理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

物理読み物22      ネルギー  P-1 No219  2010年7月1日(木)

  物質が生まれたり消えたりしないことを表すのが質量保存則ならば, その運動が生まれたり消えたりしないことを表すのがエネルギー保存則です.

  運動を表現する量には, 速度, 運動量, エネルギーなどいろいろあります. 

 力学的な知見が拡大していった結果, 力学的エネルギーの保存則に到達しました.

  投げ上げられた物体は, その最高点に達した後は落下に転じ, もとの位置に帰ったときには, 初めと同じ速さに達しています.  最高点で,速さがゼロになった時点でも, その物体には, やがては元の速さに戻れる<張力>が内蔵されているかのようです.実際, その頂点に物体をキープしておいて, いくばくかの時間の経過の後で,束縛から解放してやっても, やがては, 初めの速さを獲得することは確実です.物体は, 外見上, 運動していようが いまいが, その位置によって,それ相応の<凍結された>運動を自らの内に持っているのです.これを, ポテンシャル(潜在)・エネルギーといいますがスタチック・エネルギーというのもいいのではないかと思っています.  これに対して, <融解された>運動は, アクチュアル(顕在)・エネルギーとかダイナミック・エネルギーと呼ぶのがよいように思われます.

  熱力学の知見が増えるようになると, 熱運動が原子や分子のミクロの運動エネルギーであることがわかってきます. そして, 相変化(そうへんか)で出入りする潜熱の現象が, ミクロのポテンシャル・エネルギーによるものであることもわかってきました.

  これで, マクロとミクロの, スタチック・エネルギーとダイナミック・エネルギーの組みが揃いました. 簡単のために, ここでは, 以下の略号を使うことにしましたが,煩わしいので, エネルギーの部分は省略してあります. MAST(マクロ・スタチック), MADY(マクロ・ダイナミック), MIST(ミクロ・スタチック), MIDY(ミクロ・ダイナミック)の四種です.

  有機物が燃えると, 多量の「熱」が発生するので, 有機物にはエネルギーが貯えられていることが想像できます.もちろん, MISTです. MAST−つまり, 重力ポテンシャルから類推すれば, それは, 離れている原子同士の吸引力による「張力」が原因のようです.有機物の中の原子と酸素原子との親和力が, 有機物の中の原子同士の親和力よりも大きいという訳です.例えば, 水素が燃えて水ができるときに, 熱エネルギーが出てくるということは, 二つの水素原子をつないでいるバネ,及び,二つの酸素原子をつないでいるバネより, 水素と酸素をつなぐバネの方が,きつく締まっているということです. この原子同士を結合させている力は電気力です. ちなみに言えば, マクロのバネなどのような弾性エネルギーMIST, ミクロに見れば電気的なクーロン力によるMISTです.

  それでは, この辺で電気的なエネルギーについて見てみましょう. 電気的なエネルギーでは, 静電気の組や, コンデンサーにたまったエネルギーは,正負電荷のポテンシャル・エネルギーMIST, 電流によるエネルギーは電子のダイナミック・エネルギーMIDYです. 原子同士の結合は電子やイオンの電荷によるので, 物質の結合エネルギーは電気のポテンシャル・エネルギーMISTです. 弾性エネルギーも, 状態のエネルギー(相変化で出入りするエネルギーでわかる)もそうです. もちろん, 化学エネルギーも同じ種類のものです.

  電気と磁気は電磁気の半面ずつの姿です. 荷電粒子はその周辺に電場(電束場といってもよい)という雰囲気を持っていますが, これが運動すると, 電場は磁束場(磁場といってもよい)に変貌します. 逆に磁束場が変化すると電場(電束場)に変わります. 荷電粒子が激しく運動すると, この電場と磁束場はお互いに支え合い, 発生源の荷電粒子から離れて 独立した波動として存在するようになります. その速さは光速度です. これが電磁波で, やがて, どこか離れた所で電子に出会うと, それを運動させます. 何百万年も前に旅だった星からの電磁波(), , 自分の目の中の電子を振動させたのかと思うと, いささかの感動が湧き上がってきませんか.

  ままよ, ここに新しい場のエネルギーが登場してきます. 場はエネルギーを担っています. そして, これにも, 静的な場と動的な場があります. 磁石や電荷がその回りにもつのは, スタチックな場で, , 例にあげた電磁場はダイナミックな場です. 電磁波には波長の違いで, 電波, 赤外線, (可視)光波, 紫外線, X, γ線等があります. 波長が短い方がエネルギー密度は大きいのです.

