53.「すべてのもの」が静電誘導する―――静電誘導(2)
 
 問3 電気盆の説明をしなさい。
 静電誘導で電気が分離したり,合体して中和したりするときには,移動する電気はプラスであってもマイナスであってもよいのですが,実体である電子の移動で表現するのがよいのでしょう。
 これで §52実験2の解説をすると,マイナスに帯電した発泡スチロール板の上に置かれた盆に指を触れると,電子が地球へ広がり(同種の電気の反発力)盆を板から引き離してから,ふたたび盆に指を触れるときには,地球に広がった電子が戻ってくる(異種の電気の吸引力)ということになります。
 融和していた盆の中の電気のプラスが,板のマイナスに引かれて,首ったけになって(電気引力て引かれて)しまったので,マイナスは実家(地球)に帰ってしまった(アースされた)のたが,紐が切れた(板から引き離された)ので,ふたたび戻ってきた,とすると,なんとまあ人間くさいことか,と思わずにはいられません。
 私は長いあいだ,静電誘導を起こす物質は金属だけだと思っていました。
ところが,ある年,2枚の絶縁シートで挟んで持ったザラ紙を電気盆の盆の代わりに使っている生徒がいたのです。
T
 幸二,なにやっているんだ?
P
 セイデンユウドウ。
T
 静電誘導は金属でなきゃだめなんだョ。紙みたいな絶縁体はナ,誘電分極といって電気が分離しないんだョ。
P
 でも,電気起きるョ。
T
 どらどら。 ヘーッ!
 幸二が「静電誘導」させたザラ紙を検電器に触れると,検電器の箔はドヒャーッと開いたのです。しかも,発泡スチロ−ルの電気が移勤してきたのでないことは,検電器の箔がプラスて開いていたことでわかります。発泡スチロール板はマイナスで帯電しているのですから。
 たぶん,このくらいの高圧になると,金属でない物体の中にも,自由電子的な電子ができて,これが物体の中を移勤できるようになるのでしょう。
 実験7 いろいろなものを,2枚の絶縁シートで挟んで,電気盆の盆として使い,静電誘導で「発電」してみましょう。
 摩擦でうまく電気が起きなかったものでも,この方法では容易に発電できます。摩擦しにくいような小さいものでもできます。
 ガラス,硬貨,紙幣,布,鉛筆,物差し,ミカン,リンゴ,要するに,なんでも電気を帯びます。だめなのは,塩化ビニル,アクリル,発泡スチロールなどの絶縁体だけです。
 実験8 人体を帯電させる方法を考えなさい。
 人間は絶縁シートで挟めないので,その代わり,人間が発泡スチロールの台の上に乗ることにします。これで,地球から絶縁できます。
 一人の生徒Aを発泡スチロールの上に立たせ,別の生徒Bが,Aの服をウールでこするとAは帯電します。Bも発泡スチロールの上に立ってこの操作をすれば,BはAとは逆の電気で帯電することになります。
 静電誘導(以後,誘導と呼びます)で人体を帯電させるにはつぎのようにします。床に絶縁用の発泡スチロールを置いて,その上に実験者が立ちます。
机の上に誘導用の発泡スチロールの板を置いて,これをあらかじめウールで摩擦しておきます。実験者は一方の手を誘導用の板の上にかざし(触れなくてもよい。これで人体に静電誘導が起きています)別の手を机に触れて(これでアースしたことになります)から離します。誘導用の板にかざしていた手をもとに戻すと,これで実験者はプラスに帯電しています。検電器に手を触れるとその箔が開きます。持っていたネオン球(ポケットに入れておけばよい)で机に触れればネオン球が光ります。
 実験9 水を帯電させるにはどうすればよいでしょうか。
 まず,水を絶縁させるにはどうすれはよいでしょう。つぎの方法は生徒たちが考えたものです。                             (図p17)
 水を入れたビュレツトをスタンドに立てます。ここから水滴をたらし,それが落ちてゆくあいだに誘導を起こさせようというのです。誘導用の発泡スチロール板を,水滴が落ちてくる近くに鉛直に立てて,ウールで摩擦しておきます。ここで誘導を起こしている,落ちてきた水滴に細い針金を触れさせてアースします。水を,その下のC型検電器の缶に受けて,箔をプラスの電荷で開かせようというものです。
 
水がポタポタと落ちると,箔はそれにつれて,断続的に開きを大きくしていきました。
 誘導用の板がビュレットに近いと,水滴がビュレットから離れるときに,すてに誘導を起こしていて,そのうえビュレットからスタンドを通して,アースしていることかあります。このときには,アース用の針金がなくても,検電器の箔は開きます。
 洗瓶の先端に,ウールで摩擦したプラスチックのストローを刺してから,水滴をC型検電器に落とすと,検電器の箔を開かせることができます。
 アクリルの注射器に入れた水を,C型検電器に落としても同じことです。
 実験10≫ 水で連続的に発電する<ケルビンの水滴実験>を紹介しておきます。                                                  (図p18)
 用意するものは,ビュレツト2本,上底を切った金属の缶2個,上下の底を切った金属の缶2個,連結用のコード,木綿糸,スタンド2個,発泡スチロ−ルの小片数個。
 装置は図のとおりです。
1)ビュレットは濡れた木綿糸で連結しておきます。いわば,水橋を架けておくのです。これを通じて水が静電誘導を起こすのです。
2)缶はクロスさせて導線でつなぎ,いずれもアースから浮かせておきます。
3)どちらかの一組の缶を軽く帯電させておきます。
4)ここまで用意できたら,ビュレツトの水を滴下させます。
 作動の原理は以下のとおりです。 
1)たとえば,右下の缶をマイナスに帯電させたとすると,左上の缶もマイナスになり,水は静電誘導されて,左側のビュレツトから滴下する水はプラスに,右側のビュレットから滴下する水はマイナスに帯電します。
2)以後,原因・結果が強めあう方向にはたらいて,どんどん「電気水」がたまっていきます。
3)はじめ,電気を与えておかなくても,どれかの缶が,偶然,空気中の小電荷を拾って,あとはどんどんということになります。人体の電荷が原因になっているのかもしれません。
 このことは,ウィムズハースト起電機でも同じです。
  
その他、注意事項を述べておきます。
1)缶の中に滴下した水がはねないように,下の缶には小さい布でもいれておくのがよいでしょう。
2)缶に電気がたまったら,ネオン管で放電してみましょう。ネオン管の放電では,赤く光るほうの電極がマイナス側です。
 実験11≫ 枯れた草(ススキ,ネコジャラシ,ササなど)を発泡スチロールのブロックに刺して,ウールで摩擦したビニル棒や,アクリル捧を近づけてみましょう。
 電気盆で草に電荷を与えておいてから,指を近づけてみましょう。
 緑の笹を使って,これに電気盆で電荷を与えておいてから,ネオン球で放電してみましょう。枯れ草と緑の草ではどのように遠うでしょうか。
 
 [まとめ]
1
 金属の近くに帯電体がくると,その近くに異種の電気が,遠くに同種の電気が別れて分布します。これを静電誘導といいます。
2
 静電誘導でできた正負の電気の量は同じです。
3
 同種の電気はお互いに退けあって,事情の許すかぎり離れて分布します。
4
 移動できる正負の電気は合体して中和します。
5
「すべて」のものが静電誘導します。水も静電誘導します。絶縁体については別に考えましょう。

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もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
(図p18)
(図p17)