8. 固体はみんなばねである−−−力と変形
 
  [授業のねらい]                                   
  力が加わると, ものは変形したり変速したりします. 現在の高校の教科書では, 変速の方はしっかり学習することになりますが, 変形の方はかなり薄くなっているようです. <力と変形>も学習として大切にしたいものです.
                                                               
  [授業の展開]
  弾性変形に関してはフックの法則があって, 荷重と伸びの関係を重視していました. 物理の初歩的な定量実験として重要視されてきました. 材料を適当に選べば, 変形が小さいあいだにはきれいな比例関係のグラフが書けて, 定量実験の満足が得られるというものです.
  私は, このタイトルとした “固体はみんなばねである” という表現を,東北の理科の先生たちから聞いたときには, かなりのショックを受けたものです. “目からうろこがおちる”という言葉がピッタリでした.
  物理の学習が定量に傾いていることに対する反省として, 定量以前に,ことがらの本質をしっかりつかまえて, それをズバリと表現する定性的把握が大切だと気がついたのです. このように表現すると, ものの世界が見えてきます. 以前の学習では, その内容が弾性変形や塑性変形であって, 物質学習にはなっていなかったのです. §6にも書いたように, 教科書には<もの>が希薄です.
 ≪問1≫ 力を加えると変形し, 力を取り去ると元にもどるものをあげてみよう.
  ゴム, ばね秤, 弓, エキスパンダー, 竹,…
  例によって, もう一押しです. 生徒は近くにあるものを手にもって力を加えはじめます. プラスチック製のものさし, 消しゴム, 鉛筆, 教科書,…
「少しでもいいの?」という質問がでると, あとはどんどん出てきます.
  椅子, 机, ガラス,…. 物体と物質がゴチャマゼになっていてもかまいません. そこで, 待っていましたとばかり,
T  “固体はみんなばねだ”といってもいいかな.
P  気体だってとじこめればばねだよ.
  生徒にはいつでも負けます. それでいいのです.
  ここで, すこしの変形を見る装置を工夫します.
 ≪実験1≫ 机の上にレーザー(ポインター)を置いて, レーザーのスポットを遠いところに当てておきます. 机を手で押すと, スポットは揺れます.
  「廊下でやろう」, 「向こう側に鏡を置けば, ここで見られるよ」という意見がでます. 生徒の提案は原則として実行するという姿勢を教師はもちたいものです.
  ピアノ線を見せて(見せることが大切です), その伸びを見るにはどうしたらいいか検討します. 実験装置も生徒に考えさせます. ピアノ線を長くすればいいといいます.
 ≪実験2≫ 階段のすきまを利用して4階から1階までピアノ線をたらし, その下におもりをつるします.
  ピアノ線の太さによっては教室でも十分ですが, 物理実験の装置は大きい方がよいのです. ピアノ線をつるす所を工夫します. この実験は, あとのジャイアント振子に, そしてゆくゆくはフーコー振子につながります.
 ≪実験3≫ あめゴムで, 力と伸びの関係を調べることを計画・実行しなさい.
  直列・並列で, どうなるかなどを計画した班は表彰ものです.     
  この結果から, 伸びの小さいときには, 加えた力Fと物体の伸びl(活字に注意を)の関係を  F=kl (kは比例定数) とまとめておきます.  kを<物体のばね定数>と呼ぶことも約束します. 
 同じ質の物体では, kはその物体の太さや長さで違ってくること, 物質の定数とするには太さと長さを規格化する必要があること, を討論から引き出します. 基準の長さは1m,
基準の太さは1m2です. これはまったく不格好なゴムひもです. 鋼なら動かすこともできません.
  いつか, 小学校の密度の学習を見たことがあります. 隣のクラスが公開研究授業で, 先生たちはみんなそちらへ集まっているあいだに, 私は自習をしているクラスの課題実験を見ました. 木の密度を測るのが課題らしく, 生徒たちの前には直方体の木片がたくさん置いてありました. 以下は子どもたちの語らいです.
P  密度って1立方センチの四角の重さだろう.
