」  M-49  No202 2010年4月29日(木)

 液体と気体のように, 自分の形を持たないものを, まとめて流体ということがあります. それに対して, 固体は自分の形を持っていて, 外力に対して強い抵抗を示します. 言わば, 「固い」ということです. しかし, 液体も速い変化に対しては, 大きな抵抗を示します. つまり, 固いのです.

  私は海の近くで育ちました. 夏は, 一日中海で暮らすというような生活をしていました. 引き潮のときには貝掘りを, 上げ潮になると, 釣りや泳ぎで過ごしました. 高い橋の上から飛び込むとき, 垂直にちかい姿勢で頭から水に入れないで, 水平に近い姿勢で腹でも打とうものなら, 息ができなくなるほどの痛さを味わいました. <腹打ち>という,軽蔑をもってその未熟さを表現する言葉もあったくらいです.

 痛いほどの大粒の雨を経験したことはありませんか. 水の雫が石をも穿つという話が昔からあります. 高速の水で金属を切る機械があることを知っていると思います.

  気体の空気も, そのときの状態によっては固いのです. 自転車でスピードを出していくと, 次第に, 空気が重くなるのを感じます. 固い空気をかきわけて進むといった感じになります. 自転車競技の選手はこの空気との戦いをしていることになります.

 バンクーバーオリンピックで女子のチーム・パシュート(団体追抜き戦)で勝れた結果を出しました.この競技は,先頭の選手の風圧によるハンデを解消するために,3人の滑走順を自由に変えて走ることで時間を競う競技です.(この項目は今回新しく追加)

  この空気の固さを見事に表現した文学作品があります. サン・テグジュペリの<南方郵便機>(新潮文庫 夜間飛行p124)です.

  風に逆行して, 静かに走った後, 彼はガソリン転把(てんぱ)を自分の方へ  引きよせる. 機はプロペラに吸い込まれて飛び出す. 弾力性の空気の上の最初の反動がやがて治まる. すると初めて地面がひろがり, 車輪の下にベルトのように光りだす. 最初ほどは感じなかった, ついで液体のように感じられた空気が, 今や個体化したと判断すると, 操縦士はそれに凭れかかり, それに攀じ登って行く.

  物性論的にいえば, 一見固体のように見えても, 小さい力に対して抵抗を示さない状態は固体ではなく液体なのです. 舗装されたばかりのアスファルト道路を突き破って, タケノコやツクシが頭をもちあげているのを見たことはありませんか. アスファルトは「液体」なのです.

 このように, 固体とも液体ともつかない境界領域の物質を扱うレオロジーという学問があります.岩波科学の本の<流れる固体>は面白い本です.

 粉のような状態は粉体といいます.「物性論的」にいえば, 粉体は固体と気体(空気)の混合物ですが,力学的な状態は液体に近いようです.雪,土砂,などもこれに近いものです.
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