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掲示板 石井信也
理科実験を楽しむ会
物理読み物26  人工衛星 M-62    No223   2010年7月22日(木)
 
 地球を回る人工衛星のうちで、地球に近いものは、高さがせいぜい300[km]くらいのものですから、地球の半径6400[km]に比べれば省略してもよい程度です。ですから、このような人工衛星は半径6400[km] の円運動をしていることになります。このための向心力は重力でまかなわれています。
 人工衛星の質量をm、速さをv、地球の半径をR、重力加速度をgとすると
 mv^2 / R=mg    ∴v=√gR=√(10×6400×1000)=8000 つまり8[km/s] となります。これが第1宇宙速度です。
 ついでに、この人工衛星の周期を求めておきます。地球の周をこの速度で割ればよいので、2π×6400÷8÷60=84[分] 頭の上を飛んでいく人工衛星は1時間半もすると一周して帰ってきます。宵の天空をじっと見据えていると、人工衛星が走っていくのが見えます。
 この人工衛星を地球から発射させるには、この速度になるような運動エネルギーを与えてやればよいので、仮に、1[kg]のもので考えれば、(1/2)mv^2=1×800^2÷2=32×10^6[J]=32[MJ]*  ただし Mはメガと呼び10^6を表します。この人工衛星の地表面からの高さ h によるポテンシャル・エネルギーは mgh=1×10×300×1000=3×10^6[J]=3[MJ]* ですから、比は1割程度であることがわかります。
  地球を脱出する人工衛星については,ポテンシャルエネルギーを稼ぐ(増やす)問題になります。脱出してしまえば、もうその点で「止まってしまって」もよいものとして、運動エネルギーは考えないで計算してみます。
  物体はいつでも地球から引かれています。これは重力ですが、重力は地球から遠くなると距離の2乗に比例して弱くなります。式で書くと
F=G・mM/r^2 ただし、Fは重力、Gは万有引力定数、mは人工衛星の質量、Mは地球の質量、rは地球の中心と人工衛星との距離です。この関係のグラフを描いてみてください。
 ところで、仕事というのは、物体に力を加えてその方向に移動させる働きで、その大きさは力に距離を掛けたもので表します。上の場合でいえば、F・r ですが、Fの大きさが変化してしまうので、この計算はめんどうになります。しかし、うまい方法があります。グラフは縦軸にFが、横軸にrがとってあるので、この曲線の下の面積が、仕事を表しています。この面積は積分で求められますが、結果は GmM/R となります。この分母と分子にRを掛けると (GM/R^2)mR となり、括弧の中は重力加速度gですから、結論としてmgR となります。人工衛星にこれだけのエネルギーを運動エネルギーの形で与えてやれば、地球から脱出できます。脱出速度を計算してみると、(1/2)mv^2=mgR   v=√2gR=√2×10×6400×1000÷1000÷2=61[MJ]* 
で、前の人工衛星の2倍になっています。
 将来、宇宙旅行が一般化するようになって、宇宙船が地球の重力圏外から帰ってくるときには、一時、地球を回っている衛星ステイションに寄港してから、別の定期便で地球に戻るようになるかもしれません。そのときには、旅行衛星はそのエネルギーの半分を捨てて、ステイションに立ち寄ることになります。
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち