理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

物理読み物23     電気伝導    E-112  No220    2010年7月8日(木)

 

  三大物質については別のところで述べました.

 ものは原子でできていて, その結合の型によって, イオン結合, 共有結合, 金属結合に分かれ, それぞれ, イオン性物質, 分子性物質, 金属をつくっています. 原子は原子核と電子から構成されていて, 電子が,原子と原子の結合にはたらいています.

  金属では原子の結合にあずかる電子が比較的自由な状態にあるので, それが金属の内部を移動できて, 電気を運びます. 固体状態ではもちろん, 液体状態でも同じです. 電子が電気を運ぶので, これを電子伝導といいます.

  イオン性物質では, 物質を構成している二種類の原子(または原子団)の一方から他方へ電子が移動していて, 電子を与えた側のプラスイオンと, 電子をも貰った側のマイナスイオンがその電気力で結合しています. 電子は強く束縛されているので, 物質の中を移動できません. ただし, 物質が融解したり, 溶解したりした状態では, その中をイオンが移動して電気を運びます. これをイオン伝導といいます.

  分子性物質では, 二種類の原子がお互いに電子を出し合って, 共有することで結合しています. 一つの原子は他の幾つかの原子(同種の原子でもよい)と結合することもできます. この原子の集団を分子といいます.この結合が延々とつながってできた大きな原子集団を高分子といいます.分子は電気的に中性ですから, 分子同士の結合はあまり強くありません. そのため, 気体, 液体の多くは分子性物質ですし, 分子性物質は固体であっても融点が低いのです. 分子性物質は電気伝導が極端に悪いのです.  物質はつねに電気的中性を保っています. 帯電している場合でも, その量はほんの僅かです. すぐ中性に戻ってしまいます. 物質の中で電気が流れるのも, 電気的中性を保つための運動であると考えてもいいのです. 正負の電気のバランスは崩れません.これを<電気中性の原理>と呼んでおきます.

  半導体という物質群があります. 例えば, 精製した4価のケイ素に3価のガリウムを僅かに加えた物質です. ケイ素は4個の電子を出して共有結合をしますが, ガリウムは3個の電子しか出せないので, 結合には欠陥があります. この電子があるべきところの空間は雰囲気的には中性ですから, 電子の出入りは自由です. 外から電場がかかる(電気的アンバランスを与える), 電子に力がはたらき, 電子はこの空隙を飛び石にして移動し, 電気伝導します.

  これとは逆に, 4価のケイ素に5価のヒ素を加えた物質では, ヒ素の電子が1個あまるので, これが自由電子的に働いて電気伝導します.

  最近, セラミック超伝導が話題を呼んでいます. セラミックはイオン性物質ですから, 通常の状態では絶縁体です. それが, 導体になるだけでなく, 条件によっては(臨界温度以下にすると)電気抵抗が0である超伝導を示すというのですから, 驚きです.

  そのような物質の一つ, ランタン・バリウム・銅・酸素の化合物である(La1-xBax)2CuO4 をみてみましょう. x0 のときには, La2CuO4 , ランタンが+3, 銅が+2価なのでプラスイオンの価数は+8, 酸素は―2価で, マイナスイオンの価数は―8, プラスマイナス0になっています. これでは, 普通のイオン性物質ですから絶縁体です. ところが, これにバリウムが, 仮に, 50%加えられたとすると, もとの化学式で x1/2 と置いて, LaBaCuO4 となります. バリウムは+2価なので, プラスイオンは+7(=3+2+2), マイナスイオンは―8価で電荷のバランスが崩れます. しかし, こんなことは起きません. この場合には銅が+3価になって, 電荷の和は0になります. 実際には, バリウムはランタンに比べると僅かにしか加えられていないので, 銅は+2価のものと+3価のものができて, 電気中性の原理がたもたれます.しかし, 銅は,どうしてそんな器用なことが出来るのでしょうか.それは, 別の軌道にある電子(d電子と呼ばれるもの)1個剥ぎ取られて, 結合に関与するようになるからです. すると, その電子の抜けた空席を足掛かりにして, 電子が移動することができるようになるのです.ちょっと, 半導体に似ていませんか. (ただし,超伝導になる理由は別のものです)

  真空から, 電子(エレクトロン)と陽電子(ポジトロン)が対になって跳びでてくることがあります. 電子対創生といいます. 陽電子というのは, 質量も電気量も電子と同じで, 電気の符号が逆の粒子です. この二種の粒子は全く対等なので, 電子を陰電子と呼ぶこともあります. 陽電子は1932年アンダーソンによって霧箱の中で発見されました.

  電子対創生については, デラックによって理論がうちたてられました. それによると, 真空というのは, 負のエネルギー状態の電子(陰電子ではない)で飽和していて, これにある一定(10^6eV)以上のエネルギーを与えると, これが正のエネルギー状態に移ることができ, 正エネルギー状態の電子が陰電子で, 負エネルギー状態の電子(電子の抜け穴で正孔という) が陽電子として観測されるのだというのです.

  真空というのは, 空気がないところ, もう少し厳密にいうと, 化学物質がないところということで, 何も無いところということではありません. 真空には, 電場や磁場や重力場という性質があり, また, 光などいろいろな素粒子(現在のアトム)で満ちていたりして, とてもゆたかな「もの」なのです. 負エネルギー状態の電子の充満しているというのも, その一つです.

  放射性物質は崩壊するときγ線を出して, そのγ線が,電子対創生で電子と陽電子を放出することがあります. 半減期の短い放射性物質を体内に注入して, そこで創られた電子対を測定し, コンピューターに連動して体内の状態を映像化するポジトロン・スキャナーが実用化されています.
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