9. ものであることの身分証明−−−重さ 

 

  [授業のねらい]

  生徒はまだ質量と重量の認識が未分化です. ここでは<重さ>という言葉を使って, そのままの状態で学習を進めましょう. この区別はニュートンの運動法則が出てきてからにしましょう.

  すべてのものには重さがあるので, ものを追求する手段として,重さを使うことにします. そのようななかで “重さがあればものであり, 重さがなければものでない” という認識も深まっていきます.

 

  [授業の展開]

  どんなものにも重さがあります. 重さの大きいことを重い, 重さの小さいことを軽いといいますが, それは程度の違いであって, すべてのものに重さがあります.

 ≪問1≫ “箸より重いものをもったことがない” という言葉があるのを知っていますか. では, 箸より重さの小さいものをあげてみましょう.

  鉛筆, 十円玉, ワラ半紙, 羽根,. ワラ半紙も一しめともなればかなりの重さになります. ですから, 軽いものはたくさんの量を集めて, その状態で重さがあることがわかれば, 少ない量でも重さがあることがわかります.

 ただし,“ワラ半紙一しめだと重さがあるが,一枚では重さはない”という言い方があります。手で持っても感じないという意味です。

  羽毛も軽いものの代表のようにいわれます. 空気中をふわふわ浮いていることがあるからでしょうか. しかし, 静かにしておけば, やがて下に落ちてしまいますから, やはり重さがあることがわかります.

 ≪実験1≫ では, 空気にも重さがあるでしょうか. 空気に重さがあることがわかる実験を計画しなさい.

  空気の重さは体感できません. 空気をたくさん集めてその重さを実感できればよいのですが….

P  フラスコの重さを測っておいてから, その中の空気を抜いて, もう一度重さを測る.

P  畳んだポリ袋の重さを測っておいてから, ポリ袋に空気を入れて, もう一度重さを測って, その差を計算する.

  このような提案が,案外,討論になったりします.

 ≪実験2≫ 小型のボンベに, 空気室つきの空気入れで空気を圧入して, 重さを測る. 小型ボンベは, 気体の学習用に売り出されている酸素や窒素や二酸化炭素の容器が, 中学校などにあるので, 譲ってもらうとよいでしょう.

  初めに, ボンベの重さを測っておき, 空気を圧入してから, 再び重さを測り, 最後に空気を水上置換でメスシリンダーにとってその体積を測ります. 重さだけでなく, ついでに, 密度も求めておきましょう. 1.2g/(liter) くらいの値がでます.

  ボンベが, 空気を入れるときには温かくなり, 空気を出すときには冷たくなることに気がつく生徒もいます. 実験を始める前に, ボンベの中を真空にしないといけないのではないかと思っている生徒もいます.

 ≪問3≫ では, ゴム風船ではどうでしょうか. ゴム風船は上へ上へと上りたがっています. ゴム風船には重さとは反対の<軽さ>があるのでしょうか.

 ゴム風船の中には水素かヘリウムが入っています.水素は空気中ではよく燃えるので危険なことがあります.ですから, 最近では, ちょっと値段が高くつきますがヘリウムを使うことが多いようです.

 ≪実験3≫ 水素に重さがあることを確かめてみましょう.

  大型の丸底フラスコを二つ用意します. 一方Aにはゴム栓を, 他方Bには活栓(化学室で借りる)をつけます. この二つを棒の両側に下げて, 糸でつるしてバランスさせておきます.

  真空ポンプでBの空気を抜いて, Aと重さを比較します. 実験の前に, どうなるかを班で話し合わせます. この実験では, だいだい正解がでます. Bはそのままにしておきます. Aを逆さまにして, キップの装置につないだガラスパイプを入れて, 空気を水素で置換した後ゴム栓をしてから, Bと重さを比較します. これは, 間違える班が出てきます. 水素には軽さがあるから, 真空の方が重いと思っています.

 ≪問3≫ では, どうしてゴム風船は上がるのでしょう.

 水素の入った風船は空気より軽いので, 空気に押し上げられて上へ行かされていることを, 水の中の木が水に押し上げられて上に行かされている(浮く)ことと比較しておきます. 重いもの(密度の大きいもの)ほど, 下へ行く優先権があります. 空気がなければ水素といえども下に落ちます.

  水素はボンベに詰めて売っていますが, 水素の詰まっているボンベは, 使ってしまった空のボンベより重いのです. 水素を扱っているところで,水素の重さについて尋ねてみたいものです.