  このような, 視点からいえば, 重力ポテンシャルも, 実は, 重力場が持つスタチックな場のエネルギーなのです. 重力場のダイナミックな場である重力波が, 空間を伝わってくるのを, 実験で確かめようという計画が, 世界中で行われていますが, いまのところ, 確証は得られていないようです.

  重力場で,m[kg]の物体を, 高さh[m]まで持ち上げるのにmgh[J]のエネルギーが必要であるように. 電場でQ[C]の電荷を, V[V]の電位差のある高みにまで持ち上げるのにQV[J]のエネルギーが必要です. 化学変化では, 主役は電子で, その電荷は決まっている(電気素量といって, 電気の最小単位です)ので, 電子のエネルギーは, それが存在する(電場の)位置によって決まります. ポテンシャルの基準面を適当に決めれば, 電子のポテンシャル・エネルギーは,一意的に決まってしまいます. どんな電子をも, 対等に扱うために, その基準面を原子たちから無限遠にとります. このことは, 原子の電子をその位置から無限の遠さまで引き離すのにどれだけのエネルギーが必要かで, その電気のポテンシャル・エネルギーが決められるということです.

  最外殻の電子の電位は. 電位(の絶対値)でいえば, 数ボルトから数十ボルトです. 従って, そのエネルギーは, 電子の電気量, つまり, 電気素量e, その電位差Vをかけたものになり, これをそっくりそのまま単位として[eV(エレクトロン・ボルト)]とします. 化学反応で出入りするエネルギーは, 大体, 数エレクトロン・ボルト程度です.

  化学変化の結合エネルギーはこの程度なので, 電池のつくる電圧もその程度です. 電子の電気量は 1.6×10^(-19)[C(クーロン)]

なので, 1モル物質の化学反応引き出されるエネルギーは 1[moleV]6.0×10^23×1×1.6×10^(-19)÷4.2[cal]0.9×10^4[cal] つまり, およそ10キロカロリー程度になります. 要するに, 原子・分子の離合集散による自然界は, 数ボルトから十数ボルトの世界といってよいでしょう.

  ところが, 原子核の世界になると, 質が違ってしまいます. 単純に考えても, 原子核は原子の大きさの10万分の1といった大きさです. ここに電子と同じ電気量を持つ陽子という荷電粒子がつまっています. 原子の電子がもつポテンシャル・エネルギーは中心からの距離に反比例するので, ポテンシャルの形が同じだと仮定すると, 同じ電気量の粒子に由来する原子核のポテンシャル・エネルギーは, 電子のそれの10万倍ということになりますが, 実際, ポテンシャルの形が違うので, 核エネルギーのオーダーはメガ・エレクトロンボルト級です. メガは100万の意味です.

  原子の電子軌道には, それぞれにエネルギーのレベルがあります. この軌道を電子が遷移するとき, そのエネルギーの差の電磁波を放出します. それはレベルの差によって, 赤外線だったり, 可視光線だったり, 紫外線だったり, ときには, X線だったりします. 先日, XCT(断層撮影法)を受けましたが, その X線 は120[kV]だと, 技師が教えてくれました.

  これらの電磁波の違いはその振動数によります. 太陽の出す中心的な光の波長は 5000 オングストロームの黄色の光で, エネルギーは2[eV]程度です. ただし, 光の波長帯にはかなりの幅があるので, もっとエネルギーの大きい光によっては, 日焼けのような化学変化が起きますが5000オングストロームの光だけでは, 日焼けは起きません. 光のエネルギーには量だけではなく質があるのです.

  温度についても同じです. 温度の高い熱源は良質で, これから仕事を取り出そうというときには, 効率がよいのです.

  普通のマクロな物体の運動エネルギーは(1/2)mv^2で表されますが, いくらエネルギーが大きくても, 質量が大きくて, 速さが小さいときには, そこから, 速さの大きい運動を取り出すことは困難です温度の低い物体をいくら多量に集めても, 温度の高い状態をつくりあげることはできないということです. 多量の赤外線から少量の紫外線をつくりあげることはできません.

  このようなに, スピードの大きい物体の持つ運動エネルギー, 温度の高い熱源, 波長の短い光, 電圧の高い電気エネルギー, などは優れたエネルギー源になります.