P  この木をそういうふうに切るの, できないよ.
P  ほんとに切らなくても頭で切ればいいのよ.
Ps  エッ, アーそうか!
  断面積がSで, 長さがLの棒状の弾性体の物体について考えてみます. 伸びに関するフックの法則は F=kl と書けます.
  単位長についての伸びl/Lは, 単位面積当たりの力 F/S に比例するので,
 l/L ∝ F/S  比例定数をEとすると  F/S=E・l/L  F=E・(S/L)l  こうすると,<物体>を単位断面積, 単位長(仮に立方体とする)に,「頭で」整形したて,<物質>について考えたことになります. この場合のばね定数Eをヤング率といいます. ゴムひも, ピアノ線というような物体の特殊性が失われて, ゴムや鋼といった一般性をもった物質が姿を現します.
 ≪問2≫ ものの変形には伸び・縮み(これは同じ種類の変形の±)の他に,どのような種類がありますか.
 出てきた答えを, 外力の方向の変形<伸び(縮み)>と, 外力の方向に角度をもつ変形<ずれ>に分けます(この辺の議論にはやや厳密さを欠くところがあります).<曲げ>は上面で伸び,下面で縮みの変形,<ねじれ>は上面で,たとえば,右回りの,下面で左回りの変形です.上面・下面は相対する一面とそれに対する面という意味です.
 へこみ, こぶ, 亀裂などいろいろ出てきますが, 適当に処理します. ただし, 変形のあとに破壊がくることには触れておきます.                           (図p44)
  弾性変形は, 伸びだけでなく, 縮みはもちろん, ずれでも, 曲げでも, ねじれでも, この比例関係が成立することを教えておきます.
 ≪実験4≫ 曲げの変形でも, 力の大きさと変形の大きさが正比例することを確かめる実験を計画し実行しなさい.
 ≪問3≫ 私たちの周囲にある材料の強さは, その材質にもよりますが, 形にも関係します. そのような例をあげなさい. また,そのような「構造物」についても考えなさい.
 塩ビの波板,鉄のパイプ, ダンボール, 発泡スチロール,….
  後楽園のドーム, 東京タワー, 本四架橋, 鉄道線路, 腕の骨, 鹿の角, カブトムシ, 竹, 瓢箪, 鶏卵, ….
  つぎは塑性変形です.
 ≪問4≫ 力を加えると変形し, 力を取り去っても変形がもとにもどらないものの例をあげなさい.
  粘土, 金属, 折り紙, ガラス棒(化学実験でやった), 竹ひご(工作でやった)などが出てきそうです. プラスチックスは塑性に富んだ物質という意味で, イラスチックスは弾性に富んだ物質という意味だということも教えます.
 ≪問5≫ 直径1mm, 長さ1m程度の銅の針金の一端を机に固定し, 他端を棒に巻いて, 棒をゆっくり, しかし, 強く引きます. 実験の前に, 針金がどのくらい伸びるかを予想させておきます.
  数回やてみると, 針金が切れる位置がわかります. そこをカヴァーできればもっと伸ばすことができそうです. <金属疲労>や<強化ガラス>の話にもつながります.
 ≪問6≫ 錫の粒(化学実験用のもの)を金づちでたたいて薄く展ばしてみよう.
  金床とハンマーは学校に用意しておき, 金箔もあったら見せたいものです.
  弾性と塑性はともに物質がもつ性質で, 同一の物質が, 両方の性質をもっています. 普通変形が小さいうちには, 変形が力に正比例する弾性変形を現しますが, やがて正比例が破れ, ついで塑性変形に移行し, ついに破壊に到達します. その範囲の大小で材料の特徴が示されます. 破壊も材料の特徴です. 自動車のフロトガラスの性質を話しましょう. プラスチックのつるまきばねもあれば, 弾性体の代表のような金属をプレス成型してビール缶を作ったりします. ここで<熱可塑性>の話にも触れましょう.
 
  [まとめ]
1  固体はみんなばねです.
2  気体も閉じ込めればばねです.
3  変形の基本型は伸びとずれで, この組み合わせで曲げ, ねじれなどが起きます.
4  変形が小さいうちは, 変形は加えた力に正比例します.
5  物質は弾性と塑性の双方の変形をします.
6  金属, プラスチクスは弾性, 塑性の両方の性質をもつ優れた材料です.
7  材料の力学的強度は材質のほか形状や構造にもよります.
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