理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

物理読み物20   浮力    M-59   No217     2010/6/24(木) 

 

  “地球上(一様な重力場)では, 流体内にある物体は,その表面に作用する流体の圧力のため, 全体として鉛直上向きの力を受ける. これを浮力という. 浮力の大きさと作用点とは, 物体のおしのけた流体の重さの重心とに一致する(アルキメデスの原理). 浮力の作用点は浮力の中心とよばれる” 例によって, 理化学辞典からの引用です.

  簡単のため, 水に真っすぐ(どれかの辺が鉛直になるよう)に沈めた直方体の物体について考えてみます. その対称性から, この物体に働く前後及び左右からの圧力は,それぞれ相殺してしまい, 上下からの圧力だけが,その差として有効にはたらきます. 直方体でなくて, 任意の形状の物体であっても, それを小さい直方体の集合としてみるとことができるので, 以下の理論は直方体の場合と同じように妥当します.

  水中に, 水平に置いた比重が1[g/cm^3]の薄い板を想定すると, その上の面には, その上に鉛直に積み重なっている水の重さがかかっています. しかし, この板が浮きも沈みもしないのは, その下の面にも,上の面と同じ大きさの圧力がかかっていて, それは上の水の重さに等しいということです. このように, 水の重さは物体の上からかかると同時に,下からもかかるということがわかります.

  液体による圧力は, その分子の不規則な衝突によって起きます. 深い方が,圧力が大きいということは, 深い方が分子の速さが大きいということです. この速さの差は, 分子がその距離を落下することによって獲得する速さに相当します. これによる圧力の差は, 分子の重さに等しいことがわかっています. なぜなら, 分子の速さが大きいということは, 温度が高いということだからです. 多分, その分だけ, 深い所では, 水の(温度が高くなる代わりに)比重が大きくなっているのでしょう. 一般に, 水は非圧縮物質といわれています. このことは, 大きな圧力をかけても僅かにしか圧縮されないということです. しかし, これは僅かにではあっても, 圧縮されているということです. 直方体の上下の面では, 速さが同じ水の分子が衝突していて(温度が同じなので), 上の面よりも下の面の方が, その密度の差だけ, 水分子の衝突回数が多いということになります.

  水の中の物体が受ける浮力は, 上下からの水の圧力の差ですから, 水を排除したことが浮力の原因ではありません. 水の中でも床にぴったりくっついている物体には,浮力がはたらくことはなく, 逆に上からの圧力を受けて,下へ押しつけられることになります. 鉄は水銀にプカプカ浮きますが, 水銀を入れたビーカーの底に, 直方体の鉄片を指で丁寧に押しつけると, 鉄は浮いてきません.

  大型のビーカーに半分ほど米を入れ, その上に鉄球を置いて, バイブレイターでビーカーに振動を与えると, 鉄球は米の底まで沈んでいきます. 今度は, ピンポン球を沈めておいて同じような操作をすると, ピンポン球は浮き上がってきます. 分子運動が浮力を起こすモデルとして, 有効です.

  この実験を砂でやってみましたが, ほぼ同じ結果になりました. 地震のときにも, これに似た現象が起きるのでしょう. 砂に水を入れてやってみると, 液状化現象が起きました. これも, 一種の浮力の問題のようです.
 
 注:教科書的には,比重は無名数ですが,ここでは,密度という意味で使っています.
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