  電磁波のエネルギーについては, 光子の一粒,一粒のエネルギーが hνで表わされます. h6.6×10^(-34)[Js]はプランク定数, νはその電磁波の振動数です. また, 黒体輻射では, 最大のエネルギーを出している波長λ(max)とその温度 T の間には, ウイーンの変位法則 λ(max)2.9×10^(-3)[mK]があります. 太陽の光のピークはおよそ5000[K]にあるので, T2.9×10^(-3)/5000×10^(-10)5800[K]

  宇宙のバッククラウンドの3[K]黒体輻射の波長は λ=2.9×10^(-3)÷31×10^(-3)[m]1[mm] のマイクロウエーヴだということになりそうです. 

  熱機関は熱的エネルギーを機械的エネルギーに転換する機関です. 理想的な機関では, 高熱源から入り込んできた「熱」の一部分を機械的な運動に転換し, 残った「熱」を低熱源に捨てるという働きをしています.熱エネルギーの消失した分だけ機械的エネルギーが発生しているので, 当然, エネルギー保存則が成立しますが, 乱雑に動き回っていた分子の運動から, 整然と動いていく機械的な運動をつくりあげることには, 大きなメリットがあります.

  しかし, これは, 理想的な熱機関であるカルノーサイクルでのことで, 普通の熱機関では, 途中で逃げてしまった「熱」(当然, もとの熱源より低い温度の所へ), せっかく機械的な運動になったのに, 摩擦「熱」などで機械的エネルギーになり損なってしまった分だけ, 仕事への転換効率が悪くなってしまいます.

 理想的には, 温度T(1)の高熱源からQ(1)の熱を取り入れて, 温度T(2)の低熱源へQ(2)の熱を捨て, その差の Q(1)Q(2) のエネルギーを, 機械的エネルギーに転換しますが, その効率 (Q(1)Q(2))/Q(1) (T(1)T(2))/T(1) に等しいことがわかっています.

  この関係を書き直すと Q(1)/T(1)Q(2)/T(2) となります.しかし, 普通の熱機関では, 低熱源へ無駄に捨てる熱Q(2)'が多くなってしまうので,  Q(1)/T(1)Q(2)'/T(2) つまり, Q/Tの値が増すことになります. 理想機関のカルノーサイクルは機関を逆に運転させることができるのが特徴で, 普通の機関ではそれはできません. このことは Q/T という量は, その機関が可逆であるかないかの指標になるということです. この量にエントロピーと名づけました. 熱力学の理論は, その法則を敷衍(ふえん)して, 自然の大原理に到達したのでした.

  このことは, エネルギーには質があるということを終えてくれます. 高温と低温のものから,中温(?)のもの,をつくることはできますが, 中温のものから, 高温と低温のものをつくる(その他の何の変化も残さない)ことはできません.

  Aさんの家には二本の水道の蛇口があるとします. 一本からは0Cの冷たい水が, もう一本からは40Cの湯が出ます. 隣のBさんの家にも二本の水道の蛇口がありますが, 両方とも20Cのなまぬるい水がでます. A家では20Cの水を得たいときには, それを得ることは容易ですが, B家では0C40Cの水を得ることはできません. 自然の変化は一方通行のことが多いのです.

 ちなみに,A家の水道水を使えば,エンジンを動かすことができますが、B家の水道水ではできません。 

  エネルギーの中で良質のものは電気エネルギーです. 他のどのようなタイプのエネルギーにも, 効率ほぼ100%で容易に転化できます. それは, 電子の運動が整然としていて, 低エントロピー状態にあるからです. これでモーターを回してマクロな運動に転化するときには, これも低エントロピーのエネルギーですから, エネルギーを有効に使用したことになりますが, ヒーターで熱エネルギーに転化して利用しようというのは, 特に, 暖房として生ぬるい温度を得るために使用しようというのは, これが高エントロピーなので, もったいない限りです. 電気ノコギリで仕事をする場合を考えても, エネルギーの殆どは, とどのつまりは,熱エネルギーに変わって, 部屋の温度を上げる結果になるのです. 直接の暖房と, 仕事の後の廃熱暖房との違いを考えてみてください!

  日本の電力は1億キロワットを遥かにオーヴァーしていますが, 原子力発電の占める割合は益々大きくなりつつあります. 原子力発電も含めて, グローバルにエネルギー問題を考えてみたいものです.
  二酸化炭素の発生と、放射能の拡散と…など色々と。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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