理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

75.地球は大きい磁石である―――地磁気
 
 [授業のねらい]
 地球周辺が磁場であることはよく知られています。それが,わたしたちの生活にどのようにかかわるかを中心に学習します。
 
 [授業の展開]
 実験1 磁針は南北を指します。普通の磁石も自由に動けるようにすれは南北を指すはずです。棒磁石の中心を糸でしばって,水平につるしてみましょう。いろいろな磁石で試みてみましょう。
 問1 地球内部の温度は高いので,地磁気が磁石によってつくられているとは考えにくいことです。地磁気が電流の磁気作用でできているとすると,地球内部にはどのような電流があることになりますか。
 海嶺の下で上昇流が冷えて新しい地殻が生まれるとき,それが地球磁場の方向に磁化したと思われるものが発見されています。
 実験2 水を入れた試験管をU形磁石の磁極のあいだに置いて,上から静かに砂を落としてみましょう。
 問2 地学の知見によれば,地球の北極の位置は,これまでになんども変わったということです。その原因について考えられることがありますか。
 千葉県の鹿野山には,国土地理院の測地観測所があって,地磁気の測定もしています。気動車が走っていた房総西線*が電化されることになりました。直流電化されると,その漏洩電流で,地磁気の測定に支障をきたすということで,交流電化を希望したのですがいれられず,昭和44年(1969)に業務の一部は条件がよい岩手の水沢へ引っ越しました。ところが,そのすぐ近くに,新幹線が通ることになったのです。新幹線は交流なのでという関係者の一縷の望みも,その試運転によって打ち砕かれました。そして,この観測業務は再度移転して,現在の江刺に落ち着いたというのです。**
 鹿野山の観測所では,現在でも夜間(電車がとまるから)の観測は統けられています。観測の建物は別棟で,もちろん釘などの鉄はいっさい使用していません。測定する人も鉄のものは身につけていません。ところが,昭和54年(1979)の8月,近くのお寺で,観光用に飼育していた虎が逃げだしたのです。夜間,別棟の観訓練へ「寸鉄も帯ひず」に行くことは危険なことです。虎は二十余日後,発見されて射殺されました。
 
学校でも授業で地磁気の測定をします。鉄筋や鉄骨が入ったコンクリートの教室では,正しい測定はできません。校庭にも排水用のヒューム管が埋められているということで(事実かどうかはわかりません),なかなかよい条件の場所はないものです。地磁気を測るのも楽じゃないんですね。
 実験3 写真は地磁気測定器です。
 測定器を南北に向けて,コイルを一定の速さで回して誘導起電力を測定しようというものです。                                  (p105)
 実験4 たくさん巻いたコイルに,横河のエレクトロニック検流計をつないで(マイクロアンメ−タに1000倍程度のアンプをつけてもよい),コイルを回転させる(あるいは,つぶす)と検流計が動きます。
 実験5 普通の検流計(μA)を地磁気で動かすにはどうすればよいでしょう。
 配線コードを縄跳びのように,輪にして回してみましょう。輪を回す2人は東西に並ぶと,地磁気のフラックスをいっぱいにすくい上げることができます。

輪がつくる面積をかりに5m^2とするとして,1回まわすのに1sかかったとすると,地磁気の強さを 0.45×10^(−4T として
 ydφ/dtdBS/dtBdS/dt0.45×10^(−4×5/0.5450μV
 0.5sは半回まわす時間です。検流計は半回ごとに反対に振れます。この計算については,あとで学習します。
 このぶんでは,2Vの電圧を必要とする発光ダイオードを地磁気でつけることは望み薄です。
 地磁気の3要素,偏角,伏角,水平分力を図に描くと図のようになります。
 たとえば,千葉の館山では                                (p106-1)

偏角624.2’W  伏角47°35.6’ 水平分力30499 nT   n10^(−9)です。
 問3 1T(テスラ)=10^4 G(ガウス) です。  (p106-2)
 館山の地磁気の強さは何Gですか。
 磁束場Bに垂直に速さvで入り込む質量,電荷qの荷電粒子は,半径rの円。
ローレンツ力は常にvに垂直にはたらくので,これが向心力としてはたらきます。
 fqvBmv^2 / r                   (p106-3)
 磁束場に斜めに入り込む荷電粒子は,円運動をしながら併進運動を続けるので,その合成運動のスパイラルの運動をすることになります。これは加速度運動の一つで,荷電粒子が加速運動すると電磁波を放射することは,あとで学習します。
 極地方では,地磁気の磁束揚が文字どおり束になっているので,宇宙からきた荷電粒子はこれに巻きついて捕獲され,発光します。これがオーロラです。
 問4 翼の長さlの飛行機が,伏角θ,磁束場の水平分力Bの場所を速さ v で飛んだとすると,翼の両端に発生する起電力はいくらでしょう。
  EBv  VEl  磁束場の垂直分力は Btanθ     VBvl tanθ
 上述の館山上空で,このデータがそのまま使えるとすると,
 飛行機の翼長100m,速さがマッハ1,気温0℃として,
 F0.30×10^(−4×tan48×100×331
  =0.30×10^(−4×1.1×100×3311.1V
 問5 これを利用するにはどうしたらよいでしょう。
 利用しようとして,翼の両端に導線をつなぐと,この導線にも起電力が発生してしまうので使えそうもありません。
 問6 地磁気を感知して利用している生物がありますかね?
 
 [まとめ]
1 地磁気は,水平分力,伏角,方位角で示されます。
2
 日本では,地磁気の水平分力は0.3ガウスくらいです。

  *   現在の内房線
 ** この記録は1990年のもので、現在の状況はわかりません。

(p106-3)
(p106-2)
(p106-1)
(図p105)
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