理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
理科実験についてのお問い合わせ等はメール・掲示板にてお願いいたします。
掲示板 石井信也

作用反作用 その1  M-40      No185        2010114()

 

0  作用反作用と2力のつりあいの混同について

1  物理の古い本では, <作用反作用>の2力と,<つりあい>の2力の混同が広く見られました. 作用反作用も2力のつりあいも,関係する2つの力が,大きさが等しく, 同一作用線上にあって,向きが反対,だからです.  

 形の上でいえば,このような二つの力が,一つ物体にはたらいているときの関係はつりあいで,別の物体にはたらいているときの関係が作用反作用なのですが,そんな型式的な<事件>ではないのです.

 作用反作用は力の原理をいうもので,力がはたらくときには常に成立すのに対し,つりあいは, 一つの物体に作用する二つの力が, たまたま相殺するという,極めて限定されたケースなのです.  

  写真は, 机の上に角柱が置かれている図です. Wは角柱にはたらく重力です. Pは角柱が机を押している力で, Nは机が角柱を押している力, つまり, 机の抗力です.

  PNは作用反作用の関係で,どんなことが起きても成立します.

  WNはつり合いの関係で, たまたまこの場合に成立しています.

 このように, この二つの概念は全く異なるのですが,日常生活では,<つり合っている>といのは<等しい>という程の意味に使われていることがあります.物理の世界で使う<2力のつり合い>は,テクニカル・タームス(学術用語)で,一つの物体に二つの力がはたらいて,その力が相殺されている関係をいいます.この言葉の使い方は物理学での約束で,この概念を使って,ものの運動を論じようというのですから,個人的に勝手な使い方をしてはいけません.

2 実際に, このような誤った言葉で論じられている物理の参考書があり, その著者と, 往復書簡で, 数回に亙って論じ合ったことがありましたが, 最後の「結論」は "見解の相違である"ということで,終わったのでした.

  その際,この著者の最後の発言は "私は等しいことをつりあっているというのです”でした.国立大学の物理の教授で,新書型の科学書をたくさん書いている人でした. 

  もう一つ, この種の話し合いでよく使われる言葉があります. "誤解を招くような表現をした…" です. 誤解をしたのは読者なのです.

 

蛇足

1 <つりあう力>などを云々する前に,力についてもテクニカルタームスとしての約束をはっきりさせておきたいものです.

 生活用語では,ものを動かす原因や方法を, 力という語()を使って表現するのが一般です.

 生徒に<何々力>という言葉を書かせて, 似たような言葉を,黒板にまとめてみました.

 馬力,畜力,体力,握力,腕力,脚力, 

 重力,火力,風力,水力,核力,分子力,原子力,爆発力,親和力,

 引力,押力, 打力,応力,抗力, 動力,揚力,浮力,電力,磁力,吸引力,抵抗力,弾性力,摩擦力,電気力,起電力,表面張力,

 学力,視力,聴力,実力,

  破壊力,建設力,政治力,労働力,経済力,生活力,生命力,精神力, 

 戦力,武力,兵力,国力,協力,能力,

  魔力,霊力,気力,死力,   

  棋力,魅力,若い力(!)  

2  物理学でいう力は,ものとものとが押し合ったり,引き合ったりする力です.だから,何々力という語が出てきたら, "何々が何々を押す力"とか, "何々が何々を引く力"  などといい直すことにします.

 このようにいい直せない力は, 物理で使う力ではありません. 

  という訳で, せっかく挙げてもらったこれらの言葉は,よく登場する特別なものは別として, できるだけ使わないことにします.

  <重力>は地球がものを引く力として,  <抗力>は面が物体を押す力として, 使うことにします.当面, この程度で十分です.

3  筆者は旧制中学校の頃, 物理をほどほどに理解していたつもりでしたが, 力がどの物体にはたらいているか,については理解できず, この分野については全くギブアップでした. 参考書などを読んでも, 誰かにきいてもわかりませんでした.

 お恥ずかしいことですが, このことについて, すっかりわかったのは, 千葉の物理サークルに入ってからでした.

4  今日の新聞に新刊の広告がありました.

  転起力(テンキリョク) 島田洋七 

  踏出力(トウシュツリョク) アントニオ猪木

力とはこんなことです.


作用反作用とつりあい