理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

物理読み物4   雪と氷と  O-11  No201   2010/4/29(木)

  南極の夏です. 夏といっても, そこは雪や氷に覆われていて, 見渡す限り, 白い世界が続いています. ところが, 海中には, 色とりどりの生物の世界が広がっているのです. TVがカラフルに見せてくれました.

  海面は氷に覆われていても, 光は氷を透過するので, 海の中は明るいのです. “でも, 雪に覆われると, 海の中は暗くなってしまいます” とダイバーが言うのです. 雪は光を反射してしまうからです. 

  厚い雨雲がたれこめていて, 昼なお暗い,といった日に, 飛行機に乗ったことがあります. 飛行機が雲の上に出ると, もちろん, 上は青空で, 下には真っ白に輝く雲海が広がっていました. これだけ光が反射されてしまうと, 地上が暗くなるのは当然です.  氷が無色透明であるのに, 同じ氷でありながら, それが細かい粒になった氷, つまり雪は, 白色不透明になります.

  他の物質でも, 無色の結晶が微結晶の状態になると白色になります. 結晶でなくても, 無色のものが細かく分散すれば, 白色不透明になります. 水は無色透明ですが, 滝や霧や雲のように白くなります. スチレンは無色透明で, 発泡スチロールは白色です. 卵の白味は無色, よく撹拌して空気をまぜれば, メレンゲ状の白色になります. さらし飴はよく空気をまぜて白色にします. , 紙芝居では, 水飴をこねて空気を練り込んで, その白さを競ったものです. 一番白くしたものには(紙芝居のオジサンが判定します), おまけがつきました. ベッコウアメは透明ですが, カルメヤキは白色です. いずれも, 砂糖の分解で, 少々, 茶色味を帯びますが….

  ガラスも粉砕すると白色の粉になります. それを応用したものがくもりガラスです. CaCO は結晶性がよいものは無色の方解石ですが, 悪いものは白っぽい石灰岩です. SiO は結晶性がよいものは無色の水晶ですが, 悪いものは白っぽい石英です.

  水と油は分離していれば, それぞれ無色透明ですが, よく掻き混ぜればどちらかがどちらかへ分散して白っぽくなります. この状態を乳濁といいます.

  その逆を考えてみましょう. 白い紙も顕微鏡で見れば細部は透明です. 白い蝋燭も融解すると無色透明になります. 砂糖の液体も, 食塩の液体も無色透明です. もっとも, 砂糖の場合は, その一部が分解されて, 少々着色されることは上述しました.

  融けた食塩を見たことがある人は少ないでしょう. 授業で, 高温に強い試験管に,少量の食塩を入れてバーナーで強熱させました. 融けた食塩を見て, 一人の生徒がいいました. 「エッ! この水, どこからきた?」暫くして「それにしても, 沸かないナ」

  無色透明なものは, 光を吸収しません. これが細かい状態になると, 表面が多くなって, これに当たった光は反射や透過をくりかえしながら, やがてその外へ出ていってしまいます. 光の一部が欠けたりしていないので, 白色です.

  不透明といっているものの状態は, その物質の内部で光が反射や屈折を繰り返して, 光の方向が乱雑になってしまって, その物質に入る前の情報を失ってしまったことをいいます. 平たくいえば, ものが見えなくなった状態のことです.

  更に, 普段, 透明というのは, 総ての可視光に対して透明, つまり, 無色透明ということが多いようです. 一部の光…例えば,  赤い光…について不透明な物質では, その他の光は透過してくるので, 赤の補色に着色した(青っぽい)有色透明になります. 物質は可視光線に対して透明でも, その他の「光」, 例えば, 紫外線やX線やラヂオ波などに透明であるとは限りません.

  雪や雲が光を反射したり透過したりするのは, その量の問題ですから, 雪や雲の裏側の暗さは, その厚さに関係します.

  ところが, 自由電子をもつ金属は光を完全に反射・吸収してしまうので, アルミホイルで覆われたものの中は真っ暗です.アルミホイルで適当な大きさの袋を作って頭にかぶってみましょう. 光が漏れないように丁寧に作りましょう. どうです. <真っ暗>な世界が経験できたでしょう. アルミホイルにしわを作ってしまうと, 小さい穴ができて, 星空を見ているようになります.

  電池式のラヂオを鳴らして, それをアルミホイルで包むと, ピタリと音が止まります. 放送の電波を反射してしまうからです. この実験は, 電池式または充電式のラヂオでないといけません. 交流電源にコードがつながっていると, そこから信号は入ってきてしまうからです. でも, この実験では, 音がアルミホイルで遮られて, 出てこないから聞こえなくなるのではないか, と考える子がいます. それを, 明らかにするには, テープレコーダーで同じような実験をすればよいでしょう.

  また, このラヂオを机の上に置いて, アルミホイルの反射板で, 見えない電波を反射させてみてください. 放送の電波がどの方角からきているかがわかります. 二枚アルミホイルの反射板を使って, 反射の実験ができるかを考えてみましょう.

  水が電波を通すかどうかを調べるには, 電池式のラヂオをプラスチックの袋にいれてプールの底に沈めてみればわかります. この場合も, 水が音を遮っているのではないことを対照実験しておきます.

  水の中ではレーダーが使えません. だから, 超音波のソナーを使ったり, スクリュウ音がどうのこうのということになります. 戦争では!

  普通の窓ガラスは紫外線に不透明です. ですから, サンルームでは日焼けはしません. 赤外線写真では, そのレンズが赤外線に透明でなければいけません.

  X線の撮影技師は, X線に不透明な物質で遮られた場所で作業します. 窓のガラスは鉛ガラスです. X線は原子量の小さい原子で造られている筋肉などには不透明ですが, カルシウムのような原子量の大きな原子でできている骨などには不透明で, レントゲン写真に映ります. 胃のレントゲン写真を撮るときには, 原子量の大きいバリウムの化合物を飲んでから撮ります. この物質は硫酸バリウムで, 消化器に入っても電離したりしないので, ストレートに消化器を通過してしまいます. 電離するバリウムの化合物は使えません.どうしてでしょう。

  大気は可視光線と電波に透明です. ですから, 星からの信号はこの両者から得られます. 光天文学と電波天文学がそれです. しかし, 宇宙船があげられるようになると,大気の邪魔がなくなるので, 紫外線天文学, 赤外線天文学, なども発達して, 今や, 全波長天文学で多くの情報が得られるようになっています.

  大気が紫外線など強い電磁波に対して不透明であることが, 地球上に生物が生まれた条件であったといわれますが, 今や, フレオンなどの新しい物質が電離層を壊して, 紫外線の透過を許すようになりつつあって, 皮膚ガンの脅威が問題になっていることはご存じの通りです.
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掲示板 石井信也