理科実験を楽しむ会
(図p183
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
(表p187)
(図p185-1)

93.電気にもアトムがあるか―――電子の発見

 [授業のねらい]

 物質には最小の単位があるというのが原子論です。 物質は原子からできていますが,その原子から,更に質量の小さい荷電粒子の電子が生まれでてきます。 原子論は破産したのでしょうか。 電子は新しい原子なのでしょうか。
 [授業の展開]
 問1 ファラデーの電気分解の法則をいいなさい。 物理でこれを学習するころまでには,ファラデーの電気分解の法則は,化学で学習ずみです。溶液の電気分解で1g当量の物質を析出するのに要する電気量は,その物質の種類に関係なく一定であるこれは,ファラデーの発見によるものです(1833年)。この法則は,つぎのように書くと内容が見えてきます。 
1g原子を析出させるのに,1価のイオンなら96500C 2価のイオンなら96500×2C3価のイオンなら96500×3Cの電気量が必要です。

 もうすでに,内容がわかっている生徒には驚きも感動も(気の毒ですが)ありませんが,この事実は電気量の不連続性を示したもので,電気にも「原子(最小粒子)」があることが期待できることを意味しています。
 (注)1F(ファラデー)=96500Cと,容量の1F(ファラド)とを混同している生徒がいます。
実験1 ガイスラー管(クロス真空計)の放電を観察しましょう。

 生徒の観察,授業ノートから。 ( )の中は教師のメモ。
 「40mmHg すこしよたっている 赤紫色(<よたっている>という表現で放電の様子がよくわかります)
 10mmHg 太く明るくなる 明るい赤紫
  3mmHg 波長っぽくなる 明るさ増す (<波長っぽく>は周期性が現れたという意味) (暗い中から<定常波>という声が聞こえました)    0.14mmHg もっと波長っぽくなる 緑がかって明るさ最大
 0.03mmHg 管全体が光る 暗い緑色」
 (ガイスラー管の細部についての絵が描かれてありますが,省略します)
実験2 クルックス管の放電を観察しなさい。
 生徒の観察  同上の授業ノートから「磁石をもっていくと,フレミング則で曲がるということから,陰極線は負の電荷をもっていることがわかる。 羽根車の回転から,陰極線は−から+へいくのがわかる。蝶も同じ。(花に止まっている模型の蝶が回転する放電管も見せた)
 陰極線は運動量をもっている。途中に障害物を置くとガラスに陰ができる。陰極線は直進性がある」                              (図p183
 電場で曲げる実験は見せられませんでした。陰極線は陰極面から垂直に跳びだすことをつけ加えておきます。このような実験は1860年前後から始まって,1897年にはトムソンの e/m(比電荷)の測定実験になります。
  e/mの測定(の方法) 質量m,電荷−eの電子を初速度v0,でx軸に平行で,その方向の長さ l (エルの平行平板コンデンサーでつくった電場Eに突入させます。電子の電荷は負なので,電場からy方向で,上向きの力を受け放物運動をします。電子は電場をでた後は,その時点の速度で慣性運動してスクリーン上の  y y1 y2 でぶつかります。Lはコンデンサーの中心からスクリーンまでの距離です。(Lをこのようにとると,以下のように式が簡単になります)
 電子が電場から受ける力Fは       FEe          … (1)
その加速度αは               αF/mEe /m   … (2)
電子が電場にある時間をとすると    tl /v0         … (3)
 (2)(3)から  y11/2at^21/2Ee/ml/v0^2        … (4)
 電子が電場をでてからスクリーンに到達するまでの時間を t’ とすると
                                                      t’
(Ll/2)/v
0    … (5)
 また,電子が電場を出たときの速度の鉛直成分を v1とすると
                                                     v
1atEe/ml/v0  …6
(5)(6)から                    y2v1t’Eel/mv0^2×Ll/2  …7
(4)(7)から yy1y21/2Ee/ml/v0^2Eel/2mv0^22Ll
          (Eel^22EeLlEel^2÷2mv^2EeLl/mv0^2  … (8)
 平行平板コンデンサーの幅をd,充電電圧をVとすると EV/d
yELl は測定可能なので,v0がわかればe/mがわかろうというものです。図からわかるように  y/Ly1/l/2)=y2/(Ll/2) となっています。
 つぎに,紙面の手前から奥に向かって磁束場Bを掛けて,スクリーンの電子のスポットをもとの位置へ引き降ろします。電子にはたらく電磁力をFとすると                                                ev
0B  (9)
(1)(9)から                                       Eeev0B v0E/B… (10
(8)(10)から                                        e/myE/lLB^2
 この実験でトムソンは                   e/m0.77×10^11(C/kg)を得ました。
 実験3 比電荷測定器e/mを測定しなさい。  (図p185-1
 電子の比電荷測定器が理振法の備品にあります。ヘルムホルツ・コイルでつくられた一様な磁束場で,水素を封入した管球の中に電子ビームを走らせ,電磁力による円運動の半径を測定してe/mを算出するものです。
  管球の保持が可動になっていて,電子ビームの放出を磁束場に斜めにすると,らせん状の運動が見られるようになっています。
 授業ノートの記録を転載しておきます。
 「二極管の KP間にはVVの電圧がかかっていて,K(カソード)から跳びだした電子がP(プレート)から外にでるようになっている。電子の質量m,電子の電気量e,電子がプレートから跳びでるときの速度をvとすると          
             1/2mv^2eV から e/mv^2 / 2V  …  (1)

 これに,紙面に垂直で表から裏向きの磁束場BT(T:テスラ)がかかるとする。電子の流れは電流と逆向きであるから,フレミングの左手の法則を当てはめると,電子は右のような(図略)力を受ける。この電子の進路に,いつも一様な磁束場がかかっていれば,いつも進路方向左向きに力を受ける。すなわち,等速円運動をすることになる。円運動の半径をrとすると,
向心力fは,              fmv^2/revB  e/mv/Br 
2乗して                  e^2/m^2v^2/B^2r^2…(2)
  1/2)から                                 e/m2V/B^2r^2 3
 実験値       V200(V)  I1.3(A)  B7.8×10^(−4×IT)
    r0.045(m)          e/m2V/B^2r^21.9×10^11(C/kg)
 物理定数表によれば  e/m1.758819×10^11C/kg) となっています。まずまずの値といえましょう。
 e/mの値がわかったので,emの一方がわかれば,他方もわかるというものです。
  eの測定に関するミリカンの油滴の実験があります。     (図p185-2)
 霧吹きで小さい霧の粒をつくり,平行平板コンデンサーにあけた穴から落とすと,すぐに終速度に達します。霧の質量をm,重力加速度をg,終速度を v’ とすると                                             mgkv’…1) 
ただし,kは比例定数です。
 横からX線を当てて,霧粒から電子をはじきとばしてプラスに帯電させます。霧粒は平板平板コンデンサーよる下向きの電場Eから力を受け,霧の電気量をqとすると, Eqmg  のときには上向きに等速運動をします。その終速度をvとすると
                      Eqmgkv 2)  
1)(2)から                                         qk/Evv’3
 電荷qが,q1からq2に変化した場合に,速度vv1からv2に変化したとすると,                                
  △q
q
1q2k/Ev1v2となります。
 ミリカンは速度を測定する代わりに落下する時間t’と上昇する時間tを測定しました。
△qに対しては 1/t11/t2 の値がつねに一定の数の整数倍になるとすれば,電気に素量があることが確かめられることになります。
なお,電気に素量が存在するなら, 1/t’1/t  の値もつねに一定の数の整数倍でなくてはなりません。表はミリカンが第8号と名づけた小滴についての実験の結果を示したものです。
( )内は石井の計算です。                 (表p187
 ミリカンが初めに得た値は1.59×10^(−19Cでした。これは空気の粘性率の値が正しくなかったためで,現在では e1.60217733×10(−19Cと測られています。これが電気の最小単位で電気素量といいます。
 問2 モル分子数(アボガドロ数)は,ロシュミットによって初めて求められました(1865年)。 1 mo1 6×10^23としてeの値を計算しなさい。
  ミリカンの実験でeの値が精密に測定できると,それから逆にモル分子数の値が正確にわかるのです。
 3≫ e/mとeの値から電子の質量mを計算しなさい。 また,水素の原子量とモル分子数アボガドロ数から水素原子1個の質量を計算して,電子の質量と比較しなさい。
 以前,テレビの教育番組でこの実験をみたことがありました。ただし,その実験ではコンデンサーに交流電圧をかけて,振動電場をつくっていました。たくさんの油滴(らしいもの)が一定の振幅で単振動(往復運動)をしています。突然,そのなかの一つの振幅が2倍近くの大きさになり,やがてまたもとに戻ります。また別の油滴の振幅が大きくなります。そして,まったくたまに3倍の大きさの運動も現れます。油滴に電子がついたり,離れたりしているのが,目の当り見える感じがして感動したものです。(図p187

[まとめ]
1        陰極線から電子の性質がわかってきました。
2        電気にも素量があります。

(図p187
(図p185-2)
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