 ≪問4≫ 真空風船をつくる工夫をしてみましょう.

  「真空風船」の意味がわかれば, 風船に水素を詰める意味がわかります.

  次に, ものがどのように変化しても重さは変わらないことを確かめます.

1  同じ種類のものが混ざっても重さはかわりません.

2  違う種類のものが混ざっても重さはかわりません.

3  ものは水に浮いても重さはかわりません.

4  ものは水に溶けても重さはかわりません.

5  水に溶けているものが沈殿しても重さはかわりません.

6  三態変化しても重さはかわりません.

7  化学変化しても重さはかわりません.

8  生物であっても例外ではありません.

 ≪実験4≫ 上のことを確かめる実験をしなさい.

  たとえば,

6  初め, ビーカーに適当な重さの氷を入れておきます. 融けてから重さを測ります. 実験のあいだに水が蒸発してしまうのが気になるようでしたら蓋をしておきます.

57  初め, ビーカーに適当な重さの硝酸銀の水溶液を入れておき, そこに, 別に測った沃化カリウムの水溶液を加えて重さを測ります.

8  人間がものを食べたら体重はどなるでしょう. 食事の前にヘルスメーターで体重を測っておきます. 食べるものの重さをていねいに測っておきます. もちろん, 飲み物も忘れてはいけません. しっかりした食事では, 1kg以上は食べることになるでしょう. ボクシング部のあるところでは, そこの体重計を借りましょう. 保育所では, 赤ちゃんがどれだけミルクを飲んだかを, 食事の前後の赤ちゃんの体重の差で計算します.

  視点をすこし変えてみましょう. 体重を測るときに, 秤の上で力んでみても, 重さは変わりません. 蓋をした瓶の中でハエが飛んでも重さは変わりません. すべては<秤の上の出来事>で, 孫悟空が<お釈迦さまの手のひらの中>で足掻いているようなものです.

 このことを応用すると, 秤に載らないような大きなものの重さを測るときには, それを二つの秤にまたがらせて載せ, 両方の秤の目盛りの和を求めればよいということがわかります.さらに, 秤の一方は秤でなくてもよくて, 適当なもので支えておいて, 秤を両側で2回使って測り, その和を求めればよいということがわかるでしょう. むかし, 木樵(きこり)は, 切り出した木材の重さをこのようにして測ったといいます.

 ≪実験5≫ 上の応用の部分のことがらを, 実験で確かめてみましょう.

  これらの実験から, “ものの出入りがなければ重さは変わらない” “重さは発生したり消滅したりしない” “重さでは足し算や引き算が成立する” とまとめておきます.

  さて, 近ごろすこし太り気味で減量したいというときにはどうしたらよいでしょうか. 減量作戦は少なく入れて多く出すこと以外にありません. 減量のためにエネルギーを使うことはよいことですが, 勘違いしてはいけません. エネルギーはものでないので重さはありません. ただし, エネルギーを使うと呼吸が激しくなり, 発汗が多くなって, 物質の排出量が多くなります. ボクサーが減量するときには, 厚着でランニングして, 呼吸量を増やし汗を絞りだします. また. 栄養にならないものはストレートに出てしまいますから, 身の内にあるあいだだけ体重に加算されます. 相撲の新弟子検査で体重の足りない者は, 水を飲んで増やす,という話があります.

  さて, “すべてのものに重さがある”ことがわかれば, “重さがあればそれはものである”ということがいえそうです. 重さはものの標識として使えそうです.

  ものを構成しているのが原子であれば, 原子にも重さがあって, “重さで原子にラベルを貼る”ことができそうです. ダルトンは色に関する感覚が弱かったようですが, それまで色の変化などに頼っていた化学に天秤を導入して, 化学を科学にした学者でした.

 ≪課題1≫ “ものの本質は重さであり, 人間の本質は自由である” とはヘーゲルの言葉です. 感想を述べなさい.

 ≪課題2≫ 古い神社の境内には<力石>という重い石が置かれていることがあります.昔,村の若い衆が集まって,この石を持ち上げて,力自慢を競い合ったのでしょう.近くの神社で探してみましょう.

 

  [まとめ]

1  すべてのものに重さがあります.

2  重さには足し算や引き算が成立します.

3  ものは,  溶解しても, 沈殿しても, 三態変化しても, 化学変化しても, 重さは変わりません.

4  重さに関しては生物も例外ではありません.

5  重さでものの存在を追求できます.

6  原子にも重さがあって, 重さで原子を追求できます.